北大路機関

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【防衛情報】F-35戦闘機のスイスとシンガポールとノルウェーの動静にA330MRTT,KC-46空中給油機最新情報

2022-12-26 20:21:41 | インポート
週報:世界の防衛,最新12論点
 今回はF-35戦闘機と空中給油機の話題を中心に。

 スイス政府はF-35戦闘機30機の調達を閣議決定し正式な調達契約署名を果たしました。これは9月19日、スイス国防省調達局長マーティンソンデレッガーが表明したもので、署名式典にはロッキードマーティン社よりF-35プログラムマネージャーのダルコサヴィッチが出席しています。今回契約の機体は2027年から2030年にかけ引き渡されるとのこと。

 F-35戦闘機30機は米貨換算で62億5000万ドルの契約となり、この契約は先んじてスイス連邦議会において調達軽悪が可決された事にもとづくものです。そして2021年に表明したスイス空軍調達計画のF-35戦闘機36機のうち、先ず30機を調達契約したものであり、スイス空軍の旧式化したF/A-18戦闘機と老朽化が深刻なF-5戦闘機を置換える事となる。

 ロッキードマーティン社によれば、F-35戦闘機は空軍仕様のF-35Aであり、まず8機がテキサス州フォートワース工場において製造されると共にアメリカ本土においてスイス空軍操縦士の機種転換教育に供されます、そして22機以上の機体がイタリアのカメリにあるレオナルド社のFACO最終組立工場において組み立てられ、スイス軍へ納入されるでしょう。
スイスがFACO誘致希望
 FACOは小牧にもありますが。

 スイス政府は導入するF-35戦闘機の内一部をスイス国内で最終組立が可能かを模索しています。現在スイス空軍向けのF-35戦闘機はイタリアのカメリにあるレオナルド社のFACO最終組立工場において製造され、スイスへ空輸される方針で調整されていますが、4機をスイス国内にあるルアーグ社の工場施設において組み立てを希望しているとのこと。

 ルアーグ社は1999年に設立されベルンに本社を置く防衛産業でドルニエDo228NG輸送機の部品製造請負やエアバスA320旅客機胴体部分、航空機部品、HG-85手榴弾や弾薬等を製造しています。スイス空軍が運用するF/A-18戦闘機の定期整備を担っており、最終組立だけならばスイス国内にて可能でないかとの認識に基づくものですが、可能かは不明です。
F-35BかF-35Aか
 F-35BかF-35Aか意外に悩むところなのでしょう。

 シンガポール空軍はF-35戦闘機について既に導入計画を進めるF-35Bから別のF-35A等に変更の可能性を示唆しました。これは9月までにオーストラリア北部において行われたPitch Black多国間合同空軍演習においてシンガポール空軍広報官が示唆しました。この演習はアメリカ海兵隊のF-35Bとともにオーストラリア空軍はF-35Aを参加させています。

 F-35B戦闘機、アメリカ海兵隊と同じ第五世代戦闘機をシンガポール空軍は現在運用するF-16戦闘機の後継として60機導入する計画を推進中です。F-35Bは2020年1月にアメリカ国務省の有償供与許可を受けており、27億5000万ドルでF-35B戦闘機4機と続いて8機のオプション契約を結んでおり、2026年にも引き渡しが開始される計画となっています。

 F-35B戦闘機は垂直離着陸さえ可能な戦闘機ですが、空軍型のF-35Aと比べ、必要な垂直離陸用ファンの内臓などから燃料タンク区画が制限されており、これは航続距離の低下に直結しています。一方、この能力は軽空母などからの運用では必須のものであるのですが、シンガポール海軍には空母導入の計画はなく、F-35Bへの急な再検討といえるでしょう。
KC-46A空中給油機の改良
 KC-46A空中給油機には数少ない問題があります。

 アメリカ空軍はKC-46A空中給油輸送機がA-10攻撃機への給油能力欠如に取り組むかを検討しています。KC-46A空中給油輸送機はアメリカ空軍のB-2爆撃機からF-22戦闘機まで前型のKC-135空中給油機が担ったほぼ全ての機種への空中給油が可能ですが、唯一例外的にA-10攻撃機だけは構成要素の再設計をしない限り、空中給油能力を有していません。

 KC-46A空中給油輸送機からA-10攻撃機へ空中給油が出来ない背景には、ブーム方式の空中給油に在ってブーム部分の剛性に問題が、稀に給油中に折れる可能性があるといい、この再設計へボーイングとの間で2019年に5550万ドルの契約を結んでいます。しかしKC-46Aは完成後幾つか不具合があり現在の再設計だけで不充分となる懸念があるという。
KC-46A空中給油機実任務
 KC-46A空中給油機が初の実任務に参加した。

 アメリカ空軍はKC-46A空中給油機を初の実任務作戦へ参加させました。これは9月15日に空軍が発表したもので、空軍によれば8月29日、アメリカ中央軍が実施した任務へF-15E戦闘爆撃機2機への空中給油を実施したという、作戦の詳細は非開示ですがKC-46A空中給油機はカタールのアルウデイド空軍基地を拠点として行動していたとのこと。

