神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] ブラックアウト

2012-08-26 11:28:47 | SF

『ブラックアウト』 コニー・ウィリス (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

『ドゥームズデイ・ブック』、『犬は勘定に入れません』に続く、オックスフォード大学史学部シリーズ。今回はすれ違い成分200%アップですれ違いまくり。基本的に、ひとは会えません。情報は誤解されます。もう、イライラしっぱなし。

そもそもいったいこの混乱はどこから来ているのか。話はぜんぜん終わっていないので、全く分かりません。


史学部のネットが何かの理由によってスケジュール変更多発の大混乱。そんな中、第二次大戦下のイギリスへ向かった3人の史学部生。しかし、ネットは閉鎖され、降下点は開かない。しかも、回収チームもやってこない。タイムトラベルなのだから、未来で何年経とうと、トラブルの“直後”に救出できるはずなのに。

というサスペンスものなのだが、その辺の話はほとんど解決されずに次巻送り。最終的にヒューゴー賞、ネビュラ賞のダブルクラウンを獲得しているので、ちゃんとSFになるはずなんだけれど、これまでは第2次大戦当時の人々が生き生きと描かれている人情もの(笑)

気になるのは、主人公とされる3人以外のタイムトラベラーの描写が挿入されていること。これらはたぶん、彼らの前回のタイムトラベルだと思うのだが、要するにこれがデッドライン。その時点が訪れるまでに彼らは未来に帰らなければならない、はず。

そして、ラストに到着したタイムトラベラー。彼は誰?

3人が希望を掛ける4人目の史学生フィリップスなのか、はたまた、数年後のコリンが救出に来たのか。あるいは、ダンワージーその人の出陣か!

期待を持たせながらも、以下『オールクリア』へ続く。こんなところで切るな。これは続きが待ち遠しい。


歴史資料からはうかがい知れない市井の人々の思いが描かれているが、本当にそうだったのかどうかはわからない。それでも、本当にそうだったのかもしれないと思わせるところがさすがのウィリスの筆力。

最初はバラバラで短編にしても問題ないだろうと思っていたのだけれど、こういう群像劇で当時のイギリスの空気を再現しようという意図はしっかり伝わってくる。

でも、まぁ、この小説の感想を一言でいうと、「お前らみんな、ひとの話を聞けよ!」って感じ。

あとは、SFとしての面白さが時間の謎解き篇で出てくれればと思うのだけれど……。

 


[SF] ベヒモス

2012-08-26 10:55:13 | SF

『ベヒモス―クラーケンと潜水艦―』 スコット・ウエスターフェルド (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

読んだのは随分前なんだけど、記録のために。

蒸気機関文明のクランカーと、遺伝子工学文明のダーウィニスト。第一次世界大戦をモチーフに、二つのありえた歴史がぶつかり合う。『リヴァイアサン』に続く第2弾。

この物語はいろいろな対立を融合させていこうということがテーマなのかもしれない。世界を二つに割った最初の大戦を、機械工学と生命工学の対立と融合に託して、少年少女たちへ伝えるジュブナイル。

今回の舞台はトルコ。西洋と東洋の融合する国であり、政治的にも連合国と同盟国の間で揺れるという、まさにテーマにうってつけの国。ダーウィニストとクランカーという二項対立のわかりやすい図式から、もっと複雑な社会情勢に巻き込まれていく公子と男装少女。

男装少女のデリンは公子アレックへの気持ちに自覚的になるも、ライバルの美少女リリトの登場に揺れる乙女心(笑)

アレックは自分の国際的使命に目覚め、この戦争を終結させる決心をする。

そして、遂に目覚めた謎の卵。なんと中身は天才スローロリス。なんで卵からサルが生まれるんだか。さすがダーウィニストは違うわ。このロリスが絶妙。天才的な分析力で、周囲の会話から的確なキーワードをボソッとしゃべるだけなのだが、これがまた面白すぎる。

動物型ロボットという、ある意味折衷型の技術はトルコというごちゃまぜ文化の地にふさわしく、なるほどと思わせる。はたして、この世界の日本はどうなっているのか、第3巻が待ち遠しい。

 


