【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

キチガイ マッハ

2006年08月29日 12時12分21秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 
  



 夜の暗闇は、人を無口にします

冷たく醒めた黒色闇が 排気音と共に後ろに
無灯火セダン。 勝手知ったる細い裏道を選んで走ります。
車の窓は全開にしていました。
窓より流れ聴こえる音を 耳で嗅ぐためにでした。 
エンジンの排気音 それ、妨げようと。

 ヘッドライト消し 路地裏を走ります。

この季節 吹き込む風は冷たさが でした。 



「あのボンは 何処の出なんや! 」 爆音と渦巻く風に逆らって 運転席の真二が
「どこって? 」 上着の両襟をキッツク合わせながら 助手席の自分
「お国の兵隊さんやったんやってねぇ 」 赤い髪の毛逆巻かせ 後ろの席から女が
「・・・・・へっヘイタイってぇ歳 なんぼや つねぇ・・・ 」

「北の方かぁ? 」
「知らん 」
「聴かないよぉ 」
「そぉかぁ 」

「ちぃふっ わしが帰ったらな礼ぃせななぁ・・・・」
「!・・・・ぁ、ぁ~ 」

自分 何時頃になる話しなんかなぁ? っと。
急に悪酔いじゃない、乱れ脈拍がぁやった。

「ぅち、待ってるよぉ~! 」

爆音の中に 静かさが迫って来ていました。
心、まさか と乱れていました。



真二っ アクセル踏み込みよったっ! 
フロント硝子の 黒い影の裏町並みが 後に素っ飛んで逝く。
真二 爆音で聴こえない唸り声挙げ 奥歯噛み閉めもって 

「そっか おぉきにやなぁ 」 尤 アクセル !

横向いて真二ぃ視ると 両眼を大きく見開き 噛み締めた上顎で唇 
鼻にくっつきそうな位捲くれていた。 白い歯が覗けた。

自分 ダッシュボードに両手ついてました。 必死でっ!

「此の侭ぁ ドッカに逝けたらぁえぇのんにねぇ・・・」 阿保ぉ女がぁ!
 
眼 瞑らんと必死で開いていました。
瞑ったら何かに負ける っと思って。
巻き込む風が 目玉ぁ乾かしてもぉ やったっ!

フロントウインドウで 急激な両側に流れる暗闇景色
乗ってる車を呑み込む様な 錯覚がぁ!


時折、急ブレーキの叫び
躯ぁ横に持ってかれそうにぃ!
両手の肘っ 崩れそうにっ!
フロアー絨毯 突っ張る脚で捲くれてました

街灯の明かりが 一瞬で閃き輝いて ドッカニ!



突然! 嘔吐感。 
腹の上辺あたりから喉道に 登ります。
窓に身を乗せました。 車体が右に回り込みます。
自分っ 躯がぁ! ベルトを捕まれる感触っ!

罵声がらみの 「こぉちゃん! なにしてるんっ! 」 女が

前の席の間から女が半分身を乗り出して ベルトを掴んでました。

今度は左にぃ・・・・ 吐いた。 我慢できしません。
逆噴射止めれません。 喉が焼けます 胃液で。
風で吐瀉した未消化物が後ろの女に 悲鳴っ! 
まるで男の唸り声やった。


真二、甲高い笑い声でした。 
アクセルを緩めたのでしょう 風が穏やかになりました。
自分、釣られて一緒にぃ 笑いました。
嘔吐感なくなるまで吐いたら 胸の苦しさは消えていました。

赤い髪の女 後ろで毒突いてました。
「こぉちゃん、あんた殺すさかいになぁ 」

「ぇ~よ。 今かぁ 」
「全部済んでからやぁ・・・・ 」

「そぉかぁ たのむなぁ 」
「ぅん・・・・ 」


 突然 っ! 夜が輝きました。


後ろから 明かりが襲ってきました。
振り返ると、瞳を遣られました。 眩しさで !

「真ちゃん 逃げなっ! 」 女

真二が 加速する間もなくでした。
2サイクルのバイクが 車を抜き去りました。
川崎の キチガイ マッハでした。
焼けたオイルの匂い 窓から青い煙とぉ・・・やった。


キチガイ、少し離れた前方でドリフトして 横向きに停車しました。
自分 白バイと違う・・・・っと、安心しました。
510車体が急激に前のめりで沈んで 単車ギリギリで停車しました。

    
自分 またぁ厄介なんがぁ っと。



早く 終わらんかぁ! って




             

夜は 悪友

2006年08月26日 11時47分03秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 
   


真二が言いました
「つね!っ 何でお前が此処に・・・・!ぃ 」


赤い髪の女 っの髪型ぁ 自分らが日頃から 
お洒落なモジャモジャ頭 っと呼んでるアフロに近い髪でした。
倉庫の入り口付近で女の髪の毛 背にしている後ろの街灯の黄色い明かりを透かし 
 細い髪が 綺麗に光ぃ輝いてぇ・・・やった

顔は影になってたけど 何か秘密を分け合ってる時の様に
ニヤツキ雰囲気顔 やった。


女が真二の顔の前で 掌をヒラヒラさせて
「おかぁはんに 聴いた 」
っと、真二が言い終わらないうちにぃ

「おかぁはんが言いましたんかぁ? 」
ビンの口 服の袖で拭いながら自分 聞きました。  

「ぅん、これっ持って行ってくれるかって 」

赤い髪の女、自分が手に持っているボトルから 視線離さなかった。
持ってきた栗色の風呂敷包みを ボトルと引き換えにぃ受け取る
直ぐに一口含んだ。 顎が上向いて 喉が波打った

詰めた息ぃ ゆっくり吐き出しながら
満面の笑顔で満足げに 言いました 

「これなぁ 呑みたかったんよぉ・・・! 」

 直ぐに 二口目をぉ 浴びます 



「旨いな 」 真二
「塩が丁度やねぇ 」 つね
「なんやぁ海苔が多過ぎへんかぁ 」 

海苔で巻いた 丁度の大きさの 握り飯です。
最初の一口が 喉を通る時自分 啼きそうになってしまいました。
喉に飯が詰まりそうになった、慌てて一升酒瓶の首ぃ掴んでぇ
コルクの栓 前歯で抜いてやった。

ウイスキーで焼けて荒れた喉壁を 
酒が優しく撫でて 降りていくのが感じられた。

「おかぁはん、気ぃ遣ったんやなぁ 」 自分言いました。

三人 っ埃っぽい土間コンにしゃがみ 酒屋の倉庫の奥の暗闇見詰めもって
何も言わずに 唯ぁ黙って一人二個ずつ食べました。
オカズハ添えられていた 沢庵です。
日本酒がお茶代わりで 三人で回し飲みしもって 胃袋に流し込みました。




「つね お前帰れ 」
「ぇ! なんで なんで帰らなあかんのん なんでっ! 」
「ぁほっ!さっき真二さんがあんたぉ庇ぅたん 意味が無い様になるやろがぁ 」
「これ 持ってきたんうちなんよっ そやのに何で帰れって言えるんっ! 」

車の屋根を続けざまに叩き 運転席の窓から顔 覗き入れて
悔しそうに口から唾ぁ吐き飛ばしもって 言います。

「そやっ ちぃふの言うとぉりや 」
「そやけど うちら友達なんとちゃうんかっ? 友達ぃちがうんかぁ! 」
「ぁ!なにするねん手ぇ離せ!っ 」
「ぃっぃややっ! 真ちゃん、ぁっ、あんたこそぉ離しんかぁ~! 」
「が!っ! ぃいたたっ!ぁぁ・・・こぉじなんかせぇやぁ~! 」
「なんやねんなぁ もぉ! こらっ!つねっ なにするんやっ! 」


少し離れた黒い闇の中から 聴こえてきた。
「いっしょやないと今から警察に自首したるっ! 」


先程 車のドアを挿んで内と外 唾の掛け合いみたいな遣り取りの最中に
恕作さ紛れに女が窓から手を突っ込み 車のキーをっ!
真二が気づいて 鍵を摘んだ手を握り掴むと 
口紅色濃く塗りつけ大きく開けた口が 真二の手首に噛み付いた
自分が気づいて助手席のドア開いたら つねちゃん

 闇に駆け込んだ


「!ったくぅ ぁのぉぅあほ!っ がぁ 」 

右手首を室内灯に掲げ もぉ片方の手で撫でながら言いました。

「ほんまに あほがぁあっ! 」 自分、少し笑いを堪えてぇ・・・
「笑ってる場合とチャウでっ どないするんやこぉじ 」
「どないするってぇ   どぉもなぁ・・・ 」

自分この時 『ぇ!わいも行くんかぁ? 』 っと想いました。
まぁ其れなら其れでもえぇけどもなぁ、そやけどわい役不足と違いますんかぁ?

 って 考えました


「・・・ったくぅあいつ何考えてるんや 」
ティッシュで手首の口紅を拭きながら

ルームライトで綺麗に湾曲並びの 歯の喰い込んだ痕がぁ・・・やった。

「ほんまに自首するつもりなんかぁ?あの阿保ぉわぁ 」
「自首はせぇへん思うけどぉなぁ・・・なっ つねちゃんなぁ・・・ 」
「なんやっ? 」
「自首したらなぁ真二さんを守れん想うてるで 」
「わしぉ? 」
「そやっ あんたをぉや 」
「なんで? 」
「店でつねが遣ったやろぉ 」
「ぁぁ? 」
「あれなぁ たぶんあんたを守ったつもりなんやで 」

「  ・・・・! 」 小さく息ぃ呑んだ
「・・・・?・・ 」 

 吐き出しもって 「それで? 」
「あんたが捕まればなぁ あいつぅそれがなぁ・・・・ 」

「そぉかぁ・・・・ 」

暫くは 闇の遠くからパトの緊急警報音しかぁ・・・

 
運転席のドアが開いた 
車から降りた真二が 暗闇めがけて小さく叫ぶように言った。

「つねぇ 来いっ! 」

近づく赤い髪の女 声を堪えて啼いていたのか 夜目にも顔の化粧はもぉ・・・!
 
