▼メルケルまでがユーロの崩壊傾向を認めた
ドイツのメルケル首相は2月18日の記者会見で、ユーロを作らずドイツマルクのままの方が良かったと示唆する発言を初めて放った。
米国トランプ政権が、ドイツはユーロのドル為替を安すぎる状態にしていると批判していることへのコメントを尋ねられたメルケルは「ユーロの為替政策は(ドイツなど加盟国より上位にいるEUの中央銀行)ECBが決めている。
ECBは(経済が強い)ドイツでなく(弱い)南欧諸国のためにユーロ安をやっている。ドイツ(の強さ)から見てユーロが安すぎるし、それでドイツが(輸出増など)得してきたことは事実だが、決定権はECBにあり、独政府にはどうにもできない。
ユーロを作らずマルクのままだったら、為替はもっと高かったはずだ」という趣旨を述べた。
EUの指導者にとって、
ユーロ以前の自国通貨の名前を口にすることは、EU統合の目標に水をさすのでタブーだった。
メルケルがドイツマルクの名称を出したことは、EUの事実上の最高指導者であるメルケル自身が、ユーロが崩壊しそうだと認めたことを意味している。
ドイツ連銀は、第二次大戦の戦勝国である米英仏に保管してあった金地金の半分を、2020年までに本国に戻す計画だったのを、前倒しして今年中に回収することにした。これも、
ユーロ崩壊に備えた動きに見える。
今春の仏大統領選に向けた世論調査で、ユーロ離脱を約束しているルペンが優勢になるたびに、仏国債が忌避されて金利が上がり、独仏間の国債金利差が12年のユーロ危機以来の0・8%ポイントに拡大している。
メルケルら独政府は、極右ルペンのライバルである中道右派のフィヨン候補を応援していたが、
フィヨンはタイミングよく起こされた金銭スキャンダルで人気が落ちている。
ユーロ圏の災いはルペンだけでない。ギリシャの財政金融危機も再燃している。
従来、いやいやながらもギリシャに救援金を出していたドイツは今回、以前より厳しい態度をとり、ギリシャがユーロから自主的に離脱しない限り救援金を出さないと言っている。
ドイツやEU中枢は以前、
ユーロから離脱する国を絶対に出さない(ユーロ圏の縮小を許容しない)姿勢をとっていた。
だが昨夏の英国EU離脱の決定以来、どんどんタガが外れ、最近のドイツはむしろユーロ圏の縮小(解体)再編を望んでいるようだ。
IMFは、ドイツが出さないならIMFもギリシャ支援に協力しないと言っている。
危機が放置されてギリシャや南欧諸国、フランスなどがユーロを離脱し、それを機にユーロ解体が進む可能性がある。トランプ政権は、ユーロの存続を危ぶんでいる。
EUはこれまで、
統合の方向だけに注力し、再編や解体についての考え方や手続きを議論していない。EUの憲法であるリスボン条約にも、ほとんど記述がない(だから英離脱が大騒動になった)。
解体した後うまく再編できるのか、何年混乱するのか、予測不能な事態になっている。
ユーロの崩壊は、ECBがドル支援策であるQEを続けられなくなることを通じて、米国など
世界金融の危機につながる。
今の金融システムは、株高など安定しているように見えるが、これはECBと日銀が巨額のQEを続け、資金を注入しているからだ。
QEという麻薬が切れると、金融システムは金利が上昇して危険になる。
トランプのインフラ投資策など実体経済のテコ入れ策の効果はせいぜい数兆ドルで、数百兆ドルの金融システムよりずっと規模が小さく、金融危機を
抑止できない。
▼EUのナショナリズム超越式でなく、トランプのナショナリズム扇動式で
多極化が進むことになり、EUが壊れる
私はこれまで、EUやユーロを失敗しにくいものと考えてきた。
きたるべき多極型の世界において、欧州が独仏伊西といったばらばらな中規模の国民国家のままであるよりも、EUという巨大な超国家的な国家組織になった方が、世界の安定に役立つからだ。
