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神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 死の鳥

2016-10-25 22:41:14 | SF

『死の鳥』 ハーラン・エリスン (ハヤカワ文庫 SF)

 

折りしも「バーナード嬢×ハヤカワ文庫 読破したふり禁止フェア」なんてものも開催中だが、「一度も読んでないけど私の中ではすでに、読破したっぽいフンイキになっている !!」といえば、その代名詞とも言えるSF作家がハーラン・エリスンなのではないだろうか。

『死の鳥』は、上記のフェアにもラインナップされている『世界の中心で愛を叫んだ獣』に続き、(なんと!)日本で出版された2冊目の短編集。なんでこれまで出版されなかったのかは本当に謎。

表題作の「死の鳥」はもちろん、「「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった」とか、「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」とか、あまりにもタイトルが有名で、すっかり読んだ気になっている人も多いのではないか。なんか、それこそアニメやラノベで使われそうなタイトルでもあるし。

エリスンといえば、解説にもある通り、というかS-Fマガジンでの紹介が悪いんだろうけれど、華麗でスタイリッシュな文体と、誰彼かまわず噛みつく論争屋というイメージが先行しているが、確かにスタイリッシュと言われる独特にひねくれた世界観は味わい深かった。

とはいえ、やっぱりそれなりに古臭さは感じるわけで、2、30年遅いよという残念感が強い。なんというか、どうしても古典SFのお勉強をしているような感覚になってしまう。

しかしもちろん、読者を試すような構成や、まるで詩人が叫ぶような文体は、まだ新鮮さを失っているわけではない。

最新作(といっても1987年だが)の「ソフト・モンキー」でも顕著であるが、彼の嗜好はいわゆる空想科学小説というより、もっと思弁小説(あるいは、もっと言えば純文学?)に近いところ(だから当時からニュー・ウェーブと言われていたのだが)にあるようで、SF的にどうなのっていう部分はあるのだけれど、短編小説として(今風にいうところの)普通におもしろい。というか、普通に(!)エキサイティングだ。

あまりのビッグネームゆえに、SFファンはどうしても基礎教養として構えて読んでしまうのではないかと思うので、かえって先入観の無い「群像」とか「すばる」とかを読んでいる層に受けるんではないかと思うんだけれど、いかがですかね。その手の人の感想って、聞いたことないんだけれど。



○「「悔いあらためよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった」
個人的に時間は守る方で、遅刻は重罪だと思っているので、ハーレクィンは死刑。

○「竜討つものにまぼろしを」
解説の“サイケデリック”というより、テレビゲームを連想してしまったのだが、たしかに1966年じゃドラゴンクエストどころか、その元ネタとされるD&D(TRPG)も世に出ていないのだよな。

○「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」
これも今ではネタ的にはありふれてしまったが、1967年かよ。タイトルもエリスンの性格の苛烈さを表しているようだ。

○「プリティー・マギー・マネーアイズ」
世にも奇妙な的な怪談調。そういえば、「アウター・リミッツ」の脚本もやっていたのだよね。

○「世界の縁に立つ世界をさまようもの」
これも叫んでいる。誰に届くわけでもないのに叫び続けるというのはエリスンの好んだモチーフなのだろうか。まさに叫ぶ詩人。

○「死の鳥」
最後の“マーク・トウェインに捧げる”の意味が分からなくて落第しそう。読者への問いは作品解釈のための補助線であるとともに、ミスリードする罠でもあるので侮れない。

○「鞭うたれた犬たちのうめき」
暴力への苛烈なメッセージ性を受け取るとともに、共同体の本質的なおぞましさも感じる。飲み込まれないこと。

○「北緯38度54分、西経77度0分13秒 ランゲルハンス島沖を漂流中」
ランゲルハンス島という体内組織をホントの島に見立てるという、いかにも非理系的な小説。ミクロの決死圏的な設定がどうしてこうなるのかというと、ニューウェーブだから(ここ笑うところ)。正直言って、すべてのネタは解明できてません。なお、ここは(ある意味、とっても)面白いので読んでみるといいかも。

○「ジェフティは5つ」
ただの怪談でも、ただの懐古趣味でもなく感じるのは、読者への最後の問いかけのせいか。

○「ソフト・モンキー」
SF読みなので、このての小説に対して何を書けばいいのかわからない。何を言っても小並感でしかなく。しかし、もしアランが実体だったとしたら……。

 