「つねちゃん 行こかぁ 」
自分 後ろのドア開けもって言いました。

「こぉじ 道具ぅ忘れてたなぁ取って来るわぁ 」 倉庫に戻りながらぁ

横目で真二を窺うと、目頭がぁ薄っすらぁ・・・・かもぉ・・・やった



車はハコのセダン。 黄色の510SSSでした。
若ボンの愛車でした。

「よぉ貸してくれよったなぁ 」
「ぅん、公衆(電話)からなぁお願いしましたぁ 」
「ほぉかぁ 」

 煙草の煙 濃密充満してました。

「あいつ 禁煙してるのと違うんかぁ?匂いキッツイぞ~!採れへんやろなぁ! 」

泣き女が 何処かにドライブに往く途中みたいな嬉声で 「してるよぉ 」 っと
 
「ぇ!そぉなん? 」
「ちぃふぅ 下のモンの事ぉわからへんのん? かぁ・・・・ 」

っで、息を大きく吸う気配が
吹きかけられました、耳の後ろから多量の紫煙がぁ

「・・・・チ! 」


無灯火の 裏道限りの暗闇ドライブ 
三人 不思議と酔いは来ませんでした 



自分 終わりにしたかったです


 早く




                            

暗闇宴会  

2006年07月20日 02時23分53秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 
   
 

酒類問屋の二代目若大将が言うたとうり シャッター 可也の重さでした。
奥歯を噛み締め、オモイッキリ息ぃ詰めて、やっとの力で引き上げ開いた。
此処ら辺りでは可也ぃ名の通った 老舗の某酒問屋のです。 
戦前から一度も建替えなしの、いかにも古色蒼然とした赤煉瓦壁造り倉庫
其の両開きの鉄扉っの前に、後から防犯を増す為に取り付けられた

 今では古いタイプになってしまった 電動シャッター


電源が入っていない為に、動きが渋く此れでもかと重たいシャッター 
っを引き上げる時っ、今頃になって酔いが ドッカン!っと追いついて来た。
其れでも!、ヤット!っ の思いで引き上げる。
っと、赤い錆色が表面を覆った、古い鉄の扉が現れた。



倉庫の敷地の外から照らす街灯を背に 肩で大きく息継ぎしながら 
闇を透かして手元を覗き視ると、現れた鉄扉の 鉄製の太い横棒閂にぶら下がる 
時代劇の牢屋のシーンに使う小道具みたいな 昔風の大きな錠前っが。

動悸も激しく乱れた息なんとか殺しながら 手探りで掴んだ錠前に
預かっていた此れも可也な古さの鍵を 指先で鍵穴見つけて差し込みました。 
鉄扉。シャッターみたいに駄々コネナイデ錆び付きの軋み音も無く
素直に開きました。 人一人がなんとか抜けられる位に。

酒屋倉庫の独特の、色々な酒精と黴臭さ、それに埃っぽさが混ざった匂い
っが、倉庫の中に突っ込んだ 自分の顔を舐める様に襲ってきました。


両開きの鉄扉 大きく開け放つと、斜めに差し込む銀白色月明かり
倉庫のコンクリ土間に降り注ぎ、土間を白く浮き上がらせます。
壁際に、大瓶ビールの木箱ケースや、空の日本酒の一升瓶が詰まった木枠箱
何段にも積み上げられ、その空瓶から酒精の匂いぃ益々とぉ

自分っ奥の方で、舶来ウイスキーが詰まってるだろうっな木箱を見つけて、座りました。
息を何とか整えもって 暗闇から表を見詰めます。


此処まで来るのに おかぁはんに借りて飛ばして乗って来た、
可也な年季の入った、荷台のデッカイ仕入れ用の綺麗に良く磨き込まれた
黒色自転車 表にスタンド立てて置いています。

その自転車の二つのタイヤの影ぇ、コンクリ土間に映っています
なにやら此方に向けた 楕円形の形にデフォルメされた影で。

自分、煙草を三本続けて吸いました。暇つぶしに。
吸殻、指先で弾いて表に飛ばしました。
赤く輝く小さな点 クルクル回りながら飛んでゆき 落ちました。
地面で弾むと 線香花火みたいにぃ 火花がぁ ・・・・ !っ 

瞬間輝き火花を観ていた自分 喉ぉ 強烈にぃ乾き続けていました。
煙草のイガラッポイ味ぃ 口の中で暴れていました。
乾いた喉の粘膜には、何かが絡み着いてる様やった。
無性にぃ堪え切れないほど 何かが飲みたかった。

出来る事なら、カリカリに冷えた生のビールがぁ・・・・っと。
自分アホな事をぉ・・・こんなんやったら、小便も絞り出んなぁ・・・・っと。



突然っ聴こえてきました、外の暗さの中から囁く様な声が

「こぉじっ 何処や? 」 って

夜の暗さの向こうは闇雲に 暗さだけじゃぁないねん。
黒色が中身を隠しているだけで 闇の中でしか見えない事もあるねん。

「こぉじぃっ どこやねん!っ 」

土間に ユックリと影が伸び出てきた。

自分っ返事の代わりに 闇の奥にまでも微かに聴こえる様に
口の上顎粘膜を舌で打つ音 微かにぃ。其の舌打ち音が目印合図でした。
真二、街灯の明かりを背に、窺っているようでした。
その合図に向かって 酒屋の倉庫の暗闇に入るの 

 躊躇しました。


思わず何かに縋りたい気持ちがっ やろかぁ真二 肩越しに後ろを振り返ると
背後の街灯 電球の芯切れかけ、点滅してた。
消えかけ街灯 電燈の笠斜めに傾いで錆びが浮き 蜘蛛の巣に覆われていました
此の時期にしては気の早い夜虫ぃ 纏いつき飛んでいるん 見えた。

自分、こないなぁ時期に虫かぁ っと 想いました。

視線をぉ倉庫の入り口に戻すと 真二の立っている影 動いた。

「こぉじっ 気ぃ使わせてわるかったな 」
「ぇえよっ 気にすななぁ 」 

真二が上着の懐から 煙草の箱ぉ取り出すとき、
左の手首に嵌められた手錠、月明かりを金属輪っかで冷たく反射し

 ぶらぶら揺れて 吊り下がっていた。 

 影の中に白い歯が見え 煙草が銜えられた 


「 ・・・・えぇかぁ そぉかぁ 」
「 ぅんっ えぇ 」
「 こぉじぃ ・・・・喉っ乾かへんかぁ? 」
「 ぁあ、乾いたなぁ ・・・ 此処やったら呑み放題やでっ 」
「 そやなっ 呑もかぁ 」

っで、二人で手探りもって倉庫の中を探検
暫く探して木蓋が開いてる 洋酒の木箱からでした。
見えないけど銘柄は、化粧箱の感じと箱から取り出した瓶の形から 
たぶんスコッチの スイングかと。

土間に瓶を そぉぅっと置いて首を摘んで傾け 手を離すと瓶
暫く揺れ動き続け 中の琥珀色液体 青白色の月明かりをぉ・・・やった。



「この酒ぇ あんまし旨いことないなぁ 」
何度か、二人の間を瓶が行き来してから、自分が言いました。

「うんっ女ぁ口説く時にぃ面白がらせるんやったらえぇ そんな酒やでぇ 」
「 そぉやなぁ 」


自分ら 立て続けに煙草を何本も吸いました。酒の肴にする為に。
酒瓶っ幾度も二人の間で手渡しあいました。喉の渇きを癒せるとぉ・・・。
酔い、なかなか巡ってはきてくれませんぅ ・・・。

お互いにぃ無言でぇ ・・・やった。

本題に入るのが どうかなぁ? って

遠く近くで パトカーの甲高い悲鳴がぁ



タイヤが転がる音がした 二人顔を表の暗闇に向けると
エンジンを切って、惰性で走ってきた明かり消した車が 停まった
ブレーキの赤ランプ 辺りを赤色に染めた

ドアが開くと 室内灯が点いた。
見覚えのある髪型が見え 直ぐに天井に手が伸び明かりが消された。

「なんであいつがくるんやっ! 」 真二
「知らんっ ? 」 自分


此れじゃぁ夜が益々 ヤヤッコシクなってくるなぁ ・・・っと。
自分っ酒精ボケした水銀頭でぇ そぉぅね想いました。



       
    

心は裏腹でした

2006年06月15日 02時07分01秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 
   


 【 迷惑 】           


おかぁはんの店の裏通りから 車の止まる音がして、クラクションが短く一度
暫くして、開け放たれていた裏口から おかぁはんの顔が。

「あんたぁ 若社長はんにアンジョウ言うといたからなぁ 」

 自分 おかぁはんと入れ違いに 外に。

出掛けに 「 ぅんっ おぉきに 」 っと。 


路地裏道 真夜中暗さが宵の口のケバさ 隠していました。
其処に、ヘッドライトの灯りを消し停車している 独逸製高級セダン 
夜の暗さの中でもボディの輝き、艶めいていました。

