北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

フランス徴兵制再開と日本徴兵制再論【4】北欧スウェーデン徴兵制再開と兵力維持の視点

2018-02-28 20:13:45 | 国際・政治
■スウェーデン2018徴兵再開
 徴兵制は軍事合理性から有り得ない、と安全保障を体系的に知る方々が我が国での徴兵制の可能性について一蹴してきましたが、フランスに続きスウェーデンも再開します。

 フランスのマクロン大統領による徴兵制再開発表、マクロン大統領が大統領選で掲げた徴兵制公約を実行したものでした。しかし、軍事的に徴兵制は時代遅れであり、軍事的に徴兵制はあり得ない、と様々な識者が指摘した論点を覆すもので、社会の団結等の非軍事視点から国民が徴兵制を求める場合には徴兵制があり得る、とも訂正すべきでしょうか。

 日本でも徴兵制の可能性が、と現在の防衛政策へ批判的な視点を示す方々や国会議員の中にも野党の見解として徴兵制の可能性へ警鐘を鳴らす事例があります。当方は専門職の意味を理解しない野党が政権を取った時こそ徴兵制の可能性が高まるのではないかと逆に考えているのですが、純軍事的に考える限り徴兵制を行う意義はありません、が例外はある。

 スウェーデンも本年2018年より徴兵制を再開します。2010年に徴兵制を停止したのですが、志願制に移行した際に思ったほど人員が集まらず、2016年に二年後の徴兵再開を政策決定し、2018年に徴兵制が制度として再開されます。実は徴兵制は不要であるが、人口が一定以下となり志願制を維持できない場合に質よりも量が求められる場合はあるのです。

 スウェーデン軍は陸海空併せて16000名、しかし徴兵制を実施していた2000年代初頭には50000名の兵力を有していました。スウェーデンは重武装中立政策の伝統があり、同盟国に頼れない部分を独自防衛力整備に余念が無かったのですが、スウェーデン人口は僅かに900万規模、当初は志願制で賄う計画であったのですが停止後六年で再開に踏み切った。

 徴兵制が2010年に停止された背景には、スウェーデン徴兵期間は停止当時10か月となっていました。この期間では十分な訓練を行う事が出来ないとして職業軍人主体の陸軍へ転換する必要がある、と考えられたためでした。スウェーデン軍を見ますと規模の割には高度に機械化されています。整備一つ行うにも訓練期間10か月では不十分だった訳ですね。

 新鋭Strv-122/レオパルド2A5主力戦車120両と予備役にStrv-120/レオパルド2A4主力戦車150両、40mm機関砲搭載Strv9040/CV-90装甲戦闘車509両、AMV/XA180装甲車298両など。スウェーデン軍は平時編成に師団は勿論旅団もありません、旅団を維持できる人員規模が無い為で独立連隊基幹、戦時に動員令を掛け2個旅団を編成するという方式です。

 スウェーデンのように志願制では必要な防衛力を維持できないことが国内世論で問題視され、徴兵制を掲げる急進的な政党が政権公約に徴兵制を盛り込んだ場合、日本は民主国家ですので、実施される可能性はあります。しかし、現実問題、日本の半分以下の人口で自衛隊以上の陸軍力を維持した事例は多々あり、一億以上の人口で現行水準維持は可能だ。

 人口減少社会、日本人口は1億2700万の規模を有していますが、遠い将来に陸上自衛隊の定員を維持できない程に人口が減少した場合、特に日本人口が一億を割り込み、高齢化が人口半数を超え、その上で周辺情勢脅威度が高く維持された際、可能性は否定できません。ただ、現状のように財務省が完全充足時の人件費を認めず定員割れの状況では杞憂です。

 民主国家なのですから、国民が徴兵制なしに国土防衛と自らの人間の安全保障が達成できなくなると考えた場合、政治がその選択肢を提示した場合には採用さる余地はあります。しかしこれは同時に、人数頼りの規模の軍事機構よりも専門職集団としての志願制軍隊の優位度を主権者がどう認識するかも重要であり、主権者は知る努力を怠ってはなりません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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新防衛大綱とF-35B&EA-18G【06】三菱重工名古屋FACO閉鎖検討の衝撃,幻想の舶来安価論

2018-02-27 20:08:28 | 国際・政治
■三菱FACO閉鎖検討の衝撃
 名古屋にて着々とF-35A組立が進む中、ロイター通信2月21日付報道にF-35戦闘機増備と併せて完成機輸入への転換の検討という報道がありました。

 ロイター通信によれば関係者の話として、航空自衛隊は新戦闘機F-35Aについて旧式のF-15J戦闘機置き換へ25機程度の増加発注を行う検討を進めているとのこと。ここまでは既定路線で現在装備中の42機のF-35A製造の為に数百億円を投じて最終組み立て施設三菱FACOは建てません。しかし同記事では費用面から同施設の閉鎖を検討しているという。

 三菱FACO閉鎖検討、これは意外でした。何故ならば三菱FACOは最終組み立て施設であり、ライセンス生産施設ではない為です。従ってアメリカ本土のフォートワース工場において組み立てる事となるのでしょうが、結局に日本で行うかアメリカで行うかの違いだけであり、その工程費用が日本国内に還元されるか、アメリカに支払われるかが違うのみ。

 130億円と高価なF-35A戦闘機もアメリカで最終組立を行えば数十億円の費用を圧縮できると記事は指摘しており、画期的です。何が画期的かというと、130億円の現F-35A調達価格は日本が最後に生産した戦闘機F-2の初期費用と同じである為で、第4.5世代戦闘機のF-2よりも第五世代戦闘機であるF-35Aの方が安価に取得できるとの意味を持つからです。

 110億円、数十億円という事で最低でも110億円という事となりますが、これはかなり無茶苦茶な費用です。何故ならば、アメリカ空軍はF-35Aを1996年のJSF計画以来開発費を高騰とつい活かされた部分も含め支払い続けていますが、日本はJSF開発計画に参加しておらず開発費負担を行っていない、従って日米のF-35価格差には開発費後分担金が載る。

 イギリスはJSF計画副開発国としてアメリカに次ぐ開発費を負担していますが、F-35BかF-35Cか、イギリス将来空母計画が難航した2006年当時、F-35B戦闘機は一機一億ポンドであると説明されていますので、防衛省関係者の話が事実であれば日本は副開発国よりも安価に取得できるとの話となり、第三者に社員価格株主割引付で買えるというようなもの。

