「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る、この1年のテレビ。今回はその5月編です。
2012年 テレビは何を映してきたか (5月編)
「サラメシ」 NHK
この4月からシーズン2の放送が始まったNHK「サラメシ」。タイトルは「サラリーマンの昼飯」から来ている。ランチを通じて、働く人の“現場”と“生き方”を垣間見ようという番組で、ナレーターは中井貴一だ。
たとえば美容院のアシスタントのサラメシは、食事当番として自分が作った「おにぎり」。水加減や味付けにも気を配っているが、本人が口に出来たのは夜10時だ。あっという間に食べ終わると、閉店後の練習に取り掛かかる。修業時代の若者らしい懸命な姿だった。
また、アニメーション制作会社のサラメシは、賄いのプロによる手づくりだ。コマ撮りは根気と細心の注意を必要とする作業。人形の顔に汗が流れる一瞬の映像を作るだけで3時間はかかる。一日中スタジオに閉じこもっている職人たちにとって、全員で食卓を囲んでの温かい食事は大きな救いとなるのだ。1食250円の予算だそうだが、鱈の香草焼き、なめこと豆腐の味噌汁がうまそうだった。
この番組の巧みな点は、ランチを題材にしたこと。どんな職場にも違和感なくカメラが入っていける。中井貴一のユーモアあふれるナレーションで紹介される職場の雰囲気、仕事のプロセス、働く人たちの表情、そして彼らを支えるサラメシ。情報バラエティー番組の体裁ながら、優れたドキュメンタリーになっている。
(2012.05.02)
「Wの悲劇」 テレビ朝日
武井咲主演の「Wの悲劇」(テレビ朝日)。原作は夏樹静子だ。一般には薬師丸ひろ子主演の映画が広く知られている。実は何度かドラマ化もされており、松本伊代、大河内奈々子、谷村美月などが主演を務めた。ただ、いずれも単発ドラマ。連ドラは今回が初めてだ。
物語の展開はシンプル。資産家の令嬢・摩子と野良犬のように生きてきた少女・さつきが出会い、2人は姿かたちがそっくりなことを利用して、互いの人生を交換してみる。だが、憧れていたダンサーを目指す摩子は先輩たちのいじめに遭い、さつきはドロドロの財産争いに巻き込まれていく。
武井咲はこの摩子とさつきの両方を演じている。相当高いハードルだが、このドラマ自体が“期待の新人女優”武井のための養成講座だと思えばいい。何しろ2役だから、連ドラ2本分の修業だ。修業を支える体制も万全である。摩子をいじめる先輩ダンサーは、ドラマ「ライフ」のいじめっ子役が評判だった福田沙紀。また色と欲に執着する資産家を演じるのは寺田農。ギラギラした脂っこさを持った老人が武井咲の膝に触れる場面などまさにトリハダ物だ。
現在、武井はNHK大河「平清盛」にも出演している。絶世の美女とうたわれた常盤御前はお似合いだが、武井のリアル成長物語としてこのドラマも見逃せない。
(2012.05.08)
「たぶらかし~代行女優業・マキ」 テレビ朝日
21歳にしてキャリア10年の女優、谷村美月が勝負に出た。民放連ドラ初主演となる「たぶらかし~代行女優業・マキ」(日本テレビ)。舞台や映画ではなく、現実の世界で〝誰か〟になりすます「代行女優」という珍しい役柄である。所属劇団が解散し、借金の返済に追われるマキ(谷村)は、「女優求む、時給3万円」のビラにつられてこの稼業に飛び込む。様々な事情を抱える人たちからの依頼で、ある時は自殺した女流画家の〝死体〟を演じ、またある時は女性実業家に化けたりする。
先週はイギリスから帰国した女性ピアニストの〝代行〟を務めていた。さすがにピアノの実演こそなかったが、毎回異なる女性像を演じ分けるのは難易度が高い。谷村はよくやっている。
またこれまでにない大胆な衣装や、きわどいシーンにも挑戦。敢えて難を言うなら、30分1話完結の形式のため、消化不良を起こすことがある。視聴者が谷村の〝たぶらかし〟に十分馴染まないうちにドラマが終わってしまうのだ。
とはいえ、ついこの間まで女子中高生にしか見えなかった谷村が、堂々と大人の女性を演じていることに拍手だ。脇を固める段田安則や山本耕史も、〝座長〟の谷村をしっかりと支えている。深夜ということもあり平均視聴率は3%台だが、大量の刑事物に飽きた人には絶好の避難所だ。
(2012.05.16)
「家族になろう(よ)」 テレビ東京
テレビ東京の「ちょこっとイイコト」がリニューアルされ、今年4月にスタートした「家族になろう(よ)」。司会は引き続き岡村隆史とほんこんだ。メーンコーナーは「一泊家族宿」。独身芸能人が一般家庭にお邪魔して、いわば“疑似家族”体験をする。それによって結婚への意識を高めようというのが狙いだ。
先週は岡村隆史自身が、69歳の夫と40歳の妻、さらに5男1女の子供たちが暮らす家庭に一泊した。いわゆる“大家族物”は各局で作られているが、あまりに子供が多い家庭を見ていると、微笑ましい半面、親が十分にその責任を果たせるのか心配になることがある。
しかし、今回登場した子供たちは皆きちんと挨拶が出来るし、父親の養蜂業も手伝う。中でも13歳の長男が祖父と間違われそうな父親のことを、「土日も働くのは偉い。友達もカッコイイと言っている」と素直に語るのを聞いてうれしくなった。
また岡村も無理に笑わせたりはせず、親戚のおじさんのような自然体。変にテレビ的な仕掛けがないのも好感がもてる。
一緒に食卓を囲み、布団を並べて眠り、時には拳骨が飛ぶケンカもする子供たち。厳しくて優しい両親。そんな「家族のありがたみ」を独身の岡村を介して伝えた企画力が光る。家族の大切さが再認識される時代ならではのバラエティーだ。
(2012.05.22)
「都市伝説の女」 テレビ朝日
こんなに生き生きした長澤まさみを見るのは久しぶりではないか。テレビ朝日の連ドラ「都市伝説の女」である。タイトルに「都市伝説」とついているが、正面から扱うわけではない。どんな事件も無理やり都市伝説と関連付けたがる困った女刑事の話だ。
この少し変わった設定のおかげで、ありがちな刑事ドラマに民俗学、超常現象、オカルトといったプラスアルファの要素が加わった。初回の平将門・首塚伝説に始まり、ドッペルゲンガー(もうひとりの自分)、高尾山の天狗、国会議事堂の開かずの間、先週は「座敷わらし」が登場。ストーリーを大いに盛り上げている。
もっとも、最大の見どころは、ちょっと天然なヒロインを体当たりで演じている長澤だ。何しろ地上波で主役を張るのは、3年前のTBS「日曜劇場・ぼくの妹」以来。その意気込みは長い足が映えるショートパンツ姿にも現れている。
これは、ついに美脚という〝資産〟の運用に打って出たと言うべきだ。堀北真希、綾瀬はるから同世代のライバルたちに水をあけられている現状を打破するためだろう。この美脚を眺めるだけでも当ドラマを見る価値は十分にある。
また長澤の上司役は竹中直人だが、このコンビの抜群の相性は昨年のNHK「探偵Xからの挑戦状!」で実験済み。竹中は今回も〝コメディエンヌ・長澤〟を余裕で支えている。
(2012.05.29)