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神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 宇宙商人

2013-05-05 17:15:38 | SF

『宇宙商人』 フレデリック・ポール&C・W・コーンブルース (ハヤカワ・ファンタジイ)

 

まだ《ハヤカワ・SF・シリーズ》ですらない、《ハヤカワ・ファンタジイ》のNo.3026。しかも初版。

近くの古本屋(いわゆる新古書店)にて¥500で入手。かなり傷んではいるが、出すところに出せば、最低¥1000以上するだろうに。一緒に並んでいたラインナップからすると、誰かがお亡くなりになって放出かと思われる。こういうのを見ると、ちょっと物悲しい感じになる。

それはさておき、SF史に残る名作をやっと読んだ。

促音の小さい「っ」が大きい「つ」で表記されているくらいの昭和36年発行本。どれぐらい古いかというと、同年出版(アメリカ)の未訳本としてベスターの『分解された男』やスタージョンの『人間以上』があとがきで紹介されているくらい。

しかし、大企業に支配され、格差の広がった社会の風刺は現代にもそのまま当てはまる。いわば、50年前に考えられたディストピア社会が実現してしまったのが、現代のこの世の中ということなのだ。

大企業のエリート職員(しかも、職種が今で言うところの、コピーライターというのが風刺としてもおもしろい)が、“金星を売る”というミッションに抜擢される。しかし、対抗会社の妨害や、企業営利優先社会に叛旗を翻す組織の妨害に合い、社会階層を転落。そこからのし上がる展開かと思いきや、反社会組織で頭角を現して一気に陰謀の核心へ。

かなり突っ込みどころの多い展開で、最後の真相(の一部)もどうかと思うのだけれど、そこはそういうものだと割り切ってしまおう。

経済優先で、国家予算を越える営利をはじき出す大企業によって、政治投票まで牛耳られる社会。一般市民を“消費者”と呼び、それが下層階級として扱われる社会。消費者たちは企業の広告に踊らされ、重役たちの思うがまま。

当時は「このままいけばこうなってしまう」という風刺と警鐘を込めて書かれた小説が、今やすっかり現実のものだ。そうならないためのディストピア小説がまったく機能しなかった。

なのであれば、ジョージ・オーウェルの『1984年』や、パオロ・バチガルピの“カロリー社会”が将来も現実化しないなどと、どうして言えようか。

SF作家の想像力は科学技術面だけではなかった。だからこそ、社会問題に関してもSFの中に問題提起や解決方法を求めても良い。そこはもっと認知されてもいいのではないか。

 

 


[映画] リンカーン 秘密の書

2013-05-05 13:56:03 | 映画

『リンカーン 秘密の書』

公式サイトへ

 

TSUTAYAの更新特典でレンタル。他にも見たいのがあったのだけれど、どうせなら新作をということで。

第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンはヴァンパイヤ・ハンターだったというぶっ飛び設定のアクション映画。あの偉人に対して、よくこんな設定が許可されたな。

とはいえ、リンカーンと言えばやたらと背が高く、若いころにはプロレスまがいの試合に出たこともあるということで、ヒーローにはある意味最適。この映画の斧を使ったアクションシーンもなかなか。

しかし、当時の奴隷制度を、ヴァンパイヤとしもべ(もしくは家畜)の関係に例えるのはどうなのだろう。特に、昨今の在特会を巡る差別と反差別と反“反差別”の議論を見ていると、どうしても引っ掛かりを覚える。

つまり、奴隷制度賛成者はヴァンパイヤと同じで、力によって(残忍に!)退治されても構わないという主張につながらないか。それは、新たな差別ではないのか。それが、まさしく反“反差別”の主張ではないのか。

いみじくも、南北戦争とゲティスバーグの演説、それによる奴隷制度の終結を描くのであるならば、ヴァンパイヤの殲滅ではなく、共存を探る道も描かれるべきではなかったのか。