 実際問題、非現実的な数値ではないか。三菱FACOはF-35Aの段階アップデート施設を兼ねており、メーカー定期整備も担う事となります。そしてFACOは最終組立の費用を利益として施設を維持しているのですから、最終組立機能を省いた場合収入源が無くなり、定期整備機能を現在の費用で維持できなくなります、結果的に総合費用で肥大しかねません。

 F-15Eでさえ中東カタールと2017年12月に制約した契約では36機で6800億円、アフターサービス込の価格ですが、一機当たり188億円となっています。差額については現地しようとする諸費用も含まれていまして、実際問題、英語だけの整備マニュアルに米軍専門符丁の補給手配では飛ばせませんので、運用国受けの仕様改修とマニュアル等が必要です。

 F/A-18Eですと2017年にカナダ空軍がボーイングと締結一歩前まで行った費用では、18機で、52億3000万ドル、邦貨換算5900億円です。これは予備部品費用や定期整備費用込ですが、一機当たり327億円でして、すべてメーカーサポートを受けた場合はこうなる。F-35の場合、三菱FACOがあれば機体分との差額が相応に還元されますが任せれば、こうなるという。

 F/A-18Eは自衛隊次期戦闘機選定の候補として提示されていましたが、ボーイング社はF/A-18Eについてライセンス生産を行った場合でも当時のF-2戦闘機と同程度の費用で取得できるとの取得性を強調していたと云われており、事実であれば94億円から130億円、カナダ提示の327億円と比較したならば、国内基盤の重要性が際立って、分かるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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新防衛大綱とF-35B&EA-18G【05】佐世保基地いせ艦載機F-35B案と航空母艦保有は別問題

2018-02-26 20:11:06 | 防衛・安全保障
■現在日本に空母は不要
 現在日本に空母が必要かと問われれば必要性は薄く他に優先度の高い装備計画はあります、が、F-35Bは別です。

 ひゅうが型護衛艦、いずも型護衛艦へF-35Bを搭載する必要はあるが、海上自衛隊へ航空母艦は必要ない。一見矛盾する視点と思われるかもしれませんが、海上自衛隊の空母保有構想とF-35B戦闘機搭載は区別して考える必要があります。F-35B戦闘機は統合打撃戦闘機計画JSFに基づきアメリカが多国間国際共同開発により完成させた新世代航空機です。

 航空母艦、という定義は極めて曖昧で、かつて我が国では通信社でさえ数年前には、通常の護衛艦にスキャンーグル無人偵察機を搭載する事で航空母艦となり得る、と見解を示した事例がありますし、1973年にヘリコプター搭載護衛艦はるな、が竣工した際にはヘリコプター三機を搭載するヘリコプター空母、として説明した専門書さえあり、定義は曖昧だ。

 ニミッツ級原子力空母や、日本に馴染み深いフォレスタル級空母、原子力空母エンタープライズ、アメリカのス-パーキャリアーを念頭に考えた場合、日本に虚空母艦は必要か、と問われるならば、必要性は薄い、といえるでしょう。必要であっても維持費用と艦載機、一隻だけで5000名の人員とF-35C戦闘機等50機を搭載し、流石に配備は出来ません。

 F-35B戦闘機は中国海軍のJ-15戦闘機を圧倒する能力があります、ステルス性と運動性能を両立する飛行制御装置技術を両立させなければステルス機は開発できず、また、実戦におけるミサイルや航空戦闘という各種脅威と作戦遂行能力を統合化したプロジェクトマネジメント能力が無ければ無理、中国はステルス機を開発できてもステルス戦闘機は難しい。

 F-35Bは、そして垂直離着陸が可能である為、満載排水量一万トン程度の全通飛行甲板艦船により運用する事が可能ですが、J-15戦闘機はソ連製Su-27戦闘機が原型であり、F-15戦闘機以上の大型機である事から、スキージャンプ台という形状の飛行甲板か、350mの滑走距離が必要です。こうしますと、基本満載排水量四万トン以上の大型艦が必要となる。

 佐世保基地のヘリコプター搭載護衛艦いせ艦上にF-35Bの運用能力が加わるならば、勿論それが常時運用されているのではなく、代替滑走路の一つとして運用される場合も含め、中国海軍の航空母艦は無視する事が出来なくなります、油断していますと遠距離からJSM巡航ミサイルにより無力化される可能性があり、示威行動の実施さえ圧砕されかねません。

 この視点から、制海艦や戦力投射艦という航空母艦と設計が共通する艦艇の多様化を念頭に考えますと、その必要性は、というよりも戦力投射艦としての要件も制海艦としての要件も、海上自衛隊へ配備されている護衛艦ひゅうが型、護衛艦いずも型は満たしていまして、艦載機として航空戦闘能力を有する機種を配備するか否か、という部分に収斂するでしょう。

 ヘリコプター搭載護衛艦、と定義される護衛艦ひゅうが型以降の全通飛行甲板型護衛艦ですが、厳密には回転翼航空機以外の運用能力を有しています、それはアメリカ海兵隊が運用するMV-22可動翼機の発着実績です。MV-22は回転翼航空機ではなく、パワーリフト機という区分、発着スポットが既に甲板に配置されており、格納庫収容も実施しました。

 違いは何か、航空母艦とヘリコプター搭載護衛艦の相違点について気になるところです。航空母艦の一例にインヴィンシブル級航空母艦を提示した場合は、相違点が難しくなります、イギリス海軍が対潜巡洋艦として3隻を建造し、2014年まで運用していました、基準排水量は16000t、満載排水量20500tで、ひゅうが型護衛艦よりも一回り大型の母艦だ。

 インヴィンシブル級はシーハリアー攻撃機5機、シーキング対潜ヘリコプター12機を標準艦載機とし、長さ152mと幅19mの格納庫に搭載、必要に応じハリアー攻撃機を15機搭載し防空任務へ充てるなど、任務に応じ艦載機の編成を転換していました。元々の設計が対潜巡洋艦であり、海軍戦略の変更に対応して航空母艦となっています、ひゅうが型と似る。

 しかし、空母航空団を運用するアメリカ海軍のスーパーキャリアーのような能力は有しておらず、基本的に欧州と北米の船団護衛におけるソ連超音速爆撃機への対策と、攻撃型原潜からの防護が想定されており、イギリス海兵隊の展開を支援するコマンドー空母として、運用が想定されています。要求仕様通りの対潜巡洋艦の転用としては充実した能力ですね。