場末の路地裏に
獰猛な獣が蹲る様に、場違いな感じっで 停まっていました。

自分近づくと 運転席のブラックフイルム貼られた窓 
微かなモーター音と共に下がります。

 自分、窓から首ぃ突っ込む様にして 小声で言いました。

「たいしょお(大将) こないなぁ晩い時間に無理言うてぇ すいません
 カンニンっでっせ 」

「気にすなっ あいつにはよぉ世話になってるさかいになっ ええっ 」

 酒屋の若大将 囁き喋りの息に酒臭さがでした。

「おぉきにですっ 」

パジャマ姿の酒類問屋の若大将 助手席から鰐革手提げ鞄取りあげ
中かを手探りで某ブランド物のキーホルダー 指に引っ掛け取り出し 
鍵を外して此方に差し出しました、倉庫のシャッターの鍵を

自分受け取りましたっ 摑まれました!っ 手首をっ! 
蒼白い顔の若旦那 受ける印象からは想像出来ない様な力で、
自分の手首 強く握ってきました。

「真二はんにぃゆうてなっ 我慢しぃやぁって 」

 自分の手首っ 無理やり上下に揺すられっ でした。

「はい 伝えますわぁ 」

 嘘ぉ 言いました

「はよう往ったりぃ 」
「ホンマにおぉきにでっせぇ 」

「あっ!シャッターなっ電動やけどなっチョッと重いけどガンバって自分で開けやっ 
 電気入れると大きな軋みぃするさかいにな 近所のんが間違ぁて警察に泥棒やって
 言うさかいにな 手で開けた方がええでっ 」

「はいっ そぉしますぅ ホンマにおぉきにぃ~! 」


車っ 灯りを消したまま静かに裏通りを表道まで 
ブレーキランプが一瞬 輝き 右に曲がって視えなくなりなった。


「おかぁはんっ 今度真二から連絡あったら 倉庫で待ってるゆうてなぁ 」
「  うんっ、ちゃんと言うとくっ・・・・・こぉちゃん、ごめんなぁ 」
「ぇえよぉ 忘れんとゆうてなぁ 」

自分っ 酔っ払いたかったです。
けどぉ、街のアッチコッチから聞こえるパトカーの狂った様な 甲高い鳴き声
其れが 自分を追い立てる様に聴こえ 今宵始まる出来事への想いが

 自分の背中を 押しました。


『 今夜ぁ なんで皆はんワイの事ぉ 名前で呼ぶねんっ ックッソォ! 』

 叫びたいのを堪えて 夜の空 振り仰げば

   月ぃ 銀色でした。


 今夜 自分の心ぉ メッキリ老けてました

      

  
此の少し前 酒類問屋の大旦那におかぁはん、夜分に無理な事を電話で言ってます。
 
『今までの付き合いやろぉ・・・・・うちの真ちゃんなぁ・・・・ほんでなっ
  どっかに匿えるとこぉないやろかぁ・・・・ 』

自分 茶碗酒ぇ呷りたいのを我慢しぃ 聞き耳立てていました。

押し殺した囁き声で 「ぇ! 息子はん 来てくれますんかぁ! 」 って、おかぁはん。



自分っ 茶碗酒呷りながら
『ぁ!っ また迷惑が生まれるなぁ・・・ 』 っと。 でした





                           

夜の暗さがぁ

2006年06月04日 11時17分18秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 
  

 【 おかぁはん 】

おかぁはんの店の硝子戸 深夜の此の時間 
キッチリと内側から鍵が掛かり、堅く閉じられてました。

見慣れた黄ばんだ吊るしカーテン 中の灯りで明るかった。
だから戸を叩きました 出来るだけ静かに。
直ぐにでした、カーテンに人の影が浮き上がり揺れ 狭く開いた隙間が。
外を窺うように覗こうと狭く開いたところから 射る様な鋭い眼差しが

 此方を睨み 閉じられました。

暫くして再び開いた隙間 メモ用紙が現れ黒色マジックで書き殴り文字

 『裏から 』 っと。

冷たい木枯らしみたいな旋風 吹き荒れる路地裏に回る時も聞こえていました。
パトカーのサイレンの音、其処ら中から湧いていました。 
雑居ビルのネオンや飲み屋の赤提灯 其れに路上の置き看板も消え
人気の無くなった路地裏 
薄暗さと、ゴミ集積場のナイロン袋から出る生ゴミの匂い

 辺りにイッパイ でした。



「真ちゃん さっき来てたっ 」

っと、差し出してくれはったコップ酒 自分一気しました。 

「っで 今何処やっ 」
「あれ渡したでっ 」
「ぅん それはえぇっ けどっ何処やねん 」
「誰にも言うなってっ 」

 自分空のコップ カウンターに叩きつけ怒鳴りました。

「何処やっ言うてるんやっ! 言わんかいっ! 」 っと。
「   ぇ! 」
「おかあはんっ 何処やってっ! 」
「 何処って ぁんたぁ ! 」

おかぁはんっこっちの瞳ぃ 引きっ攣った目ん玉で睨みつけてきた。
コッチも睨み返す。お互いっ引くに引けなくなった。
自分っ あかんっシマッタ っと想ったら おかぁはんの目尻に涙染みが
っと思ったら直ぐに溢れ出しました 瞬きしない眼に。

 尋常ではない程に。
 
「おかぁさんぅごめんなぁ! 堪忍やでぇ! 」
「・・・・ぅうんっ えぇ!よぉ 」
「キツぅゆうてゴメンなぁ! 」
 
 自分っ 初めて見ました
 
強くて逞しい気丈夫な女の人のぉ 弱い姿を。
自分っ 悔やみました。 阿保でした。

おかぁはん頬濡らす涙も拭かんと カウンターに置いてた一升瓶の首掴み 
自分が手に持っていた空のコップに 傾けてくれます。
コップの縁で 細かく震える瓶の首 カチカチと音がでした。
自分 ナミナミト注がれた酒ぇ零さない様にして スツールにオトナシク座りました。

カウンターの中に戻ったおかぁはん
おでん鍋の載ってる瓦斯台の火 点けもって聞いてきます。

「あんたぁ お腹空いたかぁ 」 っと
自分言います 「うんっ 見繕うてかぁ 」 っと

おかぁはん 鍋の蓋取ろうとして手を伸ばした時 
 割烹着の前身ごろ襟 開きました。
其処に 胸にきつく巻いてる白い晒 覗き視えます。
けどっ、観える筈のものがっ! 視えませんでした。
 
「真二に渡したんかぁ 」 っと、喚きたいのを堪えて 静かに聴きました
「渡したよぉ そいでえぇんやろぉ 」
「 ・・・・あぁ、えぇっ 」
「なんやっ? どないしたん? 」
「おかぁはん、真二っ 何処や! 」
「もぉえぇやんかっ あんたが気にせんかてなっ 」
「おかぁはん、命ぃ渡してどないするんや? なぁ! 」
「 えっ! 命ぃ? 」
「  おかぁはん、胸の包丁ぉ何で渡したん? なぁ! 」

おかぁはんっ 何かを言いかけたら鳴りました。

 カウンターの隅の 公衆赤電話のベル音が

店の中の空気ぃ 急に密度が薄くなりました。
自分、薄過ぎる空気で息がぁ!


自分 おかぁはんよりも早く受話器 掴みました。

「おかぁはん、こぉじぃ来たかぁ? 」

真二の声 落ち着き払っていました。 
でもね、微かに悲しみが込められていました。

 随分とね


自分、思わずに 「兄貴ぃ 」 っと言いそうでした

だけどぉそぉ言ったら 真二と自分の二人共ぉ 
もぉ 後戻りが出来そうに無いので
 必死で堪えました

 涙もぉ 奥歯 噛締めてぇ堪えました  
  

     
        

夜の酩酊逃走世界 !

2006年05月24日 01時11分01秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 
  

  【 逃走 】

「あの二人はなぁ 兄妹なんやでぇ 」
「ぇ! そぉかぁ やっやっぱりそっそぉなんかぁ! 」
「うんっ 永い事離れ離れやったけどぉ 
      やっと逢えたらぁなぁ、なさぬ仲のふたりやったなぁ」

っと おかぁはんっ 言い終わると茶碗酒呷りました。
自分 どぉ相槌を打っていいか判りませんでしたから おかぁはんと同じ様に
自分の湯飲み茶碗 呷りました。

意識の底の酩酊は、もぉトックニ胸の中で広がっていました。
酔いは酒ではなくって、遣り切れなさの想いが広がるからでした。

  

今夜の騒ぎを見届けた自分たちは、狂乱的大騒ぎの店から出る時 
真二に言われて赤い爪が案内してくれた、
店の奥の従業員の女の子達が着替たり 休憩するロッカールームにある裏口から 
 暗い路地裏に出ました。
裏口のドアは最後に 真二が内側から閉めました。
ドアを閉めるとき、真二とつねちゃんが言い争います。

「えぇかっ ぜんぶわいがしたんやからなっ なんも言うたらあかんぞっ! 」
「真ちゃんっ! わてが刺したんやでっ自首するんはわいやんかぁあ!ぁ 」
「アホッ! 言うなっ! 言うたら殺すぞっコラッ! 」

真二の眼つきと面顔、 何かの覚悟の気持ちが表情に表れていました。
其の覚悟の為 目尻が吊り上って頬 引き攣っていました。 

 そやけど口元は、微笑んでいました。

「真ちゃんっ ゴメンなぁ~!カンニンやでぇ!! 」
「えぇっ 分かってるさかいに気にするな なっ 」

ドアっ 金属同士がぶつかる音響き 閉まりました。
赤い爪 暗闇路地に吸い込まれる軋る様な嗚咽と共に 鉄の扉に縋ってました。

それから暫くすると パトカーと救急車ののサイレンや
警察関係の人々の怒号が表でし始めました。
自分たち、表に回って野次馬の群れに混ざりました。

つねちゃん、自分の背中に顔を伏せて泣いてました。
自分の背中 涙で濡れ続けました。 
堪える事無く赤い爪 何時までも啼いていました。

真二さん店から連行される時 自分達の方を観ました。頬ぉ蒼褪めてます。
其の後ろから清美が 婦人警官に肩を抱かれる様にして連れられていました。
顔 白いハンカチで覆われていました。
自分、もぉ何も考える力も失せ パトカーの屋根でクルクル回る真っ赤な回転灯 
ボンヤリ眺めるだけでした。

 其の時っ!
 怒号が湧きます 警察車両の群れの向こうから 突然っ!