[映画] ダークナイト ライジング

2012-08-26 09:39:30 | 映画

ダークナイト ライジング - goo 映画

(C)2012 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES FUNDING, LLC

 

ネットでは「前作に比べて……」という酷評も見るのだけれど、それはヒース・レジャーのジョーカーに引っ張られすぎなんじゃないかと思う。『ダークナイト』は確かに傑出した作品ではあったけれど、それが『バットマン』すべてではない。

たしかに、ヒースが演じたジョーカーは映画史上、屈指の狂気と恐怖を与える存在だったけれども、ダークナイト・ライジングで描かれるのはジョーカーの復活ではなく、バットマンの復活であることは実際問題として変えられはしないのだ。

今回の敵役、べインは肉体的にも頭脳的にも強大でバットマンを追い詰めるのだが、その動機がいまひとつつかめない。いったい、こいつは何をしようとしているのか。

真の黒幕が明らかになったとき、『バットマン ビギンズ』の記憶と相まって、べインの行動がストンと腑に落ちる感じがいい。まったくもってベタだけど、それで動くことこそ人間の証。


『ビギンズ』から見直してもらえばわかるけれど、すべての話は最初からつながっている。たとえば、蝙蝠とともにブルース・ウェインのトラウマとなった、下から見上げる井戸の口がこのような形で登場するとは。そして、すべて伏線はブルースの人生の中に、最初から『ライジング』の結末を予見していたかのようにちりばめられている。

そして、みんな忘れていないか。『バットマン』はヒーロー物なんだっていうことを。

ヒーローとは何か。いったいどういう存在なのか。そして、バットマンは本当にヒーローだったのか。

彼は最初からヒーローたりえず、正義ではなく、復讐のために生きた男だった。『ダークナイト』においてすべての罪をかぶり、闇に葬られた存在だからダークナイトになったのではない。彼は最初から“ダークナイト”だった。その男がいかにして生き、いかにして最期を迎えたか。そういう形のヒーロー物であり、そういう映画だ。

そして、真のヒーローと言えばゴードン警部だろう。唯一、バットマンの無実を知っているがゆえに葛藤に苦しむ男。バットマンの復活を信じ続け、特殊訓練など受けた超人でもないのに、べインたちと渡り合う。デント法によって存在意義を失った警官隊を組織して規律の乱れを押さえ込み、数か月間にわたる幽閉の間、士気を保ち続けて逆襲の時を待ったりと、彼こそが影の立役者だ。

彼もまた、ブルースとの出会いの瞬間から、すべてのエピソードは『ライジング』の結末に至る伏線である。彼に感情移入して見てしまったせいで、バットマンサインを見上げた時には本当に涙が出そうになった。

さらに、ゴードン警部、執事のアルフレッド、フォックス社長といったオッサンたちの役どころがなかなか泣かせてくれる。ブルースの墓の前でアルフレッドが流す涙の重たさは計り知れない。


記憶が曖昧だったので、『ビギンズ』を見直してみたけれど、彼らが今後にどうなるかを知っていながら見ると、またいろいろ発見があって感慨深かった。『ライジング』があんまりおもしろくなかったという人は『ビギンズ』を見直してみるべきだと思うよ。

 


[SF] 拡張幻想

2012-08-26 00:02:40 | SF

『拡張幻想 年刊日本SF傑作選』 大森望/日下三蔵 編 (創元SF文庫)

 

毎年お馴染みになってきた創元の年刊日本SF傑作選。これで5年目。これが途切れない間は日本SFもなんとかなるだろう。

それ以上に、毎回ぶあつくなっていくというのがすごい。まさにアゲアゲ状態。

今回の傑作選は2011年のトピックの影響が色濃く出ているという。東日本大震災と原発事故、伊藤計劃と小松左京の逝去、そして、止まらないはやぶさフィーバー。その中で、自分でも意外に思ったのだが、俺は小松左京にはそんなに思い入れが無いようだ。

『日本沈没』をはじめ、『復活の日』、『日本アパッチ族』、『継ぐのは誰か』、『果てしなき流れの果てに…』と、いくらでも名作は浮かんでくるし、没頭して読んだ記憶はあるのだけれど、いまひとつ思い入れが無いのは何故なんだろう。中学時代からよく読んでたはずなんだけど。