 対潜巡洋艦としては充実した能力ですが、アメリカ海軍のスーパーキャリアーであれば一隻で中小国の空軍力を凌駕する航空戦力を有し、数隻でイラク侵攻等一方面の空軍力を圧倒できる能力がありますが、インヴィンシブル級では十隻集めようとも、代替にはならない。しかし、この一点でポテンシャルを失うものではなく、そもそもの用途が違う訳です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【日曜特集】富士学校創設63周年富士駐屯地祭【02】富士教導団観閲行進(2017-07-09)

2018-02-25 20:10:14 | 陸上自衛隊 駐屯地祭
■富士教導団観閲行進開始
 富士学校創設63周年記念富士駐屯地祭、記念式典の完了に続いて富士教導団の観閲行進が開始されました。

 82式指揮通信車座上の富士教導団長を先頭に観閲行進が開始されました、232両も生産された指揮官用装甲車両で、元々は普通科部隊用小型装甲車の派生型として考えられていましたが、当時の石油危機に伴う財政難により小型装甲車については実現しませんでした。

 教導団本部付隊、本部付隊に96式多目的誘導弾システムMPMSが装備されている。しかし96MPMSを本部付隊が運用すると同時に、連隊には対戦車中隊も編成されています。こちらの方には直接商運用のミサイルが配備されており、96MPMSは配備されていません。

 96MPMSは射程が長い光ファイバー誘導ミサイルだが、普通科はここまで遠距離戦闘を想定しているのか、という疑問もある。96MPMSは10kmの射程を持つというけれども、これは戦車や火砲の責任交戦範囲だと思います、この射程を最大限活かすには難易度が高い。

 普通科部隊の任務は近接戦闘、主に戦車の間合いのうち側にある500mまでの戦闘力に注力すべきだ、と思うのは10kmの射程を最大限活かすには、無人機化前進観測班による間接照準射撃が必要となる為で、これは近接戦闘という領分を越えてしまうものでしょう。

 偵察教導隊の87式偵察警戒車、25mm機関砲で威力偵察を行う、装甲偵察車です。勿論、機関砲のみの装備で装甲は装輪装甲車の平均値を出るものではありませんので機関銃に耐えるのが限度、威力偵察を撃ちかけ、結果で相手が戦車だと反撃され致命的な損害を被る。

 偵察は軽戦車の任務、実際には軽歩兵との接敵が限界、偵察よりも敵の有無を探る斥候が限界かとも思うものがあります。相手が戦車を持つ可能性があれば最低限、16式機動戦闘車が必要で、105mm砲を用い、相手が戦車であった場合でも状況次第では撃破が可能です。

 偵察における軽戦車の位置づけは、軽戦車の限界という意味で年々変容しています。更にデータリンク能力の向上は第一線の戦車が把握した情報を後方の司令部から中隊本部まで共有できる基盤が構築されつつあり偵察ではなく戦車を先鋒とする運用も定着しつつある。

 第一線情報収集は偵察よりも戦場監視と斥候に重点を置き、例えば軽装甲機動車を基本とし、伸縮式複合光学センサーを搭載し高い標高の位置から目標の有無を検知し、併せて軽装甲機動車から多数の小型無人機を運用する、という偵察任務へ、戦場は変容しつつある。

 普通科教導連隊、89式装甲戦闘車を先頭に観閲行進へ。89式装甲戦闘車は迫力がありますが、第一線部隊で運用されているのは戦車師団である第7師団の第11普通科連隊が戦車部隊の支援に充てる最小限の3個中隊分のみ、しかし普通科で一番目立つ装備でもあります。

 本部管理中隊、普通科連隊は施設大隊の支援を受けずとも施設作業小隊が最小限度の、通信大隊の支援が無くとも通信小隊が最小限度の、後方支援部隊が無くとも輸送小隊が、独立した任務能力を支援できる編成です。勿論最小限度、上級部隊による支援は不可欠です。

 施設作業小隊、攻撃前進の先頭に立つ戦闘工兵としての任務は流石に能力不足だけれども、陣地構築や指揮所構築と最小限の戦闘工兵任務を担う部隊です。特に小型油圧ショベル一台が有るか無いかで対戦車班や迫撃砲小隊射撃陣地を掩蔽出来るか否かが決まってしまう。

 発煙機3型、高機動車の車体後部から揮発油を大量に燃焼させ、広範囲に煙幕を張る。一見古典的ですが、煙幕を見通すセンサーは高価でそれほど普及していません。敵砲兵観測妨害や対戦車ミサイルの誘導を阻害するなど、煙幕は21世紀でも有効だといえるでしょう。

 普通科教導連隊第1中隊の89式装甲戦闘車、戦車に随伴できる装甲車両として要求され、戦車を支援する35mm機関砲と、万一の際に敵戦車へ対抗し得る強力な79式対舟艇対戦車誘導弾を備え正面40mm装甲を備えた優れた装備だけれども68両で生産終了となった。

 89式装甲戦闘車は戦車と協同する装甲車両ですが、陸上自衛隊が90式戦車を導入した事により、1500馬力という桁外れのエンジンを搭載する90式戦車の機動力は素晴らしいものですが従来の73式装甲車では90式戦車に随伴する事は非常に難しくなってしまいました。

 戦車に随伴する、という運用は勿論最高速度で戦車に随伴する事も必要で90式戦車は70km/hを発揮しますが、73式装甲車は55km/hしか発揮しません、何故ならば73式装甲車は74式戦車の54km/hと協同する事を念頭として最高速度が設計上要求された為です。

 高出力のエンジンを搭載する第三世代戦車は泥濘や泥炭湿地帯と草原や森林地帯等を馬力にものを言わせ遮二無二突破する事が出来ます。従って、馬力にものを言わせる戦車と協同するには、相応の装甲車が必要となる訳で、装甲車の世界にも世代交代を強いたかたち。

 機甲部隊とは元々が装甲機動部隊ですので、装甲車も障害に直面するたびに人員を下車展開させ制圧戦闘を行っていては肝心の機動力を発揮出来ません。また、当然、周辺国も陸軍の趨勢として近接戦闘部隊に装甲車両を配備していますので、対処能力が求められる。

 89式装甲戦闘車は35mm機関砲を搭載し、2000m以遠の敵装甲車両を撃破出来る能力を付与しつつ、銃眼を側面に配置しました。これは車内から隊員が装備する89式小銃を射撃できるもので、乗車しつつ銃撃を加える事で速度を落とさず攻撃前進を行う事が出来ます。

