北大路機関

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【防衛情報】イギリス原子力潜水艦アンソン受領とアメリカオハイオ級戦略ミサイル原潜,ブラジルリアチュエロ級潜水艦竣工

2022-12-05 20:22:21 | インポート
■世界の防衛ー最新9論点
 今回は海軍関連の9の話題を纏めました。

 イギリス海軍は8月31日、バローインファーネスにあるBAEシステムズ社造船所において最新鋭の原子力潜水艦アンソンを受領しました、これはアスチュート級原子力潜水艦の5番艦です。式典にはBAEシステムズ社のチャールスウッドボルムCEO、イギリスのヴェんウォレス国防大臣とオーストラリアのリチャードマールズ副首相が臨席しました。

 アンソンに先行して、二番艦アンブッシュは2013年に、三番艦アートフルは2016年に、オーディシャスは2020年に竣工しており、ほぼ3年に1隻の頻度で建造されていますが、イギリス海軍は本年中に六番艦アガメムノンを受領するという。極めて早い速度を発揮するスピアフィッシュ魚雷やトマホークなど38発を搭載、海中抑止力の要諦のひとつ。

 アスチュート級原子力潜水艦はトラファルガー級原子力潜水艦を代替する新世代の攻撃型潜水艦で一番艦アスチュートは2010年に竣工しています。水中排水量は7800tで全長は97m、ロールスロイスPWR2原子炉を搭載、戦闘システムとして従来の潜水艦戦闘システムを改良したACMSアステュート戦闘管理システムを搭載、静粛性に優れているという。
■オハイオ級支援
 戦略ミサイル原潜に新しい後方支援基盤が登場です。

 アメリカ海軍はオハイオ級戦略ミサイル原潜に海兵隊MV-22可動翼機による補給実験を実施しました。戦略ミサイル原潜は大陸間弾道弾に続く第二反撃能力として位置を暴露しない海中に展開します、原子力潜水艦は原子炉により年単位の広大な航続距離と無限に近い発電能力で酸素さえ海水を電気分解し補充しますが、食糧は自給自足ができません。

 MV-22可動翼機とともに実施した実験ではカリフォルニア沖にて戦略原潜ネバダと戦略ミサイル原潜ヘンリーMジャクソンの2隻が7月から8月にかけ試験を実施、このほか海軍第23ヘリコプター戦闘飛行隊のMH-60Rシーホークも参加、艦内へ補給物資を搬入しています。潜水艦が浮上する必要はありますが母港に戻るよりは安全に補給が可能なのです。
■カナダ砕氷艦
 砕氷艦と哨戒艦の中間という軍艦の話題だ。

 カナダ海軍は9月2日、ハリーデウルフ級砕氷哨戒艦3番艦のマックスバーネイズを受領しました。ノバスコシア州ハリファックスのイルヴィング造船所において行われた就役式典にはカナダのアニタアナンド国防相も臨席、これに先立つ8月15日にはハリーデウルフ級砕氷哨戒艦の最終艦となる6番艦ロバートハンプトングレイも起工式を迎えました。

 マックスバーネイズはカナダ海軍が太平洋と大西洋という二つの大洋に加えて北極海という広大な海域の領海及びEEZ排他的経済水域の警戒監視という任務に対応するものです、これは近年の気候変動による極圏の氷海が夏季には船舶が航行可能となる溶融状況の普遍化により、極圏における警戒監視任務という新しい防衛上の必要性に対応するのが任務だ。

 ハリーデウルフ級砕氷哨戒艦は満載排水量6615tで全長は103.6mです、速力は17ノットで25mm機関砲1門と12.7mm機銃2丁を搭載し乗員は65名ですが、85名の人員輸送能力を有しておりCH-148ヘリコプターの運用能力も持つ。最大の特色はIACS国際船級協会PC5級の砕氷能力で永久氷結海域を除く中程度の極圏で通常航行が可能という水準です。
■潜水艦リアチュエロ
 フランスの支援でブラジルが潜水艦建造に成功です。

 ブラジル海軍はブラジル初の国産潜水艦であるリアチュエロ級潜水艦一番艦リアチュエロを受領しました。この国産潜水艦はフランスのDCN社がスコルペヌ級潜水艦のブラジル海軍仕様として100億ドルにて4隻の現地生産で2008年に合意したもの、2010年にフランスのシェルブールで起工され、ノックダウン生産の形でブラジルにて組み立てられた。

