衆議院厚生労働委員会での児玉龍彦教授の熱弁は、私たちに勇気を与えてくれました。
●衆議院厚生労働委員会 「放射線の健康への影響について」
児玉龍彦教授発言 7月27日
http://www.youtube.com/watch?v=O9sTLQSZfwo
●同、守田さんによる文字起こし版
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/8f7f0d5f9d925ebfe7c57aa544efd862
しかしきのうは児玉氏に加え、今中哲二氏. 沢田昭二氏.も参考人として発言していますが、放医研の明石真言氏、学術会議副会長の唐木英明氏、放影研理事長を歴任した長瀧重信氏という「御用学者」も登場しています。
とくに長瀧重信氏の発言は、放射線の「科学的知見」の代表であるかのごとき自己紹介から、「100ミリシーベルト以下の疫学的証明は科学的に証明されてなされていない」、「チェルノブイリにおいても証拠は認められなかった、影響は出なかった」と、ICRP基準が間違いないものであるとの主張を繰り返していました。
とくに、ICRPの理念は「経済的社会的に合理的に達成できる範囲で」放射線から防護しなければならないと言っているのであって「けっして基準値を守れと言っているのではない」、とまで付け加えています。
私(松元)は、聴いている国会議員の8割は原発推進か容認の人たちだと考えます。政治家、官僚、メディア、地方議員、そして学者の8割は推進・容認派だと思っています。8割という数字に根拠はありませんが、原発輸出だ、国益だ、国策だ(7/28サンケイ主張)というと簡単に経済的利得になびいてしまう国民の多くも依然原発を容認したい人々ではないかと悲観しています。半世紀のあいだ、そのように飼い馴らされてきた「国民」が支えてきたからこそ今日在るのだと思っています。
それは単なる感想だけではなく、事故直後から今日まで続いている情報隠蔽と数々の不作為を許してきた事実をみれば明らかです。日本はいまなお「制度として」原発を推進し容認する政治、経済、社会のあり方は何ら変更されていませんし、むしろ放射能防護体制はみるみる悪化しているのが現実です。その上で、子どもたちの被曝問題をはじめ平然とした棄民政策が着々と進められています。
既得権益に汲々としている国会議員はじめ「制度をつくり」なしている人々は、容易に既存のICRP基準に胸をなでおろすでしょう。長瀧氏が示唆しているように、「経済的社会的に合理的に達成できる範囲で」国民を守ると言明して、火急の真の被曝救済から逃れ続けるでしょう。
幸いこのICRPを根底から批判するECRR(欧州放射線リスク委員会)に唯一日本人として名を連ねている沢田昭二氏は、きのう国会議員に対してECRRの勧告要綱とその根拠となった「レスボス宣言」を提示してきました。私たちもまた、ICRPを乗り越えることが必要です。
すでにウェブ上で公表されている以下の欧州放射線リスク委員会2010年勧告から「レスボス宣言」とその土台の上でつくられた規制当局者のための「勧告の概要」を転載させていただきます。(既知の方には重複を失礼いたします。)
●「欧州放射線リスク委員会2010年勧告、低線量電離放射線被曝の健康影響、規制当局者のために」編集:クリス・バスビー、アレクセイ・ヤーブロコフ他。翻訳:ECRR2010翻訳委員会。発行:美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会。(全訳)
http://www.jca.apc.org/mihama/ecrr/ecrr2010_dl.htm
====以下転載(読みやすいように改行を施しています)====
■レスボス宣言(The Lesvos Declaration)
2009年5月6日
ECRR - CERI
欧州放射線リスク委員会
European Committee on Radiation Risk
Comite Europeenne sur le Risque de l'Irradiation
A. 国際放射線防護委員会(ICRP)は、電離放射線被ばくに対してひとつのリスク係数を公表しているところであり、
B. そのICRP放射線リスク係数は世界各国において、連邦政府当局や州政府当局によって放射線防護法を制定するために使用されており、労働者や一般の公衆を放射性廃棄物や核兵器、汚染した土地や物質の管理、天然起源のあるいは人為的に増強された放射性物質(NORMとTENORM)、原子力発電所と核燃料サイクルにおける全ての段階、賠償や回復計画等々から受ける被ばくの基準を設定するために使用されているところであり、
C. チェルノブイリ原発事故は核分裂生成物への被ばくがもたらし深刻な健康障害の発症率を見いだす最も重要で欠くことのできない機会を与えており、とりわけ胎児や小さな子供たちの放射線被ばくにそれを適用するには、現行のICRPリスクモデルには不備のあることが実証されているところであり、
D. 満場一致の考えとして、ICRPリスクモデルは、原子力事故後の放射線被ばく、すなわち、内部被ばくをもたらす取り込まれた放射性物質に対する適用に有効性がなく、
E. ICRPリスクモデルは、DNAの構造が発見される以前に、また、ある種の放射性核種がDNAに対する化学的親和性を有していることが発見される以前につくられたので、ICRPによって用いられている吸収線量なる概念はこのような放射性核種への被ばくに対してはそれを説明することが不可能なところであり、
F. ICRPは、ゲノム不安定性やバイスタンダー効果のような新しく発見された非標的効果、あるいは、放射線リスクの理解に関する2次的効果、特に、結果として生じる疾患の広がりを考慮に入れていないところであり、
G. 放射線被ばくによるガン以外の影響は、死因が交絡しているために、結果として生じるガンのレベルを正確に決定する可能性があるにもかかわらず、