 もともとは350両ほど生産して、重装備部隊を集中している北海道の北部方面隊の第7師団と第2師団に当時の第5師団と第11師団へ一個連隊づつ配備する計画だったのですが、冷戦終結で不要な装備とされて生産を大幅縮小されているという残念な歴史があるのです。

 しかし、冷戦時代に戦車は70両生産していました、これを冷戦後戦車の量産は20両前後まで縮小しています。三菱重工の生産に余裕が称した訳で、その分、装甲戦闘車を毎年50両から60両生産して、全国の部隊に戦車部隊を現行並みに縮小してでも配備すべきだった。

 装甲戦闘車は冷戦後、その必要性が高まりました。歩兵の交戦距離を2500mまで延伸したもの、戦車の交戦距離5000mまでは対応が難しいが、地域紛争やゲリラコマンドー浸透対処には必須の装備で必要性の面で冷戦後、戦車以上に高くなった事を忘れるべきではない。

 89式装甲戦闘車、従来型の着上陸を受けた場合でも対戦車戦闘はミサイルに頼り限定的だけれども、敵歩兵戦闘車制圧等には不可欠な車両で、現在では古くなり少々排気煙がくたびれているが、戦車を大幅に減らした今、改良型を今からでも量産すべきと思うのです。

 普通科教導連隊第2中隊の軽装甲機動車はこの航続、2000年より大量調達が開始された陸上自衛隊自慢の軽装甲車両で全国の普通科部隊はじめ様々な部隊に配備されています。自衛隊行事に行けばほぼ並べられているのが軽装甲機動車で、特撮やアニメーションでも定番となった。

 89式装甲戦闘車の少数配備と対照的に陸上自衛隊と航空自衛隊で2000両が調達されており、本州の普通科部隊には基本的に一個中隊が充足されています。搭載できるものは意外な程多く、MINIMI機銃、12.7mm重機関銃、01式軽対戦車誘導弾、84mm無反動砲、JGVS-V7熱線暗視装置等を装備可能です。

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自衛隊観艦式2018中止,平成30年度自衛隊記念日行事は中央観閲式振替実施を防衛省検討

2018-02-24 20:01:27 | 国際・政治
■平成最後の自衛隊記念日行事
 2019年に今上天皇は退位され、本年は平成最後の一年となります。この平成最後の一年に実施される自衛隊観艦式が、中止となるようです。

 自衛隊記念日行事として首相を観閲官に迎え自衛隊が毎年陸海空自衛隊持ち回りで実施してきました観閲式について、2020年東京オリンピック準備の観点から防衛省は、中央観閲式が行われる朝霞駐屯地が五輪射撃競技会場として用いられる為、2018年実施予定の観艦式を本年実施せず、先に今年中央観閲式を実施するべく、順番を入れ替える方針とのこと。

 観艦式、海上自衛隊の自衛隊記念日行事として三年に一度相模湾において実施される国家行事で、観閲官に内閣総理大臣が当ると共に主権者たる国民へ海上防衛力の高水準を広く展示すると共に友好国や非友好国へその実力を誇示する自衛隊記念日行事です。三年に一度という事があり、毎回最新鋭の艦艇と航空機が初参加する注目の広報行事でもあります。

 実は内々に今年は観艦式出来ない、観閲式になるという御話を頂いていました、今回の報道はこれが公となった形ですが、当方は早合点して護衛艦運用関係で観艦式出来ず、横須賀の吉倉桟橋や逸見地区近辺で護衛艦を停泊させ、停泊式観閲式をやるのだと勘違いしていました。ミサイル防衛と中国艦艇西日本周辺行動が激増し、艦隊は余裕がありません。

 自衛隊記念日行事として観閲式と観艦式は当初毎年実施されていました。1973年の石油危機を受け観艦式は不定期実施と隔年や毎年実施となっていましたが、1996年より陸海空自衛隊の持ち回りが決定、航空観閲式が開始され陸海空自衛隊持ち回りとなった後、中央観閲式、航空観閲式、観艦式、が行われていましたが、順番の交替はこれまでで初となる。

 中央観閲式前年は例年予行として東部方面隊観閲式を朝霞で実施されています。第1師団と第12旅団や富士学校等首都圏近郊の部隊が参加し元々2018年に予定されていました。こうした事情がありますから今年は東部方面隊観閲式の予定が元々組まれていた部隊運用計画を、東部方面隊観閲式から中央観閲式としまして極論、看板の掛け換えで済みます。

 中央観閲式だけならば陸上自衛隊は首都圏の第一師団と教育部隊の富士学校や航空学校で出来ますが、観艦式は自衛艦隊が日本中から部隊を集結させる必要があり、例えば教育訓練部隊と首都近郊部隊、練習艦隊と航空教育集団に横須賀地方隊だけではできません。海上自衛隊の忙しさは、地方隊展示訓練が2014年以降出来ない現状が端的に示している。

 地方隊展示訓練、中央観閲式の前倒し実施が艦隊の運用逼迫に起因するものであるかどうかは、観艦式が実施される年度には実施されない横須賀地方隊や佐世保地方隊、舞鶴地方隊に呉地方隊と大湊地方隊が実施する夏の展示訓練が今夏、予定されるかで全てが分かる事でしょう。一昨年は熊本地震災害派遣、昨年は諸般の事情として実施されていません。

 伊勢湾展示訓練や駿河湾展示訓練、若狭湾展示訓練や美保沖展示訓練に新潟沖展示訓練、大阪湾展示訓練や広島湾展示訓練、博多湾展示訓練や石狩湾展示訓練等、護衛艦が5隻程度に掃海艇が3隻と輸送艦と多用途支援艦、地方隊によってはミサイル艇2隻と海上保安庁巡視船等が参加し夏に実施する地方隊の観閲式なのですが、2014年以降行われていない。

 航空観閲式も昨年、前日しか予行予定日が組めないほどに航空自衛隊が実任務増大に疲弊していました、実際、着上陸までは陸上で盤石な防衛体制を固める陸上自衛隊よりも、平時からの警戒監視任務や対領空侵犯措置任務が山積している航空自衛隊と海上自衛隊は非常に忙しい。実態は五輪に名を借りた観艦式延期ですね。朝霞駐屯地だけが会場ではない。

