4月27日に板門店で行われた南北首脳会談は、今年初め以来の南北和解の動きの一つのクライマックスだった。
しかし、この会談の意味を事後に分析してみると、表向きの劇的な感じと裏腹に、中身として決定的なものがないことに気づいた。
南北和解に失敗してほしい日本国家の意を受けたマスコミが過剰に喧伝したとおり、北の核廃絶については、曖昧な目標として設定されただけで詳細が表明されなかった。
朝鮮戦争の終了は、南北だけの宣言では足りず、米国と中国の支持が必要だ。
韓国軍は米軍の傘下なので、米国が軍事的な北敵視をやめない限り、韓国だけで北との軍縮を宣言してもダメだ。
かつてのイラクのように「CVID地獄」にはめられると、核兵器をすべて差し出しても「まだ持っているはずだ」と言われ続け、自衛力をすべてはぎ取られて政権転覆させられる。
北朝鮮がCVID地獄を強いられない形で問題解決できるかどうかは米国が決める。
米国や中国との関係、推測される裏側の事情までを含んだ全体像として見ると、今回の首脳会談は、朝鮮問題の解決への大きな一歩になっている。
▼CVIDの判定を中国に任せれば核問題を「解決」できる
特筆すべきものの一つは、米国のトランプ大統領が、今回の南北会談を見て「朝鮮戦争が終わるぞ」とツイッターで宣言したことだ。
朝鮮戦争(南北対立)を終わらせるには、北朝鮮と米国、中国が終戦したいと表明し、それを相互に認知(条約として調印)する必要があるが、
北は今回の南北首脳会談で終戦したいと宣言した。
トランプがそれを見て「朝鮮戦争が終わるぞ」と宣言したことは、米国も北側との対立を終わりにする気があることを意味している。
「だが米国は、北が完全(CVID)な非核化を遂行しないと、北との対立を終わりにしないと言っているぞ。北はCVIDを拒否している」という反論が出てくるだろう。
トランプはCVIDを無視して北と和解しようとするかもしれないが、米国の議会と民主党(=軍産複合体)はそれを阻止しうる。
日本外務省的な模範解答は
「だから米朝和解は成立せず、東アジアは軍産支配が続き、日本は対米従属を続けられる。万歳」ととなる。
これに対する私の予測は「軍産支配の打破をめざすトランプは、CVIDの判定に中国を絡ませることで、北朝鮮をCVID地獄に陥らせないかたちで検証や査察を終わらせ、非核化と対北和解を実現する」というものだ。
大事なことは、北が完全(CVID)な核廃絶を達成したことを、誰が判定するかである。
CVIDの判定は、何種類もありうる。
私自身、昨日まで、CVIDは一つしかありえないと思い込んでいたが、考えてみるとそうでない。
米国(軍産)が「北はまだ核兵器を隠し持っているはずだ。CVIDは達成されていない」と言い続けても、
中国が「いやいや、もうこのぐらいでしょう。
もう北はCVIDを達成しましたよ」と言い、ロシアや韓国、それから中国におもねる英仏も「そのとおりだ」と言えば、
国連安保理の常任理事国で「北に対する査察がもっと必要だ」と言っているのは米国だけになる。
「じゃあ、査察はあと2か所だけですよ」という話になり、そこにも核兵器がなかったら、米国も引き下がらざるを得ない。
中露のCVIDは、査察を適当なところでやめる「許すための戦略」になる。
米国(米英)が、シリアで「アサドが化学兵器を使った」という濡れ衣を延々とかけてきた事態に対して怒っている中露は、今後の北のCVID判定に際し、米国の濡れ衣戦法を許さないだろう。
国際社会において米国の信頼性が落ち、露中の信頼性が上がっているなか、事態は金正恩を有利にしている。
韓国大統領の文在寅によると、トランプの米国は、北と和解したとしても、その後の北の経済を再建する支援金を出すつもりがない。
トランプは、北の面倒を見るのは中国の役目だと考えている
(だから先日金正恩が韓国や米国との首脳会談に先立って中国を訪問した)。
中国に北の面倒を見させるには、北核廃棄のCVIDの判定時から中国を引っぱり込んでおく必要がある。
トランプは、こういった理屈を使い、軍産が仕掛けたCVID地獄を回避し、朝鮮半島の対立構造を壊そうとしている。
北朝鮮の平壌以外の地域は、外国勢に全く開放されていない。
金正恩は、作った核兵器を隠し放題だ。
米英諜報機関も、北の核の隠し場所の見当がつかない。
北は核兵器を持ったまま「完全非核化」を達成し、米国から敵対を解かれ、経済制裁を解除されうる。
戦争主義の軍産と、平和主義の非核論者が「北が隠し持ったままだと非核化にならないぞ」と叫んで連帯(笑)するが、両者とも影響力は低下している。
日本政府は、CVIDが北に適用されている限り、北核問題は解決せず、米朝和解もないと考え、CVIDをお経のように唱えている。
中国外相の王毅が先日訪日した際、日本側はCVIDが大事だと言い、王毅の賛同を得ている。
王毅は、中国流のCVIDを北に適用して完全非核化と米朝和解を達成できると考えつつ、日本側のCVID固執に賛成したのかもしれない。
CVIDといえば米国流(CVID地獄)しかないと思っている日本側(外務省)は間抜けだということになる。
▼金正恩は核兵器が完成してないのに完成したと宣言して米国との交渉の道具にした??