というわけで、確かにおもしろいのだけれど、その寓意はかなり危険度が高いのではないかと心配するのであった。

もっとも、この映画を見てヒャッホーする分には、まったく意味のない心配ではあるのだけれどね。

いや、ラストのオチからすると、それこそ憂うべきものだというべきなのか。


それから、この映画を観た後でリンカーンの伝記を読むと、きっとおもしろいよ。実在の人物がどういう役柄を押し付けられたのか、対比を取ってみるとあまりのミスマッチさに笑えること請け合い。


注:ここで言及している「反“反差別”」とは、反差別活動の方法論に対する批判であって、差別肯定主義のことではない。

 

 


[コンサ] 2013 J2 第12節 札幌 vs 京都

2013-05-03 23:59:59 | コンサ

2013 J2 第12節 コンサドーレ札幌 0-1 京都サンガF.C. @スカパー

 

この試合は「白い恋人withコンサドーレサポーターサンクスマッチ」。プレゼントとして配られた“応援パタパタハンド”はサポ内で賛否両論。もともと、札幌の試合は野球みたいに先割れメガホンをバンバン叩いて、異様な雰囲気として他チームに恐れられていた。しかし、これがうるさい(客席に段差があるので、膝でたたくと前のひとの耳元で鳴る)ということで、いつからか使用自粛に。

パタパタハンドはメガホンの再来なのか、それとも、ライトファンにも応援してもらうための最適グッズなのか。議論は尽きないのであった。

 

サポ的な目玉はパタパタハンドでも、ピカチュー&ゆるきゃら大集合でもなく、曳地の初先発。前節、大ミスをやらかして大ブーイングの杉山に変わってチームの救世主になれるのか、大いに期待したい。

さらに、宮澤、櫛引がベンチで、先発のうち、曳地、奈良、松本、深井、荒野、榊がユース出身。遂に半分(松本が微妙だけど)越えた。さらに、上原、上里、岡本がいわゆる生え抜きということで、ベンチも含めた生え抜き外選手はまえしゅんとチョソンジン、杉山、砂川のみ。今年も育成賞くださいな状況。

一方の京都の山瀬功治はベンチ。おまえもこっちに混ざれよ(笑)

 

試合開始序盤は、両チームともプレスがそれなりに効いているので、お互いラストパスがつながらず。京都を相手に、特にポゼッションで負けているイメージは無い。守れているし、攻めている。

曳地はキックが良く飛ぶ。財前監督にフィードに課題と言われていたようだが、それは全く問題ない。

最初のチャンスはユースの先輩後輩つながりで、荒野の綺麗なパスから榊が抜け出す。京都DFに倒されてゴール前でFK。しかし、上里のFKはいい弾道で完全にGKの逆を取ったが、わずかに右へ外れる。

これを皮切りに、細かいパス回しから一気にサイドチェンジとか、パスカットからの絶妙な縦パスとか、結構楽しいサッカー。上里、深井のボランチ2枚と荒野のパスが正確なのでこれができている。

さらに、榊と荒野が前線で追い回してくれるので、守備に時間ができてなかなかカウンターも喰らわない。

あとは前田が決めるだけなのだが……。

そして、今日キャプテンの岡本はどうしたことか元気がなく、試合から消えがち。

京都はなぜか前半終了間際に山瀬投入。軽くブーイングあり。

前半0-0。曳地はまったく問題なし。DFラインでの連携の乱れが一回あった程度だが、杉山だって1試合に数回やらかすので、マイナスポイントにならない。

スタッツで見ても、シュート数9-2をはじめ、ほかの数字でも圧勝のコンサドーレ。こんな試合は久しぶりだ。

パスの出し手と受け手がうまく噛み合って、面白いサッカーができていた。細かくつないで、DFを集めておいて、空いた逆サイドとか痺れる。しかし、いい時間帯に得点できない試合って……

 

後半開始時にも流れは変わらず。シュートを打つ。オフサイドを取る。

しかし、バヤリッツァの縦一本からペナルティエリアで松本が抜かれてGKと1対1というピンチのあたりから、様子が変わってくる。これは外してくれたが、曳地も最後までボールを良く見て飛びこまなかった。