H. ICRPはその報告書の位置づけは純粋な助言であると考えているところであり、
I. 人類と生物圏を防衛するために、放射能を内包する現在の状況を適切に規制するための即刻の、緊急の、継続的な要求が存在するところであるがために、
以下に署名した我々は、我々の個々人の能力において活動し、
1. ICRPのリスク係数は時代遅れであり、そのような係数の使用は放射線リスクの著しい過小評価を招くと主張する。
2. あるタイプの被ばくに関係する研究を行う際に、その放射線の健康影響を予測するのにICRPモデルを採用すると最低でも10倍の間違いが導かれるので、その間違いは更に大きいと主張する。
3. 特に心血管や免疫、中枢神経、生殖系といった、放射線被ばくによるガン以外の疾患の
発生率は有意に増加しているが未だ定量化されていないと主張する。
4. 放射線被ばくを引き起こしている全ての責任者とともに、責任ある政府当局が、放射線防護の基準を定めリスクを管理するに際して現在のICRPモデルにこれ以上頼らないことを求める。
5. 責任ある政府当局と放射線被ばくを引き起こした責任者の全てに対して、一般論として予防原則に則ったアプローチを採用し、そして役に立つ予防原則を適切に守ったリスクモデルがない場合には、遅れ過ぎないように、これは現在の観察結果を反映させたより正確なリスクを与える、暫定的なECRR2003モデルを採用するように求める。
6. 身体内に取り入れられた放射性核種の健康影響についての研究の即刻の開始を要求する。特に、日本の原爆被ばく生存者やチェルノブイリやその他の被害を受けている地域を含む、数多くの歴史的な被ばくした集団に対する疫学研究を再訪問することを要求する。被ばくした公衆における体内に取り込まれた放射性物質の独立したモニタリングの実施を要求する。
7. 被ばくした放射線のレベルを知るということ、またその被ばくがもたらす潜在的重要性についても正確に知らされるということは、個々の人々の人権であると考える。
8. 医学診断及びその他の一般的応用における放射線利用の拡大を懸念する。
9. 患者に放射線被ばく与えない医療技術研究に十分な公的資金を投入するよう主張する。
ここに表明した声明は下記署名者の意見を反映したものであり、所属する機関の立場を反映したものではない。
Professor Yuri Bandazhevski (Belarus)
Professor Carmel Mothersill (Canada)
Dr Christos Matsoukas (Greece)
Professor Chris Busby (UK)
Professor Roza Goncharova (Belarus)
Professor Alexey Yablokov (Russian Federation)
Professor Mikhail Malko (Belarus)
Professor Shoji Sawada (Japan)
Professor Daniil Gluzman (Ukraine)
Professor Angelina Nyagu (Ukraine)
Professor Hagen Scherb (Germany)
Professor Alexey Nesterenko (Belarus)
Dr Sebastian Pflugbeil (Germany)
Professor Michel Fernex (France)
Dr Alfred Koerblein (Germany)
Professor Inge Schmitz Feuerhake (Germany)
Molyvos, Lesvos, Greece において
========
ECRR欧州放射線リスク委員会2010年勧告
放射線防護のための低線量における電離放射線被ばくの健康影響
規制当局者のための版
■勧告の概要
この報告書は本委員会によって2003年に公表されたモデルを最新のものにしている。それは、電離放射線被曝がヒトの健康に及ぼす効果に関して本委員会が見いだしているところについて概略を与え、さらに、これらのリスク評価についての新しいモデルを公表する。
それは政策決定者やこの分野に関心を持つ人々に向けたものであり、本委員会によって開発されたモデルやそれが依拠した根拠について簡潔な説明を与えることを目的としている。
このモデルの開発は、現在法的に制定されている放射線リスクの全ての基礎とされ、かつ支配している国際放射線防護委員会(ICRP)の現在のリスクモデルを分析することからはじまる。本委員会は、このICRPモデルについて、それを体内に取り入れた放射性同位元素による被曝に適用するについては、基本的に欠陥を持つものであると見なしているが、歴史的に存在している被曝データを処理するという実際的な理由のために、内部被曝に対して同位体と放射線毎に特別な荷重係数を定義することによって、そのICRPモデルにある誤差を修正することに合意した。
したがって、実効線量の計算は存続する。新しい体系において、ICRPやその他のリスク評価機関による致死ガンに対するリスク係数の全体は、大きな変更はされておらず、それらに基づく法律体系も変更しないままに使える。本委員会のモデルを使って変更されるのは被ばく線量の計算である。
1. 欧州放射線リスク委員会は、ICRPのリスクモデルを批判するために設立されたが、それは1998 年2月に開催された欧州議会内のSTOAワーク
ショップと明確に同一のものである;その後、それは低レベル放射線の健康影響に関して別の見方を探すべきだとの認識で一致した。本委員会は、欧州内の科学者とリスク評価専門家によって構成されているが、その他の国々の科学者や専門家からの事実の提供やアドバイスも受けている。
2. 人類の活動に関わる放射線源に起因して、体内に取り込まれた放射性同位元素によって被曝した集団において、特にガンや白血病といった、疾病のリスクが増加しているという疫学的証拠と、ICRPのリスクモデルとの間には不一致が存在していることをまず確認するところから本書は始まる。
