窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

食とは、命のコヒーレンス-慈恩(上町)

2024年04月16日 | 食べ歩きデータベース


 4月13日、お誘いいただき、油や調味料を極力使わず、素材本来のおいしさを引き出す日本料理「慈恩」さんに行ってきました。



 場所は東急世田谷線「上町」駅すぐ。世田谷線には実に30年ぶりぐらいに乗りました。最後に乗ったのは、まだ緑色の70形が走っていた時代です。

 今回のテーマは、今が旬の「貝」。この日の夜のために取り寄せた貝を最高の状態で出すため、時間厳守と釘を刺されていました。「慈しみ」や「厚い情け」を意味する「慈恩」。その名の通り、食材や食べる人の身体をまさに慈しんだお料理が今宵展開しました。



 初めに出てきたのは、旬の野菜。素材本来の味を引き立てる程度に軽く塩で茹でた野菜。中でも驚いたのは、トマトは原産地のアンデス高原で恐らくそうだっただろうように、虫を捕らえて育てられたものだそうです。トマトを食虫植物に分類して良いのか分かりませんが、トマトは茎に生えた毛と粘液で虫を捕らえ、養分とすることがあります。また、野菜本来のうまみを引き出したグリルなどにはこれまでも出会ったことがありますが、これはどこか違います。何と言いますが、余韻のある旨味、いやむしろ後になるほど旨味が力強さを増すのです。味に生命力を感じます。

 そして奥の器は牡蠣のスープです。しかし、僕が知っている牡蠣の味や香りがしません。ただ、ひと匙救うごとに、週末の疲れた身体がじわじわと蘇ってくるのが分かります。



 次のお皿はまさに貝づくし。中央のマテ貝やアオヤギなどは香りづけ程度に軽くバターで炒めてありますが、右のツブ貝と左のホタテは生です。つい先ほどまで生きていたものばかり。ホタテの上にのっている朱色の肝のようなものは、初めて見ましたが、産卵前のこの時期だからこそのホタテの卵巣だそうです。大きく膨らんだ卵巣はレバーのような濃厚さがあり、対照的にさっぱりとした貝柱と合わせると、何とも形容しがたい美味しさです。また、控えめに旬のホタルイカも添えてありますが、これも僕が知るホタルイカとは違う濃厚さでした。



 赤貝のグラタンと、ホワイトアスパラに鮎を巻いたもの。赤貝は生きていた証として、右側に肝が添えてあります。もう少し経つと、この肝がオレンジ色がかり、毒をもつようになるのだそうです。



 アワビ。氷で冷やしたごく薄い塩水につけてあり、芹と茗荷が良い香りです。このままアワビそのものの味わいを楽しむもよし、溶いた肝につけるもよし。



 麦や稗なども入った炊き込みご飯。



 潮汁と言って良いのか分かりませんが、薄い塩加減の貝の吸い物です。さっぱりとしたルッコラが山盛り。船上で新鮮な海水を使い漁師が貝汁を作ったかのような、自然味あふれるお椀です。



 最後は、お腹を落ち着かせる程度にローストホース(つまり、馬肉)を。



 デザートの餡やムースも砂糖など使っていないのですが、全く遜色ない十分な満足感が得られます。

 最初の方でも書きましたが、お腹が満たされているのに身体は軽く、癒された感じがします。そして、人間は身体に良いものを取り入れた時に、「美味しい」と感じるのだなということが実感できます。この「美味しい」という感覚は、生存や健康のため、それに適したものを取り入れた時に感じるよう、我々の中に刻み込まれた「快」の感覚、文明の中で人工的に作られた「美味しさ」とは違った感覚です(もちろん、それも否定はしないのですが)。今回の例でいえば、貝や野菜が持っている生命の波動と僕の身体の波動が重なり合った感覚。命をいただいていることが実感として分かる、本当の「いただきます」に触れたような気がしました。

 また、店主の岡野延弘さんの食材と健康に関するお話も興味深いものばかりで、驚きの連続でした。ぜひまたお邪魔したいと思います。

慈恩



東京都世田谷区世田谷2-6-1



繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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