【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

終わりにしたい夜

2008年02月18日 15時33分37秒 | トカレフ 2 
   


バァさん、眼の前の縄澤の背中に向かって喋った。

「アンタが来んといてほしかったわ 」
「ソラ済まんかったなッ 」

縄澤、振り向きもしないで応える。

「ぉいッ!もッとコッチの方ぉ写さんかい 」

道の真ん中で若い刑事が蛇腹式カメラを構え、ヨッパライが暴れたことに為ってる現場を写していた。
その縄澤の後輩刑事、縄澤が指差す方に動くとき、道路に飛び散った硝子の破片を踏みながらだったので厭な音がした。
暗い夜にカメラの強烈なフラッシュが瞬き眩しい発光、ガラスの破片が飛び散った路面を舐める。
バァさん、辺りは昼間よりも明るく為るなぁ、っと感じた。
光の眩しさに反射神経が刹那で反応し、目を瞑ると残像が目蓋の裏で蒼白く輝いた。
若い刑事、一回写すたびに慣れた手つきでフラッシュ電球を交換する。
それを観ているとバァさん、昔ぃおんなじようなコトしてる光景みたなぁット。
ナンや知らんけど今夜は、昔を想いだすことがよぉけ起きるなぁ、とも。

もぉぅ疲れてしもぉたわ、ワテ。 と小声呟き。
今夜はコレで、サッサトお終いにしたいなぁ、っと想い縄澤に声を掛けようとした。

「縄澤ハンッ!」

後輩刑事が懐中電灯で舗道の敷石を照らし、声を掛けてきた。
バァさん、喋りかけた言葉を飲んで言いそびれる。
縄澤なにかと、視に行こうとして一歩踏み出す。

バァさん、縄澤ノ背中を見ながら若い刑事が敷石を指差すのを、目の隅で盗み見ていた。
若いのが敷石地面を指差す意味、何かと感じ取るとバァさん、
慌てて心が動揺したのを男たちに悟られないようにと、何気を装って縄澤に言う。

「もぉぅこんでえぇんとチャウんかぁ?なぁ 」

被害現場の写真を撮り終えるのを待てずに、ッとの雰囲気で縄澤の背中に訊いた。
縄澤振り返ると、バァさん両腕を腰に当て、縄澤の目を覗き込むような姿勢だった。

被害現場の写真を撮っている縄澤と若い刑事を如何にかして、早く帰るようにしなければ。
今夜、苦労して色々と絵空事を描いたのが無駄になる。

何とかしないと・・・・・ッチ!

ット、バァさん心で舌打ちすると、コレじゃぁカキやん(某倶楽部のチーフ)の真似事やでッ!
我知らず想わずなで、バァさん自然と含み笑いをしてしまう。

「バァさん、ナニが可笑しいねん?」
「ナニがて、唯のヨッパライの騒動ごとやのに、エライ念入りなんしますんやな想うたからやないか 」
「その、念入りなんせんかったら、後でワイらが下手打つがな、違うか?」
「そらぁそやなぁ・・・・・」
「なにかぁ?あんたぁ、ワイらが念入りにしたらなんぞ困ることでも在るんか?」
「ぇッ!ナッなにもあらへんわいな 」

