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ヒューマンエラーを事故につなげないために ---心理安全工学序説

2009-02-25 | ヒューマンエラー
111112222233333444445555566666 30字 117行 3500字 01/11/8¥海保 *下線はゴシックで *「連載にあたり」はポイントを小さく リレー連載;

ヒューマンエラーを事故につなげないために ---心理安全工学序説     
東京成徳大学 応用心理学部 健康・スポーツ心理学科 海保博之

●連載にあたり  

前半の7回の連載では、「心の管理不全」を鍵概念として、心を十全に管理できないために起こるヒューマンエラーに焦点をあてて、それを事故につなげないための方策を提案してみる。題して、心理安全工学序説。海保が一人で執筆する。  後半の5回は、交通、医療、プラントなど業種別に、事故防止策の数々を心に焦点を当てて紹介していただく。それぞれの現場に詳しい5人の方々のリレー連載となる。  前半7回の概要は次の通りである。

●第1回 心の管理不全と心理安全工学  我々は自分で自分の頭の働きを知るメタ認知機能を持っている。そのおかげで、自分で自分の頭の働きを知り行動をコントロールできる。ただし、いつもそれが完璧に機能しているわけではない。その隙をつくかのようにして、事故が起こる。心の管理不全を、メタ認知機能の自己管理不全、およびメタ認知機能の外部管理不全との関係で考えてみる。

●第2回 知覚管理不全と心理安全工学   物を見たり聞いたりといった知覚機能はほとんど自動的に働いている。それだけに意識的に自己管理するのは難しい。しかし、見落とし、見誤り、といった知覚機能に由来する事故は少なくない。ここでは、人の知覚特性に配慮した外部の環境設計が重要となる。

●第3回 記憶管理不全と心理安全工学  人は膨大な知識を記憶している。その知識の取り込み、記銘、保持、運用の不全がエラー、事故につながることがある。さらに、外からの知識管理の支援も忘れてはならない。頭の内外で知識が適切に管理されていないと、エラー、事故が発生する。

●第4回 思考管理不全と心理安全工学  人間の最も高次の知的活動である思考には、コンピュータのような厳格で信頼性の高い側面もある一方では、独断、偏見、思い込みなどなど「高次」とはほど遠い側面もある。後者はとりわけ、エラー、事故に深く関係している。高次であるだけに、意識的な自己管理が可能な領域である。

●第5回 注意管理不全と心理安全工学  注意不足とエラー、事故との関係はよく知られている。しかし、単なる注意の不足だけで事を済ましてしまっては事の本質を見逃すことになる。注意の特性を踏まえた注意管理の方策を、人と外部とを含めて考える必要がある。

●第6回 感情管理不全と心理安全工学   感情の管理は個人のプライバシーに踏み込むようなところがあるためか、タブー視されてきた。しかし、感情の不安定は、知的活動に微妙な影響を及ぼし、ひいてはエラー、事故にもつながる。扱いにくい領域ではあるが、エラー、事故防止に限定するなら、自己管理と外部管理の方策を考えることも許される。

●第7回 行為管理不全と心理安全工学  認知活動は最終的には行為として実現される。しかし、認知と行為の間には微妙なズレがある。そのズレがエラー、事故につながる。 計画ー実行ー評価(PDS)の最適化が必要とされるところである。

第1回 心の管理不全と心理安全工学

●心を管理する  
我々は自分で自分の心をある程度までは知ることができる。これを、認知についての認知ということで、メタ認知と呼ぶ。あたかも頭の中にもう一人の自分(ホモンクルス;頭の中の小人)がいて頭の中をのぞき込んでいるような図式である。 図 頭の中にもう一人の自分(ホモンクルス)がいる 別添  心を管理するというとき、まず、このメタ認知機能の働きをきちんとおさえておく必要がある。  メタ認知は、自分の認知機能を知る機能(自己モニタリング機能) と、自分の認知機能を調整する機能(自己コントロール機能)とに大きく分かれる。  自己モニタリング機能としては、次の3つがある。   ・自分が何を知っていて何を知らないかを知る(知識)     例 機械の構造は知らないが、どうすれば動かせるかは       知っている   ・自分は何ができて何ができないをを知る(能力)     例 携帯電話をしながらの運転は自分にはできない   ・自分が今どのように頭を働かせているかを知る(認知活動)     例 やや集中力がにぶってきている  自己コントロール機能としては、   ・どのように頭を働かせればよいかを知る(方略選択)     例 忘れてしまいそうなのでメモをしておこう   ・認知活動を最適なものに調整する(調節)     例 ここは大事なところなので集中しよう  メタ認知のこうした機能が十全に働いていればエラーも起こりにくくなる。

●心の管理不全とは  
心の自己管理不全というときは、まずは、このメタ認知が十全な働きをしていないということがある。  メタ認知が十全に働かないのは、一つにはメタ認知力が充分についていないからである。  たとえば、幼児のメタ認知力は大人より低い。幼児に、「数字を何個くらい覚えられる」と聞くと、10個とか3個とか適当な数を言う。実際に記憶させてみると、4個くらいしか覚えられない。自分の記憶能力についてのメタ認知が充分にできていないからである。  メタ認知も能力の一つなので、人によって高い低いがある。当然、メタ認知力が低いと、能力以上のことをしようとしてエラーが発生することになりがちである。  メタ認知が十全に働かないもう一つのケースは、認知活動そのものに注意が集中してしまったり、逆に、心の機能全般が弱体化してしまったりで、メタ認知機能の働く余地がなくなってしまっているような状況のときである。  たとえば、ゲームに熱中しているようなとき、あるいは、ぼんやりしているようなとき、自分の心をみつめる(内省する)ようなことはしない。当然、熱中しているときは大局を忘れるエラーが、また、ぼんやりしているときはうっかりミスが起こる。  メタ認知にかかわる、こうした心の自己管理不全は、言うまでもなく本人自身の責任に帰せられる。しかし、そうした状態にさせた外部(組織、上司、仲間、環境など)の責任も問われなければならない。それもまた、人の心への配慮不足という点で、心の管理不全ということになる。

●心の外部管理不全  
「心の外部管理」という言い方は、土足で人の心に入り込むような印象を与えるので、あまり穏当ではないかもしれない。しかし、人の心に配慮した、エラーに強い作業環境の構築の大事さを訴えために、あえて使ってみた。  心理安全工学の趣旨は、メタ認知はいつも十全に機能するわけではないという前提で、事故防止策を考えることである。  メタ認知機能の強化策を考えることも一つの重要な柱であるが、それと同じくらい重要な柱として、メタ認知の働きを外部から支援したり、機能不全を事故につなげない外的な仕掛け---具体的には組織的な仕掛けと環境的な仕掛け---を考えることもある。  この2本の柱が、バランスよく実行されている状況では、ヒューマンエラーが起こっても、それが事故に直結することはない。  身近な具体例を挙げてみる。  筆者は、交差点での右折車の指さし確認を実行している。これが、心(注意)の自己管理である。  さらに、最近あちこちの交差点で見ることができるが、右折車レーンに特殊加工した塗料をはって車が目立つようしてある。これが、心の外部管理の一つである。目立つものには注意が自然に引かれるという注意の特性に配慮した環境設計だからである。  以下、6回にわたり、こうした2つの観点からエラーを事故に直結させないための心理安全工学の話をしてみる。  想定する読者としては、安全担当の管理や研修をしている方々である。したがって、「心の自己管理」の話も、作業現場で働く方々のそれをいかに支援するかというような形で展開することになる。  

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