本委員会は、そのようなリスクに適用されたICRPのリスクモデルの科学的な考え方にある基礎に取り組み、ICRPのモデルは、受け入れられる科学的道筋を通じて生まれたものではないと結論する。
とりわけ、ICRPは急性の外部放射線被曝の結果を、複数の点線源からの慢性的な内部被曝に適用し、これを支持するためには、もっぱら放射線作用の物理的モデルに頼ってきている。
しかしながら、これらは結局において平均化してしまうモデルであり、細胞レベルで生じる蓋然的な被曝には適用できない。
ある細胞は放射線にヒットされるかされないかである;最小の衝撃は一回のヒットであり、衝撃は、時間軸に沿って広がっているこの最小のヒットの回数が増えることによって増加する。
したがって本委員会は、体内の線源からの放射線リスクを評価するに際しては、内部被曝の疫学的証拠を、機械的理論に基づくモデルよりも優先させなくてはならないと結論した。
3. 本委員会は、ICRPモデルにある暗黙の原則の倫理的な基礎、したがってそれらの法的な基礎を検討する。本委員会は、ICRPの正当化は、時代遅れの哲学的推論、とりわけ功利主義的な平均的費用-便益計算に基づいていると結論する。
功利主義は、行為の倫理的な正当化のための根拠としては、それが公平な社会と不公平な社会あるいは条件とを区別する能力を欠いており、すでに長い間退けられている。功利主義は、例えば、計算されるのは全体の便益だけで個々人の便益ではないという理由から、奴隷社会を正当化するためにも使われ得る。
本委員会は、ロールズの正義論、あるいは国連の人権宣言にもとづく考え方等の人権に基づく哲学を、行為の結果として公衆の構成員の回避可能な放射線被曝の問題に適用するべきであると提案する。
本委員会は、同意のない放射能放出は、それがもたらす最も低い線量であっても、たとえ小さくても有限の致死的な危害の確率を持つので、倫理的に正当化できないと結論する。
そのような被曝が許容される事態においては、本委員会は、住民全体に及ぶ危害の総和を評価するために、関係する全ての行為と時間において「集団線量」の計算が採用されるべきであると強調する。
4. 本委員会は、「住民の放射線被曝線量」を正確に決定することは不可能であると考えている。それは放射線の種類、細胞、そして個々人にわたる平均化の問題や、それぞれの被曝は、細胞あるいは分子のレベルにおけるその効果の観点から記述されるべきであるという問題があるからである。
しかし、実際上これは不可能なので、本委員会はICRPのリスクモデルを、その実効線量の計算に2つの新しい荷重係数を取り入れることでその適用範囲を拡大したモデルを開発した。それらは生物学的及び生物物理学的な荷重係数であり、それらは体内の複数の点線源に起因する細胞レベルでの電離密度、すなわち時間と空間における区別の問題を記述する。
実際のところ、それらはICRPが使っている、異なった線質の放射線(例えば、アルファ線、ベータ線及びガンマ線)がもたらす異なった電離密度を調節するために採用されている放射線荷重係数の拡張である。
5. 本委員会は、放射線被曝源を概観し、自然放射線への被曝との比較によって、新しいタイプの被曝の効果を評価する試みに注意を払うことを勧告する。
この新しいタイプの被曝の中には、ストロンチウムSr-90 やプルトニウムPu-239 といった人工同位体による内部被曝だけではなく、ミ
クロンメートルの範囲の大きさに集まった、完全に人工的な同位体(例えば、プルトニウム)や天然同位体の形態からは変更され(例えば、劣化ウラン)の同位体の集合体(ホット・パーティクル)による被曝も含まれる。
そのような比較は、現在のところICRPの概念である「吸収線量」に基づいてなされるが、それは細胞レベルでの危害の結果を正確には評価しない。
外部被曝と内部被曝との比較もまた、細胞レベルでは定量的にきわめて異なることがあるので、リスクを過小に評価してしまうという結果をもたらすだろう。
6. 本委員会は、生物学や遺伝学、またガンの研究における最近の発見は、ICRPの細胞内
DNAの標的モデルが、リスク分析のよい基礎ではありえないことを示しており、放射線作用についてのそのような物理的モデルを、被曝した人々についての疫学研究よりも優先して取り扱うことはできないと主張する。
最近の研究結果は、細胞に与えられる放射線のヒットから臨床的な発病へとつながるメカニズムについては、ほとんどまったく未解明のままであることを示している。
本委員会は、被曝に関する疫学的研究の基礎を概観し、被曝に続く損害についての多くの明瞭な証拠の数々が、不適切な放射線作用の物理的モデルに基づいているICRPによっては、考慮の外に置かれてきていることを指摘する。
本委員会は、そのような研究を放射線リスクを評価するための基礎として復活させる。
したがって、セラフィールドの小児白血病の発生群に見られる、ICRPモデルによる予測値と観察結果との間の300倍ものひらきは、そのような被曝がもたらす小児白血病のリスクの評価となって表現される。
したがって、その係数は、本委員会によって、特殊なタイプの内部被曝による損害を計算するにあたっては、シーベルト単位で子供の「実効線量」を計算するのに使用する荷重係数に取り入れて評価することを通じて組み込まれることになる。
7. 本委員会は、細胞レベルでの放射線作用のモデルについて調査し、ICRPの「線形閾値無し」モデルは、外部照射に対する中程度に高い線量領域のあるエンド・ポイントについてを除いては、被曝線量の増加に対する生体の応答を表現しないと結論する。
ヒロシマ原爆被爆者の寿命調査研究からの外挿には、同様な被曝、すなわち急性の高線量被曝についてのリスクのみが反映される。
