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神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] ガンメタル・ゴースト

2016-08-01 16:19:14 | SF

『ガンメタル・ゴースト』 ガレス・L・パウエル (創元SF文庫)

 

みんな猿が大好き!

この猿、イメージ的にはチンパンジーではなく、テナガザルかクモザル。フライトジャケットを着て、片目がアイパッチで葉巻を咥えたハードボイルドな男。その名も、『アクアク・マカーク』が、実は原題そのもの。すべてはこの猿のキャラクターから始まった。

というわけで、邦題の『ガンメタル・ゴースト』って、いったいどこから来たんだろう。

英国SF協会賞を『叛逆航路』と同時受賞だそうだが、ちょっと陰鬱な英国SF独特のテイストは見当たらない。それよりも、日本やアメリカで受けそうなヒーローもの。実際、日本のアニメや、変な日本文化の影響が見られる要素もある。といいつつ、ひねりも効いていてただのヒーローものでは終わらない。

もう一人の主人公はヴィクトリア。元新聞記者ながら、棒術を使いこなし、何度殺されかけてもへこたれずに、マカークとともに殴り込みをかける行動派の女性。

この二人に加え、敵も味方も、いずれもキャラのたった登場人物ばかりで、文体を変えてイラストを付ければラノベとして充分通用するのではないかと思う。

SFとして見れば、歴史改変SFであり、生体改造SFであり、仮想現実SFであり、まぁ本当になんでもあり。

敵となるアンダイイングの主張や陰謀がちょっと陳腐ではあるものの、デジタル的な人格移植が可能になれば、デジタル情報だけを乗せてロケットを飛ばし、現地でアンドロイドにダウンロードなんてことは普通にやれそうだ。

ただ、この小説内のアイディアだと、人格の記録は行動履歴ログの延長上にあり、同じ記憶を持っていれば同じ人格的な取扱いをされているのだが、本当だろうか。人格とは記憶よりももっと身体的な情報なのではないかと思うのだけれど。

まぁ、とにかく痛快な冒険SFなので、ぜひ映像化して欲しいと思う。

なお、シリーズ化されそうな感じもあるが、それはちょっとどうだろう。ネタを大幅に変えないと、この猿、初登場のインパクトは超えられないんじゃないだろうか。

 


[SF] エンジェルメイカー

2016-08-01 16:06:27 | SF

『エンジェルメイカー』 ニック・ハーカウェイ (ハヤカワ・ミステリ)

 

SFが読みたい! 2015 BEST SF 海外篇の第14位。2015年度 本の雑誌ベストテン第1位。

新☆ハヤカワ・SF・シリーズ……じゃなくって、ハヤカワ・ポケット・ミステリ。なんと700ページ越えの分厚さ。確かに長いけれども、小ネタが満載なので読んでいて飽きない。

紹介文では“疾風怒濤の傑作エンタテイメント・ミステリ!”、解説では“ピカレスク・ロマン”とされているが、まあその通り。SFとしてはスラップスティックでスチームパンクの逆襲的な様相。だけれど、まぁ、冒険小説の文脈で読んだ方がいいんだろうな。

主人公のジョーは、卓越した機械技師を祖父に持ち、父は裏社会を牛耳るマフィアのドンだったという男。

父に反発し、祖父と同じ機械技師として生きていた彼が巻き込まれたのは、祖母が残した超絶機械である「理解機関(アプリヘンション・エンジン)」を巡る大事件。そう、なんと祖母は祖父を超えるマッドサイエンティストだったのだ。

うかつにも「理解機関」を作動させてしまった彼は、父と祖父の思い出とともに、世界を救う戦いを始める。

実は主人公よりも、もう一人の主人公ともいえるイーディがとにかくすごい。老婆なのに凄腕のスパイ。老婆なのに強い。拳銃を振り回し、爆弾をぶちかます。彼女の半生が主人公の家族につながり、秘密が暴かれる。ブレッチリー・パークとか、エイダ・ラブレスとかの小ネタも挟みながら、装甲列車が走り、潜水艦が突き進む。このイーディのパートが面白すぎだ。