警官や刑事らしき人々が何かを叫び話ながら一つの流れになって 
 何かを追う様に表通りを走ります。

「逃げたっ! 追わんかい! 」
「路地やっ 其処のやぁっ! 」

つねちゃん、自分の背中にくっついて小声で言いました。
「ぇ! 真ちゃん逃げたん? 」
「!っ するつもりなんやあっ! 」 自分マサカと思いながら
「やぱりかぁ ! 」

つねちゃんと自分 慌てて警察の群れを追いました。

真二っ 勝手知ったる夜の路地裏に逃げ込みました。

自分 真二が往くのはあそこしかないなぁ 
っと 走り出しながら思いこぉ考えました。

 止めん方が えぇんやろかなぁ  っと。


 永い夜が終わる始まりでした



「かきちゃん あんたかて人ぉ殺したい想ぉうたことないんかぁ 」
おかぁはんが細腕で一升瓶持ち上げ こっちの茶碗に傾けながら聞いて来ました。
「ぉかあはん あるでっ なんぼでもあるがなっ 」
自分茶碗に細く注がれる酒を視 寝ろと誘う酩酊を堪えながら言いました。


 夜の硝子戸隙間風の啼き音 やっぱし悲鳴みたいやなぁ ってね
  自分が啼きたいのを堪えて 想いました。


  

    

終わりの仕方

2006年05月17日 02時54分24秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 
  

 【 !っ ロクデナシ 】


おかぁはんっ 一息で呑み干しはった。 
其れぇ 今ぁ呑み込んだ冷酒とは違う何かを っでした。
眉間に縦に深い皺刻み、眼を瞑った顔 正面に向け、
両手で掴んだ湯飲み茶碗 カウンターに静かに置いて言いました

「真二の亡くなったオトウサンはなぁ えぇ男ぉやったけどぉ 物凄いロクデナシやったなぁ 」

自分、相槌の代わりに一升酒瓶を傾けて 空の湯飲みに注ぎました。

「昔なぁ 洞爺丸台風ってゆうのがあったん あんたぁ知ってるかぁ? 」
「 ぃいやぁ 知らんっ? 」
「そぉかぁ そぉやわなぁ 知らんやろなぁ ・・・ 」

暫くは二人ぃ 湯飲み茶碗酒 啜っていました。
自分 途切れた話の続きを待って
おかぁはん どぉ話そうか迷って 


「随分昔になるなぁ ・・・・ 昔ぃ北の方でなぁ ・・・・

  本州と北海道の間の海峡をなぁ 往き帰するのにぃ青函連絡船があったんやぁ
  その青森と函館の間を 洞爺丸っちゅう船が行き来してたんやぁ
  わたしらなっ その船に乗ってたんよぉ
  真二の家族も乗ってた 親子四人でなっ
  わたしらわぁ新婚やったわぁ ・・・・ !ぁ∼懐かしいなったぁ 」

「ぉかぁはん、亡くなった旦はんかぁ ? 」
「  他に誰がおるんやっ! 」
「!ぅ すんませんっ 」

横目でおかぁはん 盗み見したら 
右手で握った湯飲み茶碗 刺す様にジッと見詰めてた。

「あの人なっ 優しかったわぁ! 其れに綺麗な顔してました ほんまにぃ 」
「 ・・・・ぅん 」
      
 っと 返答しました。

外ぉ あんがい強い風っ 吹いていました。
古い硝子の引き戸、風に呷られ揺れ ガタガタゆうてます。
切り込む様に音立てて吹き込む隙間風 何時までも啼いていました。

 遠くでの 何かの悲鳴みたいに




真二 自分の隣に座りました。
自分 今ぁ何故に隣にとぉ・・・・・
奥のボックス席やろぉ っと。
 
「つねちゃん 水ぅもらえるかぁ 」
「ぅんっ 」

直ぐに差し出された八オンスグラスに ナミナミトぉでした。
出し終えた赤い爪 真二の顔から目線を離しませんでした。

「真ちゃん うちになんかぁできるかぁ? 」
「 ・・・・・ なぁんもぉ無いでぇっ どないしたんやぁ? 」
「ぇ! ぅぅんっなんもせんっ 」
「おかしなやっちゃなぁ! なぁちぃふぅ? 」
「ぁ ぇ! そっそやなぁ 」

赤い爪 悲しげな顔でカウンターの中から出て 
店の奥の スタッフ専用出入り口カーテンの中に 消えました。
直ぐに出て戻ってきた時には 何時もの二の腕剥き出し赤いドレス衣装でしたが
首には さっきまでの黒い蝶ネクタイじゃぁ無く代わりに
真紅のリボンみたいな 蝶ネクタイを締めていました。

「真ちゃん 此れぇ似合うかぁ ?っ 」
「あぁ よぉ似合うでぇ 」
「 ぉおきにぃ ! 」

っと、ネクタイに負けないくらいに真っ赤な顔で 言いました。
突然っ 怒鳴り声が聴こえて来ました。
後ろっからっ!  店の中が凍りつきました。

 此の店の客 其々の動きも 

真二っ スツールを後ろに倒しながら 素早く奥に向かって走る
上着の背中捲れて 締めてるベルトが観えてます
其の腰のベルトに挿まれていました 自分がクロークに預けた細く絞った紙袋。

他の見知った顔の カウンターに座っていた客たちも 
真二に釣られて 奥にでした。

自分 加わろうとして走りかけたら、さっき真二が倒したスツールの脚に躓き
オモイッキリ前のめりに倒れ 絨毯に頬がっ!

慌てて起き上がろうと顔 上げかけたら目前スレスレ 
赤い爪の踵の細高い金色パンプス ギリギリ掠めてでしたっ
立ち上がって走ろうとしたら 赤い爪 パンプスを脱ぎ捨てました
履き捨てられた二つのパンプスっ 薄暗い絨毯の上

 別々の方角に飛んで 転がりますっ 

赤い爪の二つの白い足裏と脹脛 遠のきます 
タイトな裾割れドレス 捲くれて綺麗な素足が覗きます。
形のいいお尻の影 揺れていました。

『クッソォ!っ こんなんに負けるかぁ ! 』 っと 

 自分 そぉ思いなが皆の後からでした。 




「物凄い台風で連絡船がぁ沈んだんやぁ∼ 
      あの晩わぁ 人がいっぱい亡くなったんよぉ! 」
「子供の真二さんも乗ってたんかぁ 」

 おかぁはん、口に含んだ酒ぇ ゆっくり呑み込んでぇ 「ぅん 」 って 

「 っで? 」
「真二の二親 そん時にぃ死んでもたぁ ・・・

  わたしらかてなぁモシカしてたら あん時に死んでたかもなぁ
  だからなぁホンマに真二の親が亡くなってしまったって 
  誰もが思ったよぉ そぉ思っても仕方がなかったんやぁ ・・・・ 」
 



薄暗いボックス席っで あの男が清美を殴っていました。
 
「ぉとおさん許してぇ! 」 っと清美が悲鳴言葉で
『なにがオトンやぁ! 』 っと、自分。胸でっ!

振り上げた男の腕 背後から真二が掴みます
 
「なっ なにするんやあっ! 」 っと、男が
「やめて下さい 殴るならわいぉ殴れっ ! 」
「なっなにぬかすかぁ ! 」

後から 勢いで続いてたみんなの脚 急に停まりました。

立ち止まった皆の影の隙間から 覗き見える真二の後姿 
後ろに回した左手が 背中の下側 腰の辺りを弄ります 
ベルトに挿んだ紙の袋を求めて

自分 影を掻き分けて前に出ようとしたら、赤い爪が真二の背後にっ
つねちゃん、ベルトに挿んだ紙袋 抜き取りました。
此方に身体を向け 紙包みを破り中から取り出しました。

 細身のナイフを

此れ、自分が店の若ボンに頼んで誂えてもらた 得物です。
若ボン 趣味でカスタムナイフ作っています。
あの時、キットこんな状況がぁあるかもぉ・・・・・っと。
其れで若ボンにでした。


薄暗い此の店の照明でも 刃物の刃 冷たく光っていました。
切っ先鋭い金属刃物の光を映した つねちゃんの眼も煌いていました。
ナイフの象牙の柄 両手で握り、煌く眼でコッチを見た様なぁ・・・・ ぁ!

