共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日は中村雨紅の誕生日〜今年発表から100年目を迎える名曲誕生

2023年02月06日 18時00分18秒 | 音楽
今日は比較的暖かな陽気となりました。日中は上着無しでも十分に過ごせるくらいで、立春を過ぎて春が来たことを少しずつ実感できるようになってきたようです。

ところで、今日2月6日は中村雨紅の誕生日です。



中村雨紅(1897〜1972)は日本の大正期の詩人・童謡作家で、本名は髙井宮吉(たかい みやきち)といいます。

確実に

『…誰?』

と思われている方が殆どかと思います。しかし、中村雨紅は日本人なら誰しも知っている名曲の作詞者なのです。

中村雨紅は現在の東京都八王子市上恩方町宮尾神社の宮司・髙井丹吾(たかい たんご)とその妻・シキの間の三男として生まれ、神社の社務所で生まれたことから「宮吉」と命名されました。「中村雨紅」という筆名は、後の養子先の姓「中村」に、北原白秋・西條八十とともに童謡界の三大詩人と謳われた敬愛する詩人・童謡・民謡作詞家の野口雨情(1882〜1945)にあやかって「雨」の字を頂くとともに「染まる・似通う」という意味を込めた「紅」をつけて命名したものです。

1916年(大正5年)東京府青山師範学校(現在の東京学芸大学)を卒業した宮吉は、同年に東京府北豊島郡日暮里町第二日暮里小学校(現:荒川区立第二日暮里小学校)の教師となりました。1917年(大正6年)には叔母の家である中村家の養子となって中村姓を名乗り、翌1918年には日暮里町第三日暮里尋常小学校(現在の荒川区立第三日暮里小学校)へ転勤しました。

宮吉が教師をしていた大正期には、童話や童謡を掲載する児童雑誌がいくつも創刊されました。1918年(大正7年)には鈴木三重吉が『赤い鳥』を創刊、翌1919年(大正8年)には斎藤佐次郎が野口雨情を編集長に迎えて『金の船』を創刊し、日本の子供たちに良質な児童文学を届けようという運動が花開いた時代でもありました。

第三日暮里尋常小学校に勤務中の1921年(大正10年)に高井宮の筆名で執筆した童謡『お星さん』などが児童文芸雑誌『金の船』に掲載されると、作品が野口雨情に絶賛されました。しかし職場からは理解が得られず、勤務先の校長からは

「作家との二足のわらじは教職の妨げになる」

と止められたため、敬愛する野口雨情にも絶賛された童話の執筆をやめて、どこでも構想を練ることができる童謡の詩作に専念することとなりました。

そしてその2年後に、中村雨紅の代表作が誕生します。それが名曲《夕焼け小焼け》です。

《夕焼け小焼け》の歌詞は1923年(大正12年)に書かれ、《ゆりかごの歌》の作曲家でもある草川 信(1893〜1948)の作曲で発表されました。今年は2023年ですから、奇しくも《夕焼け小焼け》が発表されてから、今年はちょうど100年目の節目を迎えるということになります。

雨紅は通勤時に、自宅のある恩方村から八王子駅までの約16kmを歩いて通っていました。《夕焼け小焼け》の歌詞は、その帰り道に見た夕焼け空に、幼い日の想い出や村の風景などを重ね合わせて描いたものといわれています。

この楽曲はピアノ練習用の譜面帳に掲載されていましたが、発表と同じ年である1923年9月1日に発生した関東大震災で紙型から何から一切を焼失してしまいました。しかし、たまたま人手に渡っていて奇跡的に焼失を逃れた楽譜を元に再興されたこの歌はやがて人々の口から口へと歌い継がれて広まり、日本の代表的な童謡の一曲となっていったのです。

実は中村雨紅は、現在私が住まう厚木市と深い関わりがある人物です。

1926年(大正15年)に日本大学高等師範部国漢科を卒業した雨紅は、神奈川県立厚木実科高等女学校(現在の神奈川県立厚木東高等学校)の国語教師となり厚木へ赴任しました。翌1927年(昭和2年)には長女・緑(たかい みどり)が誕生し、その後は生涯、現在の厚木市に在住することとなったのです。

今でも本厚木駅近くには



『ゆうやけこやけ通り』という道があり、その道沿いには



『ゆうやけこやけビル』という建物まであります。また、このビルのエントランスには



《夕焼け小焼け》の歌詞を刻んだプレートも嵌められているのです。

この写真を撮っている時に、ちょうど夕方の《夕焼け小焼け》のメロディが流れてきました。まるではかったかのようなタイミングに、言い様のない感慨をおぼえたのでした。

そんなわけで、中村雨紅の誕生日である今日は、名曲《夕焼け小焼け》をお聴きいただきたいと思います。少女時代の安田祥子による歌唱で、今年で誕生して100年目を迎える日本の名曲をお楽しみください。



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