 リアチュエロとは1865年のパラグアイ戦争におけるリアチュエロの戦いが由来です。原型となったスコルペヌ級潜水艦はスペインとフランスが共同開発したもの。リアチュエロは水中排水量1900tで全長70.62m、乗員32名、水上航続距離は8ノットで11000kmに達し水中航続距離は4ノットで1020kmとのこと、533mm魚雷発射管6基を搭載している。

 スコルペヌ級潜水艦は将来的にブラジル海軍がフランスより導入する原子力潜水艦への布石とされている。なお、リアチュエロは当初の建造計画では2021年完成予定であったが、2022年広範囲ずれ込む事となった。この背景には2020年からのブラジルにおけるCOVID-19新型コロナウィルス感染症の深刻な感染爆発が造船に影響したと考えられる。
■スペインNSM採用
 NSMミサイルは欧米の標準ミサイルだ。

 スペイン海軍はNSMミサイルをハープーンミサイルの後継に選定しました。スペイン海軍では今後建造を進めるF-110型フリゲイトと既存のハープーンミサイルを搭載するF-100型フリゲイトへNSMミサイルを搭載するとのこと。F-100型フリゲイトはイージスシステムを搭載したアルバロデバザン級ミサイルフリゲイトとしても知られています。

 NSMミサイルはノルウェーのコングスベルク社が開発したミサイルで、空対艦ミサイルや地対艦ミサイルに艦対艦ミサイルとして幅広く採用され、欧州を中心に配備が進んだのちにはアメリカ化藍軍や海兵隊が採用、日本もF-35戦闘機に搭載できるミサイルとして採用が決定しています。射程は185kmから350kmと強力で、GPSや中間指令誘導も可能です。

 F-100型フリゲイトはボニファス級フリゲイトとして建造が進められています、満載排水量は6170tで、艦隊防空艦ではないがイージスシステムを搭載する設計は、F-80型として建造されたサンタマリア級フリゲイト、アメリカのOHペリー級ミサイルフリゲイトのスペイン版を置換える為であり、Mk.41VLSを16セル搭載し、僚艦防空能力の付与を期す。
■インドネシア病院船
 揚陸艦をそのまま病院船という発想はある意味手堅い。

 インドネシア海軍は8月15日、PT-PAL造船所において病院船ラジマンウェディオディングラットの進水式を挙行しました。これはマカッサル級ドック型揚陸艦の派生型として建造されたワヒディンスディロフソド級病院船の3番船となっています。満載排水量7290tで全長121m、病院船ですが構造はドック型揚陸艦をそのまま転用したものとなっています。

 ワヒディンスディロフソド級病院船は乗員120名と医療要員66名が乗艦し、外来医療設備として一般外来と歯科及び眼科医療、ER緊急処置室及び外科手術内科手術室、入院施設や放射線外科などの設備を有すると共に揚陸艦の設備はヘリコプターや救急車を搭載、また上陸用舟艇により救急車を輸送、医師や看護師を無医村に揚陸させる能力もあるという。

 ラジマンウェディオディングラットはインドネシアの医師で国家独立委員会創立時の委員の一人であるとともにインドネシア版母子手帳制度を立ち上げた医師でもあります。マカッサル級ドック型揚陸艦はドック型揚陸艦で満載排水量12400t、韓国が設計しインドネシアが建造、同国は5隻導入しフィリピンとペルーに2隻、ミャンマーが1隻導入しました。
■イスラエルサール6型
 戦術防空コルベットという新しい区分の装備です。

 イスラエル海軍は新型のサール6型コルベットより最新のガブリエルⅤ対艦ミサイル発射試験に成功したとのことです。これは8月に実施され、二番艦のオズが発射実験に参加しました。マゲン級とも呼ばれるこのコルベットは元々イスラエル海軍が沿岸の天然ガス掘削リグ防空という沿岸防空用に開発された艦艇ですが、高い攻撃力を有するに至ります。

 ガブリエルⅤ対艦ミサイルは艦上に四連装発射装置として搭載され、対艦ミサイルですが艦対地ミサイルとしても運用可能であり、これは今後沿岸防空と共に沿岸部へのミサイル攻撃に対して、現在搭載されている76mm艦砲に加えてミサイルによる対地攻撃が可能となる事を意味します。このミサイル搭載は順次同型艦4隻に対しておこなわれるとのこと。

 サール6型コルベットはドイツのティッセンクルップマリン社により建造されていて、ドイツ海軍のブラインシュヴァイク級コルベットの設計を応用し、満載排水量は1900tと軽量ですが、アイアンドームミサイル防衛システムの艦載型であるCドームミサイルを搭載していてCドームミサイル20発とバラク8艦隊撃ウミサイル32発を搭載しています。
■シーホークを増強
 オーストラリア海軍はシーホークを増強する。

