■■■■■■■■■凄絶,日本の戦後■■■■■■■■■
■■「日本の敗戦」
🔵戦後78年にあたる。かねてから触れてきたが,戦争の語り部で
ある戦争体験世代の人達が,既に90歳を超え,全人口の2%を切る
に及んで,敗戦当時の記実や記憶が,遠い昔の幻と化してしまいそ
うで心もとない。
そんな時代状況の中で,今回のウクライナ戦争の勃発は,平和憲法
があれば, 自国防衛が出来ると信じてきた平和ボケの日本人にと
って, まさに晴天の霹靂であったに違いない。
私達の日本は, 私たち日本人で守るべきとの 戦争体験世代の正論
が, ようやく日本国民の心に届いたといっていい。
筆者は,先の大戦の体験世代でもあり、毎年8月の終戦記念月には
・戦争の愚かさ,
・馬鹿馬鹿しさ,
・非人道さ
について、様々な視点から訴え続けてきた。
ただいくら負け戦とは言え,勝者が絶対正しいとは言えない 一面
もある。人の喧嘩同様,両者にそれぞれの言い分があり, ときに勝
者が不条理にも不利を背負うことになりかねない側面もある。
また旧くからの「喧嘩両成敗」という考え方もある。
🔵太平洋戦争の足跡
🔵出所:JIJI通信
戦後の平和思考, いわゆる勝負(戦争)をよしとしないと考えで生
れた国際連合のような平和調停活動は, いまや世界の良識となり
つつある。しかし最近では,大国の覇権による 世界を分断する流
れが生じ,世界の国々を包括する連合機関でさえ,平和への合意が
できないという悲しい現実がある。
⬛️⬛️「敗戦直後の日本」
・78年前の8月,広島と長崎に原子爆弾が投下された。
・全国主要都市への大空襲が続いた。
(出典:JIJI通信)
1945年8月15日, 無条件降伏勧告のボツダム宣言受諾を知らせる
天皇の玉音放送で,4年に及ぶ太平洋戦争は終結する。
🔵日本の戦後は,GHQ(連合国軍総司令部)の米軍統治により ス
タートを切った。最高司令官のマッカーサー元帥は, 日本軍の解
体や,軍事産業の解散などを指示し,日本国の民主化に着手する。
(出典:JIJI通信)
しかし戦後の日本経済は,極度に疲弊し,鉱工業生産は平時の2割
に落ち込む。そして年率100%を超える悪性インフレが, 日本全
土に襲いかかる。
都会地は,極度の食糧不足に襲われる。食べるものがない。食糧
を手に入れるため,物々交換の箪笥の晴れ着を 手にした男達は、
競って田舎の農家をめざしたという。
🔵太平洋戦争、海外引き揚げ者の内訳
(出典:厚生省)
🔵終戦時を海外で迎えた軍人や軍属や民間人など 在外邦人の生
存者630万人が, 引き揚げ船で佐世保や舞鶴など全国の港に続々
と復員してきた。
港の埠頭のスピーカーからは、田端義夫の「かえり船」がながれ,
出迎えの人たちの感涙を誘った。
一方,東京上野駅の地下道は,東京空襲で焼け出された人たちや,家
のない海外からの引き揚げ者で埋まった。
戦後すぐの都会の焼け跡には、早くも露天(ブラックマーケット)
が現れ,売物のおでんや芋などに,腹ペコの市民が列をなしたとい
う。政府の米の配給は,遅配や欠配が続出する。
47年(昭和22年)には,東京地裁の裁判官,山口判事が極度の飢えで,
不遇の死を遂げるという悲劇が起きる。
🔵戦後の国民にとって,食糧不足の不安もさることながら,更なる
不安は, 敗戦直後から猛威を振い続ける 悪性インフレだった。
戦後物価は,
・45年8月から11月の3ヶ月間に20%の高騰、
・12月には66%高騰した。
・自由物価の闇市場の価格は、公定価格の30倍に及んだ。
・卸売り物価指数は, 終戦時の45年8月から49年12月の4年間に
65倍と言う驚異的な高騰をみせた。
理由は,国内生産力(供給)が極度に縮小して,需要に追いつかない
状況が続いたからだという。しかも想像を超える悪性インフレ
だった。
⬛️⬛️「恐怖のデフォルト」
🔵政府は,日本経済の本質的な改善を進めるために,まず当面する
悪性インフレをいかに克服するか、必死に取り組んだ。
・「預金 封鎖」
・「財産税法案」
預金封鎖の前日に,政府は「新円の切替」を行い,預金の引出し
を禁止。そして今までのお金が使えなくなるので, 銀行で新円と
交換するよう国民に促した。
2月16日, 緊急の金融処置として 日本初の「金融緊急処置令」
を発表し,預金封鎖を実行した。
理由は,戦後の需要に対して物資が足りず,悪質なハイパーインフ
レを防止するために,預金封鎖を行う必要があったとした。
お金の引き出しは1ヶ月1人100円、世帯主でも300円しか引き出
せないという厳しいもの。そして3月3日以降,旧円は全て無効と
なった。
財産税は,現金,預金,株式,不動産など金融資産を対象に 10万円以
上の個人財産に課税された。
これが,いま噂のディフォルト(金融緊急処置令)の正体である。
🔵今回の記実に際し,77年前の日本初のディフオルトの実態を 探
るべく戦後の日本経済の再建構想の記実や識者による記録や専門
書など、2日に亘り公定図書館や専門図書を探し歩いた。戦後日
本経済のドキュメントとしては, 極めて重要な文献資料と思えた
が,全く見当たらなかった
挙句の末,あてもなく手を伸ばした検索サイトで,偶然出会ったの
が, 下記の学術論文だった。(A4版約30ページの著作)
実は,この貴重な資料とデータに助けられ,いまこのブログの論旨
を書き進めている。
