窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

第38回燮(やわらぎ)会に参加しました

2018年09月02日 | 交渉アナリスト関係


  2018年9月1日、日本交渉協会の燮会に参加してきました。燮会は交渉アナリスト1級会員のための交渉勉強会です。今回は三部構成で行われました。



  第一部は、3月の第36回燮会から担当させていただいている「交渉理論研究」。今回から三回にわたりお伝えするテーマは「交渉者のディレンマ」。交渉には双方が価値を創造しより高い利得を得た方が良いことが分かっていながら、創造を妨げるいくつかの要因により、全体として双方にとって粗末な結果に終わってしまうという、ゲーム理論の「囚人のディレンマ」に似た構造が存在します。これを「交渉者のディレンマ」と呼んでいるのですが、1回目の今回は、その概要についてお話させていただきました。詳しくは「交渉アナリストニュースレター」でもお伝えしておりますので、ぜひそちらもご覧ください。



  第二部は、土居弘元先生よる「交渉学を考える」。主に交渉教育の展開と青少年に向けた交渉教育の必要性についてお話しいただきました。お話によると交渉教育の本格的な展開は、1982年にR.フィッシャーとH,ライファによってハーバード・ロースクールに設立されたProgram On Negotiation(PON)に始まるそうです。現在でもPONのHPからはケーススタディを始めとする様々な教材が入手できます。

  交渉学が取り扱う範囲は非常に広いため、交渉を捉える立場の違いにより主に8つの団体がそれぞれ交渉教育を行っているそうです。8つの団体とは以下の通りです。

1.Harvard Negotiation Research Project (Mnookin)
2.Harvard Negotiation Project (Fisher)
3. Negotiation in The Workplace (Kolb)
4.On Preventing War (Ury)
5.MIT-Harvard Public Disputes Program (Susskind)
6.Negotiation Roundtable (Raiffa, Sebenius)
7.Planning for Civil-Military Coflict (Salacuse)
8.Psychological Process of Negotiation (Leary)


 青少年向け教育については、意思決定の分野では幾つかの取り組みがなされているようですが、交渉学についてはまだ普及しているとは言い難いようです。先生のご意見としては、ネットインフラを上手に活用し、若い世代への交渉教育が必要ではないか、さらに交渉を学んだ上で最終的にはそれぞれが独自の交渉理論を確立してほしいということでした。



  第三部は、カナダのマギル大学教授でコロンビア政府の交渉アドバイザーも務めるパブロ・レストレポ先生のインタビュー動画を鑑賞し、協創型の交渉プロセスの要点を学びました。

  R.フィッシャーは著書の中で「良き交渉人というものは、結果ではなくプロセスに焦点を当て、交渉に挑むものである」と述べているそうですが、パブロ教授によれば、交渉プロセスは普遍的であり、その要点をまとめると以下のようなステップとなります。

1)効果的な準備

  ・交渉とは、共同の問題解決である。故に最初にそのことについて同意を取らなければならない。
  ・良き交渉者は、相手を徹底的に知る。相手が何を必要としているのか、その優先順位は何か。それを知るために、問題が何か、何を理解しているかを問い、問題解決のため相手と情報を共有する。
2)戦略的なポジショニングを抑える(複数の戦略代替案を持つ)
3) 信頼を築きやすい雰囲気づくり
4)準備した仮説は情報を得ることで常に更新していく
5)3つの提案づくり(創造性を発揮するには、単一ではなく複数の解決策を求め、最低でも3つの提案を行うことを自分に課す)
6)不等価交換(相手にとって価値があり、自分にとってコストがかからないものを交換する。逆もまた同じ)
7)合意内容の確認

  具体的な事例として、アメリカとコロンビアが行ったFTA(自由貿易協定)交渉が挙げられました。コロンビアのGNP(国民総生産)は、アメリカのわずか2日分だそうです。しかもアメリカはコロンビアにとって最大の貿易相手国(輸出36.2%、輸入24%)であり、交渉はコロンビアが圧倒的に弱い立場にあります。そのような小国が大国と交渉するため、どのような戦略・戦術を採ったのでしょうか?

1.コロンビアの戦略

  圧倒的なパワーを持つアメリカに対する、コロンビアの強みは何か?それはコロンビアから麻薬(特にコカイン)を一掃することが、アメリカにとって非常に重要な関心事であり、麻薬撲滅という問題についてコロンビアはアメリカにとって重要な戦略パートナーであるということです。この点をコロンビアは戦略に落とし込んで交渉に臨みました。

  さらに、アメリカにとって価値のあるものを提供し、代わりにコロンビアの望むものをアメリカから引き出す、創造的な提案をアメリカに対して行いました(不等価交換)。

2.コロンビアの戦術

  まず良い準備。交渉には24ものテーマがありましたが、テーマごとにチームを編成し、150人もの担当者を配置しました。

  次に、アメリカと信頼関係を醸成するため、交渉の最初のラウンドは風光明媚なカルタヘナでカクテルパーティを行い、雰囲気作りをしました。

  第1回の交渉文書はアメリカ側から出されましたが、コロンビアはその修正案を出すのではなく、コロンビアの立場から作成された別の交渉文書を提示し、両者の隔たりを埋めるためのトレードオフを創造的に提案することで、交渉の力学を変えることができたということです。

  その結果、コロンビアは同じようにアメリカとFTA交渉を行った隣国のペルーやエクアドルより良い合意を得ることができたそうです。

  パブロ教授のお話は、第一部で採り上げた「交渉者のディレンマ」の議論にも通じるところが多々あり、次回の「交渉理論研究」で活きてくるのではないかと思いました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
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