 オーストラリア海軍はMH-60Rシーホーク対潜ヘリコプター12機を追加発注する方針であり、アメリカ海軍を通じてロッキードマーティン社が選定されました。プロジェクトSEA9100Phase1として進められる計画では2025年から2026年にかけ取得してゆき、オーストラリア海軍の共通プラットフォームとしてMH-60Rを充てる事を計画しています。

 MH-60Rシーホーク対潜ヘリコプターはロッキードマーティン社の傘下にあるシコルスキー社が製造する事となっています、2016年までにオーストラリア海軍は第 725 飛行隊と第 816 飛行隊にシーホークシリーズを24機採用していますが、今回の増強により36機体制となることから第三の哨戒ヘリコプター飛行隊が編成されることとなるでしょう。
■哨戒艦にNSM
 機関砲や艦砲だけだと侮られる場合の処方箋です。

 マレーシア海軍はケダフ級哨戒艦2隻へNSMミサイルを搭載しフリゲイトへ改修する計画を推進中です。これは2025年までに実施される第十二次国防整備計画に明記されたものでこの計画には2 億 1400 万リンギット、ドル換算で4800 万ドルが投じられます。NSMミサイルの射程は200kmで、警告用火器に留まるケダフ級に水上打撃力を付与する事に。

 ケダフ級哨戒艦は満載排水量1870t、速力は24ノットで76mm艦砲と30mm機関砲を搭載しヘリコプター1機を搭載、ソマリア沖海賊対処任務へも派遣された実績がある。ドイツの輸出用フリゲイトMEKO100シリーズの哨戒艦型で2006年から2010年にかけ6隻が建造されました、当初は27隻の量産が計画されるも財政上の問題から実現していません。

 哨戒艦は、一口に言って様々な種類があり、中には素性戦闘艦に伍する武装を有する艦艇もあれば、商船規格の巡視船を灰色塗装したものまでさまざまです。ただ、後者の場合は対艦ミサイルを搭載する事が出来ても、電子戦装置やデータリンク装置などが廉価版である場合は水上戦闘艦としての役割を担えない事もあり、その追加は相応の費用を要します。

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【G7X撮影速報】今津駐屯地創設70周年記念行事-第3戦車大隊の74式戦車と16式機動戦闘車(2022-12-04)

2022-12-05 07:00:12 | 詳報 陸海空自衛隊関連行事
■第3戦車大隊と第10戦車大隊
 この冬三年ぶりに挙行された今津駐屯地祭へ行ってきました。

 第3戦車大隊に16式機動戦闘車が配備されていました、これは来たる第3戦車大隊の第3偵察隊との統合による第3偵察戦闘大隊への改編前夜という過渡的な措置なのですが、第3戦車大隊の赤獅子という部隊マークの16式機動戦闘車は、一時とはいえ貴重な瞬間です。

 74式戦車もいよいよ、というところです。第3戦車大隊は削るに削られましたが、大隊本部と2個戦車中隊です。わたしが普通科連隊が小さくなろうとも大隊ではなく連隊であるべき、というのはこうした前例があると普通科大隊と名を変えるとこうなる可能性故に。

 大隊といっても、現状は確かに戦車隊を名乗るには規模が、と思うところですが外殻は大隊と云う規模である。連隊も小型すぎるし欧米では大隊規模だ、と反論されましても部隊編成をせめて政令か出来れば自衛隊法で明示されなければ更に削られる懸念があるのです。

 74式戦車の冬季迷彩、戦車削減は既に自衛隊の施策として安倍政権時代から継続されているのですが、ウクライナの戦場ではそれこそ考えられない近距離でも戦車が活用される状況、ここまで減らして大丈夫なのか、実際には90式戦車の用途廃止さえはじまっている。

 第10戦車大隊も先は見えているのですが、せめて例えば北部方面隊で廃止される90式戦車を短期間でもいいので管理替えして、第10戦車大隊に90式を配備するとか、偵察戦闘大隊に戦車を含んだ第7偵察隊型の編成とするとか、方法はいくつも検討すべきとおもう。

 有事の際に割を食うのは国民だ、戦闘地域の避難勧告を出された後で焦土になっても侵攻してきた国は家財の補償は行わない、戦後講和条約を結べば個人補償請求も出せない、憲法上の財産権の制約として明示されている。もっとも、野党でも戦車と防衛力強化の声は出ていないのが実情です。

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