『道を視る少年(上下)』 オースン・スコット・カード (ハヤカワ文庫 SF)
シリーズものとは聞いていたが、あまりの終わってなさ加減にびっくりした。はやく第2巻をよこせ!
基本的には、貴種流離譚型のファンタジーなのだけれど、さすがにカードが書いているだけに、背景に壮大なSF設定が透けて見える。
そもそも、各章の冒頭に挿入される宇宙探査飛行エピソードが、それだけでハードSF短編となるようなぶっ飛びな理論を展開してくれる。これをちゃんと理解できているかは、さっぱりわからないけどな!
登場人物たちは時間を操る不思議な能力を持つのだけれども、この能力の性質を彼ら自身が実験しながら明らかにしていくという過程がおもしろい。科学的態度というのは、こういうことを言うのだろう。
ファンタジーとしては、主人公リグの家族をめぐる話(育ての父、生みの父、生みの母、そして、姉)が本筋であり、母親を求め続けた末にたどり着く家族の最期は、あまりにも哀しい。
ただ、序盤の養父のセリフにちゃんとこの結末が暗示されているんだよね。そこでおかしいと思うべきだったのだけれど。
しかし、これをSF読みが読むと、やっぱりリグの能力に興味の中心が移ってしまい、こっちが本筋に思える。
リグはなぜ山奥で養父に育てられ、特殊な教育を受けなければならなかったのか。養父の正体は明らかではあるが、なぜの部分の謎が残り過ぎだ。しかも、囲壁の向こうで出会った存在は、養父の計画を知っているのかと思いきや、まったく知らないようで、ここの謎も大きい。
この世界、ガーデン星の成り立ちは明らかになったものの、探査移民船の船長ラムとリグはどのような関係にあるのか。そして、リグたちの能力は、探査船の不思議な挙動と関係があるのか。さらに、彼らを追って登場するであろう地球からの本格移民船は物語にどういう形でかかわってくるのか。
とにかく、ファンタジーとしては別離と逃走の結末をとりあえずは得たものの、SF的背景の謎はどんどん大きくなるばかりだ。これで続きが出ないとなると暴動を起こすレベル。
そういえば、SFマガジンで連載中の梶尾真治「恩讐星域」も、こうした時間差移民での軋轢を描こうとする物語だったなと思いだした。これは相互に影響はなさそうなので、一種のシンクロニシティなのか。
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