 つねちゃん、前に立つ真二の身体を自分の身体で押し退けたっ

躯ごと前のめりに突っ伏す様にでした。
つねちゃんっ ボックス席の背凭れの向こうにっ  

 悲鳴がっ! 清美のっ




「なぁかきちゃん、運命なぁ あるなぁ 」
「 ・・・・・ ぅん 」
「わたしも 真二の家族もぉ あの船に乗らんかったらなぁ ・・・・ 」





                 

深夜倶楽部 閉店間際

2006年05月07日 01時39分32秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 


 【 噂のぉ・・・・ 】

 もぉ とっくに店は終わっている筈なのに っでした。

今からの時間 此処の店には 夜の勤め人さんらが仕事の帰りに寄り道をと
ボチボチと集まって来ます。そして、座るのは殆どがカウンター席です。
お互いに顔を合わせると、今夜はうなずき挨拶を でした。

「ちぃふっ 今日は早いなぁ 」
「あっ マネェージャァはん おはよぉ どないでしたぁ? 」
「ボチボチやなぁ どんなん 」
「今日は自分っ お休みしてましたさかいにぃ店はどないやろかなぁ 」
「 そぉかぁ、大変やねんなぁ 」
「 !っ  はぁ 」

此の人 他所の店のマネージャーさんです。
今まで あまり話した事もない此の方 どぉゆう訳か今夜は 隣に座って着ました。

赤い爪のバァ∼テン。
「マネェジャァ お疲れさまぁ∼ いつものぉ? 」 っと此の人の前に
スワトウ刺繍のコースター っと 小さなクリスタル硝子の灰皿 
 並べながら言いました。


「ぅんっ ちぃふぅにもやってかぁ 」
「えっ、ぁ、すいませぇんぅ 」
「ちぃふ なんかワシに出来る事あるかぁ 」
「ぇ、ぁ、おぉきにですっ 別にないですよぉ 」
「そぉかぁ、 まぁ なんかあったら言うてかぁ 」
「 っはぃい 」


赤い爪の指 二つのショットグラス 目の前に行儀良く並べます
注がれる生の琥珀色の液体 ダウンライトの光で煌きながらでした

「どおぅぞぉ 」 赤い爪の女 伏目がちに言いました。

自分とマネェジャァ、其々のグラスを指で摘む様にし 互いの目の前に掲げます。

「お疲れさんでしたぁ 」
「うんっ 巧くいくとえぇのになぁ、願うからなぁ 」
「はいっぃ 」

お互いに 顔を見もって頷き合い 生のウイスキー っダブルを 
ショットグラスで一気に引っ掛けます。
自分 顔を仰向けにして喉に流し込みました。酒精の冷たい熱さをぉ  !っ
 胃の腑が焼けどしそうなっ 熱さをでした。
眼を瞑ると目蓋の裏で酒精が 真っ赤な火花を散らします


 けど、心は益々の 落ち着き冷たさがぁ やったっ




         

夜の見習い 若ボン君 

2006年05月03日 02時32分41秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 


 若ボン 

 【見習い】


 未だまだ時間は ユックリとしか進まんなぁ  

ダウンライトの光が 腕時計文字盤硝子で黄色く反射していました。
俯きもって煙草を銜えると すかさず耳元で金属音と発火石を擦る音
目の前に 火が点いたジッポがっ

「おぉきになぁ 」 煙ぃ吐き出しもってっ
「 いぃよぉ∼ 」 消さないジッポで 自分も一服点けてます。
「なぁ つねちゃん 今夜ぁなんか変やなぁ? 」
「ぇ! ぁあ∼っ ぅん。 へっ変やねぇ  ! 」

赤い爪の女。昔の愛称で呼んでやったら 顔面
真っ赤にしよったっ なに恥らってますんかねぇ !



今夜はなかなかに 何時もの酔いが巡ってきません。
まぁ、其の方がいいんですけどねっ 酔ってしまいますと観れないかもなぁ
けどっ、どうなんやろかぁ ? ほんまに真二ぃ するかなぁ
つねちゃん(赤い爪の女)が言ってた様にです。
此の店の常連客ではない者が 何人か着ています。
同じカウンター席に座り、此方を
お互い顔は見知ってますから、うなずき挨拶。

 其々 独りで来ています

変です、日頃なら。
お互いに喋りあうし 先に此の店に着ている者の横に座る。筈です。 
何かを牽制しているんでしょぉ。
其れに今の時間なら、自分の仕事(夜世界の)をしている筈。 
お互いに、何かから、何かを期待してるようなぁ 
 
 やはり噂がぁ でしょうかぁ?



昨日 店のバーテン見習いの若いモンが 聞いてきました。

「ちいふっ 真二さんどぉなんですんかぁ? 」

っと、見習いの 若いボンが聞いてきます
倶楽部の営業時間中の、入店客が切れ フロアーが少し落ち着いた頃に
此方の様子を窺うように 厨房の出入り口から上目使いで。
自分 此の時、薄暗い店の奥の方で影で動く 真二を眼で追っていました。


「 どぉって、何や? 」
「えっ、ぁ、 ぃいえっ いぃですっ 」
「えぇっとは なんやねんっ 」

 胸倉掴みそうなん 我慢しました。

「すいません。悪かったです 」
「 ぇえっ。 けど、何処までや? 」
「ぇ、どこって?っ 」
「何処まで知ってるんやあっ! 」

蹴るっ。 っと自分の気持ちを感じたから 堪えました。
多分、自分の顔色 変わっていたのかも。
無理に笑いました。作り笑顔でぇ

「ちっちぃふぅ これ言うたら怒りはるかもしらんけど、聞ぃてください 」
「   なんやっ 」
「自分 昨日の休みに、馴染みの店に飲みに行って  」
「おいっ!そこ。なにゴチャゴチャ言うてるねんっ!できたんかっ! 」
「ぁ はいっ 」

振り返ると真二が カウンターの中に入ってきていました
客の注文した料理を取りに。
だから、若ボンとの話は それっきり途切れたままに成ってしまいました。
此の若ボン。自分が此の店に連れてきました。
入店の為の 面接も試験も何も無く です。

 只っ

「まねぇじゃぁ∼ 此のコが此の前話してたモンです 」
「ぁあっ そぉかぁ、頼むでっ 」
「○○いいますっ よろしゅうお願いします 」
「じゃっ 厨房からしぃなっ 」
「はいっ 」

 此れで決まりでした。

此の若ボン 
自分の仕事は真面目にやってくれますし、言われること以上の事 致します。
自分が此の夜の世界に入る前の 昼間の世界で知ってたヤツでした。

 元々は陸上自衛隊 隊員です。

お国にお勤めしていたお陰で 色々な特殊技能資格を習得しています。
ですが、夜の此の世界に入ってからは 其の事は一切口に出しません。
 っし、自分も真二には言いませんでした。
そんなのは、何んにもならないのが此の業界の やり方だからです。
だけど、ある意味。以前の職業で秀でるヤツは 何処に往こうと其れなりの事があるっ
っと、思う様な仕事ぶりでした。


「ボンっ 頼みがあるんやけどなっ 」
「はいっ なんやろぉ? 」
「ぅん。店ぇ終わってからなぁ おかぁはんとこでなぁ 」
「じゃぁ、往きます 」
「ぁあ、待ってってかぁ 」

此の日 店の営業が終わりかける頃に ボンに言いました。

真二さんは、店が終わると 迎えに来た清美さんと一緒に帰ってゆきました。

「じゃぁ、誂えて来ます 」
「ぅん、たのんだでぇ 」
「ちぃふぅ、やっぱしぃ真ちゃんやるんかぁ 」
「おかぁはん、今のん聴かんかったことにしてなぁ 」
「    ぁぁ、わかった 」

っと、言って おかぁはん、お店を早仕舞い致しました。
流しの下から 一升酒瓶 取り出して言いました。

「此れ、わての奢りやさかいに呑みっ 」



此の夜は ボンと自分 痛飲致しました
其れから ボンと肩組んで帰る夜道
早春の穏やかな 夜風がでした。
 
二人ぃ 月観て吼えてました
 

 わざとの 大声でっ




        

      

赤い爪の女 【バーテン】

2006年04月26日 02時03分42秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 


 【苛立ち】


突然っ 急に声をかけられると 言葉に詰まります。 っけど
同時に、自分でも思いがけなく 何かに向けての怒りの気持ちも生じます。
此の時にも 知らずに湧いた怒りで自分、戸惑いました。



「ちぃふうぅ。 真二さんなぁ  あ奴ぅ遣るんかぁ∼? 」
「 ぇ!っ  なにがやぁ 」

自分、物思いに耽っていましたから
赤い爪の女に突然 聞かれましたから戸惑いました。

 倶楽部の中は、静けさがっ でした。

時折、後のボックス席の潜々声 背中が聴きます。
冷や汗みたいに粘ついてる感じ 背中していました。
何時も爪を赤く塗っています、此の店の女のバーテン。
ただ、左の小指の爪だけは まるで金箔を貼り付けた様な

 綺麗な金色していました

以前、「何で そっちの小指だけぇ 金やねん? 」 って
   「教えんっ! 」 答えは 一言。


「決めよるんやろぉ 」
「 そやさかいに、なにがやっ! 」
「みんな言ってるよぉ 真二は遣る時はやるやろぉ って 」
「 くっ ! 」

先ほどカウンター席 右端、何処かの中年男の連れの女が 
紫煙細く吐きもって サファイア色のカクテル。

 っを、ご注文  っと、聞いた彼女。

手慣れた身の熟しで 背後のバックボードから
カクテル材料の洋酒の瓶 幾本かをカウンターまで。
其れ、流麗な手捌きでシェーカーに注ぎ キャップ蓋閉じ
クローム鍍金のシェーカーキャップに添えた右親指 額の眉間の高さに。
其の両肘、水鳥が水面すれすれを舞い飛ぶ様にぃ 開き閉じ
手首 彼女独特のリズムでシェーク。

振り終わる動作の流れで 客の目の前
清く磨かれたカクテルグラスに キッチリ注ぎます。
細いグラスの脚 摘み、綺麗な二指で押します。
 女の客の目の前まで

「 どぉぞっ 」
 っの 声添えて


「聞いてぇわるかったみたいやねぇ、聴かんかったことにしてぇなぁ ごめんなぁ 」
シェーカー屈んで洗いながら 顎上げて

「ぅん。えぇがなっ 此れおかわりしてかぁ 」
「 ぅんっ  堪忍やでぇ 」
「    ぇえっ 」

みんなが知っている。っといっても、多分 仲間内の事やろかなぁ
けどっ此の噂 何処まで? っと、少し焦りました。

「かきちゃん昨日なっ 多分あいつやと思うん来てたで 」
「 ぇ? あいつって誰や 」
「   なぁ、自分とは昨日今日の付き合いちゃうやろっ なっ 」
「 !っ あぁ 」
「なぁ、そんなら聞くけどなっ 何で教えてくれへんのん? なぁ 」
「 なにぉやぁ? 」
「真ちゃん、どぉするんねっ? 」