 明治神宮外苑において元々観閲式は行われていました、朝霞駐屯地に集結した部隊が一般道を神宮外苑へ展開し、観閲式に伴う移動が国民に広く自衛隊と親しむ機会となっていました。もちろん、朝霞駐屯地が無理だからと神宮外苑で行おうにも、神宮外苑は新国立競技場建設で朝霞駐屯地以上に五輪準備で忙殺されていまして、観閲式実施は現実的でない。

 朝霞駐屯地が無理でも、しかし、富士山を背景に東富士演習場で実施すればよい、富士は東京ではないといわれるでしょうが、朝霞駐屯地がそもそも埼玉県ですし、航空観閲式を行う百里基地は茨城県、観艦式に至っては相模湾です。伝統もあるし、部隊も近い。毎年三万名以上が見学する富士総合火力演習が行われている。五輪は口実と分かるでしょう。

 中央観閲式、東富士畑岡で実施するならば、富士駐屯地、駒門駐屯地、板妻駐屯地、滝ヶ原駐屯地、富士地区の富士教導団と第一師団、そこに航空学校と高射学校に施設学校の展開だけで成り立つし、富士地区の戦車は100以上、国威発揚に繋げるならばこちらの方が規模は大きく出来る、日米同盟を強調するならばキャンプ富士の部隊が参加してもいい。

 ただ、自衛隊記念日行事は国民と共に諸外国に誇示するものです。安易に変更するのは如何なものかな、と思わないでもありません。前述の通り、中央観閲式は過去に明治神宮外苑で実施し、現在朝霞駐屯地で行っているのですからなにも朝霞駐屯地でなくともよい。東富士演習場での実施を提案しましたが、これが遠すぎるならば東京の立川駐屯地も広い。

 観艦式も停泊式観艦式とすれば予行も不要です。現在の相模湾での観艦式は多数の艦艇が洋上を行き交う高度なものですが、世界を見ればこうした観艦式はむしろ少数派でして、高度な練度が求められる分、内外に海上自衛隊の能力を誇示するには相模湾での観艦式は意味がありますが、実施しないのでは意味がない。世界では停泊式観艦式が一般的です。

 国際観艦式2000、自衛隊発足50周年記念行事として実施された東京湾国際観艦式は停泊式観艦式でした。停泊式観艦式では錨泊している艦艇の間を観閲官が乗艦した艦が航行し、敬礼を受ける。国際観艦式では観閲艦しらね、以下4隻が海上自衛隊や各国艦艇の周りを一周しました。しかし、台湾海軍は基地に停泊させ、陸海空併せて閲兵を行った事もある。

 逸見桟橋にヘリコプター搭載護衛艦、吉倉桟橋に護衛艦や支援艦艇と外国艦艇を並べて登舷礼、安倍首相が船越地区方面から自動車で桟橋に停泊する艦艇を観閲、逸見桟橋に同じ横須賀の陸上自衛隊東部方面混成団の装備と、富士学校の戦車を並べ敬礼、上空に第23飛行隊等教育部隊戦闘機やブルーインパルスが飛行、最後に観閲艦甲板で訓示して締め括る。

 自衛隊統合演習の期間に合わせれば艦艇も集めやすいでしょう。勿論、観艦式と中央観閲式の交替理由は五輪、実はミサイル防衛での日本海におけるイージス艦常駐や南西諸島警戒監視任務と、更に海賊対処任務も並行して海上自衛隊には実は観艦式を行う余裕があり、中央観閲式は東富士や立川ではなく朝霞で行わねばならない理由があるのかもしれません。

 国家行事、しかし、国家行事という点を考える必要があります。様々な理由は考えられるのですが、主権者たる国民へ防衛力という国家の無言の決意を示し周辺国へも日本の平和主義を誇示する行事ですので、仮に上記の通り理由はあっても、しかしです、やはり予定通り実施する方式を検討し、艦艇運用が逼迫しているのならば、その点も包み隠さず行事の方式へと反映させるべきではないか、こう考えます。もっとも、中央観閲式はもっとも悪天候に強い行事、昨年悪天候で航空観閲式が中止されたことを考えれば、平成最後の自衛隊記念行事を一番手堅い中央観閲式とする構図となる訳で、この点の納得はできますね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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平成二十九年度二月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2018.02.24/25)

2018-02-23 20:02:56 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 梅花の蕾が花見の下見を誘う中、皆様いかがお過ごしでしょうか、さて今週末の自衛隊行事ですが、一般公開の物は海上自衛隊基地の一部広報以外、無いようです。

 今週末の自衛隊行事無し、という週末にはしっかりと自宅周辺の警備体制強化や火の用心の提灯準備に励みたいところですが、近所にある自衛隊機保存展示航空機等を散策してみてはどうでしょうか。京都は京都嵐山美術館が凄かったようですが閉館し、戦艦陸奥主砲は横須賀に移ったものの、三式戦飛燕等多くの貴重な軍事遺物が散逸してしまいました。

 ただ、百里航空祭で御馴染みの茨城空港前のファントムなど自衛隊機の保存展示航空機は防衛省貸与という形を取っている為、散逸の心配はそれ程高くありません、保存展示状態の悪いものが大半ですが中にはしっかりと管理された場所もあります。美幌航空公園等は知人の御勧めで、しかし遠く中々いけないのですが旧海軍美幌航空基地所縁の地とあり、T-34A,T-6,T-33,H-21,HU-1B等がさり気なく並んでいるという。

 茨城空港公園にF-4EJとRF-4が展示され、航空祭以外の日にもファントムを間近に眺められるのは有名です。しかし知られざるといいますと、八戸公園こどもの国展示のB-65練習機や静岡理科大学のOH-6DとLR-1,中には静岡県の国道363号線沿いの永野自動車店内にT-34練習機、出雲市目田森林公園の山中にT-33等、ぽつんと一機、というものもある。

 さて撮影の話題、撮影に遠出する際の話題ですね。自衛隊行事で遠出する際には、やはり土産物で日本各地の一品や自衛隊行事ゆえの興味深い逸品を買ってゆきたいところですが、何を買うのかが難しい。一番喜ばれたものは、部隊パッチ、これは自衛隊や軍隊に興味のない人でも精緻に造り込まれた刺繍工芸品で、喜ばれるものです。頑丈ですし、本来の縫い付け用以外に卓上を明るく飾る用途にも向く。

 部隊パッチは一つ当たりの値段が張りますので、何枚も何人に配る訳には参りませんが、土産物としては喜ばれます、何よりも自衛隊行事に行ったのだ、という事を強調できるお土産ですし、其処でしか買えないご当地品、そして重さもほとんどありませんし、数枚買ってもカメラバックの隙間に収めることができます。お饅頭や地酒ではこうは参りません。

