北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】アメリカのM-1エイブラムス戦車シリーズ,GDLS社と陸軍地上戦闘システム計画局の後継研究

2022-12-06 20:22:26 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 戦車は何時の戦争でもその時代は終わったと揶揄されつつ戦闘が進むと共に結局は主役の座が不動である事を気付かされるのですが、アメリカのエイブラムスシリーズについての最近の動向を纏めました。

 アメリカのジェネラルダイナミクスランドシステムズGDLS社はエイブラムスXというM-1エイブラムスシリーズ最新型を提案しました、これは評価支援用車両と概念実証車のテスト画像を示したもので、1980年代から改良を重ね主砲の換装や装甲の換装に抜本的な戦闘情報システムの更新を繰り返したM-1エイブラムスシリーズの次世代への進化です。

 エイブラムスXは無人砲塔を採用しており、当然の帰結として自動装填装置を採用しています。また動力はガスタービンのハイブリッド電動動力方式に転換し燃料消費効率を50%向上させるとともに、車体そのものを開発以降一貫して防御力強化の代償に重量増大が続いていたのに対し、構造刷新と軽量化による戦略機動性の向上などを盛り込んでいます。

 M-1A2-SEPv4としてM-1エイブラムスシリーズは改良が継続しています、しかしこれらの改修は平時にはオハイオ州の補給処に部品状態で保管されている車体に新型装甲等の追加器材やセンサーを装備し組み立て、改良型としているのに対し、エイブラムスXは完全な新造砲塔などを採用し、文字通り次世代の戦車として位置付けるGDLS社の提案です。
■エイブラムスX戦車
 日本では幾度か研究はされたものの実用の域に達していないとして採用されていない無人砲塔は今後どう展開するのでしょうか。

 アメリカのジェネラルダイナミクスランドシステムズGDLS社が提示したエイブラムスXについて。車体配置はM-1A2-SEPv3はもちろん、世界の標準的な戦車の形状を踏襲しています、それは装軌式車体に砲塔が配置され、車体部分は前方に装甲と中央部にかけ戦闘室が配置され、車体後部に機関部を配置するというもので一見し無人砲塔には見えない。

 無人砲塔は正面装甲部分が低く抑えられている、韓国のK-1戦車を思い起こさせる形状ですが意見して正面装甲は確保され、一定程度の攻撃では戦闘能力を喪失しない構造が見て取れます。なお、無人砲塔を示すように元来M-1戦車では車長用と装填手用ハッチの置かれた位置に複合光学装置を備えた独立潜望鏡が配置され、砲塔上には遠隔操作銃搭がある。

 砲塔側面には大きなバルジが配置されており、周辺部を監視するセンサーなども確認できる事から、アクティヴ防護装置か無人航空機格納庫が置かれ、MUM-T有人無人協同戦闘に配慮した構造です。一方、ロシアのT-14戦車等と比較し車体部分に不自然な大きさなどは無く、他方でRWS遠隔操作銃搭は大型であり30mm機関砲などを搭載可能と見られます。
■アメリカ陸軍協会
 エイブラムスシリーズは改良を重ね第一線の水準を維持し続けてきたために次の戦車に乗り換える時機には悩ましいものがあるようです。

 アメリカ陸軍協会年次総会においてエイブラムス戦車の後継戦車についての分科会が開かれました。M-1エブラムス戦車の改良型については、既に現行最新型であるM-1A2-SEPv3に続きM-1A2-SEPv4が2023年にも完成する見込みとなってますが、既存のM-1戦車の改良ではなく、今回話し合われたのはM-1エイブラムスそのものの後継だ。

 M-1A2-SEPv4の次には改めてM-1A2-SEPv5を開発するのか、もしくはまったく別の新型戦車を開発するのか、シンポジウムでは陸軍地上戦闘システム計画の統括官であるグレンディーン少将が、その必要性の有無を含めて研究や評価試験と実験を行う為の予算を組み立てていると発言、この背景にはウクライナ戦争における戦車の運用が反映されるという。

 ウクライナ東部の戦闘について、在欧米軍第1歩兵師団はポーランドやリトアニアなどNATO同盟国と共にウクライナでの戦訓を蓄積しており、戦場でのマニューバにおける車体重量軽量化の必要性、また逆に戦車の脆弱性は戦場のどういった状況で露呈するかを検証しているといい、他方、情報が多く2025年頃まで分析に要するという見方を示しました。
■陸軍地上戦闘システム計画
 戦車は脆弱かもしれないが装甲車はもっと脆弱であり戦車がこうした装備を守り脆弱性を抑える努力こそが重要、人命が掛かっている為の意見といえる。

