WBC名誉王者の西岡利晃は4階級制覇でIBF・WBO王者のノニト・ドネアに9回TKO負けした。
試合後は西岡の消極的な戦い方に否定的な意見も多く見られた。日にちも経ち心も落ち着いたところで私なりの気持ちをこのブログに載せたいと思う。
まずボクシングファンにご存知マイケル・バッファーからのコールの時に感じたのは、「西岡の表情が硬いな」という印象である。メキシコでの防衛戦(ゴンサレス)やアメリカでの防衛戦(マルケス)を経験している西岡、おそらく現役日本人ボクサーで1番(石田順裕という意見もあるかな?)海外での経験が多く、大舞台に強いと思われていたのにである。さすがの西岡も今までの防衛戦とは1つも2つもレベルの高い試合ということを自覚(神経質になっていた?)していたのであろう。また、1年のブランクという点もあったのかもしれない。
そして運命のゴングがなった。試合の序盤は西岡はドネアの強打を警戒し、ガードを固め防御にまわる時間が多かった。もちろんドネアも西岡の左ストレートを警戒していたが、西岡と違ったのは西岡の攻撃に警戒しつつも、随所に手数を集めてポイントを奪取していった点だ。序盤4ラウンドは完全にドネアにポイントが流れた。しかし西岡もドネアから致命傷となるパンチは受けておらず、この時点では「ドネアはきっと隙を見せるはず。中盤から終盤勝負か、まぁ作戦通りなのだろう」と私自身悲観してはいなかった。
ところが作戦が狂ったのが「さぁ中盤、ここから出て行こう」と思った6ラウンドにドネアの左アッパーで西岡がダウンを取られてしまったのだ。ドネアの強打を警戒しつつ、ギアをあげようとした時にまさに「出ばなをくじられた」のだ。タイミングによるダウンで、決して効いたパンチでは無かったのだが、西岡には相当な精神的なダメージと「焦り」を与えられたと思われる。そしてドネアはポイントで優位になり、ボクシングスタイルに「余裕」を持たしてしまった。
ただここで忘れてはならないのが、ダウンを奪われた後、ドネアがフィニッシュを狙い若干パンチが大振りになったところに、西岡が相打ち覚悟で打って出たことである。もうずいぶん前のことになるが、ウィラポン戦で出来なかったこと、そう「捨て身の戦い」である。精神面での成長が見れた感動的なシーンだった。
しかし、中盤戦から終盤戦はさらに厳しい戦いになった。ポイント優位のドネアは無理することなく、慎重かつ丁寧な試合運びを展開。一瞬の隙でも見せれば、西岡の左ストレートも当たるのだが、ドネアはその隙を全く見せない。そして9ラウンド、ポイント劣勢の西岡は自身のスタイルを崩し、やや強引に倒しに行った。「1発当たれば・・・」、その思いも虚しく、ドネアに右ストレートを合わされ、西岡の敗北が決まった。
確かにドネアは強かった。スーパーバンタムの数戦の中では1番の出来だったと思う。なぜ強かったのか?なぜ最高の出来だったのか?それは決して西岡が弱かったからでは無い。ドネア陣営が西岡の過去の戦いを分析し、これまでのどの相手よりも「危険な相手」というのを理解して最大限の準備をしたから。後は「作戦分析」においてドネア陣のほうに長があった。スポーツの世界では出ている結果に対して「たら・れば」は禁句だが、西岡が序盤に有効なラウンドを1つでも取っていたら、それにより西岡に少しの「余裕」があったなら、試合の展開は変わっていたかもしれない。
結果的には「完敗」、しかし私は両者の差はそこまで離れていないと感じている。
残念だったが、多くのボクシングファンはこの西岡利晃という1人のボクサーを通して、感動や勇気や希望などたくさんのものをもらった。西岡利晃自身は「すべては自分の為」なんて言うかもしれないが、観ているボクシングファンにここまで影響を与えたボクサーも近年にいないだろう。
この敗北により過去の実績が錆びることはない。何よりも西岡が開いた「世界への扉」、野茂英雄が野球界で扉を開いたように、中田英寿がサッカー界で扉を開いたように、西岡利晃がボクシング界で扉を開いたこの功績はこれからも大きく評価されるべきと考える。