1日1日感動したことを書きたい

本、音楽、映画、仕事、出会い。1日1日感動したことを書きたい。
人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「上原ひろみ サマーレインの彼方」( 神舘 和典)

2009-12-30 19:00:47 | 
 今年、最後に読んだ一冊です。僕の大好きなジャズピアニスト上原ひろみのドキュメンタリー。3歳の時から作曲をして、小学校6年生の時に「踊るポンポコリン」を編曲。11歳の時に音楽で生きようと決意して、高校二年生の時に、チック・コリアと共演。すごいなぁという、お話が続きます。

 「音楽に関しては、ずっと勇気を持ち続けていたい。現状にはけっして満足しないで、その次にまったく新しいことにチャレンジできる勇気を持ちたい。」というのは、彼女の言葉。コンサートでの感動は、音楽に対する彼女の全力投球の姿勢からやってくるのでしょうね。

 僕も、新しいことにチャレンジできる勇気を持ち続けていたい、新年に向けて。

 明日からは、娘に会いにロンドンへ。というわけで、今年のブログはこれが最後です。このブログを訪れてくださったすべてのみなさまに。どうもありがとうございました。心のこもったコメントにとても励まされました。

 来年もよろしくお願い申し上げます。



「センセイの鞄」(川上弘美)

2009-12-29 22:02:38 | 
 「センセイの鞄」(川上弘美)を読みました。38歳のツキコさんと高校時代の古文の「センセイ」の愛のお話です。センセイとツキコさんの年の差は30歳。居酒屋でばったり再会した二人が、いっしょに市にいったり、キノコ狩りにいったり、美術館に行ったりしながら、たがいの愛を深めていきます。並んで居酒屋でお酒を飲んで、並んで美術館に行って、並んでいっしょにあるく・・・この並ぶという行為から、「個」としてのお互いを尊重し合おうとする二人の想いが伝わってきました。

 「センセイの場合、優しみは公平であろうとする精神から出ずるように見えた。ちょっとした発見だった。理由なく優しくされるのは、居心地が悪い。しかし公平に扱われるのは、気分がいい。」

 こんな文章に出会うと、僕は、ふんわかとした心持ちになるのです。いのちをみつめながら、ツキコさんに語りかけるセンセイの言葉もとてもよかったです。いっぱいあるけれど、ひとつだけ引用。

 「ツキコさん、体のふれあいは大切なことです。」 
 「でも、できるかどうか、ワタクシには自信がない。自信がないときにおこなってみて、もしできなければ、ワタクシはますます自信を失うことでしょう。それが恐ろしくて、こころみることもできない。」
 「まことにあいすまないことです」

 わかるような気がする。70歳になると、ぼくもきっとこのような心持になるのだろう。大切な人をいつまでも愛していたいという気持ちは、いくつになっても消えるはずはないものだから、なおさらに。

 急に燃え上がるのではなく、ゆっくりと熟成していく二人の愛の形が、とても素敵でした。ラストは切なかったけど。今年は、川上弘美の本を何冊か読んだけれど、僕はこの小説が一番だと思いました。




「闘うレヴィ=ストロース」(渡辺公三)

2009-12-28 00:33:49 | 
 「闘うレヴィ=ストロース」(渡辺公三)を読みました。1908年に生まれ2008年に百歳で亡くなった「構造主義人類学者」レヴィ・ストロースが、生涯をかけて追求し探究したものが何であったのかを明らかにしようとした本です。

 マルクス・エンゲルスを熟読した学生運動の活動家としてのレヴィ・ストロースにはじまり、ブラジルへの旅立ち、ニューヨークでの言語学者ヤコブソンとの出会い、構造主義人類学の確立、1950年代から40年間つづけた南北アメリカ・インディアンの神話の研究。筆者は、レヴィ・ストロースの生涯にわたる著作を時系列で追いかけながら、レヴィ・ストロースにおいて、変化しながらもなお変化しなったものが何であったかを考察していきます。

 筆者は、レヴィ・ストロースの根っこには、あらゆる社会に存在する「自民族(自文化・自社会)中心主義」の批判、それぞれの文化が固有の価値をもつという徹底した文化相対主義の主張と西欧文化中心主義への批判があったと主張します。少し長くなるけど引用です。

