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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

名古屋といえば、SKE!?

2012年12月28日 | テレビ・ラジオ・メディア

今回の名古屋は、高校生の息子と2人旅です。

ずっとSKE48のファンである彼は、年内最後の公演のチケットを、
抽選で奇跡的に入手。




地下鉄の栄駅、8番出口から外へ出ると、まんまSKE劇場のある
SUNSHINE SAKAEだ。





「祝 SKE48 NHK紅白歌合戦 単独出場!」の垂れ幕。

この「単独出場!」の文字に込めた思いが泣かせる(笑)。

やはり、地元ですから。




2012年 こんな本を読んできた (9月編)

2012年12月28日 | 書評した本 2010年~14年

「週刊新潮」の書評ページのために書いてきた文章で振り返る、この1年に読んだ本たちです。


2012年 こんな本を読んできた(9月編)
遠藤武文 『天命の扉』 
角川書店 1785円

乱歩賞作品『プリズン・トリック』の著者による、社会派密室ミステリーだ。

長野の県会議員が狙撃されて死亡する。現場は県議会場という密室。突然起きた停電の最中だった。また被害者の上着のポケットから短歌が書かれた紙片が見つかる。そこには「善光寺」「恨み」などの文字があり、県警捜査一課の城取は自分が逮捕し、後に死刑となった竹内という殺人犯のことを思い浮かべる。

当時、竹内は裁判で無実を訴え、アリバイとして「俺は善光寺の本尊を盗んでいた」と説明した。だが本尊は絶対秘仏であり非公開。住職でさえ見たことがなく、竹内の主張は検証されなかった。城取は県議殺害と竹内との関連を調べ始める。

事件の直前、県知事・諏訪部大樹のツイッターにも同じ短歌が書き込まれていた。深く気にしなかった諏訪部だが、自分のすぐ近くにいた人間が射殺されたことで短歌の意味を考える。すると今度は「いろは歌」が印字されたFAXが届く。それは明らかに冤罪を訴えるメッセージだった。

19年前に起きた冤罪疑惑事件と密室殺人。2つの謎を提示した上で、著者は鮮やかな手並みで読者を物語世界に誘導していく。知事と刑事。2人の男の生き方も深い印象を残す。
(2012.07.30発行)


清水勉・桐山桂一 『「マイナンバー法」を問う』 
岩波ブックレット 525円

今年2月、政府が衆議院に提出した「共通番号制法案」。国がすべての国民と定住外国人に生涯不変の番号をつけ、個人データのマッチングを容易にしようというものだ。本書では弁護士と新聞解説委員による反対論が展開されている。

政府が説明するこの制度の目的は、①公平な税制の実現、②真に必要としている人への社会保障の提供。そのために正確な所得を把握する必要があり、社会保障と税に共通する個人識別番号が有効と言うのだ。

しかし、実際には番号制を採用しても「正確な所得把握はできない」と著者。自営業者の個人的消費と事業用の区別は困難で、それをチェックする税務署職員も足りない。また「真に手を差し伸べるべき者」がどのような人たちで、いかなる「給付」を保障するのかも定かではない。それどころか法案の目的規定には、公平な税制の実現も社会保障の充実も書かれていない。つまり法律の運用がどのような方向へ進むのかは不明なのだ。

その上、プライバシー保護への配慮は実に不十分。他人に見せることが前提の個人識別番号であり、「なりすまし」も生みやすい。便利・迅速と引き換えの多くの危険性を本書は明らかにしている。
(2012.08.07発行)


佐藤 優 『読書の技法』 
東洋経済新報社 1575円

副題は、誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門。膨大な読書量を支える技と大人の学び方を伝授している。中でも高校の教科書・参考書を活用した基礎知識獲得法はすぐにも実践可能だ。根底にあるのは「人生の時間は有限」という強い覚悟である。
(2012.08.07発行)


福田和代 『ZONE(ゾーン)~豊洲署刑事・岩倉梓』 
角川春樹事務所 1785円

かつては「埋立地に工場と倉庫が並ぶ町」だった東京江東区豊洲。大規模な再開発で、今や高級住宅街と化している。そんな古さと新しさの混在する地域を舞台に、生活安全課に所属する女性刑事の活躍を描く。普通の女性が追う“日常的事件”は警察小説の新機軸だ。
(2012.08.07発行)


土橋 正 『文具上手』 
東京書籍 1575円

新聞記者が愛用するB5サイズノート。空間デザイナーが頼りにするペンと紙。文具販売のプロが使っている万年筆。12人の仕事師が登場し、その文具術を開陳する。共通するのは「こだわらないというこだわり」。文具は仕事の武器ではなく、親しい友人だとわかる。
(2012.08.03発行)



