横浜スローライフ -- My slow life in Yokohama

位置情報、地理情報に関するサービス、その他日常生活から思ったことを気ままに記す不定期のんびり日記

カーナビに思うこと

2008年07月04日 23時29分25秒 | 地理情報関連

 先週末に鹿児島に行った際、移動にはレンタカーを借りた。首都圏と違って公共交通機関が貧弱な地方都市では、レンタカーは欠かせない。さらに、レンタカーにはナビが必須とも言える。これがあるのと無いのとでは移動効率が大きく違う。

 未だに紙地図派の人も「玄人志向」の中にはいると思うのだが、現在地と目的地の地図関係を把握するのならば紙地図で十分だが、交通規制、特に車線レーンの規制までを地図と音声で案内してくれるカーナビは、その有り難みはとても大きい。

 今回の鹿児島では、レンタカーに付いていたナビは三菱製だった。リモコンで操作し、音声でガイドする、という基本機能のみのナビであるが、残念ながら何度か道を誤りそうになった。その理由であるが、鹿児島の幹線道路は主要交差点で右折や左折の専用レーンが結構整備されていて、その案内が事前にカーナビの音声でされなかったからだ(よ~く見ると小さな案内アイコンが出るが、目立たないのとタイミングが間に合わない)。

 同じレンタカーでも、3月末に借りたものは、パイオニア製の楽ナビだったが、右左折レーンについても音声でタイムリーに促してくれた。おかげで、初めての場所でもほとんど右往左往せずにすんだ。

 ちなみに、三菱のナビの地図データはゼンリン、パイオニアはインクリメントP。地図関連業界にいる人は、両社の地図データの優劣が気になることもあるが、私の知る限り、現時点では実用上は無いと思う。今回のナビのような場合、地図データの優劣ではなく、またハードウェアの優劣というのでもなく、アプリケーションソフトの優劣が効いたのだ。アプリケーションソフトの差は、実際の使い勝手をどれだけ勉強したかの差であり、ハードやデータを交換したところで、おいそれと差は埋められない。鹿児島の例に限って言えるが、パイオニアのナビの方が優れていた。

 さて、そのパイオニアであるが、先月AirNaviという、このCarrozzeriaブランド初めてのポータブルナビを発売した。先日近所のイエローハットに立ち寄った際に、店員さんが「これは一番お奨めです!」と声をかけてきた。「どうしてですか?」と聞いたら、「ポータブルナビの中で最も画面が大きい、最後発なので中身がよい、ポータブルナビにしてはちょっと値段が高いが、とてもいいですよ」との回答だった。多分、ここの店員さんは、今までにたくさんのカーナビを販売してきて、メーカーによる微妙な出来映えの差を学んできているからそう判断できるのだろう。カタログをもらって後々よく見てみると、確かに基本機能はしっかりしていそうだ。

 ところでパイオニアは「カーエレクトロニクス」メーカーであるが、ナビの会社ではない。なぜそんなことを書くかというと、良いアプリケーションソフトを載せているものの、結局はハードウェアを売る商売なのだ。最近株価がやたら下がっていて、一株当たりの純資産額が理論価格の6割位という、将来性を見放されたような株価になっている。これだけ世の中にポータブルナビが普及してきても、ハイエンドのカーナビを主たる収益源としようと戦略を描いているのだが、それを市場は見限っているのだろう。プラズマテレビのハイエンド版KUROの失敗と同じ路線をカーエレクトロニクスでもやってしまいそうに私も思う。

 世界中どこを見回しても、専用ハードウェアによるカーナビが席巻しているのは日本だけだ。北米も欧州もオセアニアも日本以外のアジアも「ナビと言えばポータブルナビ」だ。それは彼らがお金がないからでもなく、ナビの機能自体が貧弱だからでもなく、十分な機能を提供しているポータブルナビが溢れかえっている。だから、専用ハードウェアなんて不要なのだ。

 欧州でも、一時期専用ハードウェアのカーナビが一部で出回っていた。2003年頃まではシーメンスVDOなどが、高級車市場向けに「Turn by Turn」と呼ばれる、音声ガイダンスに合わせ、小さな液晶に進行方向を矢印で指示するだけの製品であったが、価格は当時で数十万円もした。結局そうした製品は市場に普及せず、そのわずか数年後にTomTomがポータブルナビで市場を席巻してしまった。

 ちょうどその頃、私はタイでカーナビ事業の立ち上げの支援を行っていたのだが、ハードウェアの調達先として日本のメーカー数社に声をかけたが、見積額、必要期間が膨大でとても事業性を見いだせなかった。その代わりに調達をしたのが台湾製のWindowsCEベースの汎用車載機器やWindowsMobileのPDAだった。いずれのメーカー共に、金額は安く、特注にも短期間で応じると回答があった。特にMiTac本社に行った時は印象深かった。営業担当者が打ち合わせのその場に設計担当者を呼び、仕様を確認しながら、即座に見積額を提示してくれた。Mio136という今で言うポータブルナビの場合、5000台時の提供価格は日本円で2万円程度と日本メーカーの10分の1と言えるほどで、納期はわずか2~3ヶ月だったような記憶がある(記録が残してないのでやや違いがあるかもしれない)。そんな、おもちゃのようなものでも、WindowsMobileが乗っかっていれば、グラフィック表現力はかなりのものなので、地図表示はきれいで、日本のカーナビと何ら遜色がなかった。

 私はその時(2003年後半)に、カーナビはいずれ全部ポータブルナビのような汎用ハードウェアに取って代わるということを確信した。そして、日本製のナビ機器を世界に輸出しようとしている、大多数の日本メーカーの取り組みは間違いなく失敗すると思った。そしてその通りになっている。何故って? それは、性能が優れて安価な製品が売れる、という実にシンプルな理由。これって、日本の携帯電話がキャリアの顔色ばかりうかがっているうちに、何一つ世界で通用しなくなっていったのと、どこかが似ている。

 パイオニアもせっかく良いアプリケーションを持っているのだから、30万円の恐竜ばかりをいつまでも売ろうとするのではなく、 よい機能を惜しみなくポータブルナビに投入して、この市場でもトップランナーになった方が成功するように思えてくる。もう「新ニッポン人」が増えると、カーナビに30万円払う人はテカテカオヤジしかなくなっちゃうし、ボケッとしていると、PSPとかDSとかiPhoneとかの携帯端末向けの「ナビタイム」ブランドのカーナビというか、通信サービスが車内を席巻して、「カーエレクトロニクス」という市場自体が消滅するかもしれない。Carrozzeriaというブランドの余韻が残っている今が最後のチャンスだと思う。