他にも多弁で有能すぎる弁護士のマーサや、エロかわいいポリーなどの魅力的なキャラクターたちが仲間となってジョーを助け、やりすぎというくらいの怒涛の最終決戦へとなだれ込んでいく。

SF中心的な読み方をするならば、敵であるシェム・シェム・ツイェンやラスキニアン(新ラスキン教徒の方)のつくり方(?)は、確かにちょっと『屍者の帝国』っぽい。まあ、かなり無理があるんだけど。実は彼は、拷問的な洗脳の結果、気が狂っちゃって自分をシェム・シェム・ツイェンだと思いこんじゃった男なのもしれない。

メインガジェットの「理解機関」という名称は明らかに「階差機関(ディファレンス・エンジン)」から来たものだろう。どうやら蒸気機関ではなく、一部は電動式であるらしいが、いわゆるコンピューター制御ではない機械式の仕掛けのようで、まさにスチームパンクの流れを汲むもの。特に、若きイーディの活躍パートは蒸気時代の末期でもあり、これが世界に終わりをもたらすというのは、現代によみがえったスチームパンクの逆襲ととらえることができる。

惜しむらくは、「理解機関」がなぜ効果があるのか、蜜蜂は何の役目をしているのかといったあたりが明らかにされないままで、ただの魔法扱いになってしまっていること。このあたりがSFとしてではなく、冒険小説や(広義の)ミステリとして評価されている理由なのかな。

「理解機関」の機能は真実を明らかにすることで、この機械を正しく使うことによって、世界はほんの少しだけよくなるという。しかし、現実には「理解機関」が吐き出した蜜蜂によって、世界では紛争が同時発生し、世界の終りが訪れようとする。これはいったい何の皮肉なのか。このあたりの掘り下げも浅く、背景に紛れてしまっている。

そういった意味では、ただしく冒険小説であって、思弁小説なんてくそくらえ的なスタンスの物語になっているんじゃないかと思った。

破天荒な小説を読みたいときにはお勧めの本。

 


[SF] ケイロンの絆

2016-08-01 15:56:32 | SF

『ケイロンの絆 グイン・サーガ138』 宵野ゆめ (ハヤカワ文庫JA)

 

宵野ゆめ、ケイロニア篇。新たな展開の始まり。

双子の出生で闇は晴れたのかと思っていたが、またしてもサイロンは陰謀詭計の闇の中へ。

ディモスか。最初は栗本薫のことだから、そのうちハゾスとくっつくんじゃないのなんて思っていたけれど、想像を越えた展開になってきたな。まぁ、小物っていえば小物な感じはするのだけれど、サイロン宮廷への影響力諸々を考えると、恐い存在だわな。パロ篇の壮絶さから比べると、まだまだ人間的な陰謀の範囲というあたりも逆に怖い。

ケイロニアの古都に鉱脈発見との流れはちょっとご都合主義っぽい感じではあるが、オクタヴィアがいかに神々から守られているかという証と捉えよう。

想像もしなかったといえば、シリウスがあっさりとグインの手に渡るというのにも驚いた。崖のシーンはなんだかデジャブがあるんだけど、他に似たような展開があったっけ。

シリウスがあるべき場所に戻るということは、シルヴィアも最終的にグインと和解できるんだろうか。宵野版のシルヴィアはだいぶ持ち直してきた感じもあるので、読者としては二人のハッピーエンドを望みたいが、はてさて。

それにしても、天狼プロダクションやファンクラブ関係から伏線扱いのキャラクターが発見されて、本編に再登場というのはなかなかいい流れなのではないか。そもそも、トーラスのオロの頃から、思いもよらぬキャラが再登場(?)する流れはあるのだし。

 

ところで、137 廃都の女王の感想メモが見当たらないのですが!

