世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

ヤマユリ

2022-05-17 05:35:57 | 花詩集

いつまでそこに立っているつもりなのか
あなたはあなた自身の墓標のように
冷えて使い古された記憶のためにだけ
永遠にそこに立っているつもりか

光はあなたの帳面に書かれた文字を
すべて読み取るがそれは
あなたをさばき殺し
沈黙の臼の中にひきつぶすためではない

あなたは影に秘めたあなたのためいきを
糸により布に織り空の眼差しに染めて
日なたの森の清められた花の庭に
ささげなければならない

神は金のほほ笑みでそれを吟味し
あなたへの愛のために
次の二千年を歌い始めるだろう
あなたはそのとき
正義の人でも 罪の人でもない

新たなあなたの始まりなのだ




(花詩集・28、2005年9月)





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ビワ

2022-05-16 05:23:17 | 花詩集

あなたの良いところや
がんばっていることは
みんな神様がご存じだから
そんなにへこんだり
とがったりする必要はないのよ

だれもわかってくれないなんて
鉛の部屋に自分を閉じ込めて
気持ちをぐつぐつ煮込んだりしないで
この世界の何もかもが
あなたに冷たいのではないの
ただ もう少し
時間が必要なだけなの

あと ほんの少しだけ
魂の背丈が伸びて
あなたと世界の
本当の再会のために
いちばん大切な光が
見えるようになるまで

急がないで
少しずつ 今を
積み重ねていくんですよ
水底の貝の唄う夢の中で
ゆっくりと肥えてゆく
かわいい真珠のように




(花詩集・27、2005年8月)




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イチゴ

2022-05-15 05:10:44 | 花詩集

なぜあなたのような方が
そんなところにいますのか
スーパーの野菜売り場の
パック詰めの山の中に
しぼりとられたばかりの
御胸の血のような色をして

あなたはそうして
御心を私達に飲まそうというのか
私達の胃の腑に溶けて
目に見えぬ愛の流れとなって
この心臓の空しいほころびを
無心に繕おうとなさるのか
それが御心なればと

こんな私達のために

キツネの化けた仏のように
てらてらしたものばかりをあがめ
あなたの中に秘められた
甘酸い愛の涙にさえ気づかぬ
こんな私達のために

あなたはそこにいますのか
御心のために

あの美しい御方のために




(花詩集・26、2005年7月)





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ハマダイコン

2022-05-14 05:14:35 | 花詩集

時間が 必要です

なぜ神様が
私をここに連れて来たのか
その本当の理由が わかるまでには

(吹きすさぶ海の風
 根を浸す潮の痛さ
 テトラポッドのすき間に
 独りぼっちで咲きつづける)

生きることを
苦しいと思っていては
私達は咲くことさえできません
なぜなら
花は苦しみでなく
喜びの表現なのですから

この広い空いっぱいに塗られた
神さまの透明な愛のことばを
露玉のようにしぼり集めて
つくられる美しい時の光

私達はみんな 一粒ずつ
それを神さまに頂いています
だからこそ全てに耐えて
生きていけるのです

時間が必要です
全てがわかるようになるまでは

時間が必要なのです




(花詩集・25、2005年6月)





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ハクモクレン

2022-05-13 04:44:27 | 花詩集

ことばもこころも
みがいてみねばわかりません

あなたが今
あなただと思っている
あなたが
本当のあなたであるとは
かぎらないのです

だから生きてみねば
わかりません
悩みとおしてみねば
わかりません

しんしんと
その胸にふりつもる
刃のような氷の痛みに
孤独の底で引き裂かれようとも

陶工のしくじった壺のように
易々と己を割り砕いてはなりません

学びなさい

強くなりなさい

それ以外に
あなたの生きる道は
ありません




(花詩集・24、2005年5月)





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スイセン

2022-05-12 04:57:37 | 花詩集

わたしを
手折らないでください

あなたが
この泉のほとりに
ひっそりと咲く私を
美しいと思うのは
わたしが
風とともにはこばれる
かすかな星々の物語を
深いこの水の底に眠る
あのきよらかな方のために
毎夜読みきかせているため

