②韓国、「告げ口外交破綻」対日政策は大転換「経済・安保」前面へ
勝又壽良の経済時評
週刊東洋経済元編集長の勝又壽良
韓国では現在、「韓半島歴史繰り返し説」が広く流布しているという。
100年前に滅亡した朝鮮李朝時と同じような歴史条件がめぐって来ているというのだ。
政界は派閥争いに明け暮れて政策は前に進まないのである。
100年前は朝鮮半島をめぐって、清国・ロシア・日本が政治的に拮抗していた。
政界はそれぞれの派閥に分かれて、いかに自派が有利になるか、
前記の外国勢力と手を結んでいた。
この視点で現代の韓国情勢を眺めると、日本が勢力を復活させて、朝鮮半島に勢力拡張を図る動きをしている。
だが、後のパラグラフで指摘するように、戦後の日本は戦前の日本と質的な大変化を遂げ断絶している。
この事実を知らなければならないと分析している。
「韓半島歴史繰り返し説」のなかで日本を眺める。そのことの危険性を懇々と説いているのだ。
⑥ 「米国と手を組んだ日本の
『普通の国』化、すなわち戦争ができる軍事大国・日本の再登場は、歴史繰り返し説をあおる。
『北朝鮮のミサイル基地を先制攻撃できる』という日本の防衛相の発言は、燃え上がる歴史繰り返し説に油を注いだ。
『壬辰倭乱(文禄・慶長の役)や韓日併合に続く日本の韓半島侵略の可能性』という、
我々にとっての悪夢を思い起こさせるからだ。
しかし、韓半島歴史繰り返し説は客観的事実に合致しない感情的な主張であるだけでなく、韓国の国益をひどく阻害している。
むなしく崩れ去っていった100年前の朝鮮と、急浮上中の21世紀の韓国は全く違う国であるという事実を見落としている点に、歴史繰り返し説の過ちがある」。
日本が米国と手を結んで軍事強化して、軍事大国になる。こういう説が韓国では真面目に受け止められているという。
この説は、私も何回か否定してきた。
日本の自衛隊は米軍との共同作戦が基本である。
韓国は米韓防衛条約で守られている。
そこへ米軍と一体化している自衛隊が、単独で韓国へ上陸して軍事行動を起こす。
こういうことは、法的にも不可能である。
ましてや、韓国陸軍は陸上自衛隊の3倍の兵員を擁している。
その上、陸上自衛隊の全隊員を韓国へ派兵する訳にはいかないのだ。
対中国防衛の任務も重大であるから、西部方面部隊は残留する。
あれこれ合理的に考えても、全くあり得ないことを想定して騒いでいる。それが韓国である。
この対日妄想の上で、著者は日韓外交を凍結していることの無意味さを説いている。
韓国が100年前の朝鮮時代と異なって経済力も一段の飛躍をしている。
国連も控えている。
第一、米軍が日本の単独軍事行動を阻止するはずである。
こう見てくると、あり得ない妄想を繰り広げていることの損失を考えるべきである、というのだ。
⑦ 「韓半島歴史繰り返し説は民族感情をあおり、それに便乗したデマに過ぎない。
最も致命的なのは、歴史繰り返し説が韓国人の現実認識や将来予測をゆがめていることだ。
その弊害は日本と中国に対する認識に裏返った形で集中して現れている。
安倍政権の歴史修正主義は普遍的市民倫理に基づいて批判すべきだが、『現代日本が軍国主義国家に走るかもしれない』という懸念は誇張されたものだ。
それは、日本が世界帝国・米国に正面から挑まない限り、実現不可能なシナリオだ」。
「韓半島歴史繰り返し説」は、100年前に李朝が崩壊時の単純な再現論である。
再び、現実化する可能性はゼロである。
それを知りつつ、危機を煽り立てているのだ。
その結果、「韓国人の現実認識や将来予測をゆがめている。
その弊害は、日本と中国に対する認識に集中して現れている」としている。
ここの指摘が重要である。
日本には厳しい眼差しを向ける。
中国に対しては、逆に暖かい視線を送っている。
このギャップが、「韓半島歴史繰り返し説」を生み出している原因である。
「反日論」の裏には、今なお100年前の日本帝国主義が生きている。
現実には、米国の強力な抑制によって日本帝国主義が瓦解したはずである。
韓国政府が繰り返し強調する「歴史認識問題」は事実上、存在しないのだ。
中国に対する韓国人の認識は、次のパラグラフで指摘しているように「鈍感」である。
日本に対しては、「過敏」であることと対照的な動きである。
⑧ 「日本に対する韓国人の民族主義的過敏反応は、中国に対する韓国人の鈍感な反応と表裏一体の関係にある。
中原大陸(=中国)からの韓半島侵略は、日本列島からの侵略よりもはるかに多かったという史実を考えれば、実に奇妙な現象だ。
ところが、帝国を目指す日本の夢は白日夢にとどまったのに対し、
中国はその5000年の歴史の中で常に帝国だったし、
今も世界帝国になろうと進軍している。
こういう時、帝国は自国を『秩序の創造者であり、保証人だ』と大国以上の存在として考える」。
