懐かしい出来事を思い出した。
友達の家はとても大きかった。交代で何度も繰り返しやっていたテレビゲームにも飽きた三人はこの広い家で「隠れんぼ」をすることを思い浮かんだ。
「べつにいいけど、うちのかあちゃん恐いから汚したり散らかしたりするのは駄目だよ」とこの家持ち主である友達の「ダイちゃん」は言った。
そうと決まれば始まりだ。三人は向き合って「じゃんけんぽん!」と叫び手を出した。グーを出したダイちゃんがあっさりと負けて「ちくしょー」と一つ声出して百からのカウントダウンをし始めた。
勝った僕等は隠れる場所を探し、回りを見渡した。「ここはどうかな?」と僕は声を出さずに顎でシゲちゃんに合図し、二人でその部屋に入った。中は押し入れと洋服ダンスが一つある和室で押し入れを開けると上の段には布団があり、下の段には洋服のようなものが入っていた。どちらも子供なら一人くらい入れる隙間がある。ここからが小学生の頭の悪いところで、僕が上の段、シゲちゃんが下の段に隠れた。これでは一度に二人とも見つかってしまうのだが、そんなのお構いない。隠れる場所を見つけて二人は喜んだ。
「・・にい、いち、ぜろ」ちょうど百の数を数え終えたダイちゃんは「どこだ~」などと言いながら動き出した。僕は押し入れの襖をほんの少しだけ空けて外の様子を確認した。ちょうど正面に洋服ダンスが見える。まだこの部屋には来ていないようだ。
数分後、とうとう僕等が隠れる和室のドアが開いた。「この部屋が怪しいなぁ」などと言っている。僕は手を口にあて、笑い声を隠した。部屋に入るとダイちゃんはまず最初に洋服ダンスを怪しんだ。「絶対ここだ」と言い近付く。僕が隠れる押し入れの襖の隙間から洋服ダンスの観音開きのドアに手をかけるダイちゃんの姿が見える。「そこじゃあないのに」と思い、僕はますます笑いそうになった。
そして「おりゃあ」と大きな声を出し、ダイちゃんは思い切りよく洋服ダンスを開いた。すると信じられないことに押し入れのわずか2cm程の隙間から見えた洋服ダンスが大きな音と共に一瞬にして消えたのだ。
何が起きたのか解らない僕は押し入れの襖を開けるとそこには洋服ダンスの下敷きになったダイちゃんが「うぅ~」と手をばたつかせ唸っている姿があった。そう、思い切り空けた勢いで洋服ダンスが前に倒れてきてダイちゃんが下敷きになっていたのだ。
「今から助けるよ」と隠れていたシゲちゃんを呼び、二人は洋服ダンスを持ち上げた。タンスには重いものが無かったようで、なんとか小学生二人でも持ち上げることができ、時間は少し掛かったが元の位置に戻すことができた。
目に微かな涙を浮かべ「死ぬかと思ったよ」とダイちゃんは囁いた。対する助けた二人は絶対絶命の親友を助けたという満足感でいっぱいだった。一時感動的な空気が僕等を包んだ。
「さぁ、気を取り直してゲームでもしようよ」と言うと皆も笑顔で頷いた。そしてダイちゃんの手を掴んで起き上げようとした目の先に「嫌な物」を見てしまった。嘘であってほしいと目を一度とじて再度見たがやっぱりそれはあった。
ダイちゃんの右側1m先に硝子のケースが落ちていた。どうやらタンスの上にあったと思われるそれは結構な高さから落ちたのだが割れることなく無事だった。しかしその中に入っていた日本人形が無事ではなかった。なんと日本人形の首が取れて落ちていたのだ。「あわわわ、かあちゃんに怒られる~」といって再び顔が青ざめるダイちゃん。感動的な場面は一瞬にして崩れた。
その後「ボンドある?ボンドで付けようよ」とのシゲちゃんが言い、ダイちゃんが部屋中走り回った。ボンドが見つかり僕等は人形の修復を始めた。最終的にはダイちゃんの微かに震える手で人形はなんとか首を元の位置に戻し、再び箱に納まってタンスの上に上げられた。
これでドタバタな出来事は終わったのだが、家に帰る道でシゲちゃんに僕は話した。「ダイちゃんの付けた人形の首、ズレてなかった?」。「僕もダイちゃんのかあちゃん恐いから言えなかった」とシゲちゃんは言った。その後、その人形がどうなったか、ダイちゃんのかあちゃんにバレたかはわからない。あえて3人ともその話題には触れなかったから。。。