[SF] S-Fマガジン 2016年10月号

2016-10-20 22:47:03 | SF

『S-Fマガジン 2016年10月号』

 

特集てんこ盛りの濃い10月号。

● 海外SFドラマ特集
海外SFドラマは、やっぱりS-Fマガジンで話題になってた「ギャラクティカ」を見た程度。あれも何年も前か。正直言って、たまに映画見る程度ならまだしも、何本も何時間もある連続ドラマを見る時間が作れない。日本のドラマですら、最近見ていないのに……。

● 「スター・トレック」50周年記念特集
「スター・トレック」も、最初はTVドラマから始まったのだよな。実はこれもちゃんと見たことない。それでも、それなりにネタがわかるというのがすごいところ。SF界のスタンダードといったところか。

● ケリー・リンク以降――不思議を描く作家たち
ストレンジ・フィクションも、なかなか手の出ないジャンル、というか、ジャンルじゃないんだけど。基本的に、非科学的であろうとも、腑に落ちない話は好きではない。不条理だけど腑に落ちる話というのもあるわけだけれど、かといって、当たり外れが大きいしなぁ。それにしても、ここで紹介される作品の著者のアジア系率の高さは、作風と何か関係あるのだろうか。

結局、どれも守備範囲のエリアではなかったのだけれど、昨今のSF事情としては興味深く読ませていただいた。

 


○「七千六日の少女 怨讐星域 特別篇」 梶尾真治
あれってそういう理屈だったのか! というか、その方が論理的におかしくないか。まあカジシンだから、そういうものか。

○「ウルフェント・バンデローズの指南鼻〈後篇〉」 ダン・シモンズ/酒井昭伸訳
ジャック・ヴァンス的、かつ、浅倉久志的世界の再現に成功している。

○「OPEN」 チャールズ・ユウ/円城塔訳
チャールズ・ユウ=円城塔のペンネーム疑惑はさらに深まる。

○「弓弦をはずして」 ユーン・ハ・リー/小川隆訳
円城塔のペンネームその2(笑)

○「魔法使いの家」 メガン・マキャロン/鈴木潤訳
えーと、これはヤバイ暗喩を読み取るべきなのか?

○「ワイルド家の人たち」 ジュリア・エリオット/小川隆訳
これもヤバイ暗喩な感じ。っていうか、実は少女マンガ的オカルトな雰囲気。

○「と、ある日のきみとぼく」 宮崎夏次系
穴SFの極北。

○「宝はこの地図」 草上仁
タイトルでネタはバレバレなのだろうと思ったけれど、結末は予想よりちょっとだけ上だったので良かった。

 


[SF] アンダーグラウンド・マーケット

2016-10-19 22:35:55 | SF

『アンダーグラウンド・マーケット』 藤井太洋 (朝日文庫)

 

藤井太洋は“コンテンポラリー”な作家だ。彼の描く近未来は、いまここ、現在と地続きであり、我々の前に必然的に表れてくる道筋そのものである。まるで、暗闇の中でそこだけが明るく照らされた道のように。しかし、その未来が明るいかどうかは定かではない。

今回も舞台は近未来。オリンピック直前の東京。少子化と移民の増加により激変する社会は現在をはるかにしのぐレベルで二極化を進めていく。過密する都市と、過疎化する地方。持てるものと、持たざる者。正規雇用と非正規雇用。日本人と非日本人。デジタルネイティブと非デジタルネイティブ。

持たざる者たちの課税逃れから始まった仮想通貨によるアンダーグラウンド・マーケットは、またたく間に東京を飲みこんでいく。

正直なところ、このような未来が数年後に訪れる可能性を受容することはできない。こうなる前に、何とかなるんじゃないかと。しかし、現在におけるすべての指標が、このような極端な階層社会の到来を指し示していることは否定できない。

果たして、自分はこの世界で生きていけるのだろうか。実のところ、自分はいわゆる大企業の正規雇用労働者であるわけで、このようなアンダーグラウンド・マーケットの到来を知らずに生きているかもしれない。一方で、自分の職種はこのマーケットを支える技術に非常に近い仕事をしているわけで、もしかしたら、本作の悪役である城村のような係わり方をしてしまうかもしれない。