 


[SF] さようなら、ロビンソン・クルーソー

2016-08-01 15:24:45 | SF

『さようなら、ロビンソン・クルーソー』 ジョン・ヴァーリイ (創元SF文庫)

 

ジョン・ヴァーリイの実力が遺憾無く発揮された短編集。〈八世界〉全短編の2巻目。

〈八世界シリーズ〉の短編を発表年順に収録とのことで、第1巻の『汝、コンピューターの夢』に比べると比較的新しい作品が多く、その分、古臭さを感じることが少なかった。

デビュー作である「ピクニック・オン・ニアサイド」では設定のひとつに過ぎなかった性別変更、若返り技術の社会的問題に徐々にフォーカスが当てられていくように見えるところがおもしろい。著者はそこに内包された問題に、最初から気付いていたのだろうか。

〈八世界シリーズ〉は、突然に異星人によって侵略された地球の外で、その異星人から奪った新たな科学技術によって生き延びていく人類を描いたシリーズであり、中でも、性別の変更、若返り、人工生命体との共生といった人体改変がヒトの生き方や社会を変えていく様子を描いている。

それによって、ヒトがヒトの身体であることによって生まれている心の問題や社会の問題を明らかにしていくというところがいつの間にか主眼になっている。この視点は、現在においてもまったく古びていないし、かえって議論の先取りをしているように見えるほどだ。

ヴァーリイ個人にとっても、最初は単にSF的アイディアとしての着眼だった人体改変技術が、時代を経てライフワーク的なテーマとなり、それが普遍的なテーマへと変わっていったのだろう。


「びっくりハウス効果」(大野万紀訳、新訳)
タイトルがネタバレなのはいかがなものか。

「さようなら、ロビンソン・クルーソー」(浅倉久志訳)
人工的に作られた楽園の終焉は、少年期の終わり。

「ブラックホールとロリポップ」(大野万紀訳、改訳)
親の心子知らず。その逆もまた。

「イークイノックスはいずこに」(浅倉久志訳)
親子の絆。共生の絆。

「選択の自由」(浅倉久志訳)
性が選択可能だとしたら、ジェンダーとはいったい何か。

「ビートニク・バイユー」(大野万紀訳、改訳)
性別に加え、外見の年齢も変えられる社会においての教育とはどのようになるのか。

どの短編も、ストーリーで直接描かれる以上に、様々な視点に気付かせてくれる、非常に刺激的な作品だった。

 


[SF] 汝、コンピューターの夢

2016-08-01 15:11:36 | SF

『汝、コンピューターの夢』 ジョン・ヴァーリイ (創元SF文庫)

 

ジョン・ヴァーリイの〈八世界〉シリーズ全短編集の1巻目。SFが読みたい! BEST SF 2015の海外篇第11位。

収録全作品が、新訳、もしくは改訳。いくつか以前に読んでいるものがあるはずなのだが、記憶に引っかかるものはなかったのは訳のせいか、記憶力のせいか。

今さらヴァーリイかよという感じではあり、実際にいくつかの短編の設定や雰囲気は古臭く、懐かしさを感じるものもある。しかし、小説として今でも面白く読めるのは、結局のところヴァーリイが描いているのが人間だからということなのかもしれない。

70年代に彼が登場した当時は、新しいハードSFとか、スタイリッシュな未来描写なんて評判が立ち、人体改造や仮想現実をネタとした多彩なSFガジェットの扱いが注目されていたが、それだけの作家だったのであれば、この時代には既に古びたレトロ・フューチャーの仲間入りだったかもしれない。

しかし、ガジェットそのものではなく、それに翻弄される人間を描くことによって、2010年代にも通用する作品として再評価されることになった。

特に、性別をころころと変えることが常識化した社会は、世界的にジェンダーフリーの思想が盛り上がっている昨今から見れば、実に先験的なシリーズであったと言えるだろう。


「ピクニック・オン・ニアサイド」
これがなんとデビュー作。いきなりの性転換で驚くものの、実は郷愁と孤独がテーマという二段構え。収録は発表順なのだが、シリーズの背景を説明するのにもってこい。

「逆行の夏」
身体改造が生み出す新たな家族の形。親子の葛藤なんて、どんな社会になろうとも普遍的なものだが、こういう親子にとってはどうなんだろう。

「ブラックホール通過」
skypeでいつでもつながっている恋人同士というのも珍しくなくなったが、その状態における鬱陶しさと孤独感がブランコのように揺れ動く様子が良い。あと、恋人に救われるダメ男というパターンが多いのだけれど、ヴァーリイの願望なのか?