ここまでの話は、北朝鮮の核兵器が本当に完成していることを前提にしている。
だが、米韓などの軍事技術者の中には、北の核兵器がまだ使い物になる段階でないと考える人もけっこういる。
核爆発を引き起こせても、ミサイルに搭載できるよう弾頭を小型化するのが大変だ。
北は、核兵器が未完成なまま、米国から和解を引き出すために開発を停止した可能性がある。
北は、昨年11月末に核兵器の完成を宣言している。
米国の脅威を考えると、完成していないのに完成したと宣言するはずがない。
だが、逆の発想に立ち、もし金正恩が、核兵器の完全廃棄と引き換えに米国から和解を引き出すつもりだったのなら、核が完成していないのに完成したと宣言したことが、巧妙な策として立ち上がってくる。
北は頑張って核開発したが、まだ核兵器として使い物になるところまで到達していない。
だが北は昨秋、核兵器の完成・保有を宣言し、世界はそれを真に受けている。
今年に入って北は、もし米国が北敵視をやめて和解(国交正常化)してくれるなら、核兵器を全廃すると宣言し始めた。
実際のところ北は、使い物になる核兵器を持っていないのだから、できそこないの核弾頭を米側(国連)に差し出すだけだ。
ここで以前なら、米英が「まだ持っているはずだ」と言い続けてCVID地獄を作り出し、北は許されず、米朝和解は実現せず、南北和解も頓挫
する。
しかし、今やCVIDの判定には中露も口出しするので、北は完全核廃絶(核兵器を持つまでに至っていないなら、最初から廃絶状態だった)を認められ、
引き換えに米朝和解や制裁解除を得る・・・というのが「持ってるふり」のシナリオだ。
以前、イランが医療用のウラン濃縮をものすごくやり、米国に「イランがもうすぐ核兵器を持ってしまう。早く核協定を結ばねば」と思わせる策略をした。
北の「持ってるふり」戦略はそれと似ている。
金正恩が本当に「持ってるふり」作戦をやっているのかどうかはわからない。
だが時期的に、北が核兵器の完成を宣言したのが昨年11月末、五輪参加を宣言したのが今年の元旦、2月の平昌五輪をはさみ、北が米国に、核廃棄と和解を決める首脳会談を提案したのが3月初めだった。
時期的な展開のテンポは、北が持ってるふり戦略を進めていると考えるのに無理がない。
朝鮮半島の将来にとっては、北が使える核兵器をいくつ持っているかよりも、
今後の核廃絶の過程で北がCVID地獄を回避できるかどうかの方が重要だ。
CVID地獄を回避できれば、朝鮮半島の平和が実現していく。
北が使える核兵器を隠し持つとしても、他の諸国が北を敵視するのをやめている限り、北はその存在を公表しないだろう。
トランプの米国はおそらく、北のCVIDの判定に中国を参加させる。
CVID地獄は回避される。
北の核は「完全廃絶」される。
北は核の一部を隠し持つかもしれないが、それは公式論にならない。
この流れの前提で今回の南北首脳会談の声明文を見ると、今回は00年や07年の会談時と異なり、本当に南北が和解していく道筋が示されている。
「朝鮮戦争が終わるぞ」というトランプの宣言どおり、6月までに行われる米朝会談より先に、板門店宣言に沿って南北の和解が具現化していくのでないかと、私は予測している。
金正恩は今後の経済戦略の準備のため、トウ小平伝を読んでいるという。
張成沢の処刑は何だったのかという感じだ。
http://tanakanews.com/180430korea.htm