一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

王座戦第1局を振り返る(前編)

2017-09-10 02:12:36 | 男性棋戦
羽生善治三冠が王位を失冠し、その傷を癒す間もなく第65期王座戦五番勝負の開幕である。
挑戦者は中村太地六段。王座戦では4年前の挑戦者で、その時は第3局までに羽生王座をカド番に追い込んだが、以降は千日手を挟んで連敗し、長蛇を逸した。とくに第5局は激戦で、その投了図(▲6一角)は、ここ数年で最も美しかったと確信する。
ともあれ中村六段に羽生王座への苦手意識はまったくなく、今度こそ初タイトルを、の炎を燃やしていたのは想像に難くない。
いっぽう羽生王座にはあまり明るい材料がないが、皮肉なことに王位戦が終わってしまったので、王座戦に集中できる利点はある。
さて宮城県仙台市で行われた王座戦第1局は中村六段の先手。出だしは横歩取りっぽくなり、その後は角換わり系っぽくなったが、羽生王座が△4四歩と角交換を拒否したため、中村六段の矢倉、羽生王座の△4三銀型に落ち着いた。
この△4三銀型が現在の大流行で、羽生王座、あなたもか、と私は唸った。
本局とは関係ないが、先手が矢倉を志向した場合、後手は数年前から追随しなくなり、急戦策を採るようになった。
そこへもってきてこの△4三銀型が登場し、もはや「相矢倉」は死語となった。
ちなみにこの△4三銀型(▲6七銀型)は私も角落ちの下手で多用していて、矢倉に組むよりしっくりくる。角の移動がなく、すぐに攻撃に移れるのが魅力だ。
中村六段は果敢に棒銀に出たが、33手目▲3七桂と跳ねたのが序盤の勝負手だった。というのも、▲2六銀~▲3七桂、の組み合わせで幸せになった将棋を私は知らないからだ。
羽生王座は△8六歩~△8五歩の継ぎ歩から自然に攻める。後手は特別いい手を指したふうでもないのに、先手は▲8八歩と凹まされ、△6七歩には屈服の▲7九角。私だったら戦意を喪失しているところだ。
なお本局は、竜王戦サイトのネット中継のほかに、ニコ生やAbemaTVでも中継があった。何人視聴しても追い出されないAbemaTVが私は好きだが、あまりこの番組にかじりついていると無職に思われるので、私は将棋アプリmomonokiで、時折進行を確認するのみだった。
72手目、頃はよしと羽生王座は△2六角と切った。半分遊んでいる銀と自分の角を交換するのだから、理外の手だ。ただし羽生王座はだいぶ昔、己の要の馬と、相手のどうでもいい銀と交換して、快勝したことがあった。ともあれこんな手が飛びだしては、羽生王座が勝勢になったと思った。
▲2六同飛に△5七歩の垂らしがまたいやらしい。中村六段は▲6七金と、こっちの歩を除去したが、ここで羽生王座が長考に入り、夕食休憩になった。
かつて中原誠十六世名人は、自分が勝勢の局面で夕食休憩に入り、その間に相手にも考えさせることで戦意を喪失させたというが、本局の羽生王座にもその気配があった。
夕休後はバタバタ手が進み、84手目△8七金と、羽生王座が銀を取った。
これを▲8七同歩と取り返すと、△同飛成で後手勝勢。でもこの金を取れないとはシャクに障るから、私だったら▲8七同歩と取り、△同飛成でアオくなって、投了しているところである。
そこで中村六段は▲4四歩! ここで攻め合いですか!!
自玉は裸同然、相手は金銀3枚の囲いで、繰り返すが、私ならもう戦意喪失している。しかし中村六段は全然諦めていないのだ。
羽生王座△8六飛に、中村六段▲7五玉!! 唯一の守りの金からも離れてしまった。
本局の現地解説は木村一基九段だが、木村九段のお株を奪う玉捌き、というわけだ。
しかしこの玉の動きがまだ序の口だとは、この時の私は知る由もなかった。
(つづく)
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