 「『野蛮人とはなによりも先ず、野蛮が存在すると信じている人なのだ』すなわち、『彼らは野蛮人だ』と誰かをさして言う人間がまずは素朴な自民族中心主義を生きる野蛮人にほかならない。未開と文明の区別を自明視する『白人』こそ、その典型ということになる。
 さらにいえば、自分と他人のあいだに何らかの優劣をつけて他者を低く見るものはすべて、『野蛮人』ということになる。人間は誰しも、他人の欠点と比べることで自分にとってもっとも親密な自分を受け入れる、という他者への接し方から脱却しがたいのだとすれば、多かれ少なかれ自己中心的であるすべての社会、あらゆる人間がなんらかの意味で野蛮だということになろう。そうした徹底した相対主義をレヴィ・ストロースは受け入れるかのようだ。」(p173) わが身に振り返っても、みにつまされる文章です。

 そして筆者は、レヴィ・ストロースが、南北アメリカ・インディアンの神話の研究を通して生涯をかけて探究したものが、現代世界に生きることのモラルと、「文明国」が見失ったもうひとつの豊かな世界を見つけ出そうとする営みであったと主張しています。筆者は次の文章でこの本を結んでいます。

 「到来すべき他者の場所をあらかじめ用意すること、他者を『野蛮人』とみなすばかりでなく、時には神として迎える謙虚さをそなえること、他者のもたらす聞きなれぬ物語を自らの物語のなかに吸収し見分けのつきにくいほどに組み入れること。しかし、その他者が究極的には、分岐し差異を極大化してゆく存在であることを許容すること。」(p251)

「他者を神として迎え入れる謙虚さをもつこと」
「他者が分岐し差異を極大化してゆく存在であることを許容すること」
なかなか味わいのある言葉です。レヴィ・ストロースの「悲しき熱帯」を、もう一度読んでみたいと思いました。

 第一次世界大戦からロシア革命を経て、ナチズムの登場、第2次世界大戦から、植民地諸国の反帝国主義・民族独立運動、そして社会主義国の崩壊まで。激動の20世紀を生きたのですね、レヴィ・ストロースは。100歳、うらやましい限りです。




「Sing Once More~Dear Carpenters~」(平賀マリカ)

2009-12-27 12:21:09 | 音楽
 いまこのCDを聴きながら、このブログを書いています。ゆったりとした休日の午後に聴くには、うってつけのCDだと思います。

 ジャズシンガー平賀マリカのカーペンターズのカバー集。ぼくに、カーペンターズは似合わんやろなぁ・・・とか思いながらも、平賀マリカがどのようにカーペンターズを歌うのか聴きたくて、買った一枚です。「ふたりの誓い」から「トップ・オブ・ザ・ワールド 」「ジャンバラヤ」・・・そして「雨の日と月曜日は」まで、カーペンターズの名曲が12曲ならびます。

 ロック調からフォーク、カントリー、ボサノバ、ラテンまで、アレンジがとても楽しいのです。平賀マリカの声も歌も、ふんわりとハッピーな気持ちになれて、なかなかよろしおます。



完全失業率 11月悪化5.2%に

2009-12-26 10:30:43 | 経済指標メモ
 総務省が25日公表した労働力調査(速報値)によると、11月の完全失業率(季節調整値)は5.2%で、前月より0.1ポイント悪化しました。厚生労働省が発表した有効求人倍率(同)は0.45倍で、前月比で0.01ポイント上昇しました。失業率の悪化は、物価下落や買い控えなどデフレの影響で卸売・小売業で失業者が増えたことが要因です。今朝の日経新聞にも、近鉄百貨店が400人の希望退職を募るという記事が載っていますが、卸売・小売業での就業者は前年同月比45万人減少しました。
 11月の完全失業者数は331万人で前年同月比75万人増加。離職者の理由別では、リストラや倒産などによる「勤め先の都合」が114万人も達しました。15~24歳男性の失業率は10.1%。驚くべき数字です。
 11月の消費者物価指数も9か月連続マイナスの-1.7%。モノが売れないという状況の中で、依然厳しい雇用情勢が続いています。

「夜の公園」(川上弘美)

2009-12-25 00:08:02 | 
 「夜の公園」(川上弘美)を読みました。35歳の専業主婦の中西マリが主人公の物語。結婚して2年、25年ローンでマンションも購入。そんなマリが夜の公園で出会った青年暁と関係を持ってしまうところから物語は始まります。夫の幸夫も、マリの同級生の春奈と関係を持つようになります。物語は、リリ、幸夫、春奈、暁、それぞれの視点を通して、どこか不確かで、よるべない愛の姿を描いていきます。桐野夏生が書いたような意志に100%依存する言葉(愛を「抹殺」する)は決して出てはこないのです。

