北大路機関

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【防衛情報】KC-390輸送機のハンガリーとポルトガル輸出とA-400M輸送機消防航空モジュール消火試験

2022-12-13 20:10:46 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 今回はKC-390輸送機の話題を中心に。日本のC-2輸送機は一応は国際航空見本市に提示はされていますが本気で販売する計画を考えていないように見えてくるのはKC-390の概況を見ると判ります。

 ポルトガル空軍は10月16日、エンブラエルKC-390輸送機初号機の到着歓迎式典を行いました。ポルトガル空軍は2010年、老朽化したC-130輸送機の後継機として当時開発中のC-390輸送機に注目しており、ポルトガルは部分生産にかんする8700万ユーロの契約を2011年に締結しています、そして2017年にポルトガルは5機の調達を契約しました。

 F-16戦闘機2機が初号機到着歓迎式典に参加しており、KC-390輸送機を中心にデルタ編隊を組みローパスフライトを展示したのちに着陸しました。この到着は2022年内に実現しましたが、当初計画では2023年2月に引き渡される計画であり、引き渡しの前倒しの背景にはブラジル空軍のKC-390輸送機の調達計画下方修正が影響しているのかもしれません。

 KC-390輸送機の取得費用は8億2700万ユーロとされ、この費用には地上シニュレータ装置の取得費用も含まれています。KC-390輸送機はC-130シリーズと同等の輸送力に加えジェットエンジンによる素早い空輸能力が挙げられていますが、貨物室は全長18.5mと全幅3.45mに全高2.95mであり、装甲をはずしたボクサー装輪装甲車も搭載可能とされます。
■ハンガリー向けのKC-390
 ハンガリーが導入する2機について組み立てが始まりました。

 ハンガリー空軍が導入するKC-390空中給油輸送機初号機の組立が開始された、エンブラエル社が発表しました。エンブラエル社の発表写真では機首部分の部品に車輪の組立などの様子が写されています、機体にはハンガリー空軍と機体番号が既にマーキングされており、機体塗装も組み立てられているのは一部ですがハンガリー空軍塗装が施されている。

 KC-390輸送機はポルトガル空軍にも採用されており、ハンガリーとポルトガルはともにNATO加盟国、ハンガリー空軍のJAS-39グリペン戦闘機との運用互換性はもちろん、NATO標準装備の搭載を設計に反映させています。現在の計画では生産が開始された初号機は2023年後半に初飛行を迎え、2024年内にもハンガリーへ搬入される見通しとのこと。

 ハンガリー空軍は2020年に2機のKC-390輸送機導入をエンブラエル社との間で契約しました。ハンガリー空軍では輸送機としての輸送性能とともに戦闘機への空中給油能力を持つ点が評価されたとのこと。今回初号機が生産開始となりましたが、続いて2022年12月にも二号機の製造が開始される、エンブラエル社はその製造計画の見通しを示しました。
■モジュラー消火システム
 KC-390は欧州で問題となっている山林火災にも対応できるようです。

 ブラジルのエンブラエル社はC-390輸送機へMAFFS IIモジュラー消火システムの試験を実施しました。MAFFS IIモジュラー消火システムとは輸送機の胴体へ追加搭載する事を念頭に開発された消火システムで、その名の通りモジュラー式に素早く統裁可能、その搭載はトレーラー方式で牽引車やトラクターなどにより輸送機に収容、消防用に転換できる。

 MAFFS IIモジュラー消火システムは元々USFSアメリカ森林局の要請を受けC-130輸送機用に開発され、空軍州兵や空軍予備役部隊のC-130輸送機により運用されています、タンクの容量は3000ガロン、つまり11000ℓあり、散布に際してはシステムに搭載された二つの加圧装置を作動、カーゴハッチでなく機体側面扉から散布する事が可能となっている。

 C-390輸送機へMAFFS IIモジュラー消火システム搭載は、多機能輸送機とされるC-390の戦術空輸に加え人道支援や医療支援に捜索救難と空中給油といった任務に森林消火という新しい任務を加える事に在り、この試験はIFIブラジル軍事認証機構の監督下で行われています。輸出市場への提示とともに、年々増加するアマゾン森林火災消火にも寄与します。
■KC-390アメリカ空軍へ売り込み
 KC-390はアメリカへ売り込みを開始しました。これはエンブラエル社だけではなくL3ハリスが参加するとともにC-130輸送機を延々と改修し続けるのかというアメリカの課題に一石投じる事にもなりそうです。

 アメリカのL3ハリス社はブラジルのエンブラエルKC-390に先進的空中給油装置を追加しアメリカ空軍への売り込みを開始します。これは9月19日にメリーランド州の空軍航空宇宙会議において示されたもので、プルーブドローグ方式の空中給油装置からKC-46A,KC-135のような空軍方式のブーム式給油装置に取り換えるという改良計画です。

