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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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東野圭吾さんの新刊『パラドックス13』の”力業”

2009年05月22日 | 本・新聞・雑誌・活字
東野圭吾さんの新刊『パラドックス13』を読んだ。

タイトルは“数学的矛盾”を軸としたミステリーを思わせる。

でも、違うんですねえ。

何と、著者初の“パニックサバイバル小説”なのだ。

突然、10数人だけが「想像を絶する世界」へと投げ込まれる。そこは東京のはずだが、本来の東京ではない。

強烈な連続地震と豪雨で建物は崩壊し、道路は陥没。

街全体が廃墟だった。

何よりの恐怖は「自分たちしかいない」という事実だ。救ってくれるはずの政府やシステムも存在しない。

“何か”が起きたことは確かだが、それを解明するより生き抜くことが先決となる。警察官だった兄弟を中心に生存者たちの戦いが続く。

荒れ狂う自然。電気や水道は使えず、食料の確保も困難だ。

それに、これがまた怖いのだが、“元の世界”では当然の価値観や倫理が全く通用しないのだ。

極限状態の中で、人間の本能や欲望が剥き出しになっていく・・・。

やがて彼らは“究極の選択”を迫られる。

だが、何をもってその判断を下すのか。読者もまた、「自分なら?」と問いかけずにはいられない。


こういう世界を、VFX映像とかではなく、言葉で、文章で構築するのは、やはり”力業”だと思う。

それにしても、東野さんは、なぜこうした小説を書いたんだろう。

日常を日常として意識もせず、当たり前のように暮らしている我々を、ぎりぎりの状態に置くことで、”人間の本性”を踏まえた上での、生きるとか、命といったものを、問いたかったのかもしれない。


パラドックス13
東野 圭吾
毎日新聞社

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