明日元気になれ。―part2

毎日いろいろあるけれど、とりあえずご飯と酒がおいしけりゃ、
明日もなんとかなるんじゃないか?

16年

2009-02-27 22:22:57 | 友達
髪の毛から線香の匂いがして、なんだか変な感じがした。
それが一瞬、自分から香っているとは気付かなかった。
でも、すぐに「ああ、そうか」と思い返し、
その匂いをなんだか淋しい思いで吸い込んだ。

つい先日、小学校からの親友のお父さんが亡くなられた。
今日は共通の友人であるふみこと二人で、お線香をあげさせてもらった。
お供え用にお花を持って、少々の額を包んで。

予想に反して、親友もおばちゃんも明るく元気だった。
快く迎え入れてくれた。
その笑顔と、拍子抜けするくらいの明るさに、ほっとした。

遺影の中のお父さんは、とてもいい表情で笑っていた。
合成であろう、バックの青空も自然なほどに。

おばちゃんはよくしゃべって、よく笑った。
安心すると同時に、ああ、これが「覚悟のできていた人」の姿なんだろうなぁと思った。
長い長い、16年にもわたる闘病生活。
おそらくこの16年、生活のほぼすべてが看護だった。
心をすり減らし、体力を使い果たし、泣いた夜も数え切れないほどあったのだろうと想像する。

強い人だ、といつも思ってきた。
献身的な看護の様子を聞くたびに、愛の深い人だ、とも思ってきた。

今、どんな気持ちなんですか?なんて、そんな不躾なことは聞けなかったけれど、
でも、きっと後悔はないんだろうなぁと思う。
いや、どんなに尽くしても尽くしても、やはりどこか後悔はあるものなのだろうか?
深すぎて、私にはまだよくわからない。

久しぶりに訪れた、親友の家。
以前とは全く変わってしまっていたけれど、
リビングに一つだけ変わらないものを見つけた。
古い本がたくさん詰まった本棚。

高校の頃、あの本棚から何冊か借りたことがあった。
亡くなられたお父さんの本だ。
昔と変わらない、古びた背表紙が懐かしかった。
もう少し時間があれば見せてもらいたかったけれど、
帰りにあいさつをしながら、目の端でそれを眺めていた。

今日は、そこに行くまで、うちでふみことゆっくりしゃべっていて、
久しぶりだったからとても楽しかったのだけど、
一人で家に帰ってから、なんだかずっとしんみりとしている。
二人とも明るく元気だったし、安心したはずなのに。

自分の髪の毛についた線香の匂いを嗅いだら、
よけいに淋しい気持ちになってしまった。

こういう淋しさって、昔の自分みたいだ。
もうすっかり忘れていた「淋しい」という感覚を、思い出した。
人の死に触れると、こんなふうに忘れていた感性が甦るのか。
触れていた時間は、決して淋しいものではなく、
むしろ明るいものだったのに。

あの頃の「淋しかった自分」が現れて、
その頃書いた小説の一節までもが甦ってきた。

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