 ただ、第8飛行隊のパッチが丸いからと言って、コースターは勘弁だ。刺繍で日本製パッチの製造能力は繊維不況と言われる中でも一応の需要があり、土産物ですので活用方法はお任せしているのですが、仕事場で冷たい緑茶を湛えたグラスの水滴を一手にパッチが受け止めている様子を見ますと、少しだけ使い方を考えてほしいなあ、と思ってしまいます。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭
・今週末の自衛隊行事はありません

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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新防衛大綱とF-35B&EA-18G【04】新田原F-35B飛行隊いずも型護衛艦艦上運用の可能性

2018-02-22 20:09:45 | 防衛・安全保障
■F-35B,洋上防空と九州防空
 南九州新田原基地へのF-35B飛行隊新編構想、しかし鹿児島県の海上自衛隊鹿屋航空基地ではなく宮崎県の航空自衛隊新田原基地へ。

 さてその前に本記事作成中に気になる情報が。ロイター通信昨日2月21日付記事によれば、防衛省関係者の話として航空自衛隊は現在調達中のF-35戦闘機を更に25機程度追加する方針を示したとの事で、事実とすれば現在調達中の42機に加え合計67機のF-35Aが配備される事となります。この25機はF-15J戦闘機の後継であり、更に75機を開発を検討している国産機で代替する検討を行うという。

 国産戦闘機を数年間で管制させる事になり、F-2戦闘機後継機をF-15J後継機に前倒しする技術的見通しが気になるところですが、併せて、同記事は現在の三菱名古屋FACOでの最終組立を割高であるとして取りやめる可能性を示し、現在1機130億円で取得のF-35Aを1機あたり数十億円程度安価に取得するという、主開発国イギリスが1機1億ポンドで取得するF-35以下に圧縮したい構えとのこと。

 三菱FACO閉鎖の示唆とは、契約中断という我が国の悪い癖が出ているようで呆れますが、OH-1観測ヘリコプターやAH-64D戦闘ヘリコプターン調達中断の経験から、三菱FACO建設費は既に別枠で計上されており、この税金を無駄にするという視点で、なお調達費を圧縮できるのならば、選択肢にはなり得るのでしょう。この記事についてはロイター通信記事のみ、詳細は後日改めて検証しましょう。

 新田原基地へのF-35B配備報道ですが、F-35AとF-35Bの最大の相違点は垂直離着陸能力の有無です。全長は同じ、垂直離着陸機構を搭載する分、F-35BはF-35Aよりも燃料搭載能力が限られ、F-35Aの航続距離は2200kmですがF-35Bは1670kmに留まる。しかしレーダーや電子装備は同一、エンジンは共にF-135系統、整備互換性は非常に高いのです。

 F-35A戦闘機の配備開始により、F-35B戦闘機を運用する障壁は非常に低くなりました。ただ、将来的にF-35B戦闘機の能力を考えた場合、海上自衛隊の護衛艦へ配備する意義というものは低くはありません。現代の海上戦闘はミサイル射程の長大化により対艦対空とも交戦距離が年々長大化しており、その上で如何に索敵を行う情報優位を得るかが重要だ。

 ヘリコプター搭載護衛艦艦上からのF-35B戦闘機運用、これは事実上の護衛艦の空母運用となります。F-35Bには敵のレーダーに捕捉されないステルス性を有し、索敵でも高機能レーダーAPG-82の他に電子複合監視装置EO-DASシステム等、レーダー波を出さずに、つまり相手に感知される事無く索敵する能力があります。艦上運用は情報優位に繋がる。

 海上自衛隊は対水上戦闘において艦砲と対艦ミサイルという選択肢を有します。艦砲射程は30km、近年の水上戦闘艦は第二次世界大戦中に主流であった対水上戦闘用の長魚雷は搭載せず、対艦ミサイルがその攻撃の主力となっています。海上自衛隊は国産のSSM-1とハープーン艦対艦ミサイルを採用しており、射程は150kmから200km程度となっています。

 地球は丸く電波は直進しますので、護衛艦のマストに搭載されているレーダーは水平線の向こうを見る事は出来ません。すると護衛艦のマストからは艦船を目標とする場合に50km程度しか見通せないのです。この為、護衛艦は哨戒ヘリコプターを飛行させ索敵を行うのですが、相手に広域防空艦、イージス艦やターター艦同等の防空艦がいれば生き残れない。

 日米やNATOの対艦ミサイルは200kmが標準ですが、中国ロシアのミサイルは300km以上の対艦ミサイルが標準となりつつあります、これは1970年代に開発されたハープーンミサイルが西側の標準となり、ミサイルの規格が確立し、本体部分に搭載出来る燃料から射程の上限が決まるのに対し、PJ-10やS-1000,YJ-62等、ロシア中国にその成約が無いため。

 戦闘機としてではなく艦上固定翼哨戒機としてF-35Bを搭載出来れば、射程で既に大きく限られた日本の水上戦闘能力を最大限発揮が出来る。海上自衛隊には過去に固定翼艦載機という区分が存在し、S-2対潜哨戒機という機種が、母艦は整備に至りませんでしたが、存在していました。この艦上固定翼哨戒機という区分で、F-35Bがあれば高い抑止力となる。

 勿論F-35Bについて、中距離弾道弾攻撃や巡航ミサイル攻撃により航空自衛隊基地の飛行場施設が破壊された場合においての分散運用も念頭としていると報じられ、垂直離着陸能力を有するF-35Bは、必要であれば鹿屋航空基地、高遊原分屯地、宮崎空港、鹿児島空港と多数ある九州南部や離島の飛行場等へ分散し、粘り強く防空戦闘を展開可能となります。

 しかし、新田原基地の現在のF-15一個飛行隊という体制では、増大する九州南部方面への中国大陸からの国籍不明機接近増大への対処能力について限界が指摘されます。中国爆撃機は九州沖を越え紀伊半島沖まで進出、脅威は無視できません。海上自衛隊の艦隊運用への資する点も大きいのですが、喫緊の課題としては新田原基地強化の優先度が高いのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【京都発幕間旅情】飛騨国分寺,雪舞う白銀の高山に飛騨三十三観音霊場第一札所醫王山を探訪

