1日1日感動したことを書きたい

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人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「仮想儀礼(下)」(篠田節子)

2009-08-15 11:00:06 | 
 「仮想儀礼(下)」(篠田節子)を読みました。上巻で7000人までに膨れ上がった信者の数は、国税庁による脱税の告発と追徴課税、マスコミからのパッシング、娘たちを「えせ宗教団体」から取り戻そうとする家族との軋轢などによって、一気に減少していきます。最後には、主人公と友人と、5名の女性信者だけになってしまいます。組織が縮小・純化されていく中で、主人公がビジネスとして作り出した宗教に救いを求めてきた女性信者たちの中に、共同の観念としての「仏」が育っていきます。

「ゲームのキャラクターにすぎない神仏諸尊が、肉体と感情をもった人間に礼拝されることで、不思議な力を得た。実態などない者どもが、人々の欲望や数々の悩みや迷いを吸い上げ、実在感を帯びてくる。」

「各自の信仰心の内側で、神仏が育ち、信者同士が影響しあうことで、さらに強固に彼女たちの意識を支配していった。」

 そして、彼女たちの共同の観念=「仏」は、「堕落したものを撃ち殺すことこそが慈悲である」と信じることによって、殺人まで犯してしまいます。最後には、主人公自身が、自らが作った虚構の宗教に飲み込まれていくのです。

「あの世も輪廻も神も仏も、人の大脳の偉大な想像力のうちにしかないことを十分に認識していながら、痛切な思いにすがるしかなかった。今、自分自身もまた雅子たちと同様、神仏の存在を必要とする者に転落していった。
呑み込まれた・・・。ついに自分の作った宗教に呑み込まれた。」

 生きづらさゆえに宗教を求め、自らが作り出した共同の観念によって、他者をそして己自身をも気づつけていく。宗教や政治党派が、これまで何度も直面してきた「共同の観念」と「個の観念」の軋轢を、真正面からとらえようとした作品です。なかなかおもしろかったです。暗かったけど。