 KC-46A空中給油機はアメリカ空軍へ配備開始となってから4年となりますが、空中給油システムのプログラム欠陥などで運用試験が長期化した背景が有り、2022年に入り漸く実戦投入が可能となったかたちです。KC-46A空中給油機は航空自衛隊とイタリア空軍が採用したKC-767空中給油輸送機のアメリカ軍仕様で、航空自衛隊もこれを追加調達しています。
KC-46A空中給油機損傷
 KC-46A空中給油機でトラブルです。

 アメリカ空軍のKC-46A空中給油機が上院議員視察中に給油ブームが格納不能となる椿事がありました。これは8月23日民主党上院のジャンヌシャヒーン上院議員とマギーハッサン上院議員、下院のアニークスター開銀議員とクリスパパス下院議員がニューハンプシャー空軍州兵の第 157給油航空団の最新鋭KC-46A空中給油輸送機を視察中の出来事です。

 ニューハンプシャー空軍州兵はKC-135空中給油機から2021年に機種転換を終えたばかりでしたが、別の戦闘機への空中給油訓練展示を実施した直後に、給油ブームを格納する際のケーブルが断線し、ニュージャージー州のマクガイアディックスレイクハースへ給油ブームを伸ばしたまま緊急着陸を余儀なくされました。なお負傷者などは居ませんでした。
F-16戦闘機8機増強計画
 中小国にはF-16でも大きな出費です。

 ブルガリア政府は9月21日、F-16戦闘機8機増強計画の予算を正式に計上しました。ブルガリア空軍は2019年よりF-16戦闘機の導入を開始し冷戦時代に導入し老朽化が進むソ連製のMiG-29戦闘機の代替を開始しました、現在8機のF-16戦闘機を運用していますが、将来的に飛行隊を編成する計画であり、今回の増強により16機体制となります。

 F-16、ブリガリアのディミタルストヤノフ暫定国防相は追加分の機体引き渡しは2025年から開始されるとしています。導入するF-16はAESAレーダー搭載型であるblock70のF-16C/Dであり、この導入計画にはアメリカ空軍による訓練支援支援も含まれていて、ブルガリア空軍のF-16戦闘機運用教育にはアメリカ空軍第162航空団が対応しています。
MS-110複合領域偵察ポッド
自衛隊も停滞し中断されているRF-15はこのMS-110複合領域偵察ポッドを導入する事で解決する。

 アメリカのコリンズエアロスペース社は開発を進めているMS-110複合領域偵察ポッドの搭載初飛行を実施しました。MS-110複合領域偵察ポッドはF-16戦闘機やF-15戦闘機に搭載される外装式の偵察ポッドで、戦闘機に搭載する事で戦術偵察機に転用可能、特にRQ-4のような高高度を低速で飛行する偵察機では難しい強行偵察などを担う装備という。

 MS-110複合領域偵察ポッドはコリンズエアロスペース社が手掛けたU-2 戦略偵察機に搭載される SYERS-2C偵察装置の技術的基盤に依拠するシステムでMSIマルチスペクトルイメージング技術方式を採用している。なお、コリンズエアロスペース社によればこのポッドは高高度を滞空する情報収集用ビジネスジェットなどにも搭載可能とされています。
ストームブレイカー
 ノルウェーはストームブレイカーを導入します。

 ノルウェー空軍はF-35戦闘機用打撃装備としてGBU-53Bストームブレイカーを採用します。GBU-53BストームブレイカーはSDB小口径爆弾として知られ、精密誘導により小型でも充分な打撃力を有しているという。F-35戦闘機の場合、ステルス性を維持する際に機内兵装庫に8発を搭載可能、機外にも搭載する場合は最大で24発を搭載可能とされる。

 GBU-53Bストームブレイカーはミリ波レーダーと非冷却画像シーカー誘導方式を採用、重量は93kgとなっています。興味深いのは滑空爆弾方式として推進力は持たないものの主翼を展開し60km以上を滑空する点で、F-35戦闘機に搭載する場合はAMRAAM空対空ミサイルとともに搭載可能、ノルウェー政府は今後アメリカ政府と導入交渉をおこないます。
DIGAR対妨害型GPS受信機
 GPSは軍用でも妨害される時代でありDIGAR対妨害型GPS受信機は妨害に備えるもの。

 アメリカ空軍はBAE社よりF-15Eストライクイーグル戦闘爆撃機用DIGAR対妨害型GPS受信機の開発契約を結びました。これは試験器材と共に技術開発予算を含んだものとされています。契約規模は1300万ドルとのことで、近年増大しているGPS妨害装置等厳しさを増す電子戦環境においてF-15戦闘爆撃機の能力を維持する事が目的とされます。