「鉢の底」
凄腕技術者の幼女が登場するという、現代日本に最適な作品。しかも、やっぱり幼女に救われるダメ男。

「カンザスの幽霊」
なんと、冒頭作品と同じ主人公だが、話はほとんど無関係。記憶の保存とクローンによる復活が可能となった社会での殺人の意味と、重大犯罪の結末。価値観の違いが衝撃的。気象操作を利用した芸術というのもおもしろい。

「汝、コンピューターの夢」
格好のいいタイトルにくらべて、いささかおまぬけな話。よく考えると、いろいろと必然性がなくておかしいのだが、仮想世界へのジャックインが引き起こす問題と、それに直面した時の混乱は普遍的なネタかもしれない。

「歌えや踊れ」
植物と共生する改造人間が生み出す音楽。ここまで来ると、もはや人間なのかとも思えるが、やはり人間の心や感情は変わらない。だから美しいし苦しい。

 


[SF] S-Fマガジン2016年8月号

2016-08-01 14:46:45 | SF

『S-Fマガジン2016年8月号』

 

「特集 ハヤカワ・SF・シリーズ総解説」

ハヤカワ文庫SFの次は、ハヤカワ・SF・シリーズかよ。いわゆる銀背。こんなの総解説やったところで、興味があったら古本屋で探せってか。と思ったら、総選挙企画ってことで、ハヤカワ文庫SFで復刊、もしくは、新訳でもやってくれるんですかね。

解説を読んでみると、タイトルは聞いたことがあるけれども読んだことの無い小説がわさわさと。番号の抜けているものはハヤカワ文庫SF総解説と重複しているということは、ここにあるやつは(少なくともハヤカワでは)銀背でしか出てないやつなんだ。

なにしろ、リストの先頭が『ドノヴァンの脳髄』である。この本、タイトルを知っている人の中で、実際に読んだことある人はどのくらいいるのだろう。

リストを眺めてみると、我々がSFとはこういうものだと思う小説が中心のラインナップ。そりゃそうで、いわば、このラインナップこそが本場米国とは多少異なる日本のSF観を形作って来たのだろう。

後半には小松左京をはじめとする日本人作家の作品も混じり、彼らが海外作家と肩を並べられるような作品を生み出し始めた頃のラインナップと比較するのもおもしろい。

小松左京、光瀬龍の第一作品集の1か月前に出たのが『トリフィドの日』だったり、『破壊された男(分解された男)』はその後の出版だったりと、へーと思うことが盛りだくさんだ。

個人的に気になったのはレスター・デル・リイの『神経線維』。原発事故をテーマにした災害SFだが、あまりにリアルな描写のためにFBIから調査を受けたという逸話が目を惹く。原発事故を経験した日本人にとって、60年前に描かれた作品を読み直すことは価値があると思う。


「青い海の宇宙港」 川端祐人
今回で最終回。種子島多根島の宇宙遊学生である小学生たちがやり遂げた快挙。「ガッカチチウ」という奇妙なスローガンも心に残る。ロケットへのこだわりも、ガオウへのこだわりも、SFじゃないけどSF魂に溢れている。これ、ハヤカワ文庫ハヤカワから単行本で出るんだけど、小学生が読める形にできないものか。

「新・航空宇宙軍史 イカロス軌道」 谷甲州
読み切りじゃない(何回目?)。もう、不定期連載ってことで。

「裏世界ピクニック くねくねハンティング」 宮澤伊織
都市伝説的怪談のSF的解釈というか。なかなかおもしろいテイストだと思う。

「あるいは呼吸する墓標」 伏見完
サイボーグ化され、死しても歩き続ける死体というイメージが物悲しい。

「ウルフェント・バンデローズの指南鼻〈前篇〉」 ダン・シモンズ/酒井昭伸訳
ジャック・ヴァンス風ダン・シモンズ。というか、トリビュート企画。この雰囲気はさすが。

「マグナス・リドルフのおみやげ」 石黒正数
うん、まぁ、正しいおまけ。

 