 アメリカ陸軍協会年次総会においてエイブラムス戦車の後継戦車についての分科会では戦車の将来戦場における重要性が強調されました。ウクライナ戦争の最中に行われた総会において、陸軍地上戦闘システム計画の統括官であるグレンディーン少将は、戦車が状況次第で脆弱である事を認めつつ、しかしトラックは更に戦場では脆弱だと強調しています。

 グレンディーン少将は戦車がウクライナの戦場においてロシア戦車の無人航空機や対戦車ミサイル等による損害を受け一部に今度こそ戦車の時代は終焉を迎えたとの仮説に対し、トラックでの輸送は更に脆弱性が高く、これにより兵士が防護されない事により部隊や作戦行動そのものが脆弱の影響を被るとし、機甲部隊では今後必要な施策を整理しました。

 戦車についての懐疑的な視点は、特に現在では戦車や装甲戦闘車無しでどのような戦術が組み立てられるかに比重が大きくなっており、この部分を突き詰めるよりも戦車や装甲戦闘車を防護する技術を発展させ更に高い機動性を与える改良を行う事で、敵対勢力に対して戦略的な障壁や戦術面の困難を抑止力として突き付けられるとの見解を示しました。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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B-21レイダー爆撃機初公開-アメリカ空軍B-1爆撃機B-2爆撃機後継,では老兵B-52爆撃機後継機はどうなるか

2022-12-06 07:01:41 | 先端軍事テクノロジー
■老兵B-52爆撃機を継ぐ者
 アメリカ空軍の次期主力爆撃機となるB-21レイダー爆撃機が初公開されました。

 F-35戦闘機の数倍の取得費用というB-21爆撃機はB-1爆撃機とB-2爆撃機の後継機となります、超低空を超音速で侵攻し敵防空システムの間隙を突くB-1爆撃機と、圧倒的なステルス性と電子制御システムによる機動性とを両立したB-2爆撃機を置き換える事となるのですが、一方でアメリカは老兵B-52戦略爆撃機の後継にB-21爆撃機を充てる考えはないとしています、運用はまだまだ続く。

 B-52爆撃機の初飛行は1955年、744機も量産されていますが、B-1爆撃機は1974年に初飛行し当時のアメリカカーター政権での国防戦略変更により運用開始がレーガン政権時代の1986年にずれ込み、104機が量産されています。B-2爆撃機は初飛行が1989年で運用開始が1997年、ただ冷戦後に1機7億ドルは高すぎ、生産は僅か21機に留まりました。

 B-52戦略爆撃機の方が遥かに古いのですが、一方でB-52は大量の装備を搭載し、長時間を滞空可能となりました。B-1よりも鈍足ですしB-2よりも敵防空システムの前での生存性は低いものの、核攻撃任務に際しては搭載ミサイルの射程延伸により敵防空システムに接近せず済み、B-1爆撃機と異なり運用費用が低い為普段の小規模紛争にも対応可能という。

 しかし、B-52爆撃機は何時まで使うのでしょうか、現在運用を90年間とする長大な計画が立てられてはいるのですが、流石に限界はあるでしょう。するといずれ何らかの後継機が考えられるかもしれません。B-52は、大量に搭載出来て長時間飛行し続けられる、そして運用費用の低さも挙げられます。これらの利点から考えた場合、後継機の特性からは。

 C-17輸送機やKC-46給油機、B-52爆撃機の利点は旅客機に近いものがあり、すると爆撃機以外の機種が後継機となる可能性が出てくるのかもしれません。例えばKC-46給油機の主翼部分に兵装を搭載する、イギリスが2000年代に研究していたような胴体部分への兵装搭載は機体改造幅が大きくなり過ぎますが、主翼の搭載能力は中々馬鹿に出来ません。

 KC-46給油機に爆弾を搭載する方式、勿論原型が旅客機ですので余り色々搭載しますと飛行性能に悪影響が出るでしょうが、飛行制御システムは案外無理が利くものです。一方、アメリカは同盟国への防衛協力強化を長年求めており、これが具体化した場合、給油機を有する国々は同時に爆撃機能力のシェアを求める、こんな可能性もあるのかもしれません。

 C-17輸送機については、ミサイル発射母機化が具体的に進められています、ラピッドドラゴン計画として輸送機からミサイル空中発射装置を搭載し落下傘投下後に発射するという方式の実験が進められています。もっとも、これはB-52爆撃機の後継機開発ではなく、激しさを増す2030年代の航空戦において輸送機の居場所を考えた結果の産物という構図で。

 ラピッドドラゴン計画は、2030年代の航空戦闘ではミサイルの長射程化により輸送機による強行輸送は成り立たなくなるため、それならば有事には使わず要員ごと遊兵化させるよりはミサイル母機へ、という構想で進められるのですが、案外こうした運用がミサイル以外に爆弾など搭載が可能となるならば、B-52の後継機とも、ありえるのかもしれませんね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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