共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

性格が垣間見える自筆譜 〜 エリック・サティ編

2021年05月17日 16時35分40秒 | 音楽
今日は空一面に鉛色の雲が垂れこめる、風の強い一日となりました。今日は自宅でチャイコフスキーの《弦楽セレナーデ》の練習をしたりしていたのですが、天候のこともあったり演奏形式の杜撰さに辟易していることもあったりしてか全然気乗りがしません。

さて、こんなネタに窮した時には作曲家の誕生日シリーズと自筆譜シリーズに頼るしかありません(爆)。で、調べてみたところ、今日はフランスの作曲家エリック・サティの誕生日でした。



エリック・サティ(1866〜1925)は俗に『音楽界の異端児』とも呼ばれる作曲家で、相当な変わり者として知られています。一方、彼の作品はそれまでの西洋音楽界に多大なくさびを打ちこみ、ドビュッシーやラヴェルといった印象派の作曲家たちに多大な影響を与えた存在として、近代西洋音楽史上最も重要な作曲家の一人として位置づけられています。

また、現代の環境音楽の先駆けとも言われる《家具の音楽》という作品は、



後に《4分33秒》という画期的な作品を発表したアメリカの作曲家ジョン・ケージ(1912〜1992)の作風にも大いに影響を与えました。この《家具の音楽》は現代のイージーリスニングミュージックの先駆的作品とも言われていて、サティ作品の中でも非常に評価の高いものの一つとなっています。

パリ音楽院在学中に、サティの作品の中でもとりわけ有名な《3つのジムノペディ》や《6つのグノシエンヌ》を発表しましたが、なんと喧嘩沙汰を起こして学校を辞めてしまいます。その後、39歳の時に音楽理論を学び直すために音楽学校に入り直し、卒業後にジャン・コクトーやパブロ・ピカソらと《パラード》を上演しましたが、この作品については上演後に様々な論争が飛び交うスキャンダラスな事件にまで発展しました。

サティの作品の特徴のひとつに、独創的なタイトルがあります。例えばピアノ作品には

《犬のためのぶよぶよした前奏曲》
《官僚的なソナチネ》
《梨のかたちをした3つの小品》

といった『なんじゃこりゃ?!』と言いたくなるようなものに溢れています。でも、実際に聴いてみるとなかなか面白いものばかりです。

1925年に60歳でサティが亡くなった後に何人かの友人たちが住まいを訪れると、部屋の中には100本近くのこうもり傘や2台のグランドピアノが置かれていたといいます。そのうちの1台は何と中身が空っぽで、中には未開封の手紙が大量に詰め込まれていたのだそうです。これらをサティが一体どうしていたのかは、今に至るまで謎のままなのだとか…。

そんなサティの自筆譜を見てみると
 


御覧のようにかなり綺麗で読みやすい楽譜を書いています。上の写真は《スポーツと気晴らし》というピアノ作品の一部ですが、本来楽譜に必要なはずの調号や小節線が無いという大胆な作曲書法は、後の現代音楽の作曲家たちにも大いに影響をもたらしました。

さて、音楽界きっての変わり者と呼ばれるサティですが、その変態性が如実に表れているのが《ヴェクサシオン(嫌がらせ)》というピアノ作品です。



上の写真はその自筆譜です。

これだけを実際に演奏すると、1分ちょっとの短い曲です。一見すると短い作品に見えるのですが、欄外に書かれたサティの指示によると、何とこれを840回繰り返せと書かれているのです!

この楽譜1回あたりの演奏時間は1分ちょっとですが、これをサティの指示通りに繰り返して演奏すると、テンポにもよりますが18時間からMAXで25時間前後かかることになります。これを演奏するピアニストにとってもこれを鑑賞する聴衆にとっても、正に嫌がらせ以外の何物でもありません(汗)。

かつて、これを1時間ちょっと分を収録したCDが発売されたことがありました。それでも指定回数の10分の1にも満たないものでしたが、やはり世の中には変態…いやチャレンジャーがいるもので、ドイツのベルリンでイゴール・レヴィットというピアニストが、昨年の5月20日から翌日にかけてひたすら《ヴェクサシオン》を演奏・ネット中継した動画をYou Tubeにアップしていました(驚)。

動画ではピアノの上に840枚の楽譜のコピーを積み上げ、1回弾き終わる度にポイポイと床に捨てていくかたちで、ひたすら演奏が続けられていきます。意欲的な試みですが、何度か途中休憩を挟んではいるもののやはり体力的精神的なダメージは相当なものだったようで、演奏中頃にはボロボロに間違ったり、明らかに辛そうな表情を浮かべたりしています。

そんなネット中継もされた《ヴェクサシオン》の動画を貼り付けておきましたので、興味のある方は御覧になってみてください。実際の演奏は4:30頃から始まりますが、この動画自体はトータルで11時間55分もかかりますので、鑑賞する際にはくれぐれも御注意ください(汗)。




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