バァさん想わぬ優しげな、縄澤の猫なで声のツッコミに驚き、返答に詰まる。

「ところでなバァさん、ナンや聴かなんだか?」

縄澤、キッチリ無表情な能面顔して、バァさんの顔を透かし診る窺い言葉。

「なにおや?」
「聴いたヤツがおるんやけどな 」
「・・・・なに言いたいねん 」

縄澤、バァさんの質問に答えず、暗い眼差しで見つめてくる。
ッデ、目線をバァさんの顔から逸らさないで、おもむろに上着の懐に手を入れた。

「ぁんたッ、ナにしますんやッ!」
「なに虚(ウロ)ってるんや?」

縄澤、笑わない眼で、口元をほころばせながら喋った。

「ナッなんもないがなッ!」

縄澤、ニヤついた顔をバァさんの面に近づけながら懐からユックリと手を抜く。
指の先まで細い針金みたいな鋼毛な黒毛で覆われた手には、煙草の箱が握られていた。

「チャカでも出す想うたんか?なッ!」
「想わんわッ!」
「ホナ、ヤッパかぁ? なッ?」

バァさん、再び言葉に詰まりなんと言おうか迷った。
縄澤、益々大きな顔を近づけてくる。
バァさん自分の心が怯んでくるのが判り情けい物、胸イッパイに広がった。

「縄澤ハン、血ぃでっせ 」

マズ、縄澤の首だけが、後輩の声がした舗道を見ようと後ろ向きになる。
バァさん、必死で堪えていた縄澤の視線の呪縛から開放され、ユックリト息を吐き出す。
縄澤の躯、左足を軸にして踵を返す。
上着のポケットを弄りながら縄澤、後輩に向かって歩く。

バァさん、意識と躯がスッカリ疲れてしまい、荒れた店先に椅子も持ち出し座った。
刑事ふたりは互いの首を、懐中電灯に照らされた敷石寸前まで近づけ、
小声で話し合っていた。

縄澤、地面を観たままで喋ってきた。

「バァさん、コッチに着てか 」
「なんやねん、もぅシンドイがな 」
「済まんけどな、コッチ着てんかッ!なっ」

仕方がなかったから立ち上がると、疲れ過ぎたのか本当の眩暈に襲われた。
突然、夜を観ている視界に星が飛び交い、直ぐに真っ暗になりかけたので、
慌てて両の手で椅子を弄り触って、ストンっと腰を椅子に落として、座り戻った。

「アカンッ!」

バァさんの悲鳴に男ふたり、同時に顔を上げバァさんを観た。

「どないしましたンや?」 若い方が不思議そうに。
「ナンや、顔色わるいでッ!」 古参刑事が、顔に似合わん心配声で。
「立眩みやわ 」
「なんやそぉか、ホンマニ心配させなや、ぉい、手伝ぉたり 」

若い方がバァさんに近づき、バァさんの後ろに廻って両脇に手を添えて立たせた。

「アンタぁ年寄りを労わらんのんか?」

バァさん縄澤に向かって、恨めしそうな声で訴えた。

「ァホかッ! 冗談やないで、あんたがそないなもんで参るかいな 」
「ウチかて女なんやで、ァホにしないなッ!」
「ゴチャゴチャゆうてんと、コッチャ来いな 」

若い刑事が、バァさんの腕を握って付き添うのを、肘を振って断り歩き出す。
歩きながらバァさん、縄澤の尋問にどないして言い逃れしようかと。

『コイツはホンマニ厭らしいぃヤッチャッ!ダボがッ!ボケがッ!クソっが!死に晒せッ!』っと。

一歩進むゴトに、壊れてしまいそうな心で、一言づつ毒突゛く。

「バァさん、儂が憎いわなぁ 」
「ぁあッ!モノゴッツ憎いでッ!」

縄澤、ヤッパリなぁと頷き、視線を地面に戻しながら訊いてきた。

「そぉか、ホンデ此れな血ぃやろ?」
「なにがや?」
「よぉぅ観んかいな此処 」

懐中電灯を促すように揺すり、明かりで地面の敷石の継ぎ目を照らす。

「ワテ、目ぇ悪いさかいに見えまへんなぁ 」
「バァさん此処、あろうた(洗った)んか?」
「ヨッパライが反吐はいたさかいにな、汚いさかいに水流したんやで 」
「ヘドぉ吐いたぁ・・・・」

っと、縄澤が怪訝そうな声をだしたので、バァさん背筋が寒くなった。
なんや、なにがおかしいねんッ! っとバァさん必死でナニも感じない風な顔作り。

「あんなバァさん、ヘド吐き戻すほどのヨッパロウタ人間が、コナイニ暴れられるんかッ?なッ!」

縄澤、顎をシャクルようにしながら喋り、周りの嵐の跡のような有様を示した。
その声の静かさ、犯罪容疑者の胸の中で、決して言い逃れが出きるものかと。
言い聞かせるような喋りかただった。