低線量被曝に関して本委員会は、これまでに発表された研究を概観し、放射線線量に対する健康影響は、低い線量ではそれに比例して大きくなるが、これらの被曝の多くが、誘発される細胞修復や(細胞分裂時の)感受性の高い細胞相が存在するために、2相的な線量応答になる可能性があると結論する。
そのような線量応答関係は、疫学データの評価を混乱させる可能性がある。
本委員会は、疫学研究の結果においては、直線関係が失われていることをもって因果関係を否定する議論は進めるべきではないことを指摘する。
8. 損害の機構についての考察を重ね、本委員会は、ICRPの放射線リスクモデルとその平均化の手法は、空間的にも時間的にも非均一性がもたらす効果を排除してしまうと結論する。
すなわちICRPのモデルは、体内のホット・パーティクルによる組織局所への高線量の被曝と、細胞分裂の誘発と中断(2次的事象)をもたらす連続的な細胞への照射とを無視し、これら全ての高いリスクの状態を大きな組織の質量全体にわたって単純に平均してしまうのである。
このような理由から、本委員会は、ICRPがリスク計算の基礎として使用している未修正の「吸収線量」には欠陥があり、それを、特殊な被曝の生物学的かつ生物物理学的な様相に基づいて荷重を強調する、修正「吸収線量」に置き換えるべきであると結論する。
以上に加えて、本委員会は、ある元素からの、特に炭素C-14やトリチウムTの、壊変がもたらすリスクに注意を払い、そのような被曝を適切に荷重した。
荷重はまたDNAに対して特に生化学的な親和性を有する元素、ストロンチウムSr やバリウムBa、そして、オージェ電子放出体である
放射能についても加えた。
9. 本委員会は、同様の被曝はそのような被曝のリスクを決定するとの基礎に立って、放射線被曝を疾病に結びつける証拠を調査した。
したがって、本委員会は被曝と疾病との関連についての全ての報告、すなわち、原子爆弾の研究から核実験降下物による被曝、核施設の風下住民、原子力労働者、再処理工場、自然バックグラウンド放射能、そして原子力事故について検討した。
本委員会は、低線量での内部被曝による損害を紛れもなく示している2つの被曝研究にとりわけ注目した。チェルノブイリ後の小児白血病と、チェルノブイリ後のミニサテライトDNA突然変異についてである。これらのいずれも、ICRPのリスク評価モデルが100倍から1000倍の規模で誤っていることを示している。
本委員会は、内部被曝や外部被曝によるリスクを示す事実からなる証拠を、健康への影響が予測されるあらゆるタイプの被曝に適用できる、新しいモデルでの被曝換算で荷重する根拠としている。ICRPとは違い、本委員会は、死を招くガンによる子どもの死亡率、特殊ではなく通常の健康被害に至るまで分析を行った。
10. 本委員会は、現在のガンに関する疫学調査は、1959年から1963年にかけて世界中で行われた大気圏内核実験による被曝と、核燃料サイクル施設の稼働がもたらした、さらに大量の放射能放出が、ガンや他の健康被害の明確な増加という結果を与えているとの結論に達した。
11. 本委員会ECRRの新モデルと、ICRPのモデル双方を用いて、1945年以降の原子力事業
が引き起こした全ての死者を計算した。
国連が発表した1989年までの人口に対する被曝線量を元にICRPモデルで計算すると、原子力のためにガンで死亡した人間は117万6300人となる。
一方、本委員会のモデルで計算すると、6160万の人々がガンで死亡しており、また子ども160万人、胎児190万人が死亡していると予測される。
さらに、本委員会のモデルでは、世界的に大気圏内で核実験が行われその降下物で被曝した人々が罹患した全ての疾病を全て併せると10%が健康状態を失っていると予測されるのである。
12. 本委員会は、天然のバックグランドとして存在する電磁波型の放射線とそれの光電子への変換を通じて、身体内に取り込まれた高い原子番号を持つ元素による増強された放射線損害を実証する新しい研究に言及する。
本委員会はこの効果がウラン元素への被ばくによる健康影響の主要な原因であると確認し、そのような被ばくに対する荷重係数を作り出した。
本委員会はウランの降下物に被ばくした公衆へのウラン兵器の効果を考察し、ウランの被ばく後に観察されている特異な健康影響はそのような過程によって説明されると主張する。
13. 本委員会はその2003年モデルの公表からそのモデルによる予測を支持する疫学的研究があったことを指摘する、すなわちオキアノフによるベラルーシにおけるチェルノブイリ原発事故の効果であり(Okeanov 2004)、トンデルらによって報告されたス
ウェーデンにおけるチェルノブイリ原発事故の影響である(Tondel
et al 2004)。
14. 本委員会は以下を勧告する。公衆の構成員の被曝限度を0.1
mSv 以下に引き下げること。
原子力産業の労働者の被曝限度を2mSvに引き下げること。これは原子力発電所や再処理工場の運転の規模を著しく縮小させるものであるが、現在では、あらゆる評価において人類の健康が蝕まれていることが判明しており、原子力エネルギーは犠牲が大きすぎるエネルギー生産の手段であるという本委員会の見解を反映したものである。
全ての人間の権利が考慮されるような新しい取り組みが正当であると認められねばならない。放射線被曝線量は、最も優れた利用可能な技術を用いて合理的に達成できるレベルに低く保たれなければならない。
最後に、放射能放出が与える環境への影響は、全ての生命システムへの直接・間接的影響も含め、全ての環境との関連性を考慮にいれて評価されるべきである。
付録A(省略)
(以上転載終了)
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パレスチナ連帯・札幌 代表 松元保昭
E-Mail : y_matsu29@ybb.ne.jp
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●衆議院厚生労働委員会 「放射線の健康への影響について」
