【深夜倶楽部】
サッキまで営業してた、華やか賑やかしだった店内が 静まっています。
店の女たちは みんな帰ってしまい、今は誰もです。
照明を落とした薄暗いホールの奥から、営業時間中に切れ目無く聞こえていた
雰囲気盛り上げな 静かな洋楽レコード曲の変わりに 今は、
有線放送の音量絞られたド演歌、流れ聴こえてきていました。
だから、カウンターに男同士で収まってるのが なんだかなぁ?・・・・。
っな、雰囲気、漂っていました。
二人。 わたしが勝手に棚から持ち出した、客のキープボトル呑んいでました。
亭主のママは 奥の厨房に若ボンを連れて引っ込んでいるしぃ・・・
他には 自分たち以外には誰もいず、二人黙って
仇を遣っ付けるみたいにウイスキー、呑み続けていました。
時折 ヒソヒソと声を潜めて何かを話す ママと若ボンの声が、
開け放たれたドアの厨房から 漏れ聴こえるだけです。
突然、言い出しました。
「チーフ あれといっしょになるわぁ」 っと
勢いをつける様に呷った ファショングラスを普段なら
叩き付けるように置く 真二(仮名)
今夜はカウンターに静かに置いて、何かを堪え 抑える様な溜息交じりの
酒精交じりの 吐き出すような低い声で言いました。
「ぁ、ぇ、ホ、ホンマか?」
「ぁ~、えぇねん。もぉええねん」
「 ・・・ 」
「 もぉ、ええんやっ! 」
「!っ・・・・お前なぁ 何がえぇんやっ?」
って、わたしは言いましたけど、
直ぐ傍の、一本脚スツールにとまってる真二を、まともに視れませんでした。
再び、お互いに黙ってしまいました。
暫くは、二人の間の静かさが、益々 潜めた演歌をシミジミと聴こえさせます。
場持ちに 煙草(ハイライト)を一本取り出し、咥えながら真二の横顔を盗みました。
顔、蒼白かったです。今まで視た事も無い様な、苦悶の表情していました。
奥歯、噛み締めてる顎の筋肉 震えていました。
細長い洋モク挿んだ真二の白い手、何かを堪え 耐えている様に震えていました。
真二、何かをわたしに悟られ、視られてると分かると、直ぐに煙草を揉み消し、
達磨(サントリーオルドウイスキー)を掴んで赤いキャップを回し取り、
空いたグラスの氷に 注ぎました。
わたし、其の注ぎ方
相変わらず巧いなっ と思いながら 眺めていました。
半分も呑んでいない わたしのグラスにもでした。
縁ギリギリで ストップします。
わたしこの時思います。
此処、酒屋の立ち飲みカウンターかぁ? っと。
グラスの縁に迎えさせます、唇を。
啜ると、喉の奥までウイスキーで洗われました。
少し、心に穏やかさがです。巡ってきました。
酩酊も、釣られて遣って来ようとしていました。
隣で真二が何かを言っていましたが、只の何かの話にしか、聴こえなくなりました。
暫くすると、肩を揺すってるのは若ボンなんだろぉかぁ・・・・?でした。
天井の照明を隔てて、影になったママの顔。
自分を見下ろしてるママが、何かを言いながら、手に握らせてくれ様と・・・・
目覚めたら、ボックス席のソファーで寝ていました。
向こうのソファーでは真二が眠っていた。
眉間、縦に 二本の深い皺。刻まれていました。
自分、右掌で万札握り締めていました。
ママが何かを言いながら 握らせた様な微かな記憶がぁ・・・・
喉元に嘔吐感、込み上げかけて来ています。
ジッと動かず観てました。暗闇天井のミラーボール。
輝かないでぶら下がったまま。
あれが、落ちればいいのにっ・・・・とっ
耳には。
エアコンの静かなリズム音 微かに聴こえていました。