朝倉かすみ 『幸福な日々があります』 
集英社 1470円

不思議な味わいの長編小説だ。ここにはヒロインである「わたし」が2人いる。結婚したばかりの幸福な時代の「わたし」と、夫と別れようとしている10年後の「わたし」が交互に登場するのだ。

森子は46歳の専業主婦。3つ年上の夫は大学教授だ。見た目も穏やかな性格も、森子を大
事にする気持ちにも文句はないはずだった。しかし、森子は突然宣言してしまう。親友と
してはすごく好きだが、「夫としてはたぶんもう好きじゃないんだよね」と。離婚に応じよ
うとしない夫を家に残し、ひとり暮しを始める。

10年前に結婚した時も言いだしたのは森子のほうだ。どこか安心したかったからだが、望み通りの生活に入ってからも時々心が揺れた。たとえば夫は何でも習慣化する。森子は単純作業は好きだが習慣は苦手だ。「しなければならない」という雰囲気、ルールめいた感じが窮屈なのだ。他人には贅沢と思われそうだが、森子は誰にも言わなかった。

物語は10年を行ったり来たりしながら、ゆっくりと進んでいく。連載時のタイトルは「十年日記」であり、心の動きがまさしく詳細に書き込まれている。人はなぜ人を好きになり、なぜそうではなくなっていくのか。夫婦の深層にじわりと迫る。
(2012.08.10発行)


孫崎 享 『戦後史の正体 1945-2012』 
創元社 1575円

本書の主旨は極めて明快。戦後の日本は、常に存在する米国からの圧力に対して、「自主」路線と「対米追随」路線の間で揺れ動いてきたというのだ。しかも著者は外務省国際情報局長や駐イラン大使を歴任した、日本外交の内幕を知る男だ。政治家や官僚がすべて実名で登場する刺激的な一冊となっている。

記述は編年体であり、敗戦・占領の時代から始まる。この頃は吉田茂の「対米追随」路線と、重光葵の「自主」路線が激しく対立した。重光は当然のごとく追放。また自主路線派だった芦田均もわずか7カ月で首相の座を追われた。

そして冷戦の開始、朝鮮戦争の勃発により、米国の対日政策が変化する。日本に経済力をつけさせ、その軍事力も利用しようと図る。やがて安保条約が結ばれたが、それはひたすら米国側に都合のいい内容だった。講和条約は安保条約成立のためであり、その安保条約は米軍を日本に駐留させる行政協定を結ぶために必要だったのだ。

「日本の最大の悲劇は、占領期の首相(吉田茂)が独立後も居座り、占領期と同じ姿勢で米国に接したことにある」と著者は言う。その後の日本がいかに敷かれたレールを走ってきたかが、はっきりとわかる。
(2012.08.10発行)


布施鋼治 『東京12チャンネル運動部の情熱』 
集英社 1575円

東京12チャンネルは現在のテレビ東京。かつては「番外地」などと揶揄される弱小放送局だった。その運動部で、ローラーゲーム、女子プロレス、キックボクシングなど、スポーツ放送の地平を切り開く仕事に取り組んだ男たちがいた。智恵と汗が光る放送史だ。
(2012.07.31発行)


ニュース企画:編集 『テレビ60年 in TVガイド』 
東京ニュース通信社 7500円

来年、放送開始から60年を迎える日本のテレビ。A4サイズで1.7㌔の重さをもつ本書は、老舗テレビ雑誌の特集記事と写真の集大成だ。懐かしい番組はもちろん、各時代の世相・流行・風俗にも言及。「テレビは何を映してきたか」を伝える、貴重な資料となっている。
(2012.08. 08発行)


三浦しをん 『お友だちからお願いします』 
大和書房 1470円

辞書編纂の世界を描いた小説『舟を編む』で本屋大賞を受賞した著者の最新エッセイ集だ。一人暮しの中での発見。電車で聞いた会話。両親や祖母とのエピソード。本人の言う「ゆるーい日常」が独自の視点と軽妙な文体で綴られている。苦笑い必至の“しおんワールド”。
(2012.08.20発行)


清水良典 『あらゆる小説は模倣である。』 
幻冬舎新書

著者は『2週間で小説を書く!』の著書もある文芸評論家。本書は類を見ないほど過激な小説論である。何しろ「巧みな模倣」を伝授しようと言うのだから。

著者は小説における模倣を3つに分類する。①自分の独創だと思い込んだ無知な模倣。②他の作品をなぞったことを見破られる下手な模倣。③元の作品を土台に別個の作品を仕上げる巧みな模倣。