あまりに偉大過ぎて、身近に思えないんですかね(笑)


収録作は、いつもは既読作品が多いのだけれど、今回はそれほどでもなく、読んだ奴ばっかりかよという感想にはならなかった。

一番おもしろかったのは、創元SF短編賞受賞作の「〈すべての夢|果てる地で〉」だった。まぁ、確かにSFファンにしかわからないネタが混じっているとはいえ、SFファンならこれを読むべきでしょう。SFが想像する未来が(一部を除いて)実現しないのはなぜか。そこに真っ向から切り込む一発ネタでありながら、宇宙を救うという大感動巨編に持っていくという凄さ。

今年星雲賞短編部門を獲った野尻抱介の「歌う潜水艦とピアピア動画」や、その他の賞の受賞作が入っていないのは年刊傑作選としてどうかと思うが、それはまぁ出版事情があるので仕方がない。それこそ読んだのばっかりになってしまうしね。

しかし、これは傑作選というよりは、オールスター戦のような感じがする。もうちょっとスリム化してもいいのじゃないか。


<hr>

「宇宙でいちばん丈夫な糸」 小川一水
悪くは無いんだけど、いわゆるスピンアウト作品を傑作選に入れるのかという問題はあるんじゃないか。いや、自分は読めてラッキーだと思いましたけどね。

「5400万キロメートル彼方のツグミ」 庄司卓
おもいっきりはやぶさな話。そろそろ食傷気味ではあるが、やっぱり泣ける話のいいネタだよ。

「交信」 恩田陸
これまた、はやぶさな話。でも、泣けるわ。俺もあの時、ウーメラ砂漠からのust見てた。

「巨星」 堀晃
今度は小松左京な話。こういうハイコンテクスト(と言っていいのか?)な作品を傑(以下略)

「新生」 瀬名秀明
はいはい、俺にとってのエロ本は小説でしたよ。小松左京作品のパロディだとわかって読むのと、そうでないのとでは感想がまるっきり違ってきそうだな。

「Mighty TOPIO」 とり・みき
今度はアトムのパロディ。そうだよね、今の日本にアトムがいたらこうなるよね……(泣)

「神様 2011」 川上弘美
気持ちはわかるが、その立場は取らない。

「いま集合的無意識を、」 神林長平
『ぼくらは都市を愛していた』の後に読むと、なんだか読み違いをしていたような気がして堪らない。

「美亜羽へ贈る拳銃」 伴名練
神林長平に続いて伊藤計劃トリビュート。なんか、伊藤計劃の呪縛が多すぎて、最近アンチになりつつある自分。

「黒い方程式」 石持浅海
えー、物語としてはそうなる以外ないんだけど、気持ち的に納得がいかない。

「超動く家にて」 宮内悠介
馬鹿過ぎ。電車で読むのが危険なくらい吹き出しまくった。

「イン・ザ・ジェリーボール」 黒葉雅人
最後の『SF Japan』から。もうちょっとひねりが欲しかった気が。

「フランケン・ふらん ―OCTOPUS―」 木々津克久
これはホラーじゃなくって、バカSFとして読めばいいのか?

「結婚前夜」 三雲岳斗
『SF Japan』から二つ目。これよりおもしろいのが無かったか?

「ふるさとは時遠く」 大西科学
都会と田舎では時の流れ方が違うよねという感覚を、物理法則を捻じ曲げて実現してしまった荒業。でも、物語はやっぱりそういうこと。夏に読むと、またこれがぐっと来ます。

「絵里」 新井素子
久し振りの新井素子。これも、もう一歩SF作家として踏み込んでみないかという感じ。

「良い夜を持っている」 円城塔
なんか、ずーっと「良い夜を“待”っている」だと思ってた気がする。

「〈すべての夢|果てる地で〉」 理山貞二
第3回創元SF短編賞受賞作。アーサーにアイザックにボブ。もうそれだけでおなか一杯。ちなみにエドはスミスなのか、ハミルトンなのか。SFファンが読むべき小説なんてものが、もし存在するならば、これこそがそうだろう。もう、『1984年』の話が出てきたときに、ネタの構図が分かった瞬間に背筋がゾクゾクした。