0-0の局面を変えるべく、荒野に替えて砂川を投入。しかし、このタイミングが悪かった。マークの再確認中にフリースローから失点。一瞬フリーになった選手が狭い角度から巻くようなシュート。これは相手がうまかったけれど、岡本のマークミスっぽくて残念。やっぱり、岡本がブレーキ。さらにDFラインでも松本が穴になる感じ。

そこで、岡本に替えて中原。中原がトップ下で翔太がサイド。キャプテンは砂川。しかし、中原に与えられた指示がどうなのか、中途半端なプレーになってチャンスに絡めず。

さらに、前田に替えて横野。宮澤でも、DF入れて上原を前にでもなく、横野だぁ! しかも、完全にバテバテで、走りながらよれよれの翔太ではなく、前田に替える。足が攣ってもがんばる翔太のプレーはサポの胸を打つも、采配としてはどうなのか。

曳地に続けとばかりに、そろそろ後が無い横野は中山から9番を受け継いだ男。空回りが身上で、今日も絶妙な胸トラップを魅せるも、そこからつながらない。周りがバテて動けない分、無駄走りだけが目立つ結果に。

 

結局、0-1でホーム2連敗。前半で調子に乗り過ぎ(北海道弁:おだつ)たのか、前半と後半でまったく別のチームになってしまった。

前半みたいなサッカーを90分やるのは難しいのはわかるのだけれど、もうちょっとどうにかならないのか。3人の交代がプラスに働かなかったのも大きい。

交代と得点によって運動量が増した京都。減った札幌。省エネサッカーで自滅するよりはよっぽどマシとは言え、傍目から見ると、どうしても頭が悪そうに見えてしまう。前半走るなら、いい時間帯で2点は獲れるように頑張ろう。

今日最大の収穫は曳地。この試合を見る限り、杉山に何が負けていたのかさっぱりわからない。実力に遜色が無ければ、下り坂の選手とこれからの選手のどちらを優先すべきは明らかだろう。

第1キーパーのイホスン、第4キーパーの阿波加が怪我で離脱中という緊急事態になってしまったGK陣ではあるが、曳地の活躍でなんとかチームを救って欲しいものだ。

 

 


[SF] オールクリア1

2013-05-03 10:37:15 | SF

『オールクリア1』 コニー・ウィリス (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

待ちに待った『ブラックアウト』の続編。しかし、後ろについている「1」って何よ(笑)

あまりに分量が多くて翻訳作業が追い付かず、2分冊になった模様。感想も2を読んでからと思ったけれど、あまりにも面白かったので、その記録。

今回も登場人物たちはすれ違いまくり。もう、時刻表ミステリレベルで会えません。

しかし、だんだんとこれは著者の意地悪ではなく、時空連続体の必然性であることが分かってくる。会えないのは“会っていないから”にほかならない。しかし、キャラクターたちがそのことを知る由もなく、ひたすらカオスに突き進む。

おまけに、自己中で騒がしいやつらが多いので、ひとの話を聞かない。ここにはイライラしっぱなし。しばらく口を閉じて耳を澄ませ、目を見張れ。

タイムラインはかなり明確になってきた。1945年ロンドンのダグラスはメロピー(アイリーン)じゃなくってポリー。1944年ベスナル・グリーンのメアリもポリー。ついでに空軍将校は、たぶんあの人。1944年ケントのアーネストはマイク?

しかしわからないのが、『ブラックアウト』の最期に出てきた史学生が誰なのか。そして、救出に来たダンワージイ先生が辿り着いたのは“いつ”だったのか。さらに、マイクを探しに来たミスター・ホームズとミスター・ワトソンは本当に回収チームじゃなかったのか。

時空連続体が正しければ、彼らは救われるべくして救われるはずなのだが、どういう結末を迎えるのか、『オールクリア2』がさらに待ち遠しい。まさか、3まであるとは言わないですよね!


