窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

間は兵の要にして、三軍の恃みて動く所なり-第150回YMS

2023年05月14日 | YMS情報


 5月10日、YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)は、節目となる第150回を迎えました。2010年10月13日の第1回よりこれまでご参加いただいた、のべ2,688名の皆様に心より感謝申し上げます。



 その記念すべき回の講師は、警視庁OBでセキュリティ・コンサルタントの松丸俊彦様。テーマはずばり、「産業スパイと戦う」。メディアにも多数ご出演の松丸様ですが、ちょうど5月8日に起きた「銀座時計店強盗事件」の記事が掲載されましたので、ぜひリンクよりご覧ください。

 松丸様は警視庁時代、防諜対策や大使館のセキュリティアドバイザーなどを担当。現在は主にセキュリティ・コンサルタントとしてご活躍されていますが、2022年に「経済安全保障推進室」が内閣府に設置されて以降、産業スパイの手口を世に広めることで対策に役立てようという動きが見られるそうです。

 さて、現代ビジネスに限らず、政治、軍事、人間の諸活動のあらゆる面において情報およびそれを収集する諜報活動は最も重要なものとされてきました。例えば最も有名な兵法書『孫子』では、「(諜報活動は)戦争において最も重要なものであり、全軍はその情報を頼りに動くのである(「用間篇」)」と述べています。その『孫子』によれば、諜報活動、つまりスパイには次の5種類があります。

1.郷間…敵国内の住民を間者として利用する。
2.内間…敵中枢にいる役人を間者として利用する。
3.反間…敵の間者をこちらの間者として逆用する。
4.死間…偽ってこちらの間者を敵に加担したとみせかけて虚報を伝える。
5.生間…敵国で情報収集し、そのままこちらに持ち帰ってくる間者。

 また、上の5つのスパイ活動に対応して、唐代の名将李靖と名君太宗(李世民)との問答形式で書かれた兵法書『李衛公問対』では、誰をターゲットとして狙うかについて、次の7種類を挙げています。

1.間君…君主を狙う
2.間親…君主の一族を狙う
3.間能…組織内の有能な人物を狙う
4.間助…仲間を狙う
5.間隣…同盟者を狙う
6.間左右…側近を狙う
7.間縦横…弁舌の巧みな者を狙う

 松丸様のお話を聞きますと、兵法書に書かれたスパイの種類とターゲットは現代でも通じるところが多いことが分かります。例えば、産業スパイは我々が映画などでイメージするスパイとは異なり、組織内部にいる人間がスパイとなることが主流です。『孫子』でいう内間です。組織に出入りする業者を利用するのであれば、それは郷間です。一般に我々がイメージする、プロのスパイが敵国や企業に潜入して直接諜報活動をするのは生間です。もちろん、プロのスパイ(生間)が主流である国もありますが、生間はリスクが高いので、内通者を利用する方が多くなるわけです。特に企業をターゲットにした商業スパイにおいて内通者となるのは、

1.悪意のある従業員
2.不注意な従業員
3.悪意のある第三者
4.不注意な第三者

すなわち間助であり、特に多いのが退職者、転職者だそうです。つい最近も大手回転すしチェーンや携帯電話会社の情報漏洩事件が話題になりましたね。

 組織内でアクセス権限を付与されている者が、意図的であるなしに拘わらず情報を漏らしてしまうこともあります。これは間能です。このような場合、アクセス権の付与や行動範囲に制限をかけるなどの対策をとると共に、警察への相談を躊躇しないで欲しいとのことでした。

 残念ながら産業スパイ事案が起こってしまったら、民事・刑事での法的対応を考えます。日本にはスパイ活動防止法がないので、別の法令違反で対処する必要があるためです。また、情報開示の範囲とタイミングも考えます。知り合いの弁護士にこの方面につい良い弁護士を紹介してもらったり、危機管理コンサルタントに相談するのも良いでしょう。その他、評判コストの見積もりと対応があります。即ち、マスコミ対策、炎上対策、炎上した場合の鎮静化対策などです。

 まとめると、産業スパイの防止策としては、一つには従業員のバックグラウンドチェック。二つ目は、特権的なアクセス権者の定期確認です。たとえ採用時はまともだったとしても、例えばプライベートで借金を抱えたなどの理由から、スパイに手を染めることがあり得ます。また、強力な権限を持つ役職に長時間留めないようにするという対策もあるでしょう。三つめは、適切な解雇手続きを作成することです。恨みを買うことが、内間を生む温床となり得るためです。内間は組織内の重要人物ばかりでなく、不遇な者や恨みを持つ者もなり得ます。

 私たちの身の回りの諜報活動は、企業内に留まりません。例えば、詐欺などで使われる闇名簿の問題があります。闇名簿は複数の情報ソースを使って次々と情報をつけ足していく「名寄せ」が行われるため、驚くほど詳しい情報が記載されているそうです。ですから、不審な電話がかかってきた時などは、一切話に応じないことが大切とのこと。たとえ無害と思われる受け答えだとしても、それがヒントとなって重要な情報になる恐れがあります。こういう場合も、躊躇なく家族や管轄警察署に相談して欲しいということでした。

 さらに空き巣や強盗などは事前に下見を行うことが多いです。電気や水道点検を装って下見をする泥棒もいます。彼らは顔を見られるのを嫌がるため、不審な人物を見かけたら、挨拶をするといったことが防犯上有効だそうです。とは言え、しつこく問い質すようなことは危険です。声をかけ反応を見るだけでなく、例えば地域外の不審な車が止まっていないかなども推測材料になります。また、何かあるとすぐ警察を呼ぶような地域なのだと相手に思わせることも効果的だそうです。

 このように諜報活動は決して私たちにとって縁遠い話ではなく、身の回りで日常的に行われていることが分かります。『孫子』が13篇の中からわざわざ「用間篇」として諜報活動について1篇を割いているのは、時代を問わず情報こそが競争優位をもたらす決定的要因だからにほかなりません。スパイや謀略の話など、道徳的に嫌悪感を感じられる方もおられるかもしれません。しかし、プロイセンの軍略家であるクラウゼビッツが「戦争に含まれている粗野な要素を嫌悪するあまり、戦争そのものの本性を無視しようとするのは、無益な、それどころか本末を誤った考え方である」と述べているように、道徳的に受け入れ難いようなことでも、そこに含まれる重要な要素を学んでおくことは、現代を生きるどんな人にとってもやはり大切なことなのではないかと思います。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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