明日元気になれ。―part2

毎日いろいろあるけれど、とりあえずご飯と酒がおいしけりゃ、
明日もなんとかなるんじゃないか?

ぎくしゃくみっともなく生きていく

2008-06-30 02:09:59 | 想い
今のぐだぐだのホームページになる前の、充実していた時の私のホームページには、本を紹介するページがかなりあった。
もう7年くらい前の話だ。
今もテキストで残しているのだが、佐藤多佳子の「しゃべれどもしゃべれども」のレビューが、今読むとなかなか良い。

今日、ある人のブログを読んでいたら、本のタイトルなどには触れられていなかったのだが、抜き出しているセリフが自分と同じ箇所だったので、1行で「しゃべれども~」だとわかった。
決して短くない小説の中で、抜き出したセリフが同じだったことに、戸惑いと嬉しさを感じた。

このブログの主というのは、夫の友達で、まだ3回しか会ったことがない。
でも、初めてゆっくりしゃべったときに、なぜか旧友に会ったような気持ちになったけど、なんとなくそのわけがわかった気がした。

以下、私のレビューをそのまま。

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『しゃべれども しゃべれども』佐藤 多佳子(新潮文庫)

★あらすじ
まだ若い噺家の今昔亭三つ葉。噺家としてはまだまだで、現在二ツ目。
短気で頑固だけれど、バカがつくほど正直でお人好し。
そんな三つ葉の従兄でテニスコーチの綾丸良は、子供の頃から吃音で、治っていたはずなのにまたうまくしゃべれなくなっていた。
無理やり頼まれ仕方なく、良の「しゃべりの先生」を引きうけることになった三つ葉だが、偶然、十河という女性と村林という小学生、それに元プロ野球選手の湯河原の3人が加わり、なんだかおかしな「落語教室」が始まった。
良をはじめとする4人は、それぞれ「しゃべる」ということの悩みを抱えている。また、他人とのコミュニケーションのとり方も下手くそだ。
そんなやっかいな連中の相手をしなければならなくなった三つ葉は、最初は本当に嫌々落語を教えている。しかし、根っからのお人よしのため、あれこれ世話を焼いているうち、4人に対して妙な親愛の情がわいてきて……。

★読んでみて
9月はいろいろと仕事で読まなければならない本があったのだが、他にどんな好きな本を読んだとしても、今月の1冊にはこの作品を挙げただろうと思う。
ネットで知り合った本間さんからのおすすめだったのだが、これは結構すごかった。
久しぶりの衝撃的な感動である。
「たまらん本」のリストに加えなくてはならない。

ストーリーは、噺家の三つ葉のところにひょんなことから4人の変わり者が集まってきて、落語を習うことから始まるのだが、とにかく三つ葉という主人公のキャラクターがいい。
読んでいて、「あーあ……」と止めたくなるほどバカ正直で、お人好し。歯切れのいい文体で、「俺」と、三つ葉の視点から書かれているので、彼の裏のない性格、考え方、行動に知らず知らずのうちにのめり込んでいる。
また、「しゃべる」ということに何らかの悩みを抱えている4人のキャラもかなり濃い。濃いうえにバラバラときている。最初はその気まずさにこちらまでひやひやする。
しかし、誰も憎めないし、このコミュニケーションの下手さは、純粋であるが故の不器用さなのだと気付くと、なんだかかわいらしくも見えてくるから不思議だ。

そして、少しだけ含まれている「ラブストーリー」。これがまた、なんとも不器用で純粋で、高校生の恋愛を思い出した時のように、少しノスタルジックな気持ちにさせてくれる。
ラストシーンは、どんな情熱的な恋愛ものよりも、心がしめつけられ、ホロリときてしまった。けれど、この「しめつけ」は決してせつない、苦しい感じではないのだ。なんというのか、寒い中、ずっと歩いていて、一杯の温かい紅茶を差し出されたときのように、ほっこりと心にしみいる優しく温かい「しめつけ」なのだ。

この物語は、「涙があふれる感動!」でもなければ、「興奮が止まらない冒険!」でもない。設定こそ変わっているが、日常のありふれたような平凡な物語である。
けれど、人物がそれぞれ一生懸命生きていて、三つ葉が相手のことを必死に思って動く姿からは何とも言えない心地よさを感じる。読み終わった後、ほぅっとため息をつきながら、自分の表情が優しくなっているのに気付く。そんな物語なのだ。
「読んだ人の心をあったかくする物語」そんな素敵な小説は世の中にそうそうない。
だからこそ、この「しゃべれども しゃべれども」は価値がある1冊なのではないだろうか。
「最近、いい本を読んでいない」
「なんだか心がギスギスする……」
そんな人に是非読んでもらいたいと思う。まだまだこんな素晴らしい本はあるし、人ってそれほど悪くない。優しいものなんだと感じられると思う。

★今月の名セリフ

「自信って、一体なんだろうな。
自分の能力が評価される、自分の人柄が愛される、自分の立場が誇れる、
そういうことだが、それより、何より、肝心なのは、
自分で自分を”良し”と納得することかもしれない。
”良し”の度が過ぎると、ナルシシズムに陥り、
”良し”が足りないとコンプレックスにさいなまれる。
だが、そんなに適量に配合された人間がいるわけがなく、
たいていうはうぬぼれたり、いじけたり、
ぎくしゃくとみっともなく日々を生きている。」

このセリフはとてもいい。とても”人間”というものをよく表しているし、この物語に流れるテーマをも伝えていると思う。
自分で自分を”良し”とすること……。簡単なようで、難しいことだ。
もちろん私もうぬぼれたり、いじけたりして、みっともなく生きてる。
でも、それが「人間」というものであり、そんな人間だから、愛しいのだ。
そして、そんな人たちが集まって、なんやかやとぶつかったり、慰めあったりしながら生きていく……。
それはみっともないけど、素敵なことでもないか?
               
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毎月1冊本を選んで紹介していた。
その中で、いつも「今月の名ゼリフ」というコーナーを作っていた。

昔は本当に「しっかりと」文章を書いていたなぁ。
そのある人物のブログで、「あ、これって……」とすぐに気付いて、古いファイルの中から探して読んでみたのだが、昔の自分の文章って好きだ。

やっぱりちゃんと文章を書いていかないとダメだなぁと反省。

そして、このブログの主になんだか伝えたくなった。
きっとこれを読んでくれていると思うので。

ぎくしゃくみっともなく生きていくのって、
案外素敵なことかもしれないね。

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2 コメント

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ぎくしゃくみっともなく… (ぁゃ)
2008-07-09 17:58:59
いいね…!
元気付けられます。
かおりちゃんのブックレビュー(?)大好きでした。お酒や音楽の話も、かなり飲んでみたり、聴いてみたくなるんだけど、かおりちゃんが紹介する本についての文にはかなり心動かされます。また、『たまらん』本の紹介楽しみにしてます。
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たまらん本 (かおり)
2008-07-10 00:55:23
「たまらん本」のレビューは自分でも結構いいと思うわ(笑)
……というか、後で読み返せるような(残しておけるような)文章をちゃんと書いていかないといけないなと感じています。
また書かないとね!

いつもありがとう。
ぁゃちゃんもお酒が飲めればね~(笑)
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