■FRP製MSC-604
6月6日、大湊地方隊の余市基地に展開する余市防備隊第1ミサイル艇隊より、ミサイル艇“一号”“二号”が老朽化により除籍され、自衛艦旗を返納した。
これで3隻が就役した“一号”型ミサイル艇は一隻となる為、舞鶴警備隊よりミサイル艇“わかたか”が、佐世保警備隊よりミサイル艇“くまたか”が大湊地方隊に編入された。こうして、大湊地方隊のミサイル艇は三隻体制を維持できるが、ミサイル艇“三号”が用途廃止された後の代替艇は計画されていないため、恐らく来年度にも二隻態勢に移行するものと思われる。他方で、舞鶴警備隊の第2ミサイル艇隊、佐世保警備隊の第3ミサイル艇隊はともに大湊地方隊にミサイル艇一隻を抽出したため、現在2隻体制となっており、いまのところ増強の為の新型ミサイル艇の建造は決定していない。
これまでにも幾度か掲載した通り、沿岸警備及び災害派遣にあたる地方隊には、小型護衛艦を運用する護衛隊が配置されていたが、海上自衛隊再編の一環として今年三月に地方隊隷下の全護衛隊が護衛艦隊に編入となり、地方隊の水上戦闘艦艇はミサイル艇のみとなっている。能登半島や新潟県など日本海沿岸を防衛警備区域として担当する舞鶴地方隊、南西諸島を防衛警備範囲に有する佐世保地方隊は、事実上2隻のミサイル艇により任務を遂行する必要に迫られている。地方隊隷下にあった航空隊も航空集団に編入された3月の改編により、上級部隊の目標情報と、共同交戦能力を前提としていない海上保安庁巡視船からの通報に依拠して任務を行うのはかなりの苦労があろう。
当初、各地方隊に2個ミサイル艇隊を配備し、10個ミサイル艇隊20~30隻のミサイル艇が配備される構想があったものの、やはりミサイル艇の価格は安くなく、“一号”型3隻、“はやぶさ”型6隻の整備に留まっている。かつては、40㍉機関砲とヘッジホッグ多連装対潜擲弾投射器、爆雷投射器を搭載した駆潜艇が地方隊に装備されていたが、これは区分ごと廃止されており、地方隊の任務は重要海域掃海と基地機能維持に落ち着いた印象である。なによりも、ミサイル艇が配備されていない横須賀地方隊や呉地方隊は事実上打撃力を喪失したかたちとなっている。
現在では、各地方隊にミサイル艇と並んで重要な地方隊の装備に掃海艇が挙げられる。速力は14ノットと比較的遅いものの20㍉多銃身機銃を搭載しており、更に海中の係留機雷を処分する為のソーナーを搭載している。この種のソーナーは、護衛艦が苦手とする沿海域のミゼットサブを捜索することができる。新型掃海艇の“ひらしま”型が搭載するZQS-4ソーナーは、これまでの“すがしま”型が運用していた2093型と比べた場合、特に機雷掃討艇に近い運用を想定して性能が強化されており、また、水上捜索用にOPS-39対水上レーダーを搭載している。
さて、昨年度、建造技術に関する入札が行われた新掃海艇であるが、海上自衛隊の掃海艇として初めてFRP製の船体が採用されることで注目を集めている。木製掃海艇は、磁気感知機雷に対する秘匿性に優れ、掃海中に自らが触雷する危険性を低減している他、耐衝撃特性が軽金属やFRPよりも優れており、万一の触雷の際に船体が損傷しにくいという利点、何よりも木製であるので、船体が損傷する最悪の事態となっても浮力を確保できるという掃海艇として捨てがたい利点を有しているものの、何分、同規模の海外掃海艇と比した場合、高価であり、また海水による腐食もFRPや軽合金に対して早いという欠点がある。こういった背景から、新570トン型掃海艇はFRP製の船体を採用することとなった。
新掃海艇は、MSC-604として四年後に就役する計画である。基本的に“ひらしま”型掃海艇の設計を流用しているが、全長が若干延長されている。また、これまでの20㍉多銃身機銃に変えて30㍉単装機銃を搭載しており、砲手が手動で操作した20㍉多銃身機銃と異なり、艇内からの遠隔操作方式を採用している。これにより、若干の警備能力を有するといえるかもしれない。艦齢も30年の運用が可能であることから掃海艇そのものの数的勢力を充実させることも可能となる。
将来的には、特に護衛艦が高性能化とともに高価格化を辿り、減勢してゆくことは止むを得ないため、多用途性能を強化してゆくことも必要となろう。他方で、地方隊の沿岸警備は、場合によっては海上保安庁や護衛艦隊では不可能な任務にあたる必要がある為、こういった配慮も今後は必要となろう。他方で、警備に加え災害派遣任務には、ヘリコプター運用機能を有する哨戒艦が従来のミサイル艇を代替するという潮流が形成されつつあり、イタリア海軍、ドイツ海軍などはヘリ運用能力を有するコルベットの建造に踏み切っている。また、単一の船体を用いて機雷掃討艇やミサイル艇、哨戒艇として適宜流用する技術をデンマーク海軍が開拓しており、島嶼部防衛や大規模災害派遣など、沿海域任務への需要が増大する地方隊にあっては、この部分の研究も行い、地方隊の能力を限られた予算内で最大限に拡充する努力が必要となるのではないか。
HARUNA
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