窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

日本酒を学び、日本酒から学ぶー第93回YMS

2018年03月15日 | YMS情報


  伝統とは何だろう。文化とは何だろう。我々が「これが文化だ」、「これが伝統だ」と信じているものの中には、まことしやかな通説・俗説があり、それを無批判に信じながら漠然と捉えているものが意外と多いのではないか?

  例年にも増して厳しかった冬もようやく終わりが見え、そうかと思うと早くも桜の開花の声が聞かれる季節となりました。そんな中、居酒屋花まるにて第93回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。YMSとしては毎年8月に行っているワインセミナーに加え、ちょうど1年前の焼酎セミナー(第81回YMS)以来となる、日本酒セミナー。講師ポッツ・ジャスティン様、「正解のない時代に、日本酒が教えてくれること」と題してお話いただきました。



  発酵からお酒へと関心が発展し、冬場は外房の木戸泉酒蔵にて蔵人も務めるジャスティンさん。日本酒を通じた様々な地域おこしやイタリアなど海外への日本酒紹介等、幅広く活躍しておられます。今回テイスティング(?)を行ったお酒は9種類。早速、ご紹介していきましょう(尚、味や香りについては僕個人の感想です)。



  最初は、奈良県・梅乃宿酒造の「月うさぎナチュラル」。まずはブラインドでテイスティングしました。青いボトルの首で何となく予想はしていたのですが、注ぐなりシュワシュワと発泡する白濁したお酒。甘い乳酸飲料そのものといった色と香りと味わい。日本酒なのにお米感やアルコールを感じません(度数6%)。日本酒離れに歯止めがかからない中、こうした甘口の発泡日本酒は最近のトレンドのようです。食前酒として良さそうですね。



  続いて、こちらも奈良・大倉本家の「金鼓濁酒生酒29BY」。その名の通り、濁り酒ですが、注ぐ口が詰まってしまうほどの大量のお米が注ぎ出る様は、お酒というよりお粥。飲むというよりは「食べる」といった方が良いかもしれません。というのも、もろみを濾さずそのまま瓶詰しているからなのだそうです。度数は12度とやや低め、甘酒のようですが意外とすっきりとした飲み口です。因みにBYとは日本酒が製造された年のことで、29BYとは平成29年という意味です。

  またこのお酒は水酛仕込みという、失われていた600年前の仕込み方法を復刻させた、いわば日本酒の原型のようなお酒です。水酛とは、生米と蒸米を水につけて乳酸菌を増殖させ、その水を仕込み水として利用した酒母の造り方を言うそうです。今回の参加者の中では、次の花巴と人気を二分したお酒でした。



  三番目は、奈良県・美吉野酒蔵の「花巴・水もと×水もと」。ただでさえ希少な水酛のお酒で、さらに水酛のお酒を仕込むという、こだわりの製法を見せています。酸味と甘みのほどよいバランス、フルーティ。かつての日本酒は今の日本酒よりも酸味が強かったようで、やはりこちらも古き日本酒の形と言えるかもしれません。この酸味が料理と合わせやすく、今回の中では梅水晶(サメの軟骨と梅肉を和えたもの)との相性が良かったです。



  四番目は、奈良県・増田酒蔵の「神韻・樫樽純米酒」。神韻、古の都、奈良らしい素敵な名前ですね。こちらも最近増えてきている、ワインのように樽熟成させた日本酒です。口に含むなり広がるカカオ、淡いバニラ香はフレンチオークの樽によるもの。アルコールと余韻の短いキレはシェリー酒のフィノを思わせます。



  ここからはジャスティンさんの携わっておられる、木戸泉酒蔵のお酒。個人的にはこのお酒が今回の中では一番好みでした。「純米生・AFS(アフス)」。飲むとその強い酸味、軽い渋みに驚かされます。まるで白ワインそのものを思わせる果実味(お米なのに)です。時間をおき空気を含ませると酸味が落ち着き、フルーティでエレガントな香りが浮かび上がってきます。

  しかも、近年の流行りでワイン風の日本酒を作ったのではなく、こちらでは60年も前から高温山廃酛という手法でこのようなお酒を造り続けているのだそうです。



  セミナーの最後を飾るのは、同じく木戸泉酒蔵の「秘蔵古酒10年」。新種が尊ばれる日本酒にあっての古酒ですが、過去の文献にはむしろ古酒を讃える記述が見られるそうです。同じ米から作られる紹興酒も甕熟成させるわけですから、確かに日本酒のバリエーションという点で古酒がもっとあってもよさそうな気がします。かすかな苦みと紹興酒のような古ぼけたニュアンスを感じます、好みは分かれるかも知れません。

  何故現在はフレッシュな日本酒ばかりが出回っているのか?それは日本酒が熟成に向かないからでも、和食という繊細な料理と合うように、料理を邪魔しない日本酒というものが生まれたのでもなく、単純に酒税の影響によるものだそうです。もちろん、新酒には新酒の良さがあるのであり、決っして良くないと言っているのではありません。

  しかし、今回のセミナーに登場した日本酒を一般に日本酒の好きな方にお勧めしたとしたらどうでしょう?邪道だと思われる方も少なからずいるのではないでしょうか?ところが、既に述べたようにこれらのお酒は邪道どころか、むしろ伝統的日本酒に近いものも多いのです。そもそもシェアが7%にも満たないお酒を文化と呼べるのかという議論はさておき、文化とは時代に適合し変化していくのが前提だとした場合、我々はその中の何を受け継いでいかなければならないと思っているのでしょうか?現在、一般に日本文化と考えられているもの、相撲にせよ柔道にせよ、その辺が意外と曖昧なのではないかと思いました。

  そのような中、日本酒を再び盛り上げようと努力されている方々が全国各地にいらっしゃること、精米歩合の競い合いだけではない奥深さと多様性が日本酒にはあること。その一端に触れることができたのは大いに勉強になりましたし、日本酒に対する見方が変わりました。伝統文化を受け継いでいくには、まずそれを知るということから始めなければならないのかもしれません。



  セミナーの後は、その新酒が三本。「木戸泉新酒しぼりたて無濾過原酒」。それぞれ原料のお米が違い、左から自然栽培五百万石、総の舞、自然栽培華吹雪となっています。

  最後に。今回のセミナーのために、居酒屋花まる様には会場のご提供と、日本酒と相性の良い献立をご提供いただき、大変お世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

  なお、献立は以下のフォトチャンネルにまとめました。

・サメ軟骨の梅肉和え
・ホタルイカの肝醤油干し
・お造り(真鰺・鯖・鱸・かんぱち)
・あさり酒蒸し
・揚げ出汁豆腐
・菜の花とホタルイカの天婦羅
・ブリカマと地鶏の網焼き



居酒屋花まる

神奈川県横浜市中区太田町2-32



過去のセミナーレポートはこちら

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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