しかし、バーソロミューの件でタイムラインが合っているのかが気になって夜中に目が覚めた。あれ、しかもダンワージイ先生って、そのときどこにいたんだっけ。まさかすべての元凶はダンワージイなんじゃないかと思いついて、慌てて『犬は勘定に入れません』を引っ張り出してきた午前3時。

パラパラめくっている間に、違うよ『見張り』だよと思い出す。

そして『見張り』が載っている短編集を探して本棚をひっくり返したが、結局『わが愛しき娘たちよ』は旭川の実家なのであった!

 

 


[SF] スターファイター

2013-05-01 23:58:48 | SF

『スターファイター』 ロバート・A・ハインライン (創元推理文庫)

創元“推理”文庫版が『スターファイター』。創元SF文庫版が『大宇宙の少年』。読んだのは古本で買った『スターファイター』の初版。



ハインラインの思想というのは単純で、「常にヒーローたれ」ということなのだと思う。そこに、自己責任と自己犠牲がぶら下がっている。

つまりは、やりたいことがあるならば、何が何でもやりぬけ。人に頼るな。しかし、人には頼られろ。弱きものを救え。例え命を賭けても。ということだ。

そして、主人公は割とナード系だ。自己責任論を振りかざしながらも、けしてマッチョじゃないし、DQNでもない。

さらに、ロリコンだ。

ハインライン=ロリコン説は『夏への扉』でも有名だが、この小説でもヒロインは勝気なおちびさんである。

このロリコン性は、いわゆる性的なものというより、守るべきものを守る、あるいは、守るべき存在を探すというヒーロー指向の結果に過ぎないとは思うのだけれど。

で、結局のところ何が言いたいかというと、昨今のネット弁慶なネトウヨどもは意外にハインラインの思想に合っているんじゃないかと思うのだ。

自己責任を振りかざしながらも、本人は非マッチョ(肉体的にも精神的にも)であり、ロリコンである。

多くのネット弁慶はハインラインの思想を親和性を持って受け入れ、かつ、うまくいけばヒーロー性への憧れで、他者本位の考えに染まってくれるんじゃなかろうか。

そうすれば、ネットの中の不毛な争いは少なくなり……いや、世の中、そんなにうまくいかないか。

強いアメリカという過剰な正義を振り回した結果が現在の世界情勢であることも、一方では忘れてはいけないわけで。

で、要するに、ハインラインおじさんの思想がよくわかるジュブナイルでありました。

ついでに、共訳の人が同じ会社でびっくり!

 

 


グレートジャーニー ~人類の旅~

2013-05-01 23:30:56 | Weblog

4/30に、「国立科学博物館【特別展】グレートジャーニー ~人類の旅~」へ行ってきた。

GW谷間の平日ということもあってか、割と人は少なめ。地下1階のラウンジが珍しく閑散としていたぐらい。

もともと、『グレートジャーニー』は探検家、関野吉晴氏がアフリカに始まり、南米まで到達する人類の旅を、逆向きに動物と人力だけで踏破した記録であり、フジテレビなどでも放送された。

今回は、この旅の中で東南アジアから日本への海上ルート再現に使用した帆船(というか、帆掛け丸木舟)の縄文号を国立科学博物館で所蔵することになったことを記念した企画。

展示としては、縄文号のほか、人類がグレートジャーニーで越えてきた4つの過酷な環境(熱帯雨林、高地、極地、乾燥地帯)で人々はどうやって暮らしてきたのかが中心。人類は4つの地域においても、様々なやり方で、衣食住を満たすことに成功した。これによって、地球上でもっとも広範囲の地域に生息する動物となったのだ。そして、これらの過酷な人類のこれまでの旅を感じてもらい、これからの人類の旅を考えてもらおうという趣旨。

この趣旨が果たして……というところなのだが、正直言って、J-Popの歌詞並みなメッセージを受信してしまった。特に、3Dプロジェクションマッピングシアターの「Life is a Journey ―未来を紡ぐ物語―」は、まるで鉄拳が絵に描きそうなストーリーで、確かに泣けるのだけれど、これと人類の旅がどう結びつくのか、といった感じ。