中国と韓国とは大陸で繋がっている。
この地政学的なリスクゆえに、韓国は過去5000年にわたり支配されてきた。
この間、中国は一貫して「帝国」であり続けた。
内政重視よりも、外延的な発展を目指す帝国特有の政治行動をとってきた。
中国は現在も、世界帝国を目指している。
米国に代わって覇権を握る。
その前段として軍拡に邁進しているのだ。
中国は自らを「帝国」として位置づけている。
米国は「大国」に過ぎず、中国こそ「秩序の創造者であり保証人」の「帝国」と信じ切っている。
この時代錯誤の「中国帝国論」は、微動だにしないのだ。
韓国は、この「中国帝国論」からの被害者になっている。言外に、こう示唆している。
⑨ 「朝鮮時代、私たちの先祖が『小中華』を自任し、
中国と自分たちを同一視していた虚偽意識は、
21世紀の韓国人たちが中国帝国よりアメリカ帝国を批判する方が進歩的だと信じる『壮大な勘違い』として再生産されている。
自閉的対外認識と名分論に始まった対日関係の悪化は、韓国の国益を深刻なまでに害しているため、対日関係を早急に正常化し、安倍政権に堂々と対抗するのが賢明だ」。
韓国には「小中華」という認識がある。
韓国と中国を同一視するものである。
したがって、韓国は広い意味で「中華帝国」の一員と見なしている。
「事大主義」という韓国特有の「大国依存主義」は、「小中華」意識の裏返しとも言える。
こうした意識構造の下で、韓国は中国帝国を「善」であり、米国帝国が「悪」という虚偽認識を生んでいる。
韓国では共産主義シンパが意外に多いのだ。
韓国軍内部にも、共産主義に同調する者の存在が取り沙汰されている。
教職員にも多い。
その背景には、この虚偽認識が働いているのだ。
韓国社会が、中国の言動に「鈍感」であり寛容的なのは、「小中華」意識が働いている。
一方、日本に対しては「韓半島歴史繰り返し説」が疑うこともなく受容されて、「日本悪玉論」となっている。
これはきわめて不合理であると指摘しているのだ。
「対日関係の悪化は、韓国の国益を深刻なまでに害している」とも言っている。
韓国による「悪玉論」は、日本にとって不愉快千万である。
韓国政府が5月18~22日の週に、矢継ぎ早に日本政府との各種協議を再開させた事情は、対日断絶が自らにとって不利益と判断したのであろう。
なんと、身勝手な国であろうかと呆れるが、
「告げ口外交」を続けられるよりは「まし」というところであろう。
韓国が真に「日本評価」に基づく接近であれば別だが、便宜的な「日本接近」は再び「日本批判」を噴出させる。
そういう危険性が消えないのだ。韓国の民族特性は今後とも変わるまい。厄介な相手と言うほかない。
⑩ 「中国とも引き続き近しくすべきだが、帝国としての中国に傾倒しすぎるのは韓半島の独立と市民的自由にとって有害だ。
中国に対する韓国の発言権は、米国と日本を『利用』する時に大幅に強まるからだ。
近隣諸国の吸引力を制御する強い決断と知恵だけが悲劇的な歴史の繰り返しを防ぐ。
結局は『歴史は繰り返すのか』という開かれた問いにつながる。
終わらないその問いに答えられるのは、私たち韓国人だけだ」。
韓国は、中国に対して「帝国の中国」という認識を忘れてはならない。
こう言っている点は注目すべきだ。
私は常々、中国が「中華帝国」の後継国家であると言い続けてきた。
領土拡張主義こそ「普遍帝国」の基本モデルである。
中国が今、南シナ海や東シナ海で活発な領土拡張を狙っていることは、その象徴的な動きである。
少数民族問題も領土拡張主義が生み出した軋轢である。
「普遍帝国」は、内政で大きな矛盾を抱えるという特性がある。
中国もまた同様である。格差拡大と環境崩壊は内政矛盾の現れである。
中国外交は、巧妙な「合従連衡」策を利用してくる。
中国は相手陣営が「合従」(同盟)を結ぶことに極度の警戒感を示す。
「合従」をバラバラにさせて「連衡」(中国との一対一の関係)に分解させる。
そして、中国の支配下に組み込むという高等戦術をとるのだ。
韓国が、中国の「合従連衡」策に対抗するには、日米韓の三カ国が結束するなかでこそ実現できる。
間違えても、韓国だけが中国へなびいて「中国万歳」などと言っていると韓国が滅亡する。
中国得意の「連衡」に持ち込まれて支配されるのだ。過去5000年の歴史がそれを証明している。
北朝鮮が、執拗なまでに「反中国」的な行動を取っている理由には、中国の「連衡」策が働いているのであろう。
ベトナムが中国のくびきを離れて、TPPに参加する狙いはまさにここにあるのだ。
韓国は、「韓半島歴史繰り返し説」を盲信して、中国の尻馬に乗って「反日」を唱え日本悪玉論に加担していると、大変に国益を損ねることになる。
韓国は遅ればせながら、そのことに気づいたのだ。
(2015年6月2日)