いろいろな可能性を考えながらも、実際のところ、流されるままに生きていくのではないだろうか。

ところで、本文中でもちょっと言及されているが、仮想通貨って本当に大丈夫なものなのか。それが今一つ確信が無い。

通貨というのはいわば信用そのものであるわけで、日本円=日本銀行券は日本国の信用を体現している。それに対し、ビットコインのような仮想通貨(分散化された暗号化通貨というのが正しいのか)が体現している信用は、暗号アルゴリズムの信用なのではないかと思われ、その信用は原理的に解読できないのではなく、有効時間内に解読できないというレベルのはずだ。つまり、無限の(に近い)計算能力を仮定する場合や、新たな解読法が発見された場合には、この信用は吹き飛んでしまう。

日本国の信用と、仮想通貨の信用のどっちが高いかといえば、現時点では日本国の信用が高いのだろうが、それでは仮想通貨の信用がどのくらいなのかというと、それこそ利用者がどれだけそれを信用するかに依存してしまうのではないか。

そんなわけで、日本においてアンダーグラウンド・マーケットが生まれるであろうことは予測できるとしても、そこで採用される通貨がビットコインのような仮想通貨なのかどうかというのは微妙なところ。

もしかしたら、それはT-ポイントのようなポイントなのではないかという気もしているのだけれど、どうだろうか。いやそれも仮想通貨であることに間違いないんだけどさ。

 


[SF] エターナル・フレイム

2016-10-17 22:47:33 | SF

『エターナル・フレイム』 グレッグ・イーガン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

『クロックワーク・ロケット』に続く〈直交宇宙〉3部作の2作目。

こことは違う宇宙にて。母なる星を救うために、直交方向(!)に巨大ロケット〈孤絶〉が飛び立って数世代後。主人公たちは曾孫世代。前巻の主人公ヤルダは伝説と化していながらも、彼らは限られた資源のために過酷な人口制限を課しながらも、世界を救う手だてを模索し続けていた。

この巻で語られるのは、物理学における光の波動性の発見と、(なんと!)反物質の発見。さらに生物学における感染と遺伝を司るしくみの発見。

とにかく、この世界は物理法則さえも“ここ”とは違う世界。主人公たる種族の生態すらも明らかではない。それでも、彼らの感情や葛藤を表す言動を読んでいると、彼らが人間ではないことを忘れてしまう。だからこそ、この世界がこの世界でないことを忘れ、ふとした描写に混乱する。

正直言って、大学院(工学系だけどさ!)まで出た身でありながら、この世界の直交数学を理解できているかというと心もとない。そうなるというんだからそうなんだろうさというレベル。それでも、ああこれはド・ブロイ波、これは波動方程式と連想できるようになっているので、なんとかついていくことができたと思う。しかしながら、量子論は上っ面しか理解していない(=理解できていない)ので、結論が正しいのかどうかはまったく分からない。いやまあ、間違っているわけはないのだけれど、頭の中の霧が晴れるような納得感は無いよね。

世界の秘密を暴いていくタイプのSF小説は好きなんだけど、こういう形で物理法則を紐解いていく(あるいは、組み立てていく)小説は初めてだ。どちらかというと、シュレーディンガーの偉人伝を読んでいるような感覚だった。

さらにそこに彼らの生物としての驚異的な発見が重なる。最初のうちは生物ロボット論的な、神経電位の発見と制御の話になるのかと思いきや、なんと彼ら生命体としてのもっと本質的な性質を暴くことになる。個人的にはこちらの発見のエピソードの方がスリリングであり、エキサイティングだった。

量子論は脇においておいても、こっちのぶったまげる生態(というか生命形態)のネタだけでも充分過ぎるので、物理学わからんという人でも楽しめそう。特に、雌が四分割で分裂という独創的な繁殖方法が生み出す社会と、その差別的構造に関しては現代ジェンダー論の立場から読んでも、いろいろと複雑で示唆に富んでいて、必読なのではないかと思った。

第2部は第1部を超える難解さとなってしまったので、第3部は、もうちょっとエンタメよりのクライマックスを迎えるらしいとはいえ、ちょっと恐れながらも期待して待とう。

 


[SF] 栄光の道

2016-08-01 17:24:16 | SF

『栄光の道』 ロバート・A・ハインライン (ハヤカワ文庫 SF)

 

積読の棚にハインラインが残っていたので消化。

しかし、SF作家というものは、一度は異世界転生俺スゲー物語を書かなければいけないものなのだろうか。ハインラインしかり、ニーヴンもブリンもそうだ。

主人公はベトナム帰りの貧乏で不運な青年。ベトコンに顔を傷つけられたブサメンでもあるが、アメフト選手として優秀だし、東南アジアのジャングル戦を生き抜いてきただけに強靭な肉体を持つ。