 DIGAR対妨害型GPS受信機は複数のステアリングビームを組み合わせるデジタルビームフォーミング技術と高性能信号処理とを組み合わせ、GPS信号の受信感度を強化するもの。現代の装備はほぼすべての分野でGPS座標標定に大きく依存しており、ここが脆弱性ともなりGPS信号の妨害技術が進み、これは民生用に加え軍用GPSにも危険が及んでいます。
C-130H輸送機128機
 アメリカ空軍にはC-130H輸送機128機が維持されています。

 アメリカ空軍は9月30日、保有するC-130H輸送機128機の大半に欠陥があるとして緊急に飛行を停止させています。欠陥はプロペラアセンブリ部分とのことで、128機の内116機が対象とのこと、残る12機については緊急点検中であり、プロペラアセンブリ部分の換装が必要ですが、飛行中止決定時にその換装が完了する目処は明らかにされませんでした。

 C-130H輸送機は、アメリカ空軍ではC-130J輸送機へ順次置き換えが始っていますが、空軍予備役部隊と空軍州兵部隊に広く配備しており、なかにはMC-130H特殊作戦輸送機やEC-130H電子作戦機等も含まれているとのこと。具体的な欠陥としてはエンジンテスト中に潤滑油が漏れ続ける欠陥が確認、精密検査の結果、看過できない亀裂が確認されました。
エアバスA330MRTT
 カナダのエアバスA330MRTT計画について。

 カナダ統合軍空軍は8月、エアバスA330MRTT空中給油輸送機の調達計画を具体化しました。計画では2023年に正式契約を結ぶ方針となっていて、いまのところ4機のエアバスA330MRTT空中給油輸送機を最大50億カナダドル、米貨換算で40億ドルにて取得する方針とのことです。カナダ国防省は今年5月13日に機体をエアバスから取得すると決定した。

 A330MRTT空中給油輸送機はカナダでは戦略給油輸送機と位置づけられ、空中給油任務は勿論、世界規模のカナダ軍部隊派遣や人道支援任務における輸送能力も期待されている。カナダ空軍は現在CC-150ポラリス空中給油機を運用中で、これはエアバスA-310旅客機の民間型を空中給油機へ改造したものですが老朽化により後継機調達計画を進めています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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反撃能力よりも戦闘機が必要だ-その論理的背景,多用途性-議論されつくしていない専守防衛と防衛政策の転換

2022-12-26 07:00:00 | 防衛・安全保障
■戦闘機の”多用途性”
 この主張反論はあるでしょうが、専守防衛という時代が長かった為に相手の敵意に同じものを突き返すという度量よりもお互いの整合性を考えてしまうのかもしれない。

 反撃能力よりも戦闘機、この主張なのですが北大路機関の考えが古いだけなのかもしれません、しかし国民世論的にはどのような考え方になるのか。戦闘機、個人的には生産再開出来ないという事情は分かっていてもF-2戦闘機、イギリスと後継機開発を進める中でもその円滑な移行へ製造基盤を回復する為にも、42機から70機程度製造しては、と思う。

 F-2戦闘機、制空戦闘第一の航空自衛隊は忌避感があるでしょうが、この機種を敢えてあげるのは、航空自衛隊は飛行隊が足りない為です。何故なら戦闘機を増やさず第83航空隊を第9航空団に格上げし第201飛行隊を教育訓練部隊に転換した事で2個飛行隊が不足し、首都防空と南九州防空を担う航空団を1個飛行隊のみの編成としている為、たりません。

 戦闘機だ、こう考えるのは多用途性を挙げます。対艦攻撃から制空戦闘まで対応するものですが、スタンドオフミサイルを搭載しますと策源地攻撃と云いますか反撃能力にも応用が利きます、そして多用途性というのは、この戦闘機は制空用であり着上陸阻止用であり、あなたの国を攻撃する用途では考えていないのですよ、という方便が可能となるのですね。

 専守防衛が1950年の警察予備隊創設から反撃能力が今回明確に示された2022年まで実に72年間続いていますので、相手国が上陸した際に防衛を行うという自衛隊、こういう認識があるものでして、相手の国が攻めてきそうな状況、これを着手要件とか2001年から提唱される先制的自衛権行使、つまりヤラレそうなので相手本土を叩く運用に違和感を受ける。

 戦闘機であれば、有事の際に各航空団から可能な飛行隊を抽出、これをする為にも整備基盤の予算は重要だが閑話休題、低空侵攻訓練を行っても近接航空支援の訓練、スタンドオフミサイル運用能力を付与しても海岸橋頭堡無力化用、長距離打撃訓練を実施しても協同転地演習、こういう方便は成り立つのです。これが地対地ミサイルで成り立つ方便なのか。

 12式地対艦誘導弾の射程を1000kmに延伸する、500km程度ならば分かるのですが、微妙な距離とした場合、これは動かない地対地用、我が国に届く射程ではないかとの周辺国の反論に、統合機動防衛力用です、こう主張して成程納得だ、と周辺国ではなく、国民世論が周辺国攻撃着手の時点でミサイルを撃込む事を専守防衛と理解するのか、疑問なのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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