窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

私のきもの革命!日本のきものを未来へつなぐためにー第138回YMS

2022年06月09日 | YMS情報


 2022年6月8日、mass×mass関内フューチャーセンターにて第138回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。



 今回は、3年前の第114回YMS以来となる着物のお話しです。講師は、創業103年の着物専門店おがわ屋の小川淳様。小川様は今回のタイトルに「私のきもの革命!日本のきものを未来へつなぐために」とある通り、「きもので日本を元気にする!」、「きもので世界中の人々を幸せにする!」をミッションに掲げ、着物パーティ開催、着付け講座、オリジナル小物制作、きもの研究会、粋人倶楽部(男性着物倶楽部)等を主宰するなど、民族衣装「着物」を広め伝えるため活躍していらっしゃいます。

 さて、現在に至る着物の原型は平安時代に遡ると言われます。遣唐使廃止などで、日本独自の文化が花開くようになった時代です。その後、鎌倉時代にはほぼ現在の着物に近くなり、江戸時代の元禄期に着物文化は頂点に達しました。当時もちろん写真は存在しませんが、浮世絵から当時の特に女性の着物が実に多様であったことを伺い知ることができます。残念ながらここに掲載することはできませんが、今では見たこともないような図柄、技法は、当時の日本人がいかに衣装に情熱を傾けていたか、またそれを可能にする富の蓄積がなされていたかを現在に伝えています。ご興味がおありの方は、下記のサイトなどが面白いかもしれません。

日本服飾史
きものの文様の歴史

 面白かったのは、江戸の豪商石川六兵衛の妻と京の難波屋十右衛門の妻の東西衣装対決のエピソード。今で言えばセレブによるファッション対決ですが、それ位ファッションに対するブームが過熱していたということですね。さてこの対決、緋繻子(ひじゅす)に洛中図をあしらった小袖の十右衛門の妻に対し、六兵衛の妻は、黒羽二重南天柄。一見すると派手なのは十右衛門の妻だったのですが、何と六兵衛の妻の南天は一つ一つ珊瑚を縫い付けたものだったそうです。勝負は石川六兵衛の妻に軍配が上がりました。因みに、この石川六兵衛の妻は豪奢が行き過ぎたために将軍綱吉の逆鱗に触れ、財産没収の上、遠島を命じられました。

 その後、幕政改革で度々奢侈禁止令が出されました。その結果、「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」と言われるように、地味な色の種類がやたらと増えることになりました。即ち、庶民が着ることを許される着物の色が茶・鼠・藍に制限されたので、許される範囲での新色が次々と登場したというわけです。また、表地は取り締まられているので、裏地に凝るといったことも行われたようです。

 なお、庶民の間では古着としての着物、今でいうリユースが盛んにおこなわれたようです。この辺は以前当ブログで「江戸の古着屋」としてまとめていますので、そちらをご覧ください。

 それほどまでに当時の日本人が情熱を傾けた着物ですが、現在は技法もデザインもカジュアル化。そして着物市場は全盛期の1/10にまでなってしまったそうです。当然、作り手が疲弊してしまうわけですが、着物は分業制の進んだ産業であるため、工程の一部が失われてしまうだけでも、全体の技術が衰えてしまいます。一方で工業的に量産された着物もありますが、着物に対する美意識、感性は失われるばかりです。

 現代日本人が着物を着なくなった理由としては、着る機会がない、どこで買えばよいか分からない、高い、手入れの方法が分からない、着方が分からない、保管場所がない等、様々あるようですが、小川さんがおっしゃるには、着物を着る場面は何も冠婚葬祭に限定する必要はないということです。むしろ着物不可という場面はほとんどなく、大抵の場合好意的に受け止めてもらえるそうです。

 シリコンバレーで事業を営んでおられる男性で、敢えてビジネスシーンで着物を着るという方がいらっしゃるそうです。理由は、グローバル化した世界だからこそ、自分が何者なのかをハッキリさせる必要があるから。着物は日本人であることのメッセージそのものだと言えます。現在、着物を着るのは9割が女性。小川さんは、男性にもっと着物を着てもらえるよう、「3分で着れるオトコのきもの」を開発し、普及に努めていらっしゃいます。

 僕自身、思えば12年前の九条館での煎茶会以来、着物から遠ざかっています。来年には50歳を迎えるにあたり、そろそろ着物もいいかなと思いました。

過去のセミナーレポートはこちら

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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