学ぶ喜びを生きる力に☆奥田塾

三重県桑名市にある小さな英語塾・奥田塾のブログです。テーマは、学ぶ!楽しむ!分かち合う!

無事を祈る (1)

2015年04月28日 | 中国・中国語・台湾
お昼過ぎのJR名古屋駅。
僕は、東海道線上りホームにつながる階段を上っていた。
隣には、一人の中国人女性。おそらく20代だろう。
黒縁メガネに、無造作に束ねた髪。
上下紺色のトレーニングウェア姿で、手にはスマホ、それほど大きくないデイパックを背負っている。

人が行き交う通路の真ん中で、スマホの画面と頭上の案内表示板を交互に見ながら、困っている様子だった彼女に声をかけてみた。
「トヨハシ」
どうやら豊橋行きの電車に乗りたいようだ。
何か少し焦っているようにも見える。
電車の出発時刻が迫っているのだろうか。
とにかく目的のホームまで彼女を連れていくことにした。

階段を上りながら日本語で少し話しかけてみたが、うまく伝わらなかった。
下手な中国語で、「ニー・シー・チョングオレン・マ?」(あなたは中国人ですか)と尋ねるのがやっとだった。
どこまで行くのか尋ねようとしても、「どこ」という単語がわからない。
「ニー、チィュー、トヨハシ? オカザキ?」(あなた、行く、豊橋? 岡崎?)

「イケブクロ」
彼女はそう答えながら、スマホの画面を見せてくれた。
「えっ、池袋? 東京の池袋?」
表示されているのは乗換案内のアプリだ。
赤い線がいくつかの駅名をつなぎ、確かに最後は「池袋」になっている。
到着時刻は20時○○分。
間違いなく彼女は、列車を乗り継いで東京の池袋まで行くつもりなのだ。

「東京に行くなら普通は新幹線に乗るよ。乗り換えもあるし、時間もすごくかかるけど、ホントに電車で行くの? 大丈夫?」
彼女は何も答えず、表情を変えることもなかった。

すぐに豊橋行きの快速列車がホームに入ってきた。
心の中で、「気をつけて行くんだよ」と道中の無事を祈りながら、彼女を見送る。
何か強い決意が秘められているような後ろ姿だ。
しかし同時にその中に、今にも消えてしまいそうな儚さが揺れているのが見えた。
僕はもう一度、彼女の無事を強く祈った。

(「無事を祈る(2)」に続く)
コメント
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