欧州議会の選挙が5月23日から24日にかけて実施された。
議員の任期は5年で、その総数は751名。
欧州委員会が作成した法案を修正したり否決する役割を負っている。
EUの中核機関とは言えない。
欧州委員会は28名の委員で構成されているが、運営するために約2万5000名の職員を抱えている。
EUは1993年のマーストリヒト条約発効に伴って誕生した。
その前身はEC(欧州共同体)。
このECについて堀田善衛はその
「幹部たちのほとんどは旧貴族です。つまり、旧貴族の子弟たちが、今ではECをすべて取り仕切っているということになります。」(堀田善衛著『めぐりあいし人びと』集英社、1993年)と書いている。
この構造はEUになってからも基本的に変化していない。
王族や貴族と呼ばれている集団は長年、政略結婚を繰り返してきた。
そうした支配層の内部対立は自分たちを弱体化させ、庶民に権力を奪われることを彼らは熟知している。
万国の支配者は団結の大切さを理解している。
そこで、支配者は被支配者である庶民の団結を妨害しようとしてきた。
支配者と被支配者との戦いという構図をにならないように宗教、民族、人種、性別などで対立するように仕向けていく。
支配者に矛先が向かないように庶民を操るわけだ。
そうした対立を作り上げる仕組みに教育やメディアも組み込まれている。
そうした支配層の洗脳もあり、
庶民は国境を越えた団結という意思は希薄だ。
ところで、EU内での役割が限られている欧州議会だが、議員が選挙で決められる。
そのため、EUに住む人びとの意見を知ることはできる。
今回はEU加盟国が奪われた主権を取り戻そうと主張する政党が支持率を上げたことが特徴だと言えるだろう。
各国が奪われた主権のひとつが通貨の発行権。
これを奪われたことで独自の経済政策を打ち出すことが困難になった。
通貨は支配システムを支える柱のひとつだ。
通貨の発行権を放棄することで国を破綻させたのがギリシャである。
それまでも経済は厳しかったが、破綻するような状態ではなかった。
破綻へ向かって転げ落ちる切っ掛けはドラクマからユーロへの通貨切り替え。2001年のことだ。
EUのルールに従うとこの通貨切り替えはできなかったはずだが、
財政状況の悪さを隠し、実行された。
その不正行為を主導したのは巨大金融機関のゴールドマン・サックス。
財政状況の悪さを隠す手法をギリシャ政府に教え、債務を膨らませたのだ。
その手法とは、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)などを使って
国民に事態を隠しながら借金を急増させ、投機集団からカネを受け取る代償として公共部門の収入を差し出すということが行われていたという。
借金漬けにした後、「格付け会社」がギリシャ国債の格付けを引き下げて混乱は始まった。
ギリシャを破綻させる作業が続いていたであろう2002年から05年にかけてゴールドマン・サックスの副会長を務めていたマリオ・ドラギは06年にイタリア銀行総裁、そして11年にはECB(欧州中央銀行)総裁に就任する。
その間、2004年に開催されたアテネ・オリンピックも財政悪化の一因になっている。
ギリシャ国内で開発がブームになるのだが、中には建設が許可されていない場所で違法な融資によって開発しようとする業者も現れる。
開発の中止が命令されていたケースもあった。
このブームで業者と手を組んだ役人の中には賄賂を手にしたものが少なくなかったと言われている。
経済破綻したギリシャに対する政策はECB、IMF、そして欧州委員会、つまり欧米支配層で編成される「トロイカ」が決定することになった。
トロイカの基本スタンスは危機の尻拭いを庶民に押しつけ、債権者、つまり欧米の巨大金融資本を助けるというもの。それが緊縮財政だ。
そうした理不尽な要求をギリシャ人は拒否する姿勢を示す。
2015年1月に行われた総選挙でシリザ(急進左翼進歩連合)を勝たせた。
シリザはアレクシス・チプラス政権を成立させる。7月の国民投票では61%以上がトロイカの要求を拒否した。
トロイカの要求に従うと年金や賃金がさらに減額され、社会保障の水準も低下し続け、失業者を増やして問題を深刻化させると考えたからだ。
つまりギリシャを食い物にしようという欧米支配層の政策を止めることを人びとはチプラス政権に望んだのだが、そういう展開にはならなかった。
チプラス政権で当初、財務大臣を務めたヤニス・バルファキスによると、チプラス首相は国民投票で勝つと思っていなかった。
そこでその結果を無視することにしたという。そしてバルファキスは辞任する。
バラク・オバマ政権は2015年3月にビクトリア・ヌランド国務次官補をギリシャへ派遣する。
ヌランドはチプラス首相に対し、NATOの結束を乱したり、ドイツやトロイカに対して債務不履行を宣言するなと警告、さらにクーデターや暗殺を示唆したとも言われている。
イギリスのサンデー・タイムズ紙は7月5日、軍も加わったネメシス(復讐の女神)という暗号名の秘密作戦が用意されていると伝えていた。
チプラス政権は支持者の願いを無視、EUからの離脱とドラクマへの復帰を拒否した。
そのチプラス首相に対しては、ロシアのウラジミル・プーチン大統領がサンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムで天然ガス輸送用のパイプライン、トルコ・ストリームの建設に絡んで50億ドルを前払いすると提案されているが、これを拒否した。
アメリカに従い、ロードス島とクレタ島の中間にあるカルパトス島にギリシャ軍はアメリカ軍と共同で基地を建設、アメリカ軍のF22戦闘機の拠点にしようと計画していると言われている。
その後、ギリシャは危機を脱したと報道されたが、予定通り進んでも債務の返済にはあと半世紀は必要だとされている。
しかも支援の過程で経済は4分の1に縮小、
若者や専門技術を持つ人びとを中心に約40万人のギリシャ人が国外へ移住、
メンテナンスを放棄したことからインフラを含む700億ユーロ相当の資産が失われた。
ギリシャ危機が終わったのではなく、ギリシャという国が終わったのだと言う人は少なくない。
そしてチプラスはロシアへ接触する。
これはギリシャだけではなく、EU全体が抱えている問題である。
ギリシャの経済破綻はアメリカをはじめとする西側の支配層に従うと何が待っているかを示すことにもなった。
その記憶は消えない。その記憶のひとつの結果が今回の選挙に現れている。
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