その上で、小説をオリジナリティの呪縛から解き放とうとするのだ。いわく、「あらゆる小説は、何ものかからの模倣あるいはパクリである」。果たして単なる逆説なのか。
(2012.08.20発行)



小林信彦 『四重奏 カルテット』 
幻戯書房 2100円

1950年代末から60年代の初頭、まだ推理小説が軽視されていた時代。江戸川乱歩は推理小説誌「宝石」の編集に自ら携わるだけでなく、さらに新雑誌まで生み出そうとしていた。それが「ヒッチコック・マガジン」であり、創刊編集長に抜擢されたのが当時まだ26歳の著者である。

本書は事実に基づいた4つの中編小説で構成されている。「半巨人の肖像」で描かれる作家・氷川鬼道のモデルは晩年の江戸川乱歩。著者と重なる主人公の今野が目にするのは、創作活動とは勝手の違う、出版というビジネスに悪戦苦闘する老大家の姿だ。

「男たちの輪」は、本書の中で最も私小説的色合いの濃い問題作である。居心地の悪さを自覚しながら、厳しい予算と人材で新雑誌を切り盛りする今野。仕事上のつながりを持つ編集者や翻訳家とのやりとりにも神経を使う日々だ。やがて今野への裏切りであり侮辱でもある事件が起きる。小説とはいえ、もちろんモデルは実在しており、読む者は思わず息をのむ。しかし、ここには自らも含めた人間の性(さが)や業を描こうとする著者の覚悟がある。

残りの2編を合わせたカルテットの響きは、江戸川乱歩という希有な才能とその時代へのレクイエムだ。
(2012.08.28発行)


天野祐吉:編 『クリエイターズ・トーク~13人のクリエイティブ講義』 
青幻舎 1575円

元「広告批評」編集長で現在はコラムニストの天野祐吉が聞く、クリエイティブ業界最前線。時代を映し、社会を動かす広告はいかに生み出されるのか。13人のトップランナーたちがその秘密を明かしている。

「前提を疑う」ことから始めると言うのはユニクロなどを手がける佐藤可士和だ。テレビや新聞といったマスコミ4媒体に限らず、環境を含めあらゆるものをメディアにしてしまう。常に相対的にものを見ており、絶対化しない。またタワーレコードの「NO MUSIC,NO LIFE」などで知られる箭内道彦は、CMと番組の垣根を揺さぶるだけでなく、CMの型そのものを壊そうと試みる。天野がそこに見るのはジャーナリズム精神だ。

中央酪農会議のキャンペーン「牛乳に相談だ。」は瀧本嘉光の代表作のひとつ。中高生の牛乳離れを懸念しての取り組みであり、クリエイターが企業のコンサルタント役であることを実証した1本だ。そこでは「企業語」を「生活語」へと翻訳する作業が行われている。

他にもコピーライターの大御所・大貫卓也(日清カップヌードル「マンモス」篇)や、ベテランCMディレクターの中島信也(サントリー「伊右衛門」)などが並ぶ。広告に学ぶ発想と方法の教科書である。
(2012.08.01発行)


片岡義男 『洋食屋から歩いて5分』 
東京書籍 1365円

この数年間に書かれたエッセイが33編。若い頃、原稿書きで長居した神保町の喫茶店。当時働いていた女性との再会はまるで掌編小説のようだ。かつて、「お前、小説を書けよ」と著者の背中を押してくれたコミさんこと田中小実昌も登場する。珈琲の香り漂う一冊だ。
(2012.08.01発行)


木村英昭 『検証福島原発事故 官邸の100時間』 
岩波書店 1890円

朝日新聞連載「プロメテウスの罠」の中で、特に衝撃的だった「官邸の5日間」。それに加筆し書き下ろしたのが本書である。密室内の出来事を可能な限り実名で描き出している。浮き彫りになるのは危機管理を担う人とシステムの脆弱さだ。原発再稼働の今こそ必読。
(2012.08.07発行)


森永博志 『自由でいるための仕事術』 
本の雑誌社 1680円

働き方とは生き方でもある。また就職と就社はイコールではない。本書に登場するのは看板制作、宮大工など12人の職人だ。組織や誰かに縛られることなく、自分の手足を使い、夢中になれる仕事をしている。彼らが語る言葉は自然で、どこか自由な風が吹いている。
(2012.08.25発行)


工藤美代子 『絢爛たる悪運 岸信介伝』 
幻冬舎 1785円

1960年、南平台の自邸に押しかけた「安保反対」のデモ隊を、道路から奥まった縁側で、5歳の孫を抱きながら眺めている首相。それが岸信介であり、孫はもちろん安倍晋三だ。本書は「妖怪」「巨魁」「国粋主義者」と呼ばれてきた稀代の政治家の軌跡と、その実像に迫る長編ノンフィクションである。

