あまり喜怒哀楽を見せない親父の涙を見たのは今まで3回だけ。
最初に見たのは自分が中学生の時だったと思う。親父の親父、つまり自分のお祖父さんが死んだ時、小さな家で行われた小さな葬式は親父に話しかけることも出来ないほど慌ただしい感じだった。何をしてよいのかわからず、親戚の子供達と遊ぶわけにもいかず、時間を持て余していた印象が今でも残っている。
そんなお通夜も夜遅くには落ち着き、いつの間にか棺の前で親父と自分の2人だけになっていた。その時、おもむろに棺の中の顔を見ようと立ち上がった親父、お祖父さんの顔を見ると崩れ落ちそうなほどに大泣きした。
親父の涙はその時初めて見た。
親父はどんな状況にも強く、決して泣かない人だと勝手に思っていただけに、驚いた。今でもその光景は鮮明に覚えている。
2回目は自分の妹が結婚した時、結婚式が終わって、妹が親父に挨拶して涙した時に、親父も泣いていた。自分は年老いたお祖母さんと離れて見ていたので、どういった会話があったのかはわからない。
3回目は母親方のお祖母さんが亡くなった時。お葬式の食事の前に、親父が親族に対しての挨拶をした時。お祖母さんの遺影を見ながら「とても優しい人でした」と涙した。
今思うと親父も歳を重ねるにつれ涙脆くなってきたように思う。いや正確には「人前では泣かない」という我慢がきかなくなってきたように思う。今自分が子供の前で涙を見せないように、親父も人には見せなかったたくさんの涙があったのだろうと今になって感じる。