バァさん弱気に心が遣られかけ、ヤッパシぃ、ソロソロ罰が当たる頃合なんやろかなぁ、っと。

「ワテなぁ、被害者なんと違うンカァ・・・ぇッ!」 

突然、バァさんを見上げる縄澤の顔が明るく照らされた。
バァさん、振り返ると白タクが少し離れた舗道に乗り上げかけていた。
ッチ!ァホがッ!帰ってコンでえぇのにッ!ダボがぁあッ!

ドアが勢い良く開き「 バァさん、お礼にぃイッパイ呑ませぇやッ! 」

っと言いながら白タクから降りた運転手、バンッ!と派手な音させドアを閉め、
此方に歩きかけたら、縄澤らふたりの刑事に気がついた。

「ぁッ!旦那ぁ・・・・」
「ナンや、儂が居ったらアカンのんか、コラッ!」

縄澤、羆が獲物を狩るために潜んでいた藪から出てくるような感じで、ユックリト立ち上がった。

バァさん、もぉぅ!どないでもせんかいッ!
焼け糞気分、満杯やなぁ! アカンわっ!如何にもならんなぁ、っと。
それでもバァさん、俯き加減で如何にか為らんもんかと必死で思案。

「ぁッ、逃げよるッ!」

若い刑事の大声でバァさん、顔上げると運転手が白タクのドアを閉めるところだた。
直ぐにエンジンが唸り、車はバックで国鉄駅方面に逃走し、それを後輩刑事が走って追う。
車はロータリー辺りで急停車、変速ギアを前進に叩き込だ、ギアが噛み合う金属音が響いた。

アクセル全開で、タイヤ鳴らして急発進ッ!

車はそのままヘッドライトモ燈さないで駅前大通りを北に向かって、お城方面に走り去る。
追っていた若い刑事が、肩で息を喘がせながら戻って来るのを、少し離れた所で縄澤が迎えた。
バァさんが観ていると縄澤、後輩の肩に腕を回し耳元で何かを喋っていた。


「バァさん、ヤッパシなんぞ聴いたんと違うんか?」
「ワテがナニ聞きますねん 」
「サッキの車なぁ、誰かを此処で乗せたんとチャウんか?なッ!」
「あんたぁ、ナンデそないにワテに訊きますねん、なぁ?」
「バァさん、アンタしかおらへんさかいや 」
「ワテぇ?がぁ、ナにしたゆうねん、なぁ?」
「撃ち合いがあったゆう一報が入ったんや 」

「ぇッ!・・・・」

バァさん、息を呑んでしまいました。

「夜行の貨物列車の運転手が、此処の駅を過ぎて直ぐに発砲の光ぃ観たゆうてな 」
「何時ぅ?」
「列車の運転手が次の駅で停まったときに、コッチの警察に連絡しろゆうてなぁ 」
「・・・・ほんで?」
「儂らが此処に来ようとして署を出かけたら、バァさん所でヨッパライ騒動やろッ偶然か、なッ?」

「ナンゾの見間違いちゃいますのん?」 

「違うな、その人なぁ戦時中に向こうで(大陸で)満鉄の汽車の運チャンしてた人でな、夜中に高粱畑ぇ走ってたら、よぉぅ馬賊に襲われてたそぉな、警備で乗車してた鉄道守備隊との撃ち合いを何遍も観てるさかいに、絶対にぃ間違いないゆうてるそうやでッ 」

バァさん、嘘は吐けば吐くほど、ドンドン深海に嵌まって、沈み込むなぁ、っと。

「血ぃ、誰のんやねん? なッ?」

小声で訊いてくる縄澤の顔、暗かったけど想像できるなぁ、っと。
キッと、地獄の閻魔サンみたいな、お顔ぉしてますんやろなぁ、っても。


バァさん、ホンマニ忘れた頃にぃ、罰は当たるもんやわっ!ッテ。





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