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[SF] レインボーズ・エンド

2009-04-28 19:29:50 | SF
『レインボーズ・エンド(上下)』 ヴァーナー・ヴィンジ (創元SF文庫)




ユビキタスコンピューティングとヴァーチャルリアリティが日常生活に入り込んだ近未来世界を舞台に、最新医療によってアルツハイマーの寝たきり老人から若者に復活した詩人が、核に替わる新たな兵器としての洗脳技術をめぐるスパイ騒動に巻き込まれる話。

一言で言ってしまえば、「新たなレトロフューチャー確立の予感」といった感じがした。

レトロフューチャーといえば、尖った高層ビルとか、その間を縫う透明パイプとか、流線型のロケットカーとか……。60年代、70年代に人々が共通認識として夢見た未来。そして、到達しえなかった懐かしき未来。

この作品では、ユビキタスコンピューティングが生活に入り込んだ、現実と地続きの未来を描いている。ポスト・サイバーパンクとシンギュラリティの間を生めるような舞台設定に、電脳系がジェットがこれでもかというくらいに登場する。まさに、サイバー博覧会状態。

主人公はアルツハイマーで寝たきりの状態から、最新医療で若返り復活した老人。この若き老人が電脳世界に適応していくの視点から未来を描くことで、読者も変容した世界へ馴染んでいくことができる。主人公と同様に若返った老人仲間たちが、過去の遺物となってしまったキーボードにこだわったり、モーションコマンド入力の最新デバイスをうまく扱えなかったりするあたりも興味深い。

これをレトロフューチャーと呼ぶのはおかしいかもしれないが、これまでに描かれたサイバー世界の日常(非日常の冒険や裏世界じゃない方)や、これから描かれるであろうサイバーな日常のガジェットは、ほぼこの作品で描かれつくしているのではないかと思われるくらい、溢れるガジェットを日常生活として描くことに成功している。

その一方で、本当に訪れるであろう未来の生活はここまでビビッドでエキサイティングではないだろうという意味で、20年後、30年後にはレトロフューチャー扱いされそうな予感がある。老人たちが、「昔はこんな未来が来ると思っていたんだよ」と語りそうな世界。そう考えるのは突飛過ぎだろうか?

Webを巡回すると、この世界観に関しては、日本SF大賞受賞のNHKアニメ『電脳コイル』との類似点を指摘する記載が多いのだが、未見なので今のところノーコメント。

また、老人の若返り技術が巻き起こすハートフル家族愛物語としてもおもしろい。若返った経験から偏屈な老人が心を開き、夫婦の関係、親子の関係が変わっていく様子もしっかりと描かれている。この話を老人問題の方向から読み直してみるのも面白いかもしれない。(俺はやらんけどな!)

で、スパイものとしてのストーリーの方だが、これまた難解。結局、すべての黒幕はヴァズで、敵国アメリカの研究所に違法な研究をさせて、その成果を回収しようとしたという解釈であっているのか?

3通りの方向から楽しめる小説だが、コンピュータ系の素養がないと、用語が難解すぎて厳しいかも……。



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