児玉龍彦教授発言 7月27日
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●同、守田さんによる文字起こし版
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/8f7f0d5f9d925ebfe7c57aa544efd862
しかしきのうは児玉氏に加え、今中哲二氏. 沢田昭二氏.も参考人として発言していますが、放医研の明石真言氏、学術会議副会長の唐木英明氏、放影研理事長を歴任した長瀧重信氏という「御用学者」も登場しています。
とくに長瀧重信氏の発言は、放射線の「科学的知見」の代表であるかのごとき自己紹介から、「100ミリシーベルト以下の疫学的証明は科学的に証明されてなされていない」、「チェルノブイリにおいても証拠は認められなかった、影響は出なかった」と、ICRP基準が間違いないものであるとの主張を繰り返していました。
とくに、ICRPの理念は「経済的社会的に合理的に達成できる範囲で」放射線から防護しなければならないと言っているのであって「けっして基準値を守れと言っているのではない」、とまで付け加えています。
私(松元)は、聴いている国会議員の8割は原発推進か容認の人たちだと考えます。政治家、官僚、メディア、地方議員、そして学者の8割は推進・容認派だと思っています。8割という数字に根拠はありませんが、原発輸出だ、国益だ、国策だ(7/28サンケイ主張)というと簡単に経済的利得になびいてしまう国民の多くも依然原発を容認したい人々ではないかと悲観しています。半世紀のあいだ、そのように飼い馴らされてきた「国民」が支えてきたからこそ今日在るのだと思っています。
それは単なる感想だけではなく、事故直後から今日まで続いている情報隠蔽と数々の不作為を許してきた事実をみれば明らかです。日本はいまなお「制度として」原発を推進し容認する政治、経済、社会のあり方は何ら変更されていませんし、むしろ放射能防護体制はみるみる悪化しているのが現実です。その上で、子どもたちの被曝問題をはじめ平然とした棄民政策が着々と進められています。
既得権益に汲々としている国会議員はじめ「制度をつくり」なしている人々は、容易に既存のICRP基準に胸をなでおろすでしょう。長瀧氏が示唆しているように、「経済的社会的に合理的に達成できる範囲で」国民を守ると言明して、火急の真の被曝救済から逃れ続けるでしょう。
幸いこのICRPを根底から批判するECRR(欧州放射線リスク委員会)に唯一日本人として名を連ねている沢田昭二氏は、きのう国会議員に対してECRRの勧告要綱とその根拠となった「レスボス宣言」を提示してきました。私たちもまた、ICRPを乗り越えることが必要です。
すでにウェブ上で公表されている以下の欧州放射線リスク委員会2010年勧告から「レスボス宣言」とその土台の上でつくられた規制当局者のための「勧告の概要」を転載させていただきます。(既知の方には重複を失礼いたします。)
●「欧州放射線リスク委員会2010年勧告、低線量電離放射線被曝の健康影響、規制当局者のために」編集:クリス・バスビー、アレクセイ・ヤーブロコフ他。翻訳:ECRR2010翻訳委員会。発行:美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会。(全訳)
http://www.jca.apc.org/mihama/ecrr/ecrr2010_dl.htm
====以下転載(読みやすいように改行を施しています)====
■レスボス宣言(The Lesvos Declaration)
2009年5月6日
ECRR - CERI
欧州放射線リスク委員会
European Committee on Radiation Risk
Comite Europeenne sur le Risque de l'Irradiation
A. 国際放射線防護委員会(ICRP)は、電離放射線被ばくに対してひとつのリスク係数を公表しているところであり、
B. そのICRP放射線リスク係数は世界各国において、連邦政府当局や州政府当局によって放射線防護法を制定するために使用されており、労働者や一般の公衆を放射性廃棄物や核兵器、汚染した土地や物質の管理、天然起源のあるいは人為的に増強された放射性物質(NORMとTENORM)、原子力発電所と核燃料サイクルにおける全ての段階、賠償や回復計画等々から受ける被ばくの基準を設定するために使用されているところであり、
C. チェルノブイリ原発事故は核分裂生成物への被ばくがもたらし深刻な健康障害の発症率を見いだす最も重要で欠くことのできない機会を与えており、とりわけ胎児や小さな子供たちの放射線被ばくにそれを適用するには、現行のICRPリスクモデルには不備のあることが実証されているところであり、
D. 満場一致の考えとして、ICRPリスクモデルは、原子力事故後の放射線被ばく、すなわち、内部被ばくをもたらす取り込まれた放射性物質に対する適用に有効性がなく、
E. ICRPリスクモデルは、DNAの構造が発見される以前に、また、ある種の放射性核種がDNAに対する化学的親和性を有していることが発見される以前につくられたので、ICRPによって用いられている吸収線量なる概念はこのような放射性核種への被ばくに対してはそれを説明することが不可能なところであり、
F. ICRPは、ゲノム不安定性やバイスタンダー効果のような新しく発見された非標的効果、あるいは、放射線リスクの理解に関する2次的効果、特に、結果として生じる疾患の広がりを考慮に入れていないところであり、
G. 放射線被ばくによるガン以外の影響は、死因が交絡しているために、結果として生じるガンのレベルを正確に決定する可能性があるにもかかわらず、
H. ICRPはその報告書の位置づけは純粋な助言であると考えているところであり、