EU(欧州統合)を欧州人に押しつけたのは、軍産複合体(米単独覇権主義者たち)の裏をかいて冷戦を終わらせた(隠れ)多極主義のレーガン政権だった。
だが、EUの主導役となったドイツは、
欧州統合を進めながらも、対米従属を続け、軍産複合体の言いなりになる状態を続けた。
統合はなかなか進まなくなり、ギリシャなど南欧の金融財政危機や、難民危機に見舞われ、EUの弱体化が進んだ。
EUは、ナショナリズムを全く使わずに国家統合を進めてきた。
欧州人のアイデンティティは、国家統合が進んでもフランス人やドイツ人のままで「欧州人」のナショナリズムを扇動する動きがほとんどない。これは意図的な戦略だろう。
EU(欧州統合)は、人類にとって最大の紛争の元凶となってきたナショナリズムを超越・止揚する政治運動だ。だが、このEUの反ナショナリズム運動は、昨夏の英国のEU離脱、昨秋の米国のトランプ当選、前後して激化した難民危機による欧州人の反イスラム感情の台頭を機に、欧州各国でのナショナリズムの勃興となり、各国のナショナリズムが、EUの反ナショナリズムを凌駕し破壊する動きになっている。
今回の欧米全体でのナショナリズムの勃興は、米国でトランプ革命を引き起こしており、トランプは米国覇権の放棄による多極化を進めている。
EUのナショナリズム超越による国家統合が成功していたら、アフリカや中南米でもEU型の国家統合が進み、それによって世界の多極化が進展する可能性があった。だが、このシナリオは、トランプが進めるナショナリズムによる、逆方向からの多極化によって打ち負かされている。
EUのシナリオでなく、トランプのシナリオに沿って多極化が進もうとしている。この流れの中で「古いバージョンのシステム」になったEUが解体に向かっている。
EUの中心は独仏の統合だ。
フランスがルペン政権になり、
ドイツとの国家統合を解消した場合、EUはおそらく完全に崩壊する。ルペンでなくフィヨンやマクロンといった左右どちらかの中道候補が政権をとると、独仏の統合つまりEUの根幹はたぶん維持される。
だが、欧州諸国でナショナリズムが強い限り、それを乗り越えて再びナショナリズムの止揚をめざす欧州統合の政治運動が勃興するのは困難だ。
南欧と東欧をいったん切り離し(それもどうやってやるのか不明だが)、独仏とベネルクス、北欧ぐらいで小さくまとまって再起するなら国民の抵抗が少ないか。そのあたりは、今年の春から秋にかけての選挙が終わると見えてくるかもしれない。
ドイツでは1月末、中道左派政党SPDの党首が不人気なガブリエルから、かなりましなシュミットに代わり、メルケルの右派CDUより世論調査での人気が高くなった。
現状の人気のままだと、SPDは左派政党3つ(SPD、左翼党、緑の党)を連立することで、今秋の総選挙で、右派のCDUなどを入れずに政権
をとれる。左派政権になると、おそらく対米自立と対露和解が進む。独左派政権
は、NATOにもっとカネを出せと怒るトランプと喧嘩して、NATOや対米従属から離れていきそうだ。
対米従属・反露なメルケルも、このままでは人気が落ちるので、ロシア敵視を緩和する言動をとっている。
全欧的にロシア敵視が低下し、米国もトランプと軍産の対立で対露姿勢が定まらない中で、ロシアはやりたいようにやる傾向だ。
軍産の傀儡であるウクライナの極右政権はトランプ当選以来弱体化している。
ロシア系の地域であるウクライナ東部は、分離独立に動いており、昨年、学校教育を
ウクライナ語からロシア語に切り替えた。
ロシアは、ウクライナ東部の身分証明書でのロシア入国を解禁し、ウクライナ東部をクリミア同様、自国の一部として扱う傾向を強めている。ロシ
アの外相は先日、欧米西アジア勢が一堂に会するミュンヘン安保会議で「
『欧米後』の世界秩序を作ろう」と提唱している。
http://tanakanews.com/170221euro.htm