神なる冬

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コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 結晶銀河

2011-09-05 00:01:43 | SF
『結晶銀河』 大森望・日下三蔵 編 (創元SF文庫)




年間SF傑作選2010年版。今回も既読が多いけど、継続して欲しいという期待を込めて購入。

ベストを上げるとすれば、やはり長谷敏司の「allo,toi,toi」だろう。これは2010年度を代表する最高傑作。なんで星雲賞を取れなかったのかがいまだに疑問。

未読の中でもっとも印象に残ったのは、白井弓子のコミック「成人式」。これに比べると、現代日本の成人式がいかに愚かしいことか。ということはさておき、長編小説でも語りきれないイメージの本流をわずか20数ページのコミックで語りきるというところに、小説とは異なるメディアの底力を感じる。

既読の中で評価を上げたのは津原泰水「五色の舟」。結末を知っていても、救われた魂と救われなかった想いが胸に迫る。




「メトセラとプラスチックと太陽の臓器」 冲方丁
正直言って、母親になる女性の気持ちを理解できているかと聞かれれば、いかなる男性も理解できていないと答えざるを得ないのではないか。ついでに言うと、プラスチックの劣化について考えれば、ブリキのおもちゃとかの方がいいんじゃないか、とか考えてしまう

「アリスマ王の愛した魔物」 小川一水
わかりやすい面白さではあるけれど、すべてが計算可能というネタ以上の何かが欲しかったかも。盥の使い方も、再読すると不満が残る。

「完全なる脳髄」 上田早夕里
人間とは何かということを考えさせられる小説ではあるが、設定が無理矢理すぎる気がする。

「五色の舟」 津原泰水
これもSF的設定だけ見れば強引な小説だが、それはただの舞台装置にしか過ぎない。川縁で暮らすフリークたちの想いは世界を超えるが、たどり着いた世界の有り様が、わずか2ページちょっとの分量でありながら、障害者差別という文脈で鋭く突き刺さるように思える。

「成人式」 白井弓子
タイトルと始まりのシーンからは、まったく想像の付かない展開に衝撃を受けた。長編小説にも収まりきらないような分量のイメージの奔流が感じられる。

「機龍警察 家宅」 月村了衛
機龍警察シリーズだからといって、SF的なおもしろみのないこの小説をなぜ選んだのかが疑問。

「光の栞」 瀬名秀明
本と言う存在に愛着を持っている人にとっては感動的な作品。しかし、ハンドメイドの皮製本っていくらぐらい掛かるんだろう。そっちの方が気になった。

「エデン逆行」 円城塔
再読なので流し読みしたらまったく訳がわからなかったwwwww

「ゼロ年代の臨界点」 伴名練
これはまたびっくりな小説。1900年代にSFを発表した3人の少女という仮想の存在を生き生きと描いた傑作。これが大学サークルの同人誌とは、さすがだな京大。

「メデューサ複合体」 谷甲州
会社人的(not 社会人)AI人格とのバディ物として続けていけば、面白いものができそう。ただ、土木ネタとしてはちょっと弱いような気がする。

「アリスへの決別」 山本弘
露骨な反“非実在青少年問題”小説。なので、非実在青少年規制派の感想を聞きたいところ。それは問題のすり替えと言われるだけか。

「allo, toi, toi」 長谷敏司
こちらも反“非実在青少年問題”小説だが、それ以上に変態性欲の原因について踏み込んだ解釈を披露している。そして、それが逸脱した“異常”ではなく、“正常”と地続きである可能性について考えたとき、この小説を自分自信の問題として受け止めざるをえなくなる。

「じきに、こけるよ」 眉村卓
著者が眉村卓であるという以外、SFの匂いがしない。映画化の件に合わせ、眉村卓の私小説的な作品ということで選んだのかもしれないが、SF傑作選なのだから、もっと他に選ぶべきものがなかったのかという気がする。

「皆勤の徒」 西島 酉島伝法
ブラック企業の風刺小説かと思いきや、単語以外はあんまり風刺になっていないような。とりあえず、グロい感じの描写と、言葉遊びが独特な世界を感じさせるが、それだけではこの短編の中ですら、だんだん飽きる。この描写力でどのような物語が書けるかに注目。


【追記】
あー!
SFマガジンで石亀さんが“第二回創元SF短編賞を受賞された酉島伝法氏が、苗字を「西島」とまちがえられている由。”って俺じゃん。バチガルピに続いて書き間違われる作家として有名になっていただくのはどうか。
ごめんなさいごめんなさい。







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