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「甲越軍記」を現代仕様で書いてみた (132) 長尾家 45

2024年07月06日 09時08分14秒 | 甲越軍記
 晴景、景虎はこの一戦に勝利し合戦の次第、戦いでの家臣らの軍忠を書き記し、長尾俊景の首に添えて府中の屋形、上杉兵庫頭定実に奉じれば兵庫頭大いにこれを喜び、軍忠の銘々に感状を贈った。

一戦を終えて晴景は兵をまとめて府中へ帰還する様子なので、景虎はこれを咎めて言うには「大将俊景を討ったと言え、未だ三条には照田、黒田、金津らがいる
今勢い落ちているこの時に、一気に攻め寄せて討とうではありませんか」
これに対して晴景はまともに相手にもせず「俊景討死して、誰が照田らを助けるものか、このまま放っておいても日ごとにその力は衰える、その後討てば安かるべし
今彼らを討つならば『窮鼠猫を噛む』の例もある」と言って、振り返ることもなく府中に発った。

敵の大将、長尾平六郎俊景の首を討ち取った奈弥辰蔵とはいかなる者か
彼は、元は越後国岩船郡西奈弥村の農民である
八歳の時、柿を採ろうと木に登ったが誤って足を踏み外し落ちたが、途中で身をひるがえし枝に取りついた
これより面白いと思い、高塀を飛び越え、堀を飛ぶ軽業の術を会得した、また千斤を挙げる怪力であれば、好んで槍を振り回し、棒を使う。

この頃、岩船郡に三人の強盗が横行して村々を襲い金品資材を奪い、乱暴狼藉に及び、村人は皆怖れてなされるがままに泣き寝入りしていた。
ある夜、西奈弥村の荘官の家を襲い、家人を縛り上げ、衣服を奪い、酒を飲み、肉を喰らう
村人申し合わせて、どこぞかに強盗入れば太鼓で知らせることにしていた
辰蔵十七歳の時、太鼓の音を聞き、「すわ」と外にかけ出て強盗を探し求めた
この時、強盗は狼藉の限りを尽くして外に出たところであった
それを見つけた辰蔵は息を切らせて走り寄り、雷の如き大声を上げて山刀を閃かせて切りかかれば、先頭の強盗はたちまち真っ二つに切り倒された
残った二人は怒り、左右に分かれて辰蔵を襲うが、辰蔵の力には遠く及ばず、慌てて逃げ出すのを追い詰めて、ついに二人共切り殺した。

家主はこれを見て喜んだ、この時通りがかったのは西奈弥村より十町ばかり離れた藪の中の庵に住み、日々観音経を詠む翁であった。
辰蔵の勇姿をたまたま見て、辰蔵を招き「今、世の中は糸の如く乱れて、諸将は剛勇の壮士を競って求めておる、そなたのような壮士がこの片田舎に埋もれているのは真に惜しいことである、いかに思うか」と問うと
辰蔵は翁を拝して「某も元来、その志を持っています、特にわが越後の長尾家は代々武門の家柄にして功名の臣多いと聞きます、この家に仕えたく思っていますが、縁なく志を遂げられずむなしく過ごしています」と言えば
翁は辰蔵を庵に連れて帰り「汝、府内に仕えたければ我が推挙いたそう、されど我は幼き時より望気の術を学んでおる、これにより人を見ること一度の誤りも無し
一切のものは皆、気の成すところ、空は皆、気の実するところ、物には則(人では動かせぬ天が定めた不動の法則)があり、空にも則がある
望気を知れば、いかなることも神の目をもって見れば隠れたものも見得てくる
我、府内を見れば、枯れた骨の如く、死灰の如く、壊山の如く、もろもろの陰気集まりて見える、即ち大将暗愚にして国を亡ぼす兆し在り
また遥か栃尾の方を見れば、青雲紫霧龍文キツ彩たり、果たしてこの下に英傑の将あり、後日必ずや天下に名を轟かせるであろう
汝、名を挙げ身を立てんと思うなら、栃尾にて主を求めるべきである
我は栃尾の家士、松村総右衛門と古き友であるからこれをもって参るが良い」と言って書を書いてくれた、辰蔵は喜び直ちに栃尾に発った。
栃尾に至り、早速噂を聞くと長尾景虎こそ翁が言う英傑であることを知った
松村の家に行き、翁の書を渡すと松村の推挙にて景虎の足軽として勤めることとなった
そしてこの度の戦で敵の大将、長尾平六郎を討ち取る大功をあげ、近習の列に加わることとなった
後に鐵(くろがね)上野介と名をいただき勇名を現すことは此の書の所々に見えてくる。



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