I. 人類と生物圏を防衛するために、放射能を内包する現在の状況を適切に規制するための即刻の、緊急の、継続的な要求が存在するところであるがために、
以下に署名した我々は、我々の個々人の能力において活動し、
1. ICRPのリスク係数は時代遅れであり、そのような係数の使用は放射線リスクの著しい過小評価を招くと主張する。
2. あるタイプの被ばくに関係する研究を行う際に、その放射線の健康影響を予測するのにICRPモデルを採用すると最低でも10倍の間違いが導かれるので、その間違いは更に大きいと主張する。
3. 特に心血管や免疫、中枢神経、生殖系といった、放射線被ばくによるガン以外の疾患の
発生率は有意に増加しているが未だ定量化されていないと主張する。
4. 放射線被ばくを引き起こしている全ての責任者とともに、責任ある政府当局が、放射線防護の基準を定めリスクを管理するに際して現在のICRPモデルにこれ以上頼らないことを求める。
5. 責任ある政府当局と放射線被ばくを引き起こした責任者の全てに対して、一般論として予防原則に則ったアプローチを採用し、そして役に立つ予防原則を適切に守ったリスクモデルがない場合には、遅れ過ぎないように、これは現在の観察結果を反映させたより正確なリスクを与える、暫定的なECRR2003モデルを採用するように求める。
6. 身体内に取り入れられた放射性核種の健康影響についての研究の即刻の開始を要求する。特に、日本の原爆被ばく生存者やチェルノブイリやその他の被害を受けている地域を含む、数多くの歴史的な被ばくした集団に対する疫学研究を再訪問することを要求する。被ばくした公衆における体内に取り込まれた放射性物質の独立したモニタリングの実施を要求する。
7. 被ばくした放射線のレベルを知るということ、またその被ばくがもたらす潜在的重要性についても正確に知らされるということは、個々の人々の人権であると考える。
8. 医学診断及びその他の一般的応用における放射線利用の拡大を懸念する。
9. 患者に放射線被ばく与えない医療技術研究に十分な公的資金を投入するよう主張する。
ここに表明した声明は下記署名者の意見を反映したものであり、所属する機関の立場を反映したものではない。
Professor Yuri Bandazhevski (Belarus)
Professor Carmel Mothersill (Canada)
Dr Christos Matsoukas (Greece)
Professor Chris Busby (UK)
Professor Roza Goncharova (Belarus)
Professor Alexey Yablokov (Russian Federation)
Professor Mikhail Malko (Belarus)
Professor Shoji Sawada (Japan)
Professor Daniil Gluzman (Ukraine)
Professor Angelina Nyagu (Ukraine)
Professor Hagen Scherb (Germany)
Professor Alexey Nesterenko (Belarus)
Dr Sebastian Pflugbeil (Germany)
Professor Michel Fernex (France)
Dr Alfred Koerblein (Germany)
Professor Inge Schmitz Feuerhake (Germany)
Molyvos, Lesvos, Greece において
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ECRR欧州放射線リスク委員会2010年勧告
放射線防護のための低線量における電離放射線被ばくの健康影響
規制当局者のための版
■勧告の概要
この報告書は本委員会によって2003年に公表されたモデルを最新のものにしている。それは、電離放射線被曝がヒトの健康に及ぼす効果に関して本委員会が見いだしているところについて概略を与え、さらに、これらのリスク評価についての新しいモデルを公表する。
それは政策決定者やこの分野に関心を持つ人々に向けたものであり、本委員会によって開発されたモデルやそれが依拠した根拠について簡潔な説明を与えることを目的としている。
このモデルの開発は、現在法的に制定されている放射線リスクの全ての基礎とされ、かつ支配している国際放射線防護委員会(ICRP)の現在のリスクモデルを分析することからはじまる。本委員会は、このICRPモデルについて、それを体内に取り入れた放射性同位元素による被曝に適用するについては、基本的に欠陥を持つものであると見なしているが、歴史的に存在している被曝データを処理するという実際的な理由のために、内部被曝に対して同位体と放射線毎に特別な荷重係数を定義することによって、そのICRPモデルにある誤差を修正することに合意した。
したがって、実効線量の計算は存続する。新しい体系において、ICRPやその他のリスク評価機関による致死ガンに対するリスク係数の全体は、大きな変更はされておらず、それらに基づく法律体系も変更しないままに使える。本委員会のモデルを使って変更されるのは被ばく線量の計算である。
1. 欧州放射線リスク委員会は、ICRPのリスクモデルを批判するために設立されたが、それは1998 年2月に開催された欧州議会内のSTOAワーク
ショップと明確に同一のものである;その後、それは低レベル放射線の健康影響に関して別の見方を探すべきだとの認識で一致した。本委員会は、欧州内の科学者とリスク評価専門家によって構成されているが、その他の国々の科学者や専門家からの事実の提供やアドバイスも受けている。
2. 人類の活動に関わる放射線源に起因して、体内に取り込まれた放射性同位元素によって被曝した集団において、特にガンや白血病といった、疾病のリスクが増加しているという疫学的証拠と、ICRPのリスクモデルとの間には不一致が存在していることをまず確認するところから本書は始まる。