2018-02-21 20:10:36 | 旅行記
■飛騨国分寺,小京都の境界線
 豪雪報道林立する最中に敢えて雪と親しむ岐阜県は飛騨高山、高山市の飛騨国分寺拝観の様子をお伝えしましょう。

 飛騨国分寺、弘法大師空海が拓いた高野山真言宗の寺院です。岐阜県飛騨高山、昨今は一つ奥の飛騨古川が映画作品舞台となり世界的観光地として飛躍を遂げていますが、一つ奥とはいえ、やはり飛騨古川は遠い。もっと高山は氷菓されるべき、いや評価されるべき。

 聖武天皇の治世下にある天平13年、西暦では741年に全国へ仏法による救済を願う国分寺建立の詔が発せられ、日本全土へ国分寺の建立が進められました。飛騨国分寺もその流れの中で建立、醫王山、医王山飛騨国分寺として757年に創建、永らくこの位置に鎮座しています。

 三重塔が迎える伽藍の情景は、京都の荘厳雄大な寺院とは比較にならないものの、しかし山国の中の信仰を集める為の拠り所としての役割を経て、崇敬を集め続けた、つまり文字通り大事にされてきました点が現在の美しい木造建築の威容からも感じ取る事が出来る。

 飛騨三十三観音霊場第一札所にも数えられる飛騨国分寺は、神山市の玄関口である神山駅、ではなく高山市の玄関口である高山駅からも市の中心部に向かう道中、歩みを進めて数分と指呼の距離にあり、豪雪地として名高い飛騨山脈の盆地でもアーケード沿いに行ける。

 高山駅前の近代的な街並み、小京都とも称される高山では、観光地開発と共に駅ビルも新しく建て替えられ、駅前の中層建築のホテル群を見上げ、成程小京都、京都駅前の京都タワーや新阪急ホテルと同じ様相だ、と感じた数分後に小京都の境界線、出会う国分寺が歴史情緒のはじまり。

 小京都の境界線、国分寺建立の詔と共に全国へ創建の一連の国分寺にあって、757年建立の飛騨国分寺は、創建当初には七重塔を中央に拝する大きな寺領を誇ったようです。しかし819年の弘仁年間には火災により呆気なく焼失、寄進も限られ855年の斉衡年間に漸く再建を果たしました。

 木造薬師如来坐像と木造聖観音菩薩立像を本尊とする本堂は、斉衡年間の再建においても完全に再建されておらず、正確に何時頃再建されたかについては諸説ある状況、当時の飛騨国の産業や経済状況から、記録も多く残っていないようで、まだまだ日本史は奥が深い。

 応永年間の1410年頃には全て再建されていたらしいのですが、この根拠が応永年間に再度全て火災により焼失したから、という記録があるからだそうで、全ても得たからには全てあったのだろう、と。本堂や三重塔の風情と規模が、その流れを物語っているようですね。

 安土桃山時代には1585年、金森長近による姉小路頼綱の松倉城攻めの戦火が延焼し、翌年の1586年天正地震によりまたしてもすべて焼失、震災復興と全く再建が出来ない最中で飛騨国は江戸時代を迎え、元和元年即ち1615年に現在の国分寺のほぼ全てが再建されました。

 行基によって建立された飛騨国分寺は、ここまで度重なる火災と戦禍に脅かされたのですが、御本尊の木造薬師如来坐像と木造聖観音菩薩立像は平安年間の国指定重要文化財であり、数多の災厄に直面しつつも、御本尊だけは平安朝の頃より護り続けたのは信仰の証だ。

飛騨国分寺の大銀杏は推定樹齢1250年であり、国指定天然記念物、実はこの銀杏こそが飛騨国分寺が創建以来この地に鎮座し続けている象徴との事です。1695年に飛騨国は幕府天領となり、天災にて三重塔が倒壊しつつ1820年に再建、その後は戦災等を免れ今に至る。

天領となった後に飛騨国分寺は、鐘楼門や屋根瓦等を廃城となった高山城より継承し、山国の小京都と呼ばれる街づくりの中心に崇敬を集めてきました。高山駅から朝市で名高い宮川へ向かう道中に佇む古寺は雪の日にも多くの拝観者を集め、小京都の境界線は常に賑わいを見せています。

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陸上防衛作戦部隊論(第七〇回):装甲機動旅団試案と新編即応機動連隊,その将来可能性検証

2018-02-20 20:08:30 | 防衛・安全保障
■即応機動連隊,年度末新編開始
 即応機動連隊の新編が今年度末より開始され、善通寺の第15普通科連隊、北熊本の第42普通科連隊が最初の改編部隊となります。

 即応機動連隊、陸上自衛隊の新しい作戦単位です。自衛隊の統合機動防衛力、つまり全国への基盤的防衛力としての部隊画一配置を見直す新しい防衛計画に基づき整備される部隊で、96式装輪装甲車やその改良型の新装甲車を主体とした機械化部隊に最新鋭16式機動戦闘車や小規模高射特科部隊と重迫撃砲部隊を統合し、独立した戦闘力を有するものです。

 統合機動防衛力整備の主眼は、有事の際の着上陸事案に際し、初動部隊として着上陸正面の部隊が防衛線を展開すると共に、即応機動連隊が駆けつけ前衛部隊を担う方針です。即応機動連隊は2017年度に最初の二個が普通科連隊より改編、この部隊を各方面隊へ配備、有事の際には全国から集合させる事で迅速な防衛体制立ち上げを期する事ができましょう。

 本部管理中隊、軽装甲機動車装備中隊、3個装輪装甲車化中隊、重迫撃砲装備火力支援中隊、機動戦闘車中隊、という陣容です。欧州の軽装甲車大隊に匹敵し、自衛隊では有数の機械化部隊といえるものですが、装輪装甲車化中隊は96式装輪装甲車の総数が十分ではない状況、自衛隊全体で400両弱しかない故、完全に充足させる事は当面の間、できません。

 装甲車の不足に際し、防弾ではなく防水布製の幌で覆う高機動車が装甲車の不足を補完します。装甲車化の連隊を全国に7個新編するのですから、ただでさえ少ない装甲車両をスクラップ&ビルドではなく統合機動防衛力整備に併せ、不足分の装甲車両を即応機動連隊所要として新たに500両程度増強する程度の施策は必要なのですが、予算難が許しません。

 自衛隊は規模から考えて、装甲車両が圧倒的に不足しています。一昔では戦車1100両にたいして装甲車が600両程度で、戦車と協同する上で不均衡という問題がありました、戦車が300両まで削減されたのですから、戦車縮小の台数分を装甲戦闘車が補えば問題がなかったのですけれども、装甲戦闘車の調達は2004年が最後、そのまま放置されています。

