『拡張幻想 年刊日本SF傑作選』 大森望/日下三蔵 編 (創元SF文庫)
毎年お馴染みになってきた創元の年刊日本SF傑作選。これで5年目。これが途切れない間は日本SFもなんとかなるだろう。
それ以上に、毎回ぶあつくなっていくというのがすごい。まさにアゲアゲ状態。
今回の傑作選は2011年のトピックの影響が色濃く出ているという。東日本大震災と原発事故、伊藤計劃と小松左京の逝去、そして、止まらないはやぶさフィーバー。その中で、自分でも意外に思ったのだが、俺は小松左京にはそんなに思い入れが無いようだ。
『日本沈没』をはじめ、『復活の日』、『日本アパッチ族』、『継ぐのは誰か』、『果てしなき流れの果てに…』と、いくらでも名作は浮かんでくるし、没頭して読んだ記憶はあるのだけれど、いまひとつ思い入れが無いのは何故なんだろう。中学時代からよく読んでたはずなんだけど。
あまりに偉大過ぎて、身近に思えないんですかね(笑)
収録作は、いつもは既読作品が多いのだけれど、今回はそれほどでもなく、読んだ奴ばっかりかよという感想にはならなかった。
一番おもしろかったのは、創元SF短編賞受賞作の「〈すべての夢|果てる地で〉」だった。まぁ、確かにSFファンにしかわからないネタが混じっているとはいえ、SFファンならこれを読むべきでしょう。SFが想像する未来が(一部を除いて)実現しないのはなぜか。そこに真っ向から切り込む一発ネタでありながら、宇宙を救うという大感動巨編に持っていくという凄さ。
今年星雲賞短編部門を獲った野尻抱介の「歌う潜水艦とピアピア動画」や、その他の賞の受賞作が入っていないのは年刊傑作選としてどうかと思うが、それはまぁ出版事情があるので仕方がない。それこそ読んだのばっかりになってしまうしね。
しかし、これは傑作選というよりは、オールスター戦のような感じがする。もうちょっとスリム化してもいいのじゃないか。
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「宇宙でいちばん丈夫な糸」 小川一水
悪くは無いんだけど、いわゆるスピンアウト作品を傑作選に入れるのかという問題はあるんじゃないか。いや、自分は読めてラッキーだと思いましたけどね。
「5400万キロメートル彼方のツグミ」 庄司卓
おもいっきりはやぶさな話。そろそろ食傷気味ではあるが、やっぱり泣ける話のいいネタだよ。
「交信」 恩田陸
これまた、はやぶさな話。でも、泣けるわ。俺もあの時、ウーメラ砂漠からのust見てた。
「巨星」 堀晃
今度は小松左京な話。こういうハイコンテクスト(と言っていいのか?)な作品を傑(以下略)
「新生」 瀬名秀明
はいはい、俺にとってのエロ本は小説でしたよ。小松左京作品のパロディだとわかって読むのと、そうでないのとでは感想がまるっきり違ってきそうだな。
「Mighty TOPIO」 とり・みき
今度はアトムのパロディ。そうだよね、今の日本にアトムがいたらこうなるよね……(泣)
「神様 2011」 川上弘美
気持ちはわかるが、その立場は取らない。
「いま集合的無意識を、」 神林長平
『ぼくらは都市を愛していた』の後に読むと、なんだか読み違いをしていたような気がして堪らない。
「美亜羽へ贈る拳銃」 伴名練
神林長平に続いて伊藤計劃トリビュート。なんか、伊藤計劃の呪縛が多すぎて、最近アンチになりつつある自分。
「黒い方程式」 石持浅海
えー、物語としてはそうなる以外ないんだけど、気持ち的に納得がいかない。
「超動く家にて」 宮内悠介
馬鹿過ぎ。電車で読むのが危険なくらい吹き出しまくった。
「イン・ザ・ジェリーボール」 黒葉雅人
最後の『SF Japan』から。もうちょっとひねりが欲しかった気が。
「フランケン・ふらん ―OCTOPUS―」 木々津克久
これはホラーじゃなくって、バカSFとして読めばいいのか?
「結婚前夜」 三雲岳斗
『SF Japan』から二つ目。これよりおもしろいのが無かったか?
「ふるさとは時遠く」 大西科学
都会と田舎では時の流れ方が違うよねという感覚を、物理法則を捻じ曲げて実現してしまった荒業。でも、物語はやっぱりそういうこと。夏に読むと、またこれがぐっと来ます。
「絵里」 新井素子
久し振りの新井素子。これも、もう一歩SF作家として踏み込んでみないかという感じ。
「良い夜を持っている」 円城塔
なんか、ずーっと「良い夜を“待”っている」だと思ってた気がする。
「〈すべての夢|果てる地で〉」 理山貞二
第3回創元SF短編賞受賞作。アーサーにアイザックにボブ。もうそれだけでおなか一杯。ちなみにエドはスミスなのか、ハミルトンなのか。SFファンが読むべき小説なんてものが、もし存在するならば、これこそがそうだろう。もう、『1984年』の話が出てきたときに、ネタの構図が分かった瞬間に背筋がゾクゾクした。