本書で描かれる岸の人生を追っていくと、昭和期前半という時代の流れと一人の官僚の歩みが、あまりに呼応していることに驚かされる。そこには的確な状況判断と、タイミングを計る天性の才が見える。

特に岸が取り組んだ「計画経済による満州経営」の内実は興味深い。いわゆる統制経済が、見方によって右翼にも左翼にもなることがわかるからだ。またこの両面性は岸自身にも通じている。右と左、柔と剛、繊細と豪胆など、相反する要素を併せ持つ政治家だった。岸においては「右翼的でタカ派の代表格」といったレッテルや、ステレオタイプな尺度など無意味だと著者は見る。

「場合によっては動機が悪くても結果がよければいいんだと思う。これが政治の本質じゃないかと思うんです」とは岸の言葉だ。彼が生み出した“結果”の延長上に、今もこの国はある。
(2012.09.10発行)



冲方 丁 『光圀伝』 
角川書店 1995円

『天地明察』の著者による時代小説第二弾。誰もが知る「水戸黄門」ではなく、知られざる水戸光圀の生涯を描いた力作長編である。

物語は光圀が家老・藤井紋太夫を殺害する場面から始まる。その理由が波乱に富んだ73年の軌跡をたどることで見えてくる仕掛けだ。水戸徳川家の三男として生まれながら、父・頼房によって世子(跡継ぎ)と決められる。「お試し」と呼ばれる苛烈な試練を課す父。本来は藩主となるはずの強くて聡明な兄。少年は2人の男の影響下で成長する。

青年となり、傾奇者として喧嘩や夜遊びなど奔放な生活を送る光圀。そんな中、晩年の宮本武蔵と運命的な出会いを果たす。詩歌や学問に目覚め、猛烈な勢いで知識を吸収しながらも、常に「なぜ自分が世子か」を問い続けた。

その後、親しい者たちに先立たれた光圀は歴史書の編纂に尽力する。「どれほどのものが失われ、奪われようとも、人がこの世にいたという事実は永劫不滅だ! それが、それこそが、史書の意義なのだ!」という叫びは、「この世は決して、無ではない」ことを知った喜びの声でもあった。自らの「不義」と格闘を続け、やがて「大義」に殉じようとする男の人生は、読む者にとっても発見である。
(2012.08.25発行)


スタンリー・バックサル、ベルナール・コマーン:編  井上篤夫:訳
『マリリン・モンロー 魂のかけら~残された自筆メモ・詩・手紙』
 
青幻舎 2310円  

「私にはちゃんと感情がある」。手帳に記された走り書きの文字は本人のものだ。女優としての自分と素顔の自分。その落差を埋めるかのような言葉には、他人を意識しない生々しさがある。演出家の元に保存されていた遺品の中から、没後50年にして初公開された心の声。
(2012.10.01発行)


長谷川晶一 『私がアイドルだった頃』 
草思社 1890円

元アイドルたちの「今だから言える」インタビュー集。語るのは少女隊の安原麗子、セイントフォーの濱田のり子、元祖チャイドルの吉野紗香など13人だ。不幸のデパートのような生い立ち。人格無視の現場。壮絶ないじめ。そんな体験も大切にする彼女たちが眩しい。
(2012.08.31発行)                                                                                                                               

石井光太:編 
『ノンフィクション新世紀~世界を変える、現実を書く。』
 
河出書房新社 1680円

ノンフィクションの現在を知る格好のガイドブックだ。森達也、高木徹らによる連続講座。柳田邦男や鎌田慧などが選ぶベスト30。さらに田原総一朗、猪瀬直樹へのインタビューも並ぶ。事実の奥に潜む真実をいかにして掘り起こすか。ペンの力、活字の力は侮れない。
(2012.08.30発行)


小熊英二 『社会を変えるには』 
講談社現代新書 1365円

今、この国はどこにいるのか。なぜそうなったのか。これからどうしていったらいいのか。本書はそんな切実な「問い」に対する「答え」ではない。それを考えたり討論するための「たたき台」だと著者は言う。であるなら、最良のテキストブックの一つである。

まず戦後の歩みを確認した上で、社会運動を歴史的・思想的に解説していく。さらに民主主義や自由主義の価値や限界を考え、「社会を変える」ことがいかにすれば可能かを探るのだ。運動を人間の表現行為、社会を作る行為として捉える視点が多くの示唆に富む。
(2012.08.20発行)