「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2012年のテレビ。いよいよ大詰め(笑)、12月編です。
2012年 テレビは何を映してきたか (12月編)
「キッチンが走る!」 NHK
旅番組に「食」の要素は欠かせない。行く先々の地元料理は旅の大きな楽しみの一つだ。“食べ物エンタテインメント紀行番組”を標榜するNHK「キッチンが走る!」(金曜夜8時)は、旅と食を新たな視点で組み合わせたハイブリッド型だと言っていい。
この番組では俳優の杉浦太陽とプロの料理人が、キッチンワゴンと呼ばれる“動く台所”に乗って全国各地へと旅をする。まずは旅人として町を歩きながら旬の食材を探すが、地元の人たちとの何気ない会話がいい。その上でオリジナル料理を作り、生産者の方々と一緒に味わうのだ。
先日は長野県木曽町を訪れた。御嶽山(おんたけさん)の麓であり、自然は美しく厳しい。ここで杉浦とシェフパティシエの柿沢安耶が見つけたのは白菜、かぶ、紅玉リンゴなど。料理のテーマは、代々この山里に暮らす人たちをイメージした「輪と層」だ。ペースト状の野菜を入れ込んだ「そばクレープ」。リンゴの酸味を生かした「押しずし」。食材を作ったご当人たちが、そのおいしさに驚き、喜んでいた。
ここにあるのは、自然と折り合いをつけながら、その地域ならではの食材を作り続ける人たちへの敬意だ。また料理は本来、フジテレビ「アイアンシェフ」のように誰かと競うものではない。料理、そして食べることの楽しさも十分に伝わってくる。
(2012.12.04)
「土曜プレミアム・大型ミステリー特別企画 再会」 フジテレビ
8日にフジテレビ「土曜プレミアム・大型ミステリー特別企画 再会」が放送された。ウリは江口洋介、常盤貴子、堤真一、香川照之という“夢の共演“。もちろんそれなりの見ごたえはあった。
物語の軸となるのは、この4人が少年時代に体験したある出来事、仲間だけの秘密だ。それが27年後の事件によって明らかになっていく。原作は横関大の江戸川乱歩賞受賞作だが、小ぶりな物語でもありインパクトには欠ける。それを豪華キャストで補うつもりだったのだろう。
しかし、視聴者にすれば、常盤、香川とくれば映画「20世紀少年」。江口の風貌も豊川悦司風だ。ただでさえこのドラマには少年時代の友情やタイムカプセルといった、似たようなアイテムが登場するのに、このキャスティングはいかがなものか。救っていたのは堤である。
さらに警察官にしてDV男でもある江口の押しかけ女房風は長澤まさみ。陰で男を支え続ける女の役はまだ早そうだ。堤の新妻・相沢紗世と同様、カップルとしての“座り”の悪さばかりが目立ち、ドラマの緊張感を削いでいた。
それは警察署長役に「踊る 大捜査線」の北村総一朗を持ってきたことにも言える。こちらは内容よりフジテレビというブランドを優先した配役だが、やはりシラける。全体としてやや残念な豪華作品だった。
(2012.12.11)
「マツコの知らない世界」 TBS
ゴールデンタイムでも見かけるが、やはりこの人には深夜がよく似合う。TBS金曜深夜0時50分からの「マツコの知らない世界」のマツコ・デラックスである。
毎回、ゲストと1対1でのトーク・セッション。しかも招くのはいわゆるタレントや有名人ではなく、あるジャンルの専門家だ。マツコは不案内な“知らない世界”であればあるほど、興味津々で相手の話を聞いていく。このシンプルなコンセプトこそが番組の魅力だ。
先週登場したのはカジノディーラーだった。日本にもカジノが出来ることを見越して、8年前にカジノスクールを開校したという人物だ。すでに卒業生は400人。マツコがすかさず訊ねる。「いまだにカジノがないのに、どうすんのよ?」。
また、彼が校長を務めるカジノスクールのパンフレットを眺めて、副校長がなかなかの美女であることを発見。その瞬間、「この副校長とはデキてるんですか?」と突っ込む。相手との間合いの詰め方が抜群にうまいのだ。
今年を代表するベストセラーとなった阿川佐和子の「聞く力」を読むまでもなく、マツコには人の話を自在に引き出す力がある。それは相手に、「半端なタブーはないんだ」「本音を言ってもいいんだ」と思わせる力でもある。テレビの中で独特の自由な位置取りに成功した、頭脳派・マツコならではの聞き技だ。
(2012.12.18)
TV見るべきものは!!ドラマ大賞2012
この1年のドラマの中から独断と偏見で選んだ「TV見るべきものは!!ドラマ大賞」の発表だ。
まず第5位はテレビ朝日「ドクターX~外科医・大門未知子~」。“NOと言える女”米倉涼子のハマり具合は、「相棒」に次ぐヒットシリーズの誕生と見た。第4位は震災から1年後に放送されたテレビ東京「明日をあきらめない…がれきの中の新聞社~河北新報のいちばん長い日」。地元紙の記者たちが、戸惑い悩みながら取材する姿が印象に残った。
続く第3位はフジテレビ「リーガル・ハイ」だ。見どころは、「性格の悪いスゴ腕弁護士」堺雅人の〝怪演〟だ。「大奥」(TBS)もそうだが、難しい設定であればあるほど堺の存在感が光る。第2位はNHK「はつ恋」。自分を捨てた初恋の男と再会するのは木村佳乃だ。人妻の心と体の揺れを、情感に満ちた大人の演技で見せてくれた。
そして栄えある大賞は、TBS・WOWOW共同制作ドラマ「ダブルフェイス」である。暴力組織に潜入している刑事(西島秀俊)と、警察官でもあるヤクザ(香川照之)。特に自分を押し殺して生きる男を、役に溶け込んだかのように演じた香川が秀逸。“日本のラッセル・クロウ”と呼びたい。
というわけで、来年も1本でも多くの「見るべきドラマ」が登場することを祈りつつ、皆さん、よいお年を!
(2012.12.25)