このあたりが、現代ラノベとは違うハインライン的な部分か。主人公はナードではありえないし、異世界では特別な超能力を発揮できたわけでもない。活躍できたのは、彼の本来の力のおかげだ。

彼は絶世の美女(この美女も可愛い系ではなく、大柄で筋肉質な女性だったりするのがおもしろい)に導かれて、異世界での化け物退治に駆りだされる。そこから先は、神話的というか、ヒロイックファンタジーのパロディのような展開。

ところが、それで終わらず、その美女はパラレルワールドを統べる女王様(御年数千歳)だったということがわかる。このファンタジックワールドや冒険譚にも理屈を付けなければいけないというのは、SF作家としての矜持なのだろうね。

また、女性の扱いにも特色が出ている。女性は宇宙の支配者であっても、グダグダ言うのをひっぱたいて言うことを聞かせるものらしい。なんという家父長主義。

そしてまた、民主主義に対する批判もおもしろい。要するに、民主主義は衆愚政治に陥りやすいということなのだけれど。しかし、組織が厳格で無ければ、多数決で否決される少数派の天才が活躍する可能性があるから問題ないという。英雄が辿る栄光の道は、こうしてファンタジーでなくても、現実に存在しうるのだという主張か。

そしてそれよりひどいのは社会主義であり、社会主義者は阿呆だという主張を述べたりする。社会主義における厳格な組織では、多数に理解されない天才はスポイルされてしまうから。これがハインラインの共産主義、社会主義への見方なのだろうな。

可愛い女の子ハーレムになったり、本人の努力ではなく血統の力で異能を発揮するような現代的「転生系俺つえー」ラノベと比較するのはいろいろと面白いような気がするが、かといって、ハインラインの作品の中で特別面白いわけでもなく、あまりお勧めはできない作品だった。

 


[SF] ラットランナーズ

2016-08-01 17:15:59 | SF

『ラットランナーズ』 オシーン・マッギャン (創元SF文庫)

 

「安全監視員」と呼ばれる人間監視カメラによって過剰に監視、管理される近未来。法律的な制限が緩く、細い路地の隙間を駆け抜ける子供たちはラットランナーズと呼ばれ、犯罪組織の入り口で生きていた。彼らの活躍を描くジュブナイルSF。

ジュブナイルらしく、十代の子供たちが大人の犯罪組織を翻弄する痛快な物語をテンポよく描いていて、すぐに惹きこまれてあっさり読める。

監視社会が生まれたきっかけがテロ対策というのは現代っぽい感じ。その監視方法はザルっぽくありながら、監視官が必要以上に権力的になってしまうというのも「囚人と看守」の心理実験の再現としてリアリティがある。

一方で、子供たちが一発逆転に使うSF的ガジェットはいかにも魔法っぽくて興醒めする。生体インプラントを入れて数時間で発現した新規器官をすぐに使いこなすのは嘘っぽい。そこはもうちょっと時間をおいて使いこなすのに苦労するとか、実は既にインプラントを注入されていたとかの方が良かった気がする。

前日譚があって、続編も予定されているとのことだが、生体インプラントで超人化した子供たちがあまりに強力すぎると別の作品になってしまいそう。

ラノベ並みに異能バトルでも繰り広げるのか。あるいは、成長期が終わると発現した器官が死んでしまうとかだとジュブナイルSFっぽいかも。

 


[SF] 亡霊星域

2016-08-01 17:02:24 | SF

『亡霊星域』 アン・レッキー (創元SF文庫)

 

英米SF各賞7冠制覇で話題になった『叛逆航路』の続編。3部作の2作目。

3部作の2作目というと、スター・ウォーズの「帝国の逆襲」なんかが顕著だけれど、どうしてもクライマックスである第3作への布石が中心で、地味になってしまう印象がある。この『亡霊星域』も、やはり地味といえば地味。

主人公のブレクは皇帝アナーンダから艦隊司令官に任じられ、アソエク星系へと赴く。そこで見たものは、暴力による支配と、しいたげられた難民たち。そして、謎のゴースト・ゲートだった。

今回はアソエク星系での差別的支配の是正に焦点が置かれ、そこに、ブレクの愛したオーン副官の妹が絡んでくる。ゴースト・ゲートの向こうに何があるのか、エイリアンであるプレスジャーとの関係はどうなるのかといった大きな物語は次巻へお預け。