ですから
一時の浅はかな情熱のために
わたしを
手折らないでください

もしあなたが
泉からわたしを盗めば
あなたの手元にあるのは
涼やかな花の香りではなく
一くさりの哀しい蛇となりましょう

だから今は
静かに去ってください
この空の永遠の愛の音律を
しばしも揺るがさぬために
割り砕いた氷の面の向こうの
苦い塩の門をくぐって

あなたの本当の国へと
帰ってください




(花詩集・23、2005年4月)





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ジャノメエリカ

2022-05-11 04:45:00 | 花詩集

いつまでも泣いていてはいけない
傷ついたその痛みの中に
溺れているままでは
大切な魂が泥に溶けてしまう

さあ 息をとめて
涙をとめてごらん
とめられなくても
目を開いてごらん

あなたの胸に
深く空いたその傷口は
あなたが自分自身の中に
入っていくための入り口なのだ

あなたはそこから
魂の国に入って 今から
本当の自分に出会うための
長い旅を始めるのだ

だから
傷つけた人の背中ばかり
追いかけていてはいけない

泣きながらでも
忘れられなくても
今は 目を閉じて 思いきり
自分の中に飛び込んでいくのだ

胸の奥から聞こえる
かすかな唄の声をたよりに
いつもあなたを呼んでいた
あたたかなあの人の元へ

あなたは旅をしてゆくのだ




(花詩集・22,2005年3月)





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チコリ

2022-05-10 04:42:36 | 花詩集

わかっていても
言わぬがよい

あなたの
やわらかな心のひだは
時にむきだしになって突き出される
刃のような人の悲しみを
やさしく包むためにあるのだ

だから
時に暗がりに伏せこまれ
風と光を無情に断たれ
奴婢のように言葉を奪われ
花咲くことを拒まれようとも
魂の芯が折れぬ限りは
言わぬがよい

泥のような悲しみの日々を
魂の凍るような絶望の仕打ちさえを
耐え抜き 耐え抜いて
いつしか
あなたの心は
真珠のバネのように強く
美しくなる

だから
わかっていても
今は言わぬがよい
星々の歌う切ない愛の悲しみのために
あなたがこらえた涙は
やがて魂の深い彼方の宮で
清らかな香りの珠をつくるのだ




(花詩集・21、2005年2月)





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スギ

2022-05-09 04:51:54 | 花詩集

肩に金色の太陽をかついで
まっすぐに登りなさい
手を取り合って

ほら
向こうの荒れ野では
天から落ちて粉々になった月を
アリがせっせと運んでいる
暗い土の巣の中で
傷ついた月の哀しみを
ひそやかに癒すために

夜のしじまに隠れて
声もなく働くアリたちの
きまじめな営みを
邪魔してはいけない
いま少し高台に登って
静かに待てばいいのだ

ほら もうすぐ
天と地の境の
ひくいひくい窮みで
ああ
リンドウの空をかすかに裂く
あえかな光の傷のように
ゆっくりと月が目覚め始める

その時を待とうわたしと共に
天と地をつなぐ一本道のように
まっすぐなスギの木の
そびえたつこの丘で



(花詩集・20、2005年1月)




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リンゴ

2022-05-08 04:37:02 | 花詩集

目先のことにとらわれて
エゴに走ってはいけません

恋はあなたを心楽しませ
色を添え美しくするものですが
それ以上の意味を
恋に与えてはなりません

過ぎ去ってゆく時が
暴いていく運命の惨さに
心乱され 打ちのめされても
けして呪うてはいけません
うやうやしく頭を垂れ
そこで学んだことを
よくかみしめることです

蛇のように自らに巻き込まれ
低いところにわだかまっていては
いずれ全てを失ってしまいます
半身を千切るような痛みにも
目を閉じて耐え
そこから飛び立たなければ

与えたものも
失ったものも
悔やんではなりません

リンゴは 生涯
与え 与え続け
そうして毎年
生涯で一番美しい実を結ぶのです



(花詩集・19、2004年12月)




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