真直ぐ見詰めてくる 微動だにしない女の瞳 
自分の後ろの ホールの天井で輝くミラーボールの光 映してました。
 瞳がキラキラ光っていました。

女が吸う細長い亜米利加煙草 
赤いマニキュアの細い指に挟んで、此方を見据えながら 時折口元に運ぶ時。 
小指の金色爪 カウンター上のダウンライトで浮かび 光りました。
首ぃこっちに伸ばして、まぁるく窄めた唇から 吐き出しました。

 まぁるい輪っかの煙をぉ

輪っか、広がりながら自分の顔を過ぎて行きました。
自分、堪え切れずに目線 逸らしました。

「こらっ! かきぃ どぉゆぅ了見してるんやっ 」
「はぁ!っ りょリョウケン? 」
「 阿保に晒すんやったら ナンボでもしてえぇんやっで! こらっ! 」

此れ、決して大声で言ってるのでは無いです。
唇 ほんまに動かさないで 微笑んで言ってます。
煌く眼 笑わんと据わってますから 十分に伝わります。此方に。

煙草持つ腕 綺麗に伸ばして再び口元へ

「ねぇ∼ かきちゃんっぅ 教えてくれはってもえぇんとちがうぅ∼ 」

 もぉ堪らん位の猫撫で声でした。

喋り終えると、躯ぁ斜めに構えて顎引いて 細指ぃうなじの髪に突っ込み掻き揚げます 
目線逸らさずに。剥き出しの 白い脇が見えました。

 自分、目の遣り場がぁ∼!

「 なぁ、頼むからなぁ 似合わん事せんといてかぁ 」
「似合わんって 誰におっしゃってますんかぁ? 」
「あんたやっ!前にも言うたけどなぁ
  わてぇそないなぁ趣味ぃ 無いさかいになぁ 」
「あっ そぉかぁ  まぁカンニンして差し上げますがな もぉ!っ 」
「なぁ、なにもなぁ隠してるん違うんやでぇ 此れはなっ真二さんの問題やねん
  そやさかいにな、他人のわしらが どぉこぉぅ言う事とちやうねん
  其れぇ 解ってくれるかぁ? なぁ 」

其れから暫くは お互いに黙っていました。
バーテン女は 前を離れカウンターの洋酒の瓶を お片づけ
時間は、そろそろかなぁ? でした。

「かきちゃん、うちなぁ 心配やねんっ 」
「なぁんやぁ!っ ぅん? 」

顔上げて見たら バーテン女の眼に涙がぁ   !ぅ
自分、気分が滅入って来たけど 胸、高鳴るのがぁ   ! ぁかんっ 

「真ちゃん、此の事でぇ どっかに往ってしまうんちゃうかなぁ って 」
「 ま、まぁさかぁ! 」
「 泣きとぉなってくるわぁ∼! 」


泣きたいのは自分もやで っと
そやけど、仕舞いました。

 言葉を




                    


 

女と男の 昔話

2006年04月16日 00時34分24秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 
    

 【聞くんじゃぁ無かった】


二人が 飯屋から居なくなってからの会話です。
 おかぁはんとの。


「あの二人、何時からやねん ? 」
「あんたぁ、ホンマに知らんのん? 」
「ぅん。知らん 」
「 ・・・・・そぉかぁ 」

おかぁはん。今夜は此処まで っと店仕舞いで 
汚れ皿を洗う手元を止め 自分の顔を暫くジッと視もって言いました。

「・・・・なぁっ、どぉなん? 」

おかぁはん目線 逸らしました。

「なになん? 」
「ほんまに知らんのんかぁ? 」
「・・・・・ぉかぁはん、なにがやぁ・・・・なぁ・・・? 」
「ぅん。ょっしゃ、わかった 」

洗い物、水切り籠に皿が割れるかとの勢いでぇ、置き
洗った布巾、無理やりのキツサデ絞り
両手で叩いて、後ろの棚並びのお皿に被せて言いました。

「ちょっと待ちっ 」 っと。

熱燗用一升瓶 流しの下から取り出し 
カウンター越しに 此方の自分に渡します。

「ほれっ 」 っと、 白い湯飲み茶碗、二つも。

カウンターから出て 引き戸に鍵をします。
陽焼けして黄色くなったカーテン 引いて閉めました。
っで、おかぁはん、自分の隣に座ります。
少し椅子を離して。自分、なんでか少し胸が高鳴りました。
 まさかなぁ・・・・! っと。

「あんなぁ・・・・なぁ、清美なぁ・・・どぉ言ぉかぁ 」

っと言い淀みながら 片手で持った一升瓶
二つの湯飲みに傾け 話し始めます。
自分 『ぁほっ、なに勘違いするねん! 』 やった。

「かきちゃん、あんたぁ口ぃかたいっ? 」
「ぇ、ぁっ、ぅん。かたいでっ 」
「絶対他にっなぁ やでっ 」
「あぁ、うん 」
「ぅんやぁないっ、誓いっ! 」
「ぁ、はいっ 」
「聞いたことぉ喋ったら 刺すからなっ 」
「!っ・・・・わかったっ 」

ぉかあはん普段から腹と胸に、白布の晒しを巻いてます。
別に妊婦帯でも無く、お腹が冷えるからでもないです。
胸の二つの膨らみ、白い晒し布で 無理やり押さえ込んでいます。

 気構えの為にです。
 生きて往く為の

其の晒しの中に、丁度今着ている前合わせの割烹着の 内懐辺りにです。
白鞘に入った 刃渡り一尺二寸程の刺身包丁、仕込んでいます。
おかぁはんの死んだ亭主が 店で愛用していた物です。
一度 おかぁはんが、カウンターの中で簀の子に躓いて 前のめり倒れた時
自分 大慌てで中に入って抱き起こしました。
其の時、思わず触れた胸の辺りに、長い硬い物がっ でした。

「ちぃ~ふぅ襲ぉたら刺されるでっ 気ぃつけやぁ 」 真二がカウンター覗き込んで。
「おぉきにっ、おおきになぁかきちゃん・・・・。シンジっ阿保ぉ言わんときぃ! 」

おかぁはん。抱き起こす自分の腕を邪険そうに振り払い 起き上がりました。
自分 見たらアカンもん、偶然見てしまった様な、感じでした。
其の時は其の侭、不自然な程 何事も何も無かった様に話の続き っでした。
おかぁはん。男勝りな此の気丈な 女将さん
今は飯屋の此の店。昔は連れ合いさんと二人で、でした。

 其の当時は和風の割烹スタンドで
    屋号は 【喜竹】

自分が聞いた噂では、ほんまに仲睦まじい
女将さんと亭主の 二人だったそうです。
今は寡婦となってしまった此の女の人の胸に 白い晒しが。
其の晒しに、刃渡り一尺二寸の刺身包丁。
何時も抱いてます 亭主の魂を 抱いているのでしょぉ。
化粧しなくっても 今でも綺麗な女の人です。

一人身になった女。独りで世渡り。
並大抵じゃぁ此の夜の世界では でしょう。
綺麗だからこその、身持ちの持ち様、生き様でしょう。
自分。此の人には、一目置いてます。
多分、あと三目くらいわぁ・・・! でした。


「清美と真二なぁ 幼馴染やねん 」
「!っ ほんまなん 」」
「ほんまやぁ 」
「ぅそっ! 」
「嘘言うてどぉするん あんたに? 」
「 ・・・・ 」

「あの二人なぁ・・・・・ほんまに他所で喋ってみぃ、刺すさかいになぁ 」
 
 眼。座ってました。
 おかぁはんのマナコぉ!



話が済んで帰ろうとしたら 外は夜が明けて来ました。
結露した引き戸の硝子越しに 早朝の表路を
通勤人が 背中を丸めて通って行きます。
外に出て上着の襟立て 振り返るとカーテン閉じてました。
バスの始発駅まで歩くのが きつかったん覚えています。

自分。こんなん聞く位なら、丼飯にビールぶっ掛けて喰った方が
未だ ましかもなぁ! っと そお時想いました。

 おかぁはんの話し聞いたから


其の晩(昼間)は、安アパートに戻ってから
生まれて初めて 記憶を無くす酔い方をしたいなぁっと・・・・ぉ
最初、幾ら呑んでも眼が冴えて眠れません。
だけど其の内にやっと、酩酊気分がぁ
自分の元々軽い頭は次第に重たくなって、卓袱台が近づいてきます。
頭が次第に重くぅなってきてます。
まるでスカスカの糸瓜みたいな脳味噌に
液体水銀が 其の隙間に染み込んで来てますぅ様ぉぅなぁ・・・! 