 冷戦時代では装甲車は少ないものの、その分は空中機動能力を重視していたわけですが、予算難と弾道ミサイル防衛などの新任務付与により少ない予算が新装備に取られ、ヘリコプター調達が停滞、航空部隊の優位も諸外国と比較し低下しつつあります。このため、装甲車両は装甲戦闘車で600両程度、軽装甲車両も1000両程度あって不思議ではありません。

 現在の予算をみる限りでは難しい事は認めますが、政治は自衛隊による国土防衛を真剣に考えるのであれば、即応機動連隊の編成を普通科連隊の基本編成としなければなりません、96式装輪装甲車はNATO等欧米の装甲車両と比較したならば、重装甲ではありませんが基本的な性能を備えています。車体は小型ではありますが、道路事情を考えると致し方ない。

 その上で我が国ではデフレ経済が長期継続したために実は取得費用は諸外国の装甲車よりも割安となっており、96式装輪装甲車の取得費用は9000万円程度ですが、この費用は輸出競争力があるほど安価となりました。ただ、96式装輪装甲車(改)として小松製作所が新型装甲車を開発、車高が高すぎる印象がありますが、当面この大量調達を期待しましょう。

 即応機動連隊という新しい部隊編成ですが、此処まで記した通り、装甲車不足により目的とした高い水準の装甲車緊急展開部隊完成までには時間を要しそうです。しかし、編成を見る限り、統合機動防衛力、自衛隊の陸上防衛を新しい水準で開拓する可能性を大いに秘めた部隊です。今回から数回に分けて、新しい即応機動連隊について考えてゆきましょう。

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新防衛大綱とF-35B&EA-18G【03】九州西日本狙う中国巡航ミサイル飽和攻撃への防衛策

2018-02-19 20:17:18 | 防衛・安全保障
■九州防空,JAS-39/F-35B必要
 中国巡航ミサイル総数の爆発的増大とミサイル爆撃機の脅威を前に南西諸島、九州、西日本は何らかの防衛手段を構築する必要がありました。

 F-35B戦闘機の新田原基地への新飛行隊新編を検討、という報道は驚きでした。F-35A戦闘機の実戦配備へ、三沢基地での臨時F-35飛行隊への配備が開始された同時期の報道ですが、特に佐世保への水陸機動団新編、統合機動防衛力整備という一大転換、南西諸島への中国大陸からの脅威は九州と西日本へ及ぶ中での検討報道は、意味合いが根本から違う。

 新田原基地へF-35飛行隊を新編する、との選択肢であれば、戦闘機飛行隊を新編する防衛予算上の裏付けのみで驚くには至らなかったでしょう。しかし、航空自衛隊がF-35B,つまり垂直離着陸が可能であり、短い滑走路は勿論、ひゅうが型護衛艦、いずも型護衛艦艦上においても運用可能な機種を新田原基地へ配備し島嶼部防衛に充てる、との点が注視だ。

 JAS-39戦闘機を緊急リースし入間基地へ配備すべきではないか、中立政策で名高いスウェーデンの主力戦闘機JAS-39は、世界へ輸出と共に有償リースを提示しており、特に同盟国へ依存できない中立政策を守り抜く為の戦闘機として、短距離滑走路や高速道路からも離着陸が可能で、飛行隊を一機二機単位で分散した場合も整備等運用が可能という機種です。

 F-35B戦闘機が九州沖縄の防空を考える場合、最善の選択肢ではあると考えます、海上自衛隊航空基地は勿論、離島空港や陸上自衛隊の航空部隊駐屯地に代替滑走路を活用できるところまではJAS-39と同様ですが、JAS-39が着艦できない全通飛行甲板艦上へF-35Bは着艦出来まして、運用柔軟性はF-35Bの方が高いのですが、機体の費用も高く、財政上困難と思っていました。

 JAS-39戦闘機を一個飛行隊か二個飛行隊程度をリース、可能であればそのまま中古取得する事が一つの選択肢、この選択肢が不可能であっても、F-15J等の戦闘機部隊を南西諸島や南九州の民間空港へ2機3機単位で分散配置させ、那覇基地や新田原基地、鹿屋航空基地が攻撃を受け機能喪失となった状況でも、要撃任務と制空戦闘を維持する必要があります。

 南西諸島の防空体制維持とは、日本がこれまでにまったく経験がないスウェーデン製戦闘機を提示する他ない程、実は厳しい状況にあります。これは中国空軍のH-6ミサイル爆撃機が紀伊半島沖まで進出するようになり、射程1500kmの東海10型巡航ミサイル6発を運用可能、H-6爆撃機は120機が配備され、極めて大きな脅威であるといわざるを得ない。

 東風21型中距離弾道弾、中国大陸からは東風21型中距離弾道弾という脅威があります。東風21は150発から200発程度を保有しているとされ、射程は本州全域と北海道を含む2100km、対艦弾道弾型が現在愛発されており、その総数は現在も量産が続き増大中です。H-6ミサイル爆撃機に加え、東風21型中距離弾道弾の脅威下、防空維持は大きな課題です。

 台湾、実は中国大陸からの軍事脅威に直面する台湾の中華民国空軍もAV-8BやF-35Bといった垂直離着陸可能な戦闘機について永らく取得を希望していました。台湾は中国が600発という多数を装備する短距離弾道弾東風15型の射程600kmに照準され、滑走路を破壊された状況下で制空権喪失の懸念があった為で、今日では日本も同様の状況になっている。

 いずも、かが、へF-35Bを配備する、という主眼ではなく、新田原基地へF-35B戦闘機を配備し、中国大陸からの長距離巡航ミサイル攻撃や中距離弾道弾攻撃により飛行場の滑走路などの施設が破壊された場合に、飛行場施設が復旧するまでの間、他の飛行場施設からF-35Bを運用し、その飛行場に、ひゅうが、いせ、いずも、かが、を含む、との構図です。

 また、海上自衛隊が航空集団を改編史F-35Bを配備する場合、航空集団が装備する練習機はT-5練習機まで、ジェット練習機がありません。この為、実現には航空自衛隊か米海軍へ航空学生を留学させる必要がありますが、航空自衛隊がF-35Bを配備するのであれば、F-35A要員の教育をそのまま応用する事さえ可能で、実現への障壁は一挙に低くなります。

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