鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

1マイル離れても見える蜜蜂がいるはずない(GLASS3-1)

2008-03-09 19:02:00 | Weblog
アリスが山のてっぺんからこれから旅する土地の様子を眺める。「まるで地理の勉強みたい!」とアリスは思う。「主だった川も、主だった山もない。私は確かに山の上にいるけどこの山には名前がない。街もない。」そのうち彼女は発見する。「あの生き物たちは何かしら。下の方のあそこで蜜を集めているのは。」だが彼女は困ってしまう。「蜜蜂なわけないわ。蜜蜂だったら1マイルも離れていて見えるわけないから」と。さてこの謎の答は何だろう?鏡の国はまたしても不思議である。(PS:「GLASS 3-1」は、「Lewis Carroll, THROUGH THE LOOKING GLASS, 3. LOOKING-GLASS INSECTS に関するコメント1」の意味である。以下の項目でも、同様。)

アリスの夢は現実世界である(GLASS12-7)

2008-03-03 23:28:01 | Weblog
「ボート、太陽が輝く空の下、漂い前に進む、夢見ながら、7月の夕暮れ
子どもたち3人、近く寄り添う、熱心な目、注意散漫な耳、聞くに無邪気な話が喜ばせる
長い時間がたち明るい空がたそがれる、木霊が消える、思い出が薄らぐ、秋の霜が7月を消してしまう
いまだアリスが私に現れる、幻のように、アリスが空の下で行動する、覚醒した目には見えない
昔のままの子どもたち、聞かれる話、熱心な目、注意を向ける耳、優しく近く寄り添う
不思議の国に子どもたちが生きる、日々が過ぎ行くまま夢見る、夏が消えゆくまま夢見る
いつまでも流れを漂い下る、黄金の輝きの中を漂う、人生、夢以外に何なのか」

  以上が、鏡の国のアリスの話の最後にある Lewis Carroll の詩の大意。不思議の国も鏡の国もアリスの夢だった。人生が夢なのだとしたらアリスの夢は人生の一つである。人生を現実世界と読み替えるなら、現実世界は夢である。だとしたらアリスの夢が現実世界であると言ってもよいのだ。




アリスの夢か?赤の王の夢か?(GLASS12-6)

2008-03-02 11:44:17 | Weblog

 アリスが黒い子猫に尋ねる。「夢を見ていたのはいったい誰だったのかしら?」と。「私の夢かしら?」それとも「私の夢の中の赤の王が見た夢かしら?」とアリスは悩む。なぜなら「私が赤の王の夢の中にいたのも本当なのだから」とアリス。「4 Tweedledum and Tweedledee 」の章でトゥイードゥルディーが赤の王の夢の中にアリスがいると述べアリスが戸惑う場面がある。だからアリスが赤の王の夢の中にいたのは本当である。アリスの黒い子猫は当然、何も答えない。 このアリスの謎を解いてみたい。一方で夢を見ていたのはアリスである。他方でアリスの夢の中の赤の王も夢を見ていた。アリスの夢の中にはもちろんアリスもいる。ところがこのアリスの夢の中の一切の出来事が赤の王の夢だとも言うのである。キャロルはアリスの夢と赤の王の夢との間に異なるところはないと想定している。(なおアリスの現実の世界には赤の王がいないから赤の王の夢の世界がアリスの現実世界と同一であることはない。) さてアリスの夢の中で赤の王が寝ているが、アリスの夢が赤の王と同一との想定だから、赤の王の夢の中でも赤の王は寝ている。問題はアリスの夢の中の赤の王が、つまり赤の王にとっては現実世界の赤の王が、自分の夢の中の赤の王と同一であるとは何を意味するかである。一般的に言うと夢の中の自分が現実の自分と同一であるとはどういうことかという問いである。現実世界の人Aが夢の中の人A(=人a)を夢見る。ところが人aは実は人Aと同一である。これが鏡の国の構造である。アリスの現実世界の観点からするとアリスが夢見ているのは鏡の国であり、これは鏡の国の現実世界である。鏡の国の現実の赤の王Aが夢の中で赤の王aを夢見る。ところがこの赤の王aは実は鏡の国の現実の赤の王Aと同一である。 「夢を見ていたのはいったい誰だったのかしら?」との問に対する答は以下の通り。 ①アリスの現実世界からすれば夢を見ていたのはアリスである。アリスの現実世界には赤の王がいないから夢見ていたのが赤の王であることはない。 ②しかし鏡の国の現実からすると夢見ていたのは赤の王であってアリスではない。(寝ていて夢見ているのは赤の王でアリスは起きている。)ただし鏡の国では現実の中の人Aが見た夢の世界が同時に再び現実である。夢の世界の人aは現実の世界の人Aと同一であり、現実世界の人Aは寝ていないと夢見ることができないから夢の世界の人aも寝ている人として登場する。鏡の国の現実は人Aを介して夢の国となり、再び夢の国の人aが寝ている(つまり現実の寝ている人Aと同一である)ことからまたこの新たな現実と同一の夢世界を生み出す。赤の王が寝ている限り鏡の国は無限に循環する鏡像世界を生み出す。鏡の国には一方で鏡の国の現実がある。しかし他方で鏡の国は赤の王の夢の世界と同一である。(しかもそれは無限に循環する鏡像世界である。)だから赤の王が眠りから覚めると、赤の王の夢の世界が同時に現実世界だから、鏡の国の一切が消える。赤の王が寝ている限りで鏡の国は存在可能である。 要するにアリスの現実世界からすると鏡の国はアリスの夢の世界であるが、その鏡の国は赤の王が寝て夢見ている限り存在するという構造を持つのである。 PS:別の章では赤の王が起きて様々に活躍しているから、この議論は4章にのみ限る。

イラスト: ダイナとアリスと子ネコたち