なので、『亡霊星域』というタイトルは、もしかしたら先取りしすぎなのかもしれない。

前作と同様、生物学的性別に関係なく“彼女”と呼ばれたり、主人公が艦と接続されているため、複数の視点を同時に認識できたりするので、非常に混乱する。このあたりは解説にも繰り返し書かれているように、このシリーズの最大の特徴といえる。

よくわからなくなるのは、いわゆるジェンダーが無くともセックスはあるためだろう。つまり、すべてが働きバチのように雌ならばいいのだが、実際には雌雄があり、生殖行為もあり、かといってヘテロセックスだけではないのでたちが悪い。

しかも、意図的なのかミスなのか、会話文に女性表現が混じっていることがあって、これに引っ張られる。少なくとも、原書は英語なので、日本語的な女性表現は無いはずだし。

おそらく、セイヴァーデンは雄だというのは確かだろうと思うのだが、他の人物は一体どうだろう。

アーナンダは、当初は雄だと思っていたけれども、今では雌だと思っている。逆に、ティサルワットの第一印象は雌だけれど、アソエクでの行動を見ていると雄のような気が。

ブレクは一番性別を気にしていなさそうだけれど、やっぱり雌か。

これで全員、ユニセックスの外見というのは無いだろうと思うし、実写にしたらどうなるだろうと考えたら、これまた面白い。

 


[SF] ロデリック

2016-08-01 16:50:02 | SF

『ロデリック (または若き機械の教育)』 ジョン・スラデック (河出書房新社)

 

ミネトンカ大学なる田舎大学で行われたロボット開発プロジェクト。それはNASAから補助金をふんだくるための詐欺にすぎなかった。しかし、瓢箪から駒、嘘から出たまこと。小さな戦車のような筐体に収められたソフトウェアであるロデリックは、成長する知能を持っていた!

ミネトンカ大学で詐欺が明るみに出るまでのドタバタが第一部。ここではまだロデリック本人は狂言回しとして登場するだけ。しかし、終盤でも第一部の登場人物が後からぽろぽろと顔を出すので、まあ読んでおけ。

この第一部は、スラップスティックっていうんですか、笑えないコントみたいな感じで、あんまり面白みがわからない。でも、スラデックが好きな人はこういうところが好きなんですかね。

しかし、その第一部はほんの少しだけで、すぐにロデリックが登場する第二部へ突入。

ロデリックは学習し、成長するソフトウェアなので、最初は何もわからない赤ん坊と同じ。最初に世話をまかされた家庭では、ロデリックはテレビの前に放置され、育児放棄の状態に。それでもロデリックはテレビから学び始め、自我を形成していく。

そこから彼を貰い受けたのがポーとマーの老夫婦。彼らはロデリックに知能を認め、子供として育て始める。ここからが本番。

ジプシーに誘拐されたり、小学校に入っていじめられたり、新しい身体を作ってもらったりで、ロデリックはだんだんと成長していく。その成長の仕方は、ソフトウェアのつくりとして当然のように、論理面には強く、情緒面には弱く、人間の成長とは異なる歪な感じで進んでいく。

これは子育てや教育についてのパロディなのか、ただの言葉遊びのジョークなのか。たとえば、ロデリックは木の絵を描けと言われて、決定木(decision tree)を描いたりする。こんな感じで、笑えたり、笑えなかったりで物語は進む。

ばかばかしいことを大真面目に語るというのがスラデックの作風ではあるのだけれど、それだけに笑いどころが難しい。たとえば、解説で円城塔も言及している、ロデリックが置換暗号をあっさり解読しちゃうのは、彼がプログラムだからってことだろうと思うのだけれど、こういうのって笑いどころなんだろうか。

最後にはロデリックの生みの親と育ての親との関係がわかったり、今後のロボット社会への移り変わりが示唆されたりでおしまい。この後も続編があるらしいが、訳されるかどうかは不明。

やっぱり、鉄腕アトムや、アラレちゃんや、ろぼっ子ビートンなんかに親しんで育ってきた日本人としては、ロデリックを取り巻く人々、特に子供たちの反応には大きな違和感がある。