 L3ハリスが提示するKC-390の改良計画は空軍が構想する分散型アプローチ戦略に基づくもので、一つの戦略拠点に展開する現在の運用は戦域弾道弾や巡航ミサイル等の拡散により脆弱性が高まっているという現状からの脱却です。戦術輸送機KC-390ならばKC-46A,KC-135等の空中給油輸送機よりも短い距離の滑走路から、運用する事が可能だ。

 エンブラエルはアメリカ空軍への売り込みを期して2018年にボーイングとの提携を発表しています、しかしその後2020年に提携は解消されています。KC-390の利点は輸送機の中では例外的にKC-46等と同じ旅客機並の巡航速度を有している点で、こうした速度の優位性と、戦術輸送機としての格納庫は、例えば空中無人機母機などとしても転用が可能です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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常設統合司令部設置で統合運用抜本強化を!陸上自衛隊人員2000名規模の海空自衛隊移管計画を受け

2022-12-13 07:00:01 | 国際・政治
■縦割り行政からの脱却を
 政府は海上自衛隊と航空自衛隊強化へ陸上自衛隊人員2000名程度を移管させる方針とのことです。

 陸海空の統合運用を強化する選択肢の方が、縦割り行政のまま人員を囲い込み融通を利かなくする状況よりも重要なのではないか。例えば陸上自衛隊は地域配備部隊と即応機動部隊に師団と旅団を二分化しています、個人的には敵が来ない地域の地域配備部隊は有事の際に遊兵化しますので、全て機動運用部隊とすべきなのですが、例えばこの地域部隊です。

 航空自衛隊の基地警備と基地防空及びミサイル攻撃や航空攻撃等からの基地機能復旧、海上自衛隊艦艇基地及び航空基地の警備、これらは地域配備部隊に9.11同時多発テロ後に陸上自衛隊任務として求められた重要施設防護任務の一環として付与することで、海上自衛隊や航空自衛隊へ人員を移管せずとも良いのです、いや慰安すると別の問題も生じ得る。

 基地防護ですが、全ての基地に均等に敵が兵力を分散して襲撃する、ウクライナ侵攻緒戦のロシア軍の様な失敗を確実に冒すならば縦割りの警備部隊分散で対応出来るでしょう、しかし相手の失敗を前提に作戦体系を組むことほど愚かな事はありません、戦闘機基地が襲われているが縦割り上艦艇基地警備部隊を増援に送れない、縦割りでは起きうる事例だ。

 地域配備師団、例えば有事の際には管区内に敵が来ない限り動かない前提ですので、地域配備師団隷下に方面混成団と方面施設団及び高射特科群を編入してしまえばよい、普通科連隊を重要施設防護部隊に、方面施設団は飛行場破壊からの復旧や必要ならば特設飛行場や応急補給処等の造成に、高射特科群も基地防空任務などに対応する事が出来るでしょう。

 地域配備師団に方面混成団と方面施設団を統合するだけで、人員規模は1万2000名規模となってしまいますが、内方面混成団から戦力とならない共通教育中隊を省いた場合で、1万1000名弱、他方で警備担当地域へ着上陸があれば野戦を担当する部隊なのですから、近接戦闘能力で海上自衛隊や航空自衛隊基地の警備で敵特殊部隊に後れを取る事はありません。

 ペトリオットミサイルを航空自衛隊から陸上自衛隊へ、元々は陸上自衛隊のナイキ部隊が航空自衛隊へ移管したものですので再度回帰させ、ペトリオットミサイル後継に03式中距離地対空誘導弾後継の長射程型を充てれば、任務の重複を回避でき、結果的に航空自衛隊の高射群の人員を別任務に回す事が可能、データリンクで結べば防空任務に隙は生じない。

 補給部隊についても、陸海空が別々の補給体系を有していますが、確かに部品は違うものの陸海空統合部隊として統合補給統制本部というものを設置する事は可能なはずです、ただ、こうなりますと今の枠組みでは統合運用基盤が余りに不充分です。迷彩服の柄が違うだけで同じ基地で人員の融通が利く、これこそがNATO等で進んでいる統合運用のかたち。

 統合運用を考えた場合は、陸海空の統合司令部を常設する必要があります、例えば憲法上専守防衛を掲げる以上必須の国土防衛を所管する“本土防衛司令部”、シーレーン防衛や国際任務を包括する“太平洋艦隊司令部”、対領空侵犯措置任務からミサイル防衛までを担当する“極東防空司令部”、宇宙と電子空間を担当する“戦略防衛司令部”、ここに陸海空が足りないところを補い合う方式で、です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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