本委員会は、そのようなリスクに適用されたICRPのリスクモデルの科学的な考え方にある基礎に取り組み、ICRPのモデルは、受け入れられる科学的道筋を通じて生まれたものではないと結論する。
とりわけ、ICRPは急性の外部放射線被曝の結果を、複数の点線源からの慢性的な内部被曝に適用し、これを支持するためには、もっぱら放射線作用の物理的モデルに頼ってきている。
しかしながら、これらは結局において平均化してしまうモデルであり、細胞レベルで生じる蓋然的な被曝には適用できない。
ある細胞は放射線にヒットされるかされないかである;最小の衝撃は一回のヒットであり、衝撃は、時間軸に沿って広がっているこの最小のヒットの回数が増えることによって増加する。
したがって本委員会は、体内の線源からの放射線リスクを評価するに際しては、内部被曝の疫学的証拠を、機械的理論に基づくモデルよりも優先させなくてはならないと結論した。
3. 本委員会は、ICRPモデルにある暗黙の原則の倫理的な基礎、したがってそれらの法的な基礎を検討する。本委員会は、ICRPの正当化は、時代遅れの哲学的推論、とりわけ功利主義的な平均的費用-便益計算に基づいていると結論する。
功利主義は、行為の倫理的な正当化のための根拠としては、それが公平な社会と不公平な社会あるいは条件とを区別する能力を欠いており、すでに長い間退けられている。功利主義は、例えば、計算されるのは全体の便益だけで個々人の便益ではないという理由から、奴隷社会を正当化するためにも使われ得る。
本委員会は、ロールズの正義論、あるいは国連の人権宣言にもとづく考え方等の人権に基づく哲学を、行為の結果として公衆の構成員の回避可能な放射線被曝の問題に適用するべきであると提案する。
本委員会は、同意のない放射能放出は、それがもたらす最も低い線量であっても、たとえ小さくても有限の致死的な危害の確率を持つので、倫理的に正当化できないと結論する。
そのような被曝が許容される事態においては、本委員会は、住民全体に及ぶ危害の総和を評価するために、関係する全ての行為と時間において「集団線量」の計算が採用されるべきであると強調する。
4. 本委員会は、「住民の放射線被曝線量」を正確に決定することは不可能であると考えている。それは放射線の種類、細胞、そして個々人にわたる平均化の問題や、それぞれの被曝は、細胞あるいは分子のレベルにおけるその効果の観点から記述されるべきであるという問題があるからである。
しかし、実際上これは不可能なので、本委員会はICRPのリスクモデルを、その実効線量の計算に2つの新しい荷重係数を取り入れることでその適用範囲を拡大したモデルを開発した。それらは生物学的及び生物物理学的な荷重係数であり、それらは体内の複数の点線源に起因する細胞レベルでの電離密度、すなわち時間と空間における区別の問題を記述する。
実際のところ、それらはICRPが使っている、異なった線質の放射線(例えば、アルファ線、ベータ線及びガンマ線)がもたらす異なった電離密度を調節するために採用されている放射線荷重係数の拡張である。
5. 本委員会は、放射線被曝源を概観し、自然放射線への被曝との比較によって、新しいタイプの被曝の効果を評価する試みに注意を払うことを勧告する。
この新しいタイプの被曝の中には、ストロンチウムSr-90 やプルトニウムPu-239 といった人工同位体による内部被曝だけではなく、ミ
クロンメートルの範囲の大きさに集まった、完全に人工的な同位体(例えば、プルトニウム)や天然同位体の形態からは変更され(例えば、劣化ウラン)の同位体の集合体(ホット・パーティクル)による被曝も含まれる。
そのような比較は、現在のところICRPの概念である「吸収線量」に基づいてなされるが、それは細胞レベルでの危害の結果を正確には評価しない。
外部被曝と内部被曝との比較もまた、細胞レベルでは定量的にきわめて異なることがあるので、リスクを過小に評価してしまうという結果をもたらすだろう。
6. 本委員会は、生物学や遺伝学、またガンの研究における最近の発見は、ICRPの細胞内
DNAの標的モデルが、リスク分析のよい基礎ではありえないことを示しており、放射線作用についてのそのような物理的モデルを、被曝した人々についての疫学研究よりも優先して取り扱うことはできないと主張する。
最近の研究結果は、細胞に与えられる放射線のヒットから臨床的な発病へとつながるメカニズムについては、ほとんどまったく未解明のままであることを示している。
本委員会は、被曝に関する疫学的研究の基礎を概観し、被曝に続く損害についての多くの明瞭な証拠の数々が、不適切な放射線作用の物理的モデルに基づいているICRPによっては、考慮の外に置かれてきていることを指摘する。
本委員会は、そのような研究を放射線リスクを評価するための基礎として復活させる。
したがって、セラフィールドの小児白血病の発生群に見られる、ICRPモデルによる予測値と観察結果との間の300倍ものひらきは、そのような被曝がもたらす小児白血病のリスクの評価となって表現される。
したがって、その係数は、本委員会によって、特殊なタイプの内部被曝による損害を計算するにあたっては、シーベルト単位で子供の「実効線量」を計算するのに使用する荷重係数に取り入れて評価することを通じて組み込まれることになる。
7. 本委員会は、細胞レベルでの放射線作用のモデルについて調査し、ICRPの「線形閾値無し」モデルは、外部照射に対する中程度に高い線量領域のあるエンド・ポイントについてを除いては、被曝線量の増加に対する生体の応答を表現しないと結論する。
ヒロシマ原爆被爆者の寿命調査研究からの外挿には、同様な被曝、すなわち急性の高線量被曝についてのリスクのみが反映される。