🔵表題
「敗戦後日本の巨額の戦時国債は,どう処理されたのか」
副題 (インフレ、財産税、戦時保証債務、国債負担の顛末)
著者は、中央大学教授、経済学部長 関野満男氏
(この論文を基に2021年下記の本が中央大学より上梓された。)
終戦時の預金封鎖と緊急金融処置の概要は下記の通り。
(中央大学、関野教授の論文資料より引用)
⬛️「敗戦直後の日本財政」(緊急金融処置が行われた市場背景)
・国債残高1408億円と国債約2000億円の政府債務が残された。
・生産力の崩壊、
・極度のインフレ、
・経済危機、
・財政危機
の中で政府大蔵省は,1回限りの財産税で、国債の償却と財政再建
を勧めようと計画した。
🔵昭和21年度(1946年)政府予算の概要)
・租税収入 120億円
・歳出 172億円
・財源不足額 52億円
・政府債務総額 2174億円(45年末現在)
(その内訳)
・国債 1560億円
・臨時軍事費 150億円(借入金)
政府保証金等 460億円
(注)膨大な国債費を赤字国債発行で賄えば、財政破綻と悪性
インフレや社会秩序の崩壊が危惧された。
🔴敗戦直後のインフレは厳しかった。
・戦時のインフレが継続、深刻化した。
・卸売物価 45年12月 公定価格の2倍
・卸売り物価指数は、45年12月、66%上昇
・自由物価(闇物価)は,公定価格の30倍になり国民生活を圧迫。
🔵国内の生産力)
・国内農産物生産指数 59%
・国内鉱工業生産指数 26%
・国内製造業指数 17%
🔵日銀券の流通量の急増)
・45年末、 554億円
●民間金融機関への貸し出し急増、
・45年末、 378億円
🔵予想される政府(国庫)負担)
1)連合軍駐屯費 30億円(直近3ヶ月分)
2)戦地軍事費の処理経費 580億円
3)連合軍への実物賠償 (不明)
4)軍需企業への補償ほか 668億円
5)戦時中の政府保証債務
( 上記を国債や借入金で賄うとすれば、利子だけで100億以上)
・赤字国債の累積発行は、容認できないとした。
・日本の財政を根本的に立て直すことが喫緊の課題とされた。
・全く革新的な方法を講じることが必要だった。
そこで発想されたのが、財産税構想である。
⬛️「財産税の概要」
・課税対象は、46月3月の申告財産価格による、
・税率は、25%〜90%(超過累進税率)(免税は10万円以下)
🔵財産税額の見込みは、
・個人財産総額、 1438万戸 4032億円
・課税10万円以下 1383万戸 2681億円
・課税10万円超 55万戸 1351億円
・財産税課税対象 51万戸 1281億円
(国内総世帯数の3,5%,平均負担率34%)
🔵財産税の課税構造の内容)
・預貯金 28.3%
・土地 20,4%
・家屋 17,9%
・株式等 12,0%
・国債 1,3%
課税総個数 46,6万戸
●出典:朝日新聞社
🔵私は,戦時中に疎開移住した倉敷市の郊外で終戦を迎えた。
私の拙い記憶によると,昭和21年,中学2年の2月, 倉敷市の中心街
にある中国銀行倉敷支店前の多くの人の列に,旧円の百円札を手
に祖父と共に並んだ、そして無事に新円の百円札と交換(兌換)し
た事を覚えている。しかしそれ以上の事は、覚えていない。
🔵出典:JIJI通信
🔵戦後,突然の「金融封鎖」は,敗戦後の疲弊した日本の家庭に
大きな衝撃を与えた。極度の食糧難の上に金融難、一般家庭の生
活は,困窮を極めた。改めて戦争の悲哀,特に敗戦の苦渋を,全国民
が等しく味わう事になる。
⬛️⬛️「戦後の厳しい財政」
🔵「いま日本の借金(国債発行残高)が1100兆を超えた。国民
1人当たり1000万円の借金」大蔵省筋の公式発表とする新聞報
道がでた。手元の携帯には、フエィクとおぼしき情報も飛び込ん
できた。
来年に迫った新しい1万円札の発行に際して「2000兆円(日銀
調べ)とも言われる日本の「家計金融資産」をターゲヅトに新
札交換と金融封鎖があるのでは」との巷の噂が後を絶たなぃ
🔵数量学者の高橋洋一さんによると,日本の国家財政を貸借対称
表的分析を加えるとすれば,全く安全だという。
但し一部の学者が、マルクス学派のMMT理論などをを持ち出して,
話をややこしくしている側面もあると言う。
最近の経済誌の情報や「経済学の基本がわかる本」入江雄吉著
などによると, 高橋洋一さんの説が正しいと思う。
🔵2出典:ニッセイ基礎研究所
■「戦前,戦後約120年にわたる政府債務残高の推移
(出所:ニッセイ基礎研究所)
🔵戦後78年のいま,世界有数の経済大国の日本が現存し,現に90
歳の老人が確かな年金で元気に暮らしている事をみるとき,改め
て日本経済の力強さと日本の平和を確信した。
今回記実した 中央大学関野教授による終戦直後の日本経済の現
況分析は、極めて貴重な研究成果であり、改めて戦争の恐怖を
知る事が出来た。
データサイエンス時代のいま、無謀な戦争を抑止するに足る貴
重なデータや情報の収録だった。
いま日本と言う国が存在するのは, 終戦時の日本の先達たちが,
敗戦という極めて厳しい現実の中で, ただひたすら日本再興の
ために 献身努力した事に負うところが大きい。
後世に生きる私たちは, ひと時もこの事を忘れてはならない。
(山田)
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