[SF] S-Fマガジン2016年6月号

2016-08-01 14:17:11 | SF

『S-Fマガジン2016年6月号』

 

なんとびっくり。4月号のデビッド・ボウイ追悼特集に続き、今回も音楽が主役。しかも、「特集 やくしまるえつこのSF世界」。

やくしまるえつこはS-Fマガジンに「あしたの記憶装置」を連載しているくらいにSFではあるのだけれど、いったいS-Fマガジン編集部はどうなってしまったのか(笑)

“相対性理論”という奇妙な名前のバンドの存在を知ったのはいつだったかは忘れたけれど、名前を知って興味を持ったときに2、3曲聞いたくらいで、あまりよく知らない。というか、好きなタイプの音楽じゃなかったという印象。

やくしまるえつこ本人にいたっては、薬師丸ひろ子としばらく区別がついていなかったというのが正直なところ。

しかし、ティカ・α名義でのSMAPへの作詞提供や、ももクロの『Z女戦争』なんかもこの人だったと知ると、たしかに最近盛り上がっているんだなと再認識した。

やくしまるえつこは確かにSFファンが好きそうな独特な世界を持った人ではあるのだろうが、SF小説読者からすると、ちょっとズルいんじゃないかと、実は思っている。

「あしたの記憶装置」なんかが典型的なのだけれど、SF的なモチーフ(未知の科学、失われた記憶、こことは違う世界……)のイメージを喚起する単語や文(あえて文章とは言わず)の羅列でできている。それは、風呂敷を広げるだけ広げて、たたまない。

この風呂敷が広げられている期間というのは、実に楽しい。謎が謎を呼び、新たな可能性に心が震える。

しかし、小説や映画ならば、物語に結末をつけなければならない。わざとオープンエンドにする場合もあるが、それでもそれなりのオチはつく。

このとき、広げすぎた風呂敷をたためずに陳腐な結末になってしまったり、誰も期待しない斜め上のオチがついたりすることも多々ある。あるいは、それを避けるために、いつまでも終われなかったり。ほら、あの○ヴァンゲリ○ンとか……。

詩とか歌詞とか、イラスト+短文とか、イメージを喚起するだけ喚起するだけのものは、結末をつけなくてもよいという意味で、やっぱりズルいと思うのだ。

 

ところで、話は変わるが、香山リカは科学にもSFにも関係の無いことばかり書いているならば、そろそろ退場してもらってもいいのではないか。今回の内容に関しても、アンチ・ヘイトはヘイトと同じ穴の貉にしか見られていないし、「アイヌだというだけで殺されるかも」に至っては、知里幸恵の同窓生として違和感しか無い。


「ウルトラマンF〈最終回〉」 小林泰三
これで連載最終回。TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE 企画の一環なのだけれど、ウルトラマンネタであれば、以前の『ΑΩ』の方が破天荒で面白かった。Fの意味がわかったところが一番の頂点。企画の都合でリミッターが働いているのかどうかはわからないけど、もっとむちゃくちゃにやっていただきたい。
(※加筆された単行本版はもっとすごいらしいので期待)

「月の合わせ鏡」 早瀬耕
Removeが不要でメモリリークしないデータ構造というのはちょっと惹かれるけれど、ヒトの記憶のように曖昧なのじゃちょっとね。AI系に使うには最適なのだろうけれど。って、そいういうのが主題じゃないか。

「双極人間は同情を嫌う」 上遠野浩平
おじさんはもう疲れちゃって、こういうの、もう読めないよ。

「牡蠣の惑星」 松永天馬
現代的というか現在的。SFの皮すらかぶらなくなった現在小説。最貧困女子とか、高学歴底辺女子とか、一部で話題になっているその辺の話題とつなげるのも面白そうだ。

「天地がひっくり返った日」 トマス・オルディ・フーヴェルト/鈴木 潤訳
これ、ヒューゴー賞なのか。フラれた心象が文字通り実現した結果っていうこと?