「おれ、ロボットなんだぜ」なんていう友達がいたら、絶対に「なにそれカッケぇー!!」っていう話になるでしょ。そうならないのはやっぱり宗教的な違いなんですかね。

解説に載っているスラデックの自作自演インタビューを読む限りそういう感じなんだけれど、これもどこまで本気なものかどうか。

実はスラデックの自伝なんではという見方もあり、ああなるほどねぇと思ってしまった。


[SF] 富士学校まめたん研究分室

2016-08-01 16:42:23 | SF

『富士学校まめたん研究分室』 芝村裕吏 (ハヤカワ文庫 JA)

 

hontoの電子書籍キャンペーンがらみで購入。たいていは紙の書籍で購入するのだけれど、物理的に持っている必要がなさそうだけど読んでみたい本として。

電子書籍がスマホで読みやすいかどうかは今回主眼ではないのだけれど、まあ、読みやすくは無かった。スマホの画面サイズって、やっぱりちょっと微妙だ。また、本の厚みで物語の進み具合を認識しているので、今回は急に終わってしまった感じがした。プログレスバーは出てるんだから、それを確認すればいいのだけれど。

それはさておき、内容はというと、……ちょっと困る。

アラサー理系女子がセクハラの末に閑職に追い込まれたのをきっかけに小型ロボット戦車を開発するというお話なのだけれど、これを白馬の王子様が救ってくれる必要があったのかどうか。

こんな話、いったいどこに需要があるんだという。

芝村氏は市場調査を行った末に「お前らこういうのが面白いんだろう」と露骨に訴えかけてくるところが鼻につくのだけれど、今回は少なくとも俺向けではないよな、これ。主人公に感情移入しそうな女子狙いだったんだろうか。

どう考えても、あとがきに書いてあったボツ案の方が面白く見えるんですけど。

“まめたん”の設計思想は興味深いと思うし、開発時の目の付け所は面白いとは思うのだけれど、できあがった“まめたん”の全能っぷりがすごい。開発者も驚くような活躍で、ソフトウェアの観点からも想定していない機能を発揮しすぎ。

ハード寄りの開発エピソードが多かったせいもあるのだろうが、開発時の苦労と有事に発揮した機能のギャップがありすぎて、ちょっとノレなかった。ソフトの開発エピソードもいろいろ入れてくれればよかったのに。

自衛隊描写に関しては各方面に気を使っているのだろうし、政治的主張よりは、兵器=メカ愛にあふれているところはよかったのだろうけれど、結局のところ底の浅さが目立つことになってしまっているような気が。

ということなのだが、読み捨ててもいいような本は電子書籍で、と思っても、価格がそう変わらないようでは読み捨てるにも躊躇するよねって話でしかなかった。

 


[SF] アルファ/オメガ

2016-08-01 16:28:46 | SF

『アルファ/オメガ』 フランチェスカ・ヘイグ (ハヤカワ文庫 SF)

 

最終戦争後で荒廃した世界。ヒトは必ず双子として生まれ、必ず片方は正常児、片方は異常児だった。

正常な人間はアルファと呼ばれ、支配階級となる。異常な人間はオメガと呼ばれ、焼印を押されて社会の荷物として迫害される。

しかし、アルファとオメガの双子は不思議なつながりで、片方が死ねばもう片方も死ぬ。これにより、アルファがオメガを生かさぬように殺さぬようにの最低な状態で支配するという社会が生まれた。

この微妙なバランスの上に成り立つ社会の崩壊と再生が、一組の双子を軸に描かれる物語。って、終わってなかった。これも3部作だったか。

もちろん、差別社会や階級社会に対するアンチテーゼではあるのだが、SF的な設定によって、極端な解決策が示されるのがおもしろい。

また、双子は同時に死ぬという設定から、差別-被差別の関係が、あたかも相互破壊確証として働き、弾圧や蜂起につながりづらいというのは設定としては実におもしろい。

そうは言っても、オメガの少女の逃避行がメインで、思考事件的な要素よりも冒険小説的な要素が大きい。

もっと思考実験的な、たとえば、タンクへの隔離を安楽死的な文脈で正当化するような議論があってもよかったんじゃないか。

双子の不思議な同期はともかく、たとえば白肌と黒い肌を持った双子が、みたいな話に変換してしまえば、即物的な差別話の出来上がりになってしまうが、これをファンタジーに託したことで、様々な意味において微妙なラインでアクロバティックに成り立っている小説だと言えそう。

ただ、コンピュータや放射能のイメージが古すぎて笑ってしまうなど、随所に突っ込みどころも満載で、かなり残念な感じ。

このネタならば、もっとファンタジーに振り切ってしまった方が良かったんじゃないかと思ってしまう。