 お脳はズクズク水銀状態 っにぃでした。

 

  やがてぇ・・・・
想いは 何処までも、いずこへぇと
  何処までもぉ やった。




                  

始まりの最初

2006年04月10日 23時49分16秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 


【 見届け人・・・・・? 】


其の店。表のドアが 古風な漆塗片持ち扉です。 
色は朱色。 漆塗り特有の深みある艶は ありません。
店の者 其の漆独特の艶を嫌って、水研ぎ出しの艶消し仕上げ。
同じく扉の取っ手。此れも艶消しの鋳物焼結仕上げ。 


深夜の 深まる冬星空暗さの時、扉
右斜め上方 ランタン風外灯明かりの黄色い光で照らされます。
其の明かりで硬く閉じられた扉を視ると、
暗闇から 不思議な感じで浮き上がらせます。

 浮かぶは、赤錆色の扉でしょぉ・・・・


少し離れた左側に、黒錆浮き出た瓦斯灯風鉄柱。
其の上 突き出た横棒に、錬鉄製透かし蔓草模様文字看板 ぶら下がり
銀色月明かりに眺め読めば 屋号。

【 洋楽倶楽部 Saint Louis 】 っと。

時折 夜風にて、吊り下げ蝶番ゆらゆら揺れ、軋み音
鳴きながら 模造煉瓦タイル舗道を嘗め 何処かに・・・・ 

ランタン灯り届かぬ向こうで、暗さに赤い蛍。
赤が流れ飛んで歩道で 火花っ
靴が踏みます、吸いさしを。



 音無く扉、内側に 

薄暗がりに 五歩。コート脱ぎながら歩めば
背丈ほどのアジアン三つ折衝立、籐の。
向こうから 軽やかスイングジャズ耳に

 衝立抜け小さなクロークカウンター

「 よぉこそ 」 っと。何時もの娘。
「ぅん、後から来るからぁ 」
「はぃ、承知いたしました 」・・・・。

上下ポケット、上着内懐 弄り
ビーズのジャラ銭入れ 二折れ札入れ ジッポ 角ポケット瓶
クロークカウンターに次々とぉ お積み上げ。
そして 後ろベルトに挟んだ 細めに絞った紙袋。 

 『包まれてるのは、何かは知りませんでした 』
 カウンター嬢。後日、そぉ、証言したそうです。

「頼むよっ 」 
差し出します。
「はぃ、わかりました・・・・どぉぞお楽しみをぉ 」 
微笑みで受け取ります。


濃密モク煙透かして 薄暗ボックス客席視れば
みなさんの影 楽に合わせて御躯ぁスイング。
一段高めの舞台上 外来人達 眠たそうに演奏。

若い店人近づき、「よぉこそ 此方に」 っと、ご案内。通されるは、
天井より吊り下げ並んだ灯芯角灯(カンテラ)風ダウンライト下
 っの カウンター。
店人メッキ背凭れの椅子引かれ、「どぉぞ」 っと。

カウンター天板、メタルのジュラルミン一枚板。
表面、細波状のシボ模様。
其れ、ダウンライトが照らし輝かします。銀色鈍色に。
赤い爪の綺麗な細指が すわとう刺繍コースター

 目の前に。小さなクリスタルの灰皿と共に。

「なにをぉ? 寒かったぁ・・・・? 」
ジャズ音にも負けない、澄んだ声でっ
「ぅん。お湯割りぃ 」
唇を、読める程度の開きでっ

華奢な取っての、薄硝子製ホットグラス
 仄かに湯気が
二指で壊れそうなほど細い取っ手を 摘む
口元に運べば、漂う匂い西洋酒 ウイスキー
飲む。 心静々となりました。喉道、暖かさが落ちます。
腹、未だに決まらない思いを優しい熱が 包みます。

自分の心、何故か平和でした。
此れから始まるものが無い様な、
不思議な想い感覚に陥ってました。
 嘘の感覚でした 其れ。  
お湯割で正解でした。
一気に呑めませんからね。イッキに

 意識は、酔うなと。


見届けろと。心が命じます。




           

先輩の女

2006年04月07日 08時31分27秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 
     
     
 【清美】


何時の頃からか, 酔っ払った真二を 女が迎えに来る様になりました。
其の女を最初に視た時、自分、直感で普通の女じゃぁ無い っと。

真二 紹介も何も致しません。
唯 「頼むっ・・・ 」 其れだけでした。
自分。「 姐さん 」 っと、自然に口に出して呼びました。
はにかんだ様に、少し頬染めました。あの真二が。

最初は 女の歳は自分よりも少し上かなぁ? っと想いました。
綺麗っかたです。トテモ。

 でもね。なんとなく陰がぁ・・・・



或る日 何時もの反省会を、何時もの飯屋で遣っていました。 
その日は 宵の口から雨が降っていました。
夜更けまでも、そぼ降る様に降り続いてました。

此の頃になると、真二。
自分に対して以前の様に 口を利きません。
聞いてみました。真二に。

 此の頃、あんまし何も言いませんけど?
                    っと。

「なにお言うねん・・・・」 魚の煮つけを 突っつきながら言いました。
「・・・・別にぃ・・・」 別なこと無いんですけど、言いました。

「 ・・・・・ 」 真二 黙った儘でぇコップ酒ぇ・・・

小さな躯を精一杯カウンタの向こうから伸ばし、
昔は細かった指で掴んだ一升瓶。
一升瓶から空いたコップに注ぎながら、おかぁはんが言います。

「かきちゃん、真ちゃんにグチャグチャ言われん様になったら、
  あんたもイッチョマエになった、ゆうことやねんでぇ・・・! 」 っと。

「・・・・そぉですんかぁ 」
「そぉやっ なに言うねん、お前にぃ・・・・ぁほかっ! 」

言いながら真二、何か考え事。しています。
此処最近、何かに憑かれたような感じです。真二
仕事は流石に手を抜きません。キッチリこなします。

醤油や何かのシミと 煙草の焦げ痕だらけのカウンター。
目の前には、食べかけの鯖の煮付けと 丼飯。
一段高めには、色んな料理が入った大鉢皿。並んでます。
立ち昇る湯気は、カウンター内の おでん鍋から。
おかぁはん、菜を刻みます包丁の音、軽やかに。

 その姿勢のまま、話します。

「まねぇ~じゃぁ、此処んとこぉ、なんぞ気に成ることあるん?・・・・なぁ 」

おかん。何時も真ちゃんっと、呼びます。 だからぁ・・・・・
おかんっと、目が合いました。直ぐに逸らされましたぁ・・・・
 っで、視線。戻りました。
戻ったおかんの視線 目配せにぃ?・・・・なんやぁ?
っで。入り口の引き戸に飛んだ視線 辿ろうとしたら、
背中で引き戸が、軋みながらぁ 開いた。
自分。後ろを意識しながら丼飯、掻き込みみました。

 飯、頬張ったら肩越しにぃ驚かされました。


「はじめまして 清美(源氏名)いいます 」
「 ぐっ!はっ!・・・・、ぁ!はぐっ、ハザジメマシテ があっ! 」 飯がぁ~!

比較的高めな和風カウンター。其れにあわせた様な 高目の木造の椅子。
自分、突然背後から挨拶をされたので、慌てて足置き真鍮パイプを蹴って降りた。
ツモリガ慌ててしまい、椅子を倒しました。

「あほっ、なにしてるんやぁ! 」
「ぁ、ズっジィイマセン・・・・」 
「なんやきたんかぁ、此処 座れ 」
「カンニンなぁ・・・・あかんかったぁ? 」

此れ、女を最初に視た時です。
自分、飯が喉で留まってました。
おかん、直ぐに其れに気付いてくれて、コップをぉ・・・!
必死で飲んだら、酒やった !・・・・。ァホオォ~!


咳ぃ、暫く止まらんかったです。


涙目で視た女。
長い髪の毛に 小さな雨の雫がとまっていました。
夜更けの 此の時間に、こんな女が何でこないなぁ処にぃ・・・?
って、何と無く思いました。

真二。笑ってます・・・・・!。
普段。笑わん男がです。


けど 声は乾いていました



                  
                  



【夜遣る事は自分で勝手に盗め】

2006年04月05日 02時04分26秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 



【夜の教育】


「こらっ! 呑めへんのんかぁあ、呑まんかいっ 」
「えっ、ぁ、も、もぉうアカンっ 呑めませんよぉ~! 」
「あかんっでぇ ぼぉおやぁ~、呑まんかぁいぃ~! 」

初回から、こんな調子でした。酔っぱらった酒癖は 見事なほどでした。
真二さん。 客や店のママ 女たちの前では、決して酔った姿を晒しません。
自分の前では酔います。何時もヘベレケニなるまで。

「ぼおやぁ呑めっ こらっ、呑めぇ 」

「真ちゃん、もぉ飲めへんゆうてるやないのぉ、無理ゆうたらあかんよぉ~ 」
 此の人、とある飯屋の おかぁはん。

毎晩 店がハネテから、
独り寝の棲家に帰りがけに 晩飯を喰いに寄っていた、
其処の 某飯屋の亭主です。
深夜営業の 水仕事の勤め帰りの人さん相手 専門の炉辺風飯屋でした。
丼飯の 色んな御菜の味付け、旨かったです。
当時 自分。 間取り一部屋の安アパートで、独り暮らしです。
未だ一度も自炊をした事が無く、喰いもんは専らインスタントの麺。
っか、ジャムかマーガリンを塗った 焼きもしない生食パン。 休日に時々一升酒瓶。
其の程度の食生活してました。だから此の飯屋
直ぐに贔屓に成ってしまいました。


目っ、瞑りもって流し込みます・・・・。ほんまの黙々ぅとぉでした。
空の中ジョッキ、ソロリとカウンターに置きました。
目を開けると、呑む前と視界が少しぃ、如何にかぁ でしたぁ・・・・

「かきちゃん、あんた。無理に飲まんでもえぇのにぃ! 」
「おかぁはん もぉ一本ください」・・・・堪えもって言いました。
「・・・・あんた。呑まんとき。もぉ出さへんっ!」
「おかんっ ボオヤが飲みたいちゅてます。出したってんかぁ~ 」
「真ちゃん、もぉぇえっ! あんたぁえぇ加減にしとき 放り出すでっ 」

