◆海外での任務を念頭に元来の巡洋艦の位置づけ
護衛艦はるな、の写真を掲載するための記事です。地方隊の在り方の特集記事やかなり前から護衛艦隊の八個護衛隊全てにDDHとMD-DDGを配備する八八艦隊の必要性を掲載してきましたが、今回は備忘録的にもう一つ。
前回の観艦式でしたが併せて護衛艦ひゅうが艦内で行われた海賊対処に関するシンポジウムにて、意見を求められたイギリス海軍大佐が、海上自衛隊の護衛艦は水上戦闘艦としてどれも素晴らしいが、哨戒と長期航海を念頭に置いた艦があってもよいのではないか、と発言されました。海上自衛隊のDDHという艦種は、ヘリコプターを近代化もしくは更新することで即座に多用途任務に充てることが出来、日本独自の艦種というべき運用体系が確立していますが、実のところ上記任務にも非常に最適の艦船として対応し得るのではないか、と考えます。
過去にも従来型DDHの能力については今後も十分な能力がある、と記載してきました。その一案が地方隊旗艦に充てる、という任務です。DDHは元々対潜中枢艦として護衛隊群旗艦としての任務を重視し設計されてきました。有事においては我が国周辺海域であれば各地方隊のなかで当該管区の地方総監が海上統合任務部隊指揮に当たりますが、有事においては陸上の艦艇基地はゲリラコマンドーの襲撃や弾道ミサイルによる攻撃に見舞われ、災害時には指揮官先頭の位置づけを示すという程度ではありますが、特に前者に意味はあるでしょう。
今回の提案は、ヘリコプター搭載護衛艦の多用途性を以て巡洋艦としての任務を担うことが出来ないか、ということです。巡洋艦と言えば我が国では帝国海軍の時代に主力艦を補う任務、もしくは駆逐艦を中心とした水雷戦部隊の旗艦としての任務が主に想定されていましたが、海外植民地を有する諸国は植民地警備任務に航続距離の大きな水上戦闘艦として巡洋艦を充てていました。日本は植民地が台湾と近かったため植民地警備ではなく海外権益保護、という観点から装甲巡洋艦出雲等を上海に停泊させた事例を出すのが妥当でしょうか。
哨戒艦的な任務に充てる海上自衛隊の巡洋艦、これは冷戦時代に想定されたヘリコプター巡洋艦ミサイル巡洋艦混成巡洋艦隊や全通飛行甲板型護衛艦という話ではなく、海賊対処任務と国際平和維持活動への対応を念頭に置いたものです。即ち、ヘリコプター搭載護衛艦は、艦隊防空能力で、ひゅうが型のような最新を除けば限定的で、従来型護衛艦は打撃力に艦砲を重視し、対艦ミサイルを搭載していません。半面強力なソナーを搭載している、そして大きな航空機運用能力を持っており、この部分を如何に使うかにより能力は大きくなります。
海賊対処任務では海賊は航空機や水上戦闘艦を導入した事例は今のところなく、水上戦闘艦を拠点とした哨戒ヘリコプターと高速艇の運用が大きな抑止力となっています。この場合ヘリコプターのほか艦砲が威圧し抑止する期待がありますがヘリコプターからの機銃掃射で現在のところ決定的な反撃手段がもちられた事例が無く、それならば海賊対処部隊にヘリコプターを強化した場合の能力を模索したほうが対処能力全般の強化につながるともいえます。即ち、複数のヘリコプターを運用できるならば一隻で船団を防護できるやもしれません。
国際平和維持活動ですが、ヘリコプターの運用基盤として、SH-60Kを三機搭載した護衛艦はるな型はHSS-2の搭載を念頭に格納庫が設計されていますが、これは同時にHSS-2の搭載艦に搭載を念頭としたAW-101,つまりMCH-101を搭載できるということを同時に示すことにもなります。MCH-101は掃海輸送ヘリコプターですが、図らずも掃海母艦を補助することに加え、機体は35名までの完全武装兵員を空中機動させることが出来ますので兵員輸送から邦人救出まで対応する母艦として高い能力を発揮できるでしょう。
海賊対処任務等は長期の任務となるため、居住性が重要となりますが、はるな型と同等の想定で護衛艦を建造した場合、もちろん機関のガスタービン化などは行われると共に自動化もある程度行われますので、一定の居住性は確保できるところ。他方、長期任務を念頭に置いた場合は、設計にどの程度反映されるかが重要となるのですが、練習艦としての任務に充てることも考えられるでしょう。特に格納庫は多用途空間として用いることが出来ますので、充分対応します。また、飛行甲板に導板を設置すれば車両輸送も可能となり、災害派遣にも寄与します。
ただ、この運用を行う場合には、どうしても複数隻の艦艇が必要になります。必要なのは、予算上の措置で、これを画定する要素を挙げますと、国際平和維持活動の増加を見越した支援艦への護衛艦充当を行うか行わないか、海賊対処任務に現在の護衛艦を派遣することにより生じる領海防衛警備への影響と専用艦を建造した場合の護衛艦勢力維持への影響との比較、さらに今後我が国は海外での任務をどのような形で展開するのかという国家戦略に依拠した運用体系というものがあってしかるべきでしょう。そのうえで、海外での我が国の防衛に寄与する任務へ巡洋艦的な運用を従来型DDHに対応させる、ということ、検討してみる価値はあるやもしれません。
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