 風に揺らぐ木の実が重力のかかる方向にすぅーと落ちていくように、リリは、夫とも暁とも別れることを選びます。この選択が、とてもクールで、未練がましくなくて、だからこそ、もう決して後戻りはしないのだという強さも感じられるのです(「抹殺」しようとして「抹殺」しきれなかったものに苦しむ桐野夏生の主人公とは好対照)。

 春奈という女性に対して、恋人の一人は次のように語ります。

 「自分で思っているよりも春奈はもっとふわふわした女なんだから。足もとがおぼつかなくて、不安そうで、でも存外あったかな気配をいつも漂わせている」

 このふわふわ感。不安そうで存外あったかそうな気配。川上弘美の世界の、これが一番の魅力なのだと思いました。




「ヤング@ハート」

2009-12-24 00:15:08 | 映画
「ヤング@ハート」を見ました。「ヤング@ハート」は、アメリカマサチューセッツの高齢者向け公営住宅ウォルター・サルヴォ・ハウスの住人によって結成されたコーラスバンドです。平均年齢は80歳。最高齢は92歳のおばあさんです。

 映画は、7週間後にせまった年に1回のコンサートにむけて、一生懸命練習する「ヤング@ハート」のメンバーたちの姿を追いかけていきます。彼らが歌う曲がちょっと驚きなのです。ソニック・ユースにボブ・ディラン、スティングにブルース・スプリングスティーン、ジミ・ヘンドリックスにコールド・プレイなどなど。ロックやパンクの名曲が並びます。
 コンサートまでの7週間の間にも二人のメンバーが他界するのですが、亡くなったメンバーによびかけるように歌うボブ・ディランの「Forever Young]とコールド・プレイの「Fix You」。。。僕の大好きな曲であるからなおさらのこと、胸にジーンとくるものがありました。

 一生懸命練習して、ステージに立って、観衆からの喝采を浴びるときのメンバーたちの顔を見ていると、カラオケが大好きだった父親の得意げな顔を思い出しました。カラオケじゃなくて、仲間に囲まれてロックやパンクを歌っていたら、父親も、もう二三年は長生きしたかな・・・。そんなふうに思ってしまう映画でした。


「IN」(桐野夏生)

2009-12-23 00:07:13 | 
 「IN」(桐野夏生)を読みました。鈴木タマキというが女性作家が主人公の物語です。タマキは、「淫」という小説を執筆中。「淫」のテーマは、愛の「抹殺」。主人公の名前は「○子」といいます。「○子」というのは、この小説で出てくるもう一人の作家、緑川未来男が書いた「無垢人」という小説にでてくる女性の名前です。「無垢人」は、愛人「○子」の存在を知った妻が、嫉妬し、壊れていく姿を、実名を使って描いた作品です。

 「○子」とはいったい誰なのか?本当に実在した人物なのか?緑川未来男は、「○子」との愛を「抹殺」してしまったのか?「無垢人」という小説は、真実であるのか、それとも実名を使ったフィクションであるのか?小説は、緑川未来男と関係のあった女性への取材を続けながら、自らも愛人との関係を「抹殺」しようとするタマキの姿を描いていきます。

 自らの意志の力に100%依存する「抹殺」という言葉を選ぶところに、桐野夏生の個性があるのだと思いました。川上弘美は、決してこのような言葉は使わないだろうな。この小説を読んだすぐ後に、川上弘美の「夜の公園」を読んだので、なおさらそう思いました。意志の力で「抹殺」しようとすればするほど、けっして「抹殺」できない何ものかがが主人公の心に残っていくのです。

 「小説は悪魔ですか。それとも、作家が悪魔ですか?」緑川未来男の「無垢人」というのは、島尾敏雄の「死の刺」がモデルなのでしょうね。桐野夏生は、自らの生活をも実名で小説にしてしまう作家の宿命を、作家としての自らに問いながら、 次の言葉でこの小説を終わります。
                        