低線量被曝に関して本委員会は、これまでに発表された研究を概観し、放射線線量に対する健康影響は、低い線量ではそれに比例して大きくなるが、これらの被曝の多くが、誘発される細胞修復や(細胞分裂時の)感受性の高い細胞相が存在するために、2相的な線量応答になる可能性があると結論する。
そのような線量応答関係は、疫学データの評価を混乱させる可能性がある。
本委員会は、疫学研究の結果においては、直線関係が失われていることをもって因果関係を否定する議論は進めるべきではないことを指摘する。
8. 損害の機構についての考察を重ね、本委員会は、ICRPの放射線リスクモデルとその平均化の手法は、空間的にも時間的にも非均一性がもたらす効果を排除してしまうと結論する。
すなわちICRPのモデルは、体内のホット・パーティクルによる組織局所への高線量の被曝と、細胞分裂の誘発と中断(2次的事象)をもたらす連続的な細胞への照射とを無視し、これら全ての高いリスクの状態を大きな組織の質量全体にわたって単純に平均してしまうのである。
このような理由から、本委員会は、ICRPがリスク計算の基礎として使用している未修正の「吸収線量」には欠陥があり、それを、特殊な被曝の生物学的かつ生物物理学的な様相に基づいて荷重を強調する、修正「吸収線量」に置き換えるべきであると結論する。
以上に加えて、本委員会は、ある元素からの、特に炭素C-14やトリチウムTの、壊変がもたらすリスクに注意を払い、そのような被曝を適切に荷重した。
荷重はまたDNAに対して特に生化学的な親和性を有する元素、ストロンチウムSr やバリウムBa、そして、オージェ電子放出体である
放射能についても加えた。
9. 本委員会は、同様の被曝はそのような被曝のリスクを決定するとの基礎に立って、放射線被曝を疾病に結びつける証拠を調査した。
したがって、本委員会は被曝と疾病との関連についての全ての報告、すなわち、原子爆弾の研究から核実験降下物による被曝、核施設の風下住民、原子力労働者、再処理工場、自然バックグラウンド放射能、そして原子力事故について検討した。
本委員会は、低線量での内部被曝による損害を紛れもなく示している2つの被曝研究にとりわけ注目した。チェルノブイリ後の小児白血病と、チェルノブイリ後のミニサテライトDNA突然変異についてである。これらのいずれも、ICRPのリスク評価モデルが100倍から1000倍の規模で誤っていることを示している。
本委員会は、内部被曝や外部被曝によるリスクを示す事実からなる証拠を、健康への影響が予測されるあらゆるタイプの被曝に適用できる、新しいモデルでの被曝換算で荷重する根拠としている。ICRPとは違い、本委員会は、死を招くガンによる子どもの死亡率、特殊ではなく通常の健康被害に至るまで分析を行った。
10. 本委員会は、現在のガンに関する疫学調査は、1959年から1963年にかけて世界中で行われた大気圏内核実験による被曝と、核燃料サイクル施設の稼働がもたらした、さらに大量の放射能放出が、ガンや他の健康被害の明確な増加という結果を与えているとの結論に達した。
11. 本委員会ECRRの新モデルと、ICRPのモデル双方を用いて、1945年以降の原子力事業
が引き起こした全ての死者を計算した。
国連が発表した1989年までの人口に対する被曝線量を元にICRPモデルで計算すると、原子力のためにガンで死亡した人間は117万6300人となる。
一方、本委員会のモデルで計算すると、6160万の人々がガンで死亡しており、また子ども160万人、胎児190万人が死亡していると予測される。
さらに、本委員会のモデルでは、世界的に大気圏内で核実験が行われその降下物で被曝した人々が罹患した全ての疾病を全て併せると10%が健康状態を失っていると予測されるのである。
12. 本委員会は、天然のバックグランドとして存在する電磁波型の放射線とそれの光電子への変換を通じて、身体内に取り込まれた高い原子番号を持つ元素による増強された放射線損害を実証する新しい研究に言及する。
本委員会はこの効果がウラン元素への被ばくによる健康影響の主要な原因であると確認し、そのような被ばくに対する荷重係数を作り出した。
本委員会はウランの降下物に被ばくした公衆へのウラン兵器の効果を考察し、ウランの被ばく後に観察されている特異な健康影響はそのような過程によって説明されると主張する。
13. 本委員会はその2003年モデルの公表からそのモデルによる予測を支持する疫学的研究があったことを指摘する、すなわちオキアノフによるベラルーシにおけるチェルノブイリ原発事故の効果であり(Okeanov 2004)、トンデルらによって報告されたス
ウェーデンにおけるチェルノブイリ原発事故の影響である(Tondel
et al 2004)。
14. 本委員会は以下を勧告する。公衆の構成員の被曝限度を0.1
mSv 以下に引き下げること。
原子力産業の労働者の被曝限度を2mSvに引き下げること。これは原子力発電所や再処理工場の運転の規模を著しく縮小させるものであるが、現在では、あらゆる評価において人類の健康が蝕まれていることが判明しており、原子力エネルギーは犠牲が大きすぎるエネルギー生産の手段であるという本委員会の見解を反映したものである。
全ての人間の権利が考慮されるような新しい取り組みが正当であると認められねばならない。放射線被曝線量は、最も優れた利用可能な技術を用いて合理的に達成できるレベルに低く保たれなければならない。
最後に、放射能放出が与える環境への影響は、全ての生命システムへの直接・間接的影響も含め、全ての環境との関連性を考慮にいれて評価されるべきである。
付録A(省略)
(以上転載終了)
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パレスチナ連帯・札幌 代表 松元保昭
E-Mail : y_matsu29@ybb.ne.jp
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