「失踪した旭涯(しゅうや)人花嫁の謎」 アリエット・ドボダール/小川 隆訳
大メヒカ帝国は燃えるな。この世界で日本は一体どうなってるんだと気になる。

 


[SF] 明日と明日

2016-05-03 16:19:15 | SF

『明日と明日』 トマス・スウェターリッチ (ハヤカワ文庫 SF)

 

『SFが読みたい!』のベストSF2105 海外篇12位。

紹介文は読んでいたので、ピッツバーグで〈終末〉と呼ばれる何かが起こって仮想現実の街になっている、ということはわかっていたのだが、それ以外でわけが分からずに序盤で混乱する。

主人公のドミニクは保険か何かの調査員で、仮想現実の街を舞台に調査を行っているようなのだが、これが特殊能力なのか、その時代の誰でも使える能力なのかがわからない。どうやら、誰でも使える能力っぽいのだが、なんで主人公が調査員に選ばれたのかも良くわからない。おまけに、最新の特殊な〈アドウェア〉なんかも貰えてしまって、なんだか奇妙なご都合主義の物語に思えて、最初から読み直してしまった。

100ページぐらいを越えると、やっと世界の有り様が頭に入って来て、スムーズに読めるようになった。

主人公は保険会社からの依頼で過去のアーカイブ(監視カメラや行動履歴の集積)から対象者の行動を割り出し、保険の対象となるのかどうかを査定するのが仕事。その中で調査対象となった少女の履歴が編集されていることに気付いてしまったことが事件のきっかけ。その後のご都合主義に見える展開は、すでに“犯人”の手によって踊らされていたということになる。

この世界の注目すべき点は、出歯亀的ニュースメディアの発展。現実の世界でさえ、何か事件が起これば、被害者や容疑者の子供の頃の文集までもがニュースショーに流れ、匿名掲示板を中心にSNSのアカウントや住所までもが飛び交うという現状にあるが、それをさらに推し進めたのがこの小説の舞台。ひとたび何かがあれば、事件現場の動画から、過去のスキャンダルまでもがメディアに飛び交い、しかも、金儲けのために親が亡き子供のセックスシーンまで売るという酷さ。

しかも〈アドウェア〉との呼称の通り、主機能は広告を強制的に見せられること。その換わりに仮想世界へのアクセスが許される。レコメンドのウザさはもちろん、事件直後にはゴシップスキャンダルのストリーム視聴を勧める広告があふれたりするわけだ。

すべてのものがネットでつながるという未来は、このようなディストピアにつながる可能性もあるが、だからこそプライベート空間をどうやって持つのかというのも一つの問題でもある。しかし、この小説のように、アーカイブとして再生される〈市〉の中で過去を再体験できるというの、それはそれで魅力的。

ネット文化の功罪というのは確かにあって、あまりに大き過ぎるデメリットから悲観的になりがちではあるのだが、メリットを享受することもあるだろう。たとえば、主人公がこんなに深入りする前に、入手した証拠の断片をネットに公開したならば、集合知によってあっさりと犯人を追い詰められたかもしれない。

そう思うのは、俺がネットに親和的で、ちょっと楽観視し過ぎているのだろうか。

 


[SF] プロローグ

2016-04-22 23:59:59 | SF

『プロローグ』 円城塔 (文藝春秋)

 

これは確かに『エピローグ』を読んでからの方がおもしろい。

榎室、朝戸、クラビトなんて苗字に加え、アガタなんてのも出てきたりする。実はこれ、人名自動生成プログラムの出力結果なのだ。なるほど、なるほど。

プログラムから自動的に生成された13人の名前。ここから物語は始まる。それぞれの名前にはミッションが割り振られ、その結果がエッセイや小説の形で繋がっていく。

その中で、ひとつの漢字を1回だけ使った(いろは唄のように)漢詩である千字文や、和歌集の解析の解析。さらにはこの小説自身の解析が始まる。

そして、無限のサルや、過去の名作からランダムに引用する猩猩を経て、遂には自らが語り出すプログラムにいたる。そう、これはまさしくイザナミ・システムだ。

しかしながら、この小説の文章は全体的にわけがわからない。だいたい、“わたし”と“私”が出てきたり、一人称も二人称も指している対象がわかりずらい。これが試験問題に使われたら、誰にも正しい解答なんてわからないんじゃないか。