「私たちの将来を考えるために必要な10の事柄」も、10番目の「戦争」を本文無しにしてみたり(これはWebだけでなく、実際の展示でも空白)いろいろと工夫は見えるのだけれど、いったい何を意図したのか、ちょっと意味が取りづらかった。

しかし、今回初めて実物を見た干し首の精巧さ、世界最古のミイラの奇妙さ、さらには、ナインティナインの岡村隆が演じ、それを元に復元されたアファール猿人親子のほのぼのとしたジオラマは見るべき価値があったと思う。

特に、アファール猿人復元像はすばらしい。父親や子供だけでなく、母親の表情までもリアルに表現する岡村の様子には、まさに芸人魂を感じた。そして、そこに現れた表情によって、アファール猿人が猿ではなく、人間の祖先であること、そして、人類のグレートジャーニーがまさにここから始まったをことを強烈に印象付ける出来になっていた。

我々人類が進んできた道、そしてこれから進んでいく道。それは困難な道であろうけれど、幾多の試練を乗り越えてきた我々は、きっとそれらも乗り越えていけるだろう。

主催者の意図とは違うかもしれないが、そういう力強さを大いに感じた展示だった。

 

熱帯雨林の食料(ウーリーモンキー)

 

高地の食料(クイ)

 

極地の食料(セイウチ)

 

乾燥地帯の食料(ラクダ)

 

そして、岡村的アファール猿人復元図

 


[SF] SFマガジン2013年4月号

2013-05-01 23:06:48 | SF

『S-Fマガジン 2013年4月号』 (早川書房)

 

「ベストSF2012」上位作家競作。

ベスト作家競作はさすがにレベル高い。特集外の読み切りも含め、稀にみる小説レベルの高い号だと思う。

小説以外でも、椎名誠の「歩いていける「むかし未来だった」不思議な世界」はクールジャパンにもつながる日本のガラパゴス加減を再確認し、いろいろとイマジネーションが広がった。

《現代SF作家論シリーズ》はついに神林長平の回。「ジャムって何ですか」には吹いた。個人的には、ジャムは非人間的な何かの表象なので、「何かわからない」というので正解なんだと(最近は)思っている。


「コルタサル・パス」 円城塔
 なんだこれ。新連載のプロローグなのか。『Self-Reference ENGINE』っぽい。読んでいる間はなんとなくわかるのだけれど、読み終わってみたらさっぱりわからず、狐につままれた感じ。

「コヴハイズ」 チャイナ・ミエヴィル
 それが歩くのかよ。そして、卵で殖えるのかよ! えーと、ゴジラは放射能の怪獣で、これは海底油田の怪獣?

「小さき供物」 パオロ・バチガルピ
 かなり残酷。中絶がどうとかいうレベルじゃなく。ありえない仮定の下とはいえ、読者に選択を迫り、倫理観を揺さぶる。

「Hollow Vision」 長谷敏司
 『BEATLESS』と同じ世界の宇宙もの。hIEや超高度AIが登場し、“かたち”と文化に対する言及がある。しかし、個人的には細か過ぎて霧状に見えるナノマシンの万能さや、超高度AIが支配の側に回る気持ち悪さの方を強く感じた。もちろん、着用した超高度AIを中身ごと掠い、中身だけ宇宙空間に破棄するといった海賊的犯罪が倫理的に許されないことは確かなのだが……。

「無政府主義者の帰還」 樺山三英
 残念ながら、いまひとつついていけていない感じ。

「ドラゴンスレイヤー」 草上仁
 サラリーマンと職人の悲哀を、現代の竜戦士に喩えて軽妙に語る。最初はお茶らけた一発ギャグ小説かと思いきや、笑わせて泣かせて、最後はちょっと背筋の寒くなる良作。

「霧に橋を架けた男」 キジ・ジョンスン
 とてつもなく深い谷と霧、そこで牙をむく《でかいの》。幻想的な設定において、橋を架けるという工学的な物語を紡ぐアンバランスさが魅力的。そして、主人公たちの新たな冒険への旅立ち。これがSFのエッセンスなのだろうと感じる。