 「今更ながらに、たった一人で言葉の世界に取り残された不安があった。緑川の日記と格闘する千代子と自分は、永遠に真っ暗な洞穴に閉じ込められたのかもしれない。」

 永遠に真っ暗な洞穴に閉じ込められる・・・うーん。たいへんやね、作家という職業も。





欧州 寒波の死者100人超える

2009-12-22 19:43:09 | 経済指標メモ
 本当に寒い日が続きます。神戸市北区の朝は、零下2℃。昨日は、すこし雪も
降ったようです。今日の神戸新聞夕刊。厳しい寒波と大雪が続いている欧州で、
21日までに100人の方が亡くなられたという記事が載っています。
 気温が氷点下20℃まで下がった東欧では凍死者が続出しているとのこと。
ポーランドではここ数日で42名の方が亡くなられたのですが、その大半が
ホームレスの人々だそうです。ウクライナで27人、チェコで12人、ルーマニア
で11人が相次いで死亡しました。
 ホームレスの方が凍死するというニュースを見ると、ほんとうに心が痛みます。
31日から行くロンドンは大丈夫だろうか?

「フィッシュ・ストーリー」

2009-12-21 08:43:25 | 映画
「フィッシュ・ストーリー」を見ました。原作は、伊坂幸太郎。fish story は、「大げさな話, ほら話, まゆつばもの.」という意味。映画は、あと5時間で彗星が地球に衝突し、人類が滅亡するというfish story から始まります。地球は、人類は救われるのか?

 1982年から、75年、99年から、53年へ。「逆鱗」というパンクバンドが1975年にラストレコーディングした「Fish Story」という曲にまつわる5つの物語を、映画は追いかけていきます。職を得るためについた小さなウソや、自分たちの音楽が理解されないことに対するうらみ事や、強い子どもになってもらいたいという父親の思いなどなど、小さな思いが、時代を超えて細い糸でつながっていきます。

 最後の最後にバラバラだった小さな思いがひとつにつながって、地球は救われるのだけれど、伊坂ワールドらしい爽やかさが心に残るのです。このさわやかさは、アルマゲドンにはないものだろうなぁ。本物のfish story は臭くない・・・アルマゲドンは臭いけど。



 

「白い紙/サライ」(シリン・ネザマフィ)

2009-12-20 12:28:19 | 
「白い紙/サライ」(シリン・ネザマフィ)を読みました。作者のシリン・ネザマフィは、イランのテヘラン生まれ。神戸大学に留学し、現在はシステムエンジニアとして日本の大手電機メーカーで働いています。母語のペルシャ語ではなく、日本語で書いた小説です。

 「白い紙」は、医者になるためにテヘランの大学を目指す少年と、彼にほのかな思いをよせる少女の物語です。「白い紙」という題名は、「君たちの今は、白紙のように真っ白だ。これから君たちがその白紙にいろんなことを書いて、いろんな色を使って、いろんな絵を描いていく。」という学校の先生の言葉からとられています。
 イラン・イラク戦争が泥沼化するなかで、15歳の少年までが戦争に駆り出されていく姿や、モスクでの礼拝の最中に目配せし合う男女の姿、近くに爆弾が落ちて逃げ惑うシーンなど、戦時下のイランの人々の生活がとてもリアルに描かれていました。
 国民を戦争に動員していく熱狂の中で、最前線から逃亡してしまった父親の後ろめたさを背負いながら、医者になる夢を断ち切って戦場に向かう少年の言葉。「努力すればみのると思うよ、でもね、自分が描けるのはこの白い紙の、半分だけだ」。この言葉に、I was born.という受身形で生まれてくる、私たち人間のあり方がこめられているように思いました。

 「サライ」は、日本で難民申請をしたために、入管に収容されてしまったハザラ人少女と、彼女の強制送還を阻止しようとする日本人弁護士とイラン人通訳の物語です。ハザラ人というのは、アフガニスタンに住む少数派民族です。イスラム教のシーア派を信仰し、ペルシャ語に近いダリ語を母語としています。20年以上も戦争が続くアフガンの姿や、タリバンによって抑圧され続けているハザラ人の姿、そして難民を排除しようとする日本政府の姿が、イラン人通訳の目をとしてこれもリアルに描かれています。

 イラン人の作家にしか書けない叙述がいっぱいあって、小説を読む醍醐味を十分に味わうことができた小説でした。作者の、次の作品に期待です。


 

「その土曜日、7時58分」

2009-12-19 12:17:45 | 映画
 「その土曜日、7時58分」を見ました。一言で言うと、とても救いのない映画でした。兄を演じる「カポーティー」のフィリップ・シーモア・ホフマンの演技は、相変わらずすごかったです。