何時もの事でした。放り出すでっ との、おかぁはんの此の一言で静まります。
可也な酩酊人の項垂れた真二さん、愚痴っぽく言い出します。

「悔しかったら、俺を抜かんかい、なっぁ! 抜いたらぇえんや!
  なぁカキぃ、悔しいやろぉ 抜いてみぃ・・・・ 」

今から想えばね、連夜に亘っての此れ
真二さん独特のね、新人教育みたいなもんでした。
随分後になって気づいたのは。目を掛けてくれていたって、事です。
あの頃は、人の出入りが激しかったです。
 女も男も、随分とでした。
自分の後に入店してきた男 何人もいました。
ですけど、飯食いに連れまわされていたのは、大概が自分。

月毎の集金日に 車の運転手役、自分でした。
魚河岸や青果市場への仕入れの時の 荷物運びも自分
店の女たちの急な用事で、薬屋に走っていき生理用品 買ってくるのも
客の誕生日に、バースデーケーキを手配するのも でした。
他にも、諸々の雑用係りは全部自分 引き受けさせられてました。


其のお陰でなんとか自分も 「 いっぱし 」 のぉ・・・・でした。


此れも、真二の愛の 「 シゴキ鞭 」 に耐えたからです。
其れとも、夜毎の酩酊巡りのお付き合いの お陰ですかねぇ・・・・




ところで 自分と真二。此の頃から今に至るまで、
お互いを名前で呼び合った事 殆ど無かったです。

 肩書きでした。呼ぶのは

自分が真二さんを呼ぶとき 『 マネージャー 』 っで
自分が呼ばれる時 『 ぼおや 』 っか 『 ボンさん 』 でした。
営業時間中の忙しい時は、『おい』、っで大概が 『 コラッ! 』。

 一番多かったのは、目線命令でした。

最初の頃、自分。真二さんが首と顎を動かしもっての 目線言葉。
全く理解不能でした。

 だから自分ぅ・・・・
『ぇ!なんや?・・・・ 』 っと、ド頭ホワイトアウト状態です。

「ボケっかぁ! 」 っと 真二が、カウンターの外から 唇動かさずに笑顔でっ。
『なにぉおっ! 』 っと即 思っても作り笑顔でぇ・・・・
「わいの指先見んかあぁ! 」 伸ばした腕、微動もしていません。
『 ゆ、指ぃ?・・・・ 』 っ何やねん?っと見てみれば

指の先には、新品の ナポレオン の化粧箱が仕舞ってある 棚の扉。
真二、相変わらず唇を動かさずに言います。

「コラッ!殺すぞ。オチョクットンのかぁ?ボケッ! 」
「ぇ!なにがですか? 」
「キープや、はよぉとらんかいっ! 」
「ぇ、あっ!はいぃ~! 」

扉開いて、箱。箱開けて ボナパルトちゃん 取り出し、
瓶の表面 素早く磨いて、「 どぉぞっ! 」

「ドォゾわぁ要らん!覚えとけっ 」 っで、真二。再び客席に

なにが覚えとけやっ!アホにしくさってボケッがぁあ~! 
 っと一応心で。自分
素人と玄人。ボケとトンビ。ドォシテも、全く真二には歯が立ちません。
毎晩、こんな調子でした。

店が終わると、飯屋での「その日の反省会」という名の呑み会。
自分、失敗ばかりですから、罰をです。冷酒コップ一気飲み。
此の反省会の時は、他の従業員の男どもも一緒の時がたまに 。
其の男達も、真二の酒豪振りには叶いません。
只、他の男が居る時 真二。絶対に酔ったりは致しません。
普段 優しげな眼差しが、此れでもかと炯炯たる眼光鋭い輝きを増すだけでした。
話すことは、尤も過ぎるほどの内容。幾らでも喋ります。夜明け近くまでも。

真二、仕事の上でのミスを 絶対にしない男でした。
だけど 自分以外の部下や女たちには、何も完璧を求めません。
反省呑み会では 真二は、自分が想う事を話すだけでした。
みんなは、それ故に、真二を理解しようとします。
マネージャーの為に 仕事をコナセルナラっと、
為になる話しならと、何でも言うことを聞こうとします。
其の時、其の席では幾ら晩くても、全員素面が続きます。
酒量は上がり続けてもでした。

自分。此の時期は必死でした。
真二さんが考えている事 真二さんが思いつく前に。
っと、必死で予想し 仕事中は絶えず、真二さんの動きを目で追います。
毎日が イッパイイッパイの思いでした。

 でもね、予想。 当たる訳が無い。



或る日、
「ぼおやっ、チーフになれっ 」 っと。

「はぁ?・・・・、ぇ! 」
「お前が今日からチーフやっ 
「えっ、ぼ、ボクがっ・・・・ 」
「気色悪いこと抜かすな!っ 」
「ぇ!」
「ボクやっ、似合わんことヌカスナ、ボケェ~! 」
「は、はいぃ・・・・わぁ、わいがぁちぃ~ふぅですんかぁ!っ 」
「嫌かっ 」
「ぃ、いえっ します 」
「ほな、せぇやっ 」


此処数年。真二さんの御用が無い日は
昼過ぎに店に来て、チーフの仕込みの手伝いをしていました。
 まっ、料理見習いです。
此の頃やっと、客に出せるくらいのオードブル造れる様に でした。

「チーフはどないなんですか? 」
「あれは、昨日で止めた 」
「やめはったっ! 」
「そやっ、止めおった 」

其れだけでした。後は何の説明もでした。


少し後になって、聴こえて来た噂
店のホステスで、亭主持ち女とチーフが逃げた。

チーフ、籍も入れていなかった子持ちの女を置いてでした。
其の置いていかれた女、某スナックで働いてた。
何度かチーフに連れて行ってもらって、顔見知ってます。
可也 綺麗な女の人でした。
其の人を捨てての、駆け落ちです。

 アクマデモ噂で です。


「バーテン 募集かけたさかいにな。それまでは此の前入ったん使え 」
「はい、じゃっぁ此処(カウンター)ワイが仕切りますんか? 」
「誰がするんやっボケッ! チーフがするんやでぇ 」
「はいぃ! やらせて貰いますぅ~ 」

真二さん、ニヤリとして言いました
「あぁ せんかいっ、チィ~フゥはんっ 」 っと。


やっと、やっと卒業できました。

 「 坊やぁ 」 からぁ~!
 

夜更けに店がハネテから 店のみんなが、
わいの昇格お祝いやっ、ゆうて 某所で奢ってくれました。
明くる日は、強烈な二日酔いやったっ
其れでも、寝惚け顔で目覚めた時 多分。わい

 ニヤツイテタと想うでぇ~!




        

夜の玄人 

2006年04月04日 00時58分50秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 


【先輩真二】


真二とは、此の時に知り合ってから、四年余りの付き合いです。

元々は、自分が此の世界に飛び込んだ 未だ駆け出しの頃に 
他店で始めて勤めだした時からの、知り合いです。

実は其の当時。自分と真二とはお互いに、反りは合っていませんでした。

此の世界で右も左も解らない自分を、最初に雇ってくれた某倶楽部店では、
此の真二が先輩でした。店では 真二、威張っていました。可也。
歳は 多分。 自分とはあんまり変わらないのかも?
っと言いますのも、未だにお互いの歳は知りません・・・・多分 真二も・・・
自分は昔から若く見られる方だし、真二は老け顔だからぁ・・・・
自分が入店してから少し経って、もぉ少しで店がハネる時間に
真二が厨房に入ってきて 誘ってきました。

「ぼぉやっ 慣れたんかぁ?」
「ぁ、はいぃ」
「そぉかぁ じゃぁ今から飯喰いにいこかぁ」
「ぇ!・・・・」

自分 嫌でした。此の男となんて。っと・・・・でした。

此の夜の世界では 兎も角。実力が物を言います。
 真二は、仕事が出来ました。

毎晩 店に遊びに来る、多様な客の扱いも巧かったし、
夜働く女達のアシライ方も慣れた者でした。
倶楽部の経営者も、真二を頼りしてました。
当時 店で働いてた男は、自分を含めて七人 。
カウンターと厨房で三人、ホールで四人でした。
自分は厨房で洗い方専門番で、滅多と其処からは出させては貰えません。
日毎、皿洗いの毎日が続いてました。
荒れてきていました、手が。洗剤焼けで、カサカサ状態
皮膚が粉吹き ひび割れ、赤切れしていました。

偶に、当時のチーフに用事で呼ばれ 厨房からカウンターに
其処からは、薄暗いホールのボックス席が丸観えでした。
真二さん。テキパキとされていました。
羨ましい程の身のコナシで テーブル席の間を泳いでいます。

 笑顔で・・・・客の前ではね、何時でも笑顔でした



先輩に誘われたら 絶対です。
況して此の世界、実力ある先輩の言う事は 聞くのが当たり前。
 自分、直ぐに諦めました。

店がハネてから仕方なく、真二さんの背中を見ながら付いていきました。
飯屋、路地裏にです。看板も上がっていません。
真二さん 慣れた手つきで軋む引き戸を開け、入ります。
自分も、入りました。煮しめた様な木の色の くの字カウンターだけの店でした。
薄座布団が載ってる腰掛に座り、黙っていても 丼飯と味噌汁お椀が目の前に。
頼みもしないのに、大瓶ビール、二人の間に。
当然の如く真二さん、自分の目の前にビヤグラス 突き出します。空の

自分この時。真二さんの顔を観ない様にして、酌注ぎしました。
自分の心、穏やかでは無くなり掛けていました。
「お前も飲め」 っと言われて手酌しました。
乾杯も何も無く、真二さん。イッキしました。

 追う様に自分もでした。


 自分、此の時
先に酔う方が勝ち っだと・・・・。勝手に思い込んでいました。
 っけど 其の読み、

 キッチリ外れました。見事に。