『巨獣目覚める(上下)』 ジェイムズ・S・A・コーリイ (ハヤカワSF文庫)
地球、火星、小惑星帯を巻き込む惑星間大戦争の危機。それを引き起こしたのは、遥かな昔に太陽系を訪れた謎の生命体だった。
行方不明の少女を追う刑事、ミラー。破壊された水運搬船から、辛くも脱出したホールデン。地球や火星から比べると過酷な小惑星帯に属するふたりの視点から、太陽系全体を巻き込む陰謀と、宇宙生命体の正体を巡る謎が描かれる。
なんだか、久しぶりに本格SFを読んだ気がする。
SFネタとしてはありがちなのだけれど、スリリングな展開で飽きさせない。すばらしいエンターテインメント小説。ただ、ミステリーとしては動機がいろいろ不明確な気も。
主人公のひとり、ミラーはさえない刑事のおっさん。行方不明になったジュリーに魅入られたように、彼女の幻影を追い続ける。
もう一人のホールデンは地球出身の正義感。理屈のうえでも正しい道を信じるが故に、惑星間大戦争の引き金を引いてしまう。
この二人が時には協力し合い、時には反目しあいながら、真実に近づいていく。この二人がそれぞれに共感でき、読者を引き付ける。特に、ミラーの行動はなかなか浪花節っぽいところもあり、時折登場するヘンな日本趣味とも合わさって、なかなかおもしろい。
ふたりの主人公は小惑星側なので、過酷で貧しい環境が判官贔屓につながり、火星も地球も自分勝手な悪役に見える。格差社会や南北問題のことを指しているかもしれないが、そこでの問題意識は低い。どちらかというと、人間はどこまで人間であり、どこまで他人を同じ人間としてみることができるのかということがテーマかもしれない。
小惑星帯で生まれ育ったベルター新世代、さらに、研究されているという4本腕の無重量のための靭帯改造、さらに、宇宙生物により変容したジュリーと、各段階の人類の中で、どこまで人類の範疇として実感できるのか。そこがSFとして読者に付きつける問いなのである。
さて、この作品は3部作から5部作になりそうということで、今後の展開も気になるところ。
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