 会社の金を横領して、麻薬漬けの日々を送る会計士の兄。娘の養育費を払えずに離婚した妻から「負け犬」呼ばわりされている弟。金に困った二人が、父親と母親が経営する小さな宝石店に強盗に押し入ることを計画します。宝石には保険がかかっているし、店番をしているのは使用人の老婦人だし、強盗は簡単に成功するはずだったのですが・・・ちょっとした運命のいたずらによって、強盗に失敗した上に、母親までもを射殺してしまいます。

 父親と息子、夫と妻、父と娘、兄と弟。この映画に登場するすべての家族が崩壊してしまっているのです。映画は、崩壊してしまった家族のあり様を、強盗決行の日を前後しながら、次々と明らかにしていきます。

 妻を息子に殺害された老人の怒りと孤独。この映画の監督は、今年85歳のシドニー・ルメットです。老人の怒りの形相が、ルメット監督の心を映しているのなら、背筋の凍るものがある。



ギリシャ財政再建策に一部の労組スト

2009-12-18 08:44:28 | 経済指標メモ
 今朝の日経新聞。若年失業率が25%に達しているギリシャで、政府が発表した歳出削減策に反対して、教師や医師など一部の労働組合が17日、ストライキに突入したという記事が載っています。
 
 10月に発足したパパンドレウ政権は14日、社会保障費の1割削減や公務員給与の抑制を通じて国内総生産(GDP)の12%超に達している財政赤字の縮小に取り組むと発表しました。これに対して、共産党系労組などが「労働者の権利を断固守る」として反発を強めているとのこと。

 フランスにイギリスにギリシャ。ヨーロッパはストライキの冬を迎えています。

「カラマーゾフの兄弟 5」(亀山郁夫訳)

2009-12-17 19:44:48 | 
「カラマーゾフの兄弟 5」(亀山郁夫訳)を読みました。第5巻は、主人公たちのその後の姿を描くエピローグが63ページ。それから訳者である亀山郁夫の解説が300ページ続きます。この解説からは、ドストエフスキーの研究に打ち込んで来られた亀山郁夫の熱意と執念が伝わってきます。

 「カラマーゾフの兄弟」を読み終えたという達成感は、第4巻を読み終えた後のほうが大きかったように思います。エピローグは、ドミートリーの脱走計画が語られたり、「人類全体のために死ねたら」と語るコーリャ少年と三男アリョーシャの二十年後の再会が語られたり、この小説の続編が準備されていることを予感させる内容になっています。続編はどのようなストーリーになるのだろう・・・。読後の達成感よりは、次の展開がとても気になるのです。

 亀山郁夫が「カラマーゾフの兄弟」を1巻から4巻までと、エピソードにわけたねらいは、この続編への余韻を強調したかったのでしょうね。「カラマーゾフの兄弟」の続編はついに書かれることはなかったのだけれど、この余韻には、もう一度この小説を読み返してみたいという気持ちにさせる何ものかが確かに存在していると思いました。「悪霊」と「罪と罰」を読んで、もう一度読んでみようかな。




「PARIS」

2009-12-16 17:15:45 | 映画
 人生、いろんな不満もあれば、悩みもある・・・でもしかし、生きているということはそれだけでかけがえのないものなのだということが、しんみりと伝わってくる映画でした。

 社会福祉士のシングルマザーと心臓病に苦しむ元ダンサーの弟。うつ病の治療を受ける大学教授と女学生。建設コンサルタントに、中央市場で働く魚屋さんに果物屋さん。街角のパン屋さんとそこで働くアラブ人。カメルーンからの移民労働者とフランスへの密航しようとする彼の弟などなど。映画は、パリで暮らす様々な人たちの日常生活の一端を追いかけていきます。登場人物みんなが、満たされない思いを抱えている上に、とても孤独なのです。

 「職場がリストラで大変な時に、職場代表のあなたにぬけられたら大変なことはわかるでしょ」とか、「コルシカや×××など、いろんなところの人間を使ってきたけれど、アラブ人はまだましなほうね」とか、「カメルーンからの移民を乗せた船が沈没して20名が行方不明です」とか、「デモでこの道は通行できないよ」とか。なにげない会話の中から、失業率が10%をこえるフランス社会の現状を垣間見ることができます。

 「みんな不満ばっかり言っている。それがパリなのだ」これは、生存確率40%の心臓移植手術をうけに行く元ダンサーが、デモのニュースを聞きながらつぶやくセリフ。ルーブル美術館や凱旋門の職員がストライキに立ち上がるフランスらしい言葉だと思いました。