登場人物たちがそれぞれ勝手に語り始めるため、各章やモジュールの著者が誰なのかも冒頭部分からはわからない。しかも、登場人物それぞれにバージョンがあり、空間的なつながりも、時間的な因果関係も崩れていく。

おまけに、登場人物の性格や文体に一貫性が無いと、地の文で宣言してしまうほどの野放図さ。一度は誰かがブン投げた伏線を、別な登場人物が拾って回収するという展開。これらは意図したものではなく、連載という形式から偶然に生まれた産物なのかもしれない。いや、絶対そうだろう。

河南と川南と札幌。巨大な霊長類。滝野霊園のモアイ。円城塔にとっての小説の理想型とは何か。とりとめもなく、思考があっちこっちに飛ぶ感じ。唐突に村上龍の例の迷言まで出てきて吹き出すくらい。無視しておけばよろしいって、まだ和解してないのか。

『エピローグ』にも出てきた、バージョン管理されるデータとしての書物と言う解釈は実に面白い。電子版どころか、Git管理される書物だ。コーパスごとに分解され、検索ラベルを貼られ、まさに再利用可能なデータとして小説が生まれ変わっていく。この先にあるのが、『エピローグ』の自らを語り続けるプログラム=イザナミ・システムだ。

なぜこれが『プロローグ』で、あれが『エピローグ』なのか。なるほど、なるほど。これは実におもしろい。

 


[SF] 泰平ヨンの未来学会議

2016-04-14 23:59:59 | SF

『泰平ヨンの未来学会議〔改訳版〕』 スタニスワフ・レム (ハヤカワ文庫 SF)

 

2015 BEST SFの海外部門第16位。

スタニスワフ・レムの名作(?)が、これを原作とした映画『コングレス未来学会議』の公開に合わせて〔改訳版〕として登場。

改訳版ということなので、多少読みやすくなっているかと思いきや、この小説の性格上仕方が無いのだけれど、段落区切りもなくダラダラと続く未来学会議前の様々な馬鹿馬鹿しいエピソードの羅列に辟易とする。

そうこうしているうちに、人口爆発と格差拡大への不満を原因とする暴動が発生し、幻覚剤が振りまかれ、主人公のヨンは現実とも妄想ともつかない世界へ巻き込まれていくという話。

ポーランド語版の発行は1971年で、当時の未来への展望を皮肉った、もしくは警告したブラックユーモアSFとのことだが、どうにも笑えなかった。そもそも、スラップスティック系の話はあまり乗れないものが多くて、この小説の前半もそんな感じ。真ん中辺りで主人公が爆発に巻き込まれて未来へタイムトリップするあたりからやっと面白くなってきた。

序盤では、いったどうしてこんな小説を映画化しようと思ったのかと不思議に思ったのだけれど、最後まで読んで納得。なるほど、これは映画化しやすいだろう。

ネタを割ってしまえば、これはいわゆるVRもの。コンピューターの中で計算する替わりに、投薬で集団幻覚を見せることによって新たな世界を作り上げてしまうというわけ。まさにマトリックスの世界。容易に視覚化できてしまうし、それなりにショッキングだ。

全体的にコメディタッチではあるけれど、一番笑えたのはドラえもんの秘密道具か、小林製薬の新薬かというレベルの薬品名。薬を飲めば気分も良くなるし、知識も増える。宗教に開眼もできれば、異性にもモテモテになる。キリストジンとか、アンタナンカキラインとか、何だそりゃ。

こういうのは、今となっては「インストールする」っていう表現になりそうだが、当時は(レムのような天才であっても)薬品による効能として考えられていたというのは非常に面白い。

あとは造語が先にあって概念が作り出される的な思考実験もあって、これはまるで牧野修か円状塔だなとか。そういった細かいネタが雑然と詰め込まれているのだけれど、個別には追いきれていない感じでもったいない。