今日は日差しの下では暖かな一日となりました。ただ、日の差さない室内だと寒くて、つい暖房のお世話になる状況でもありました。
ところで、今日12月16日はベートーヴェン（1770〜1827）の誕生日です。
これは1808年、ベートーヴェン30代の頃の肖像画といわれています。
上の肖像画を御覧になって「ん？」と思われた方も多いかと思いますが、ベートーヴェンの肖像画としてよく知られているのは
これではないでしょうか。
これは1820年からバイエルン王国の宮廷画家を務めていたドイツ人肖像画家のヨーゼフ・カール・シュティーラー（1781～1858）が1819年から20年に描いたもので、ちょうどベートーヴェンが50歳を迎えようかという時期の顔です。手にはその頃作曲中だった《ミサ・ソレムニス》の楽譜が握られています。
しかしこのシュティーラー作の肖像画、実はベートーヴェン本人にあまり似ていないのではないか…という説もあるのです。
ベートーヴェンに直接会っていた友人や知人が書いた手紙や日記によると、ベートーヴェンの容姿は
「背が低くて頭が大きく、髪は真っ黒で硬く密生していて、血色の良い顔はあばただらけ。手や指には毛がびっしりと生えて力強かったが指は短くて太く、まるでムーア人のように肌の色が黒い。前歯が出ていて鼻が低いが、額は広くて円くてまるで砲丸のよう。」
というような、なかなかの言われっぷりのものです（汗）。ところが、シュティーラーが描いたこの絵の中では「あばた」や「低い鼻」「出ている前歯」は一切見られず、『苦悩を乗り越えた楽聖ベートーヴェン』がペンと楽譜を手にして一点を鋭いまなざしで見つめているという、なかなかの美化っぷりです。
こうした『美化』は、実は当時としてはそう珍しいことでもなかったようです。
例えば、かのマリー・アントワネットの肖像画で一番有名なものは
1783年のサロンで女流画家のヴィジェ・ルブラン（1755〜1842）が発表したこの作品かと思います。かなり美しく描かれていますが、実際のアントワネットは
この肖像画のようにハプスブルク家の人間に特徴的な馬面だったと言われています。
まだ写真が発明されていなかったこの時代、プロの肖像画家が描く人の顔は似顔絵よりも『どちらかと言うと『イメージ画像』に近いものでした。今ではカメラで手軽に顔写真を撮ることができ、デジカメやスマホの写真なら気に入らなければ何度でも撮り直した上に加工まで一人で簡単にできてしまいますが、当時の肖像画家は、さしずめその「加工」までを一手に引き受ける職人だったといっても過言ではないでしょう。
さて、ベートーヴェンの誕生日だからといって名だたる交響曲やピアノソナタを載せたところであまり面白くないので、ちょっと変わり種の作品を載せてみたいと思います。
1792年、22歳のベートーヴェンは故郷ボンを離れ、音楽の中心地ウィーンに進出します。その４年後の1796年には年明け早々にいくつかのサロンコンサートに出演したあと、２月になると当時のパトロンだったリヒノフスキー侯と連れ立ってプラハへの旅に出かけます。
ベートーヴェンはプラハで、作曲家フランティシェク・ドゥシェック（1731〜99）とその夫人で名ソプラノのヨーゼファ（1754〜1824）を中心として開かれていた音楽文化の象徴的存在であるサロンに招かれました。そこで、サロンの常連の一人でマンドリンを愛奏していたクラリ伯爵の令嬢ヨゼフィーネ（1777〜1828）のためにマンドリンとクラヴィーアのための二重奏曲を４曲作曲していて、ベートーヴェン自らも伴奏者として共演したと言われています。
今回御紹介する《マンドリンとクラヴィーアのためのアンダンテと変奏曲 ニ長調》もその内のひとつで、如何にもサロンで奏されるような明るく軽いタッチの優しい小品です。ともすると巨大な交響曲作品が目立つベートーヴェンですが、若き日にはこんなライトな作品も手掛けていたのですね。
そんなわけで、今日はベートーヴェンによるマンドリンのための作品をお楽しみいただきたいと思います。作曲当初はチェンバロでの伴